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無理やりキス、治療と称して体を触る…わいせつ目的の精神科医が一掃されない根本原因

プレジデントオンライン / 2021年12月21日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sviatlana Lazarenka

精神医療の現場では患者への性暴力にどう対処しているのか。精神医療現場における人権侵害の問題に取り組む米田倫康さんは「厄介なのは、必ずしも犯罪として取り扱えないことだ。地位や関係性を悪用すれば、形式的な同意を取り付けることが可能になってしまう」という――。

※本稿は、米田倫康『ブラック精神医療 「こころのケア」の不都合な真実』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。

■まったく手つかずだった精神科医による性暴力問題

向精神薬の処方規制に向けて、我々はかなりの労力をかけて取り組んで来ました。ようやく一部実を結びましたが、決して我々のみの手柄とは言いません。多くの団体、専門家、マスコミ、国会議員、個人がこの問題について声を上げ、実現を後押ししてくれました。

一方、完全に私がゼロから作り上げているものもあります。それは、精神科医による患者への性暴力問題の規制です。今まで成し遂げられたものはごくわずかであり、十分な規制に至るまでの途上にすぎないのですが、1を100にすることよりも、何もないゼロの状態から1を作り出すことのほうがはるかに困難です。

これは本当にゼロから始まりました。昔から、精神医療現場では性暴力が横行していましたが、世間にはほとんど知られていませんでした。そもそも性犯罪自体が表面化しにくいという日本の風土に加えて、精神科特有の閉鎖性があること、被害者に被害の自覚がないこと、患者への偏見があって被害者の声が届かないこと、そもそも心を病んで受診した患者には事件化への負担が大きいことなどが主な理由です。

精神科医はその立場や専門的知識、向精神薬を悪用すれば、いとも簡単に患者を性的に搾取することができます。厄介なのは、これが必ずしも犯罪として取り扱えないことです。もちろん、現行法で問えるような性犯罪(図表1)については、たとえ加害者が精神科医や心理士であったとしても刑事事件の対象となります。

【図表1】現行法でも罪に問える性暴力の種類や要件
出所=『ブラック精神医療 「こころのケア」の不都合な真実』

■地位・関係性を悪用すれば、形式的な同意を取り付けられてしまう

実際、最近はどんどん事件が表面化してきています。

[精神医療従事者、心理士による患者への性的虐待事件]

○ 2018年11月30日、最高裁第3小法廷は、勤務していた栗田病院(長野市)で当時15歳の女性患者に対して「産婦人科の検査をしないと退院できない」などとうそを言い、体を触るなどして準強制わいせつの罪に問われた精神科医の上告を棄却し、懲役2年が確定した。

○ 2018年12月6日、診察中の女性患者にキスなどをした強制わいせつの疑いで、警視庁は都内の精神科クリニック院長を逮捕した。警察や保健所には複数の被害相談が寄せられていた。過去にも患者に対するわいせつ事件を起こして書類送検となっていたが示談が成立して不起訴処分となっていた(不起訴となり、1カ月後には診療再開)。

○ 2020年5月23日、女性患者にわいせつな行為をしたとして、兵庫県警尼崎北署は、強制わいせつの疑いで精神科クリニック院長を逮捕した。診療中の20代の女性患者の体を触るなどのわいせつな行為をした疑い。院長は「そのような行為をしたことは間違いないが、以前に付き合おうと言ったらうなずいたので、交際中だと思っていた」と、容疑を否認。一方、被害女性はその事実を否定し付き合いはなかったと主張(後に不起訴)。

○ 2020年7月1日、厚生労働省は、都道府県・指定都市に依頼した「精神科医療機関における虐待が疑われる事案の把握に関する調査」の結果を公表した。過去5年間(2015〜19年度)に全国で72件の虐待が自治体で把握され、7件は性的虐待であったことが判明した。

○ 2020年10月27日、神出病院(神戸市)において入院患者に虐待を繰り返していたとして、6人の職員が準強制わいせつや暴行、監禁などの罪に問われた事件で、全員の有罪(3人が実刑、残り3人は執行猶予付き)が確定した。

○ 2021年1月29日、厚生労働省は医師の行政処分を発表し、診療報酬を不正請求して詐欺罪が確定していた精神科医に対する医業停止3年の処分を決定した。主治医の立場を悪用し、複数の患者と性的関係を持った行為(うち2人は自殺)について、遺族らが医師免許剝奪を求めていたが、その点は行政処分に考慮、反映されなかった。

○ 2021年2月18日、診察中の20代女性患者に無理やりキスをしたとして強制わいせつに問われた精神科医に対する控訴審判決公判が高松高裁で開かれ、懲役1年6月、執行猶予4年の判決が言い渡された。

○ 2021年3月1日、心理カウンセリングの利用者にわいせつな行為をしたとして、岐阜県警は準強制わいせつの疑いで、東海学院大学元教授の心理学者を書類送検した。元教授はカウンセリング利用女性の自宅を訪れ、治療の一環と信じ込ませて体を触るなどのわいせつな行為をした疑いが持たれている。

○ 2021年9月22日、患者である女子中学生にわいせつ行為をした疑いで児童福祉法違反に問われていた、産業医科大学病院で思春期外来の医長を務めていた児童精神科医に対し、福岡地裁小倉支部は懲役3年、執行猶予4年を言い渡した。

患者を性的に搾取することなど倫理的に許されることではありませんが、犯罪の要件を満たさなければ犯罪にはなりません。そもそも受診した時点で患者は悩みを抱えています。その患者の弱みにつけ込み、地位・関係性を悪用すれば、形式的な同意を取り付けることなど精神科医にとっては赤子の手をひねるようなものです。そのため、暴行・脅迫をともなわない性行為に見せかけることが可能となるのです。

ですから、精神医療の現場で横行している性暴力を止めるためには、性犯罪として取り締まれるように刑法そのものを変えるか、医師法第7条を正しく運用させるしかありませんでした。

うずくまる女性
写真=iStock.com/yamasan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yamasan

■わいせつ医師の処分厳格化を検討

刑法を変えることに比べると、既にある法律の条文を正しく運用させるということは容易のはずでした。しかし、ここはまさに侵してはならない聖域だったのです。

米田倫康『ブラック精神医療 「こころのケア」の不都合な真実』(扶桑社新書)
米田倫康『ブラック精神医療 「こころのケア」の不都合な真実』(扶桑社新書)

厚生労働省の担当部署には何度も直接交渉しました。国会議員や報道関係者にも理解をもたらし、あの手この手でアプローチしました。しかしどうやっても役人は動きませんでした。医師や医師会に忖度(そんたく)しているのか、処分のために事実確認する必要が生じるのを避けたいのか、行政処分に不満を持つ医師の提訴を恐れているのかは正直分かりません。とにかく担当者たちは「医師としての品位を損するような行為」を解釈して処分を下すことを頑なに避けていました。

処分の基準を明確にしないまま行政処分を下した場合、行政側に不都合が生じることがあります。係争になった場合に処分が不当だと判断される可能性があるからです。精神保健指定医の処分の際にも、処分に不服を訴える精神科医たちからその点を責められ、厚生労働省は痛い目に遭った経験があります。ですから、私はまずは処分の基準を明確にすることを提案しました。具体的に、患者に対するわいせつ行為を「医師としての品位を損するような行為」として処分対象に含めることを求めました。

■民事裁判記録も活用する動きに

あきらめないでアプローチを続けた結果、ようやく厚生労働省に動きがありました。読売新聞2021年6月11日朝刊でも「患者にわいせつ行為の医師、処分厳格化を検討…民事裁判記録も活用」とする記事が載りました。

患者にわいせつ行為をした医師や歯科医師に対し、厚生労働省が免許取り消しなどの行政処分の厳格化を検討していることが10日、分かった。現状では、原則、わいせつ事件などで罰金刑以上の刑が確定した場合に医師らを処分してきたが、今後は民事裁判で認められた事実関係なども活用して処分できるよう、処分指針を見直す方針だ。

医師法などは、罰金以上の刑が確定した場合、厚労相の諮問機関「医道審議会」の意見を聞き、医師らを行政処分するよう規定。「医師(歯科医師)の品位を損する行為」を行った場合は刑事罰なしでの処分も可能だが、事実認定が難しく、事実上、処分の対象外となってきた。

一方で、わいせつ事案で示談が成立し、不起訴処分になった精神科医がすぐに診療を再開するなどのケースを問題視する声が与党から上がっていた。

このため厚労省は、医師や歯科医師の立場を悪用して診察時に体を触るなど、処分対象となる行為を例示し、刑事裁判が開かれなくても、民事裁判の記録などでわいせつ行為が確認できれば処分できるというルールを明確化する方針。

2021年7月1日に開催された医道審議会医道分科会において、わいせつ精神科医に対する処分の基準が諮られました。「医師(及び歯科医師)としての品位を損するような行為」について、その定義や考え方を決めることになるため、結論が出るにはもう少し時間がかかりそうですが、ようやく最初の重い扉を開くことができました。0が1になった瞬間でした。

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米田 倫康(よねだ・のりやす)
市民の人権擁護の会日本支部代表世話役
1978年生まれ。東京大学工学部卒業。市民の人権擁護の会日本支部代表世話役。在学中より、精神医療現場で起きている人権侵害の問題に取り組み、メンタルヘルスの改善を目指す同会の活動に参加する。被害者や内部告発者らの声を拾い上げ、報道機関や行政機関、議員、警察、麻薬取締官等と共に、数多くの精神医療機関の不正の摘発に関わる。著書に『発達障害のウソ』(扶桑社新書)、『発達障害バブルの真相』『もう一回やり直したい 精神科医に心身を支配され自死した女性の叫び』(以上、萬書房)。

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(市民の人権擁護の会日本支部代表世話役 米田 倫康)

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