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「それは戦わずして勝つ戦略」ユニクロがアパレル業界でナンバーワンになった理由

プレジデントオンライン / 2021年12月17日 10時15分

ユニクロの店頭に掲げられた看板=2021年4月20日、東京・銀座 - 写真=時事通信フォト

お客に選ばれる店の共通点はなにか。ビジネスコンサルタントの三坂健さんは「ポジショニングを考え、ねらいを定めることで、『戦わずして勝つ』ための戦略を描くことが重要だ。たとえばユニクロはその典型的な成功例といえる」という――。

※本稿は、三坂健『戦略的思考トレーニング』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。

■小学生に人気のちゃんこ屋の秘密

あなたは、日本で一番高い山をご存じでしょうか? ……はい、富士山ですね。

では、2番目に高い山をご存じですか?

正解は、北岳。南アルプスの名峰ですが、日本で2番目に高い山を聞かれて答えられる方は少ないのではないでしょうか。

このように、人は一番のものを記憶にとどめ、話題にし、広める傾向がある一方で、2番目より下になると、その印象が一気に薄れてしまいます。

ですから、No.1をとれば、過度なプロモーションや営業活動に依存しない、「いい戦略」が可能になります。

「No.1をとるのは大企業でないと無理だ」と思われるかもしれません。しかし、そんなことはありません。次の演習問題を考えてみてください。

【演習問題】
私には、家族で月1回程度行く、行きつけのちゃんこ屋さんがあります。味やボリューム、店の雰囲気が好きで、「ちゃんこといえばここ!」と、私の頭の中では「ちゃんこ屋No.1」の店です。
小学生の子どもたちも行きたがるのですが、理由は私とは少々違うようです。
子どもたちにとっては、何が魅力的なのだと思いますか?

さっそくですが、正解をお伝えしたいと思います。

■何らかの特徴を際立たせることで、No.1を創り出す

そのちゃんこ屋さんは、帰り際に子どもにおもちゃをくれるのですが、それだけでは他のお店でもよくあることでしょう。

しかし、このちゃんこ屋さんの店主は、威勢よく、「2個持っていっていいよー」と声をかけるのです。

そう、この「2個」というのがポイントです。子どもたちは「おもちゃをくれるお店は他にもあるけど、2個もくれるお店はここしかない!」ということで釘付けになり、印象を強く残すことになっていたのです。

「おもちゃ2個もらえるところ行こうよ」と子どもたちから声をかけられる状況が続き、いつの間にか常連になってしまいました。

このように、何らかの特徴を際立たせることで、No.1を創り出すことができます。それは、必ずしも売上やシェアといったものでなくてもいいのです。

こういった考え方のことを「ポジショニング戦略」といいます。

ポジショニング戦略とは、ターゲットとする顧客の頭の中に、自社にとって有利な状態で印象を形成してもらう戦略です。セグメンテーション、ターゲティングの次に位置付けられる企業の活動です。

■スタバやサンマルクに勝つにはどうすればいいか

ポジショニング戦略には、大きく分けて二つの方向性があります。

○方向性1:既存の軸の中でNo.1をとる
○方向性2:新規の軸を置いてNo.1をとる

顧客は自然と、自社と競合を頭の中で位置付けています。その位置付けを可視化したものが「ポジショニングマップ」と呼ばれるものです。

通常、縦軸と横軸で4象限を形成し、その中に自社と競合を位置付けて表現します。

喫茶店チェーンのポジショニングマップ
三坂健『戦略的思考トレーニング』(PHPビジネス新書)より

方向性1は、ポジショニングマップの縦軸・横軸を既存のものから変えずに、自社の位置付けを変える戦略です。

例として、喫茶店チェーンで考えてみましょう。

縦軸に価格帯(高め⇔低め)、横軸に品数(バラエティ重視⇔厳選商品)をとると、あくまで私の主観ですが、【図表1】のようにポジショニングマップを描けます。

ここで自社が戦略的なポジションをとるためには、どちらかの軸でNo.1をとる必要があります。

仮に「バラエティ重視」の軸でNo.1をとるとしたら、スターバックスコーヒーやサンマルクカフェをしのぐ商品のバラエティを用意し、PRすることが求められます。

■ユニクロが根強い人気を誇る理由

方向性2は、新規の軸を置いてNo.1をとる戦略です。この場合は、既存の軸を見直す必要があります。

ユニクロを展開するファーストリテイリングは、ヒートテックやエアリズムなどのテクノロジーを商品の要素として取り入れ、PRし、成功を収めました。これは「機能性」という既存の軸を強めたという見方もできますが、それまでのアパレルにはない、素材の「テクノロジー」を最大限にPRすることで、新たな軸を創り出し、そこで自らNo.1を獲得したといえると思います。

このように、「戦わずして勝つ」ためのいい戦略を描くうえでは、ポジショニングを考え、ねらいを定め、展開することが重要です。

その際、忘れてはいけないのが、前提となるセグメンテーションとターゲティングです。

しっかりとターゲットを見据え、そのターゲット顧客のニーズや不の感情を押さえる効果的な軸を設定することで、ポジショニング戦略が意味のあるものになります。

そして、No.1の存在には「最初に声がかかる」傾向があります。これを「ファーストコール」と呼びます。

自社がターゲットとした顧客が問い合わせをしたいと考えたときに、最初に声をかけてもらえる存在になれているでしょうか? ファーストコール先に選ばれることは、信頼されている証ですし、ビジネスを有利に進めるうえでも効果的です。

■兵庫県のクリーニング屋がタワマン共働きカップルに選ばれるワケ

では、どのようにすれば、ファーストコールをゲットできるのか? 次の例で考えてみましょう。

【演習問題】
東京のタワーマンションで暮らす共働きのカップルが、春になったので、冬物の衣服をクリーニングに出したいと考えました。そのとき、真っ先に思いついたのが、兵庫県西脇市に本社を構えるクリーニング会社のリナビスでした。いったい、なぜでしょうか?

リナビスは宅配クリーニング事業を展開していて、日本全国に顧客を抱えています。東京のタワーマンションに住んでいる顧客も多くいます。

それは、リナビスのサービスに、次の二つの特徴があるからです。

一つ目の特徴は、「保管」ができること。クリーニングを依頼した衣服を、最長12カ月、無料で保管してくれます。

もう一つが、「おせっかい」をやいてくれること。単にクリーニングをするだけでなく、衣服の簡単な修繕までしてくれます。

東京のタワーマンションに居住している共働きのカップルを想像してみましょう。

二人とも仕事をバリバリしているので、時間がなく、衣服も必要です。一方で、東京のマンションの部屋の収納力には限界があります。また、修繕する時間がないために、糸がほつれた服もそのまま……なんてこともあるかもしれません。

高層マンション
写真=iStock.com/iris-7
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/iris-7

■「顧客に満足してもらうこと」がファーストコールを獲得するポイント

リナビスのサービスは、こうしたタワマン住民の不の感情にぴったりとはまる特徴を二つ並べることで、他にはないポジショニングを実現し、ファーストコールを受ける立ち位置を確立しているのです。

リナビスはメディアでもよく取り上げられます。『カンブリア宮殿』(テレビ東京系)や様々な情報番組にも露出しています。これも、「おせっかい」というわかりやすいキーワードがあることで、メディアが取り上げやすいのだと考えられます。

三坂健『戦略的思考トレーニング』(PHPビジネス新書)
三坂健『戦略的思考トレーニング』(PHPビジネス新書)

露出が増え、検索する人が増え、利用する人が増え、口コミが増え……という好循環を生み出していますが、その起点となっているのは、「最長12カ月保管が可能」と「おせっかい」という二つのシンプルな特徴です。そして、繰り返し同じメッセージを発信する。このことが、ファーストコールの獲得につながっています。

もちろん、競合が追随してくるのも事実です。新規客獲得の争いは、サービスが有名になればなるほど過激になります。

したがって、ファーストコールを獲得するための最大のポイントは、顧客を獲得したあと、その顧客に満足してもらうこと。満足した顧客は、他の選択肢と比較するコストを負担するぐらいなら、確実性が高く、既に満足を得たことがあるサービスや商品を選ぶでしょう。

その顧客はファーストコールの担い手になり、その数が増えれば増えるほど、「戦わずして勝つ」を実現できる戦略的な企業になっていきます。

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三坂 健(みさか・けん)
ビジネスコンサルタント
HRインスティテュート代表。1977年、兵庫県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、安田火災海上保険(現・損害保険ジャパン)にて法人営業などに携わる。退社後、HRインスティテュートに参画。2020年1月より現職。企業向けの経営コンサルティングを中心に、組織・人材開発、新規事業開発など、様々な支援を行っている。また、各自治体の教育委員会、国立高等専門学校における指導・学習支援にも積極的に関わっている。

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(ビジネスコンサルタント 三坂 健)

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