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「ワクチン拒否者は人権ナシでいいのか」接種8割超で感染5万人のドイツがぶち当たる悩み

プレジデントオンライン / 2021年12月16日 9時15分

ドイツ連邦州の首長との会合の後、記者会見に臨むオラフ・ショルツ首相=2021年12月9日 - 写真=EPA/時事通信フォト

■ほぼすべての場所で有効な「2G」と呼ばれる規制

ドイツでは州政府の権限が強いため、コロナに関する規制も各州でまちまち。しかし、1日の新規感染者数がここ3週間ほどコンスタントに4万人を超え、時に7万人を突破しているため、12月2日、メルケル首相ら連邦政府の代表と、ショルツ氏ら次期政権の代表、および各州の首相などが、全国共通の規制の「最低ライン」を定めた。規制はオミクロンの感染拡大も考慮に入れ、全体的に強化されたが、「最低ライン」であるから、州の権限でさらに強化することが可能だ。本稿では、それら規制の最新状況から、国民の日常生活にとりわけ大きな影響を与えると思われるものを見てみたい。

まず、最大の変化は、今後、ほぼすべての場所で2Gと呼ばれる規制が有効となること。2Gというのは、ワクチン接種者=Geimpftと、コロナ快癒者=Genesenのことだ。

これまで有効だったのは3Gで、ここにはワクチン接種者とコロナ快癒者の他に、3つ目のGとして、検査での陰性証明取得者=Getestetが入っていた。つまり、ワクチン未接種でも、簡易検査(抗原検査)を受けて陰性証明を取れば、その後24時間は、ワクチン接種者やコロナ快癒者と同じ行動を取ることができた(もちろん、いちいち検査するのは面倒ではあるが、短時間で結果は出る)。なお、検査の代金は、10月中旬から一時、自費になったが、現在は再び無料(ただし、PCRなど正式なテストは高価)。

■未接種者は映画館もレストランもジムも行けない

ところが前述のように、今後はほとんどの場所で2G適用となるため、ワクチン接種者とコロナ快癒者以外は、小売店への入店、映画館、劇場、レストラン、美容院、ジムなど、ほとんどの場所への入場が不可となる(18歳以下の人、あるいは何らかの事情でワクチンを打てない人は除外されるが、その場合は証明の提示が必要)。例外はスーパー、ドラッグストア、薬局など生活必需品を扱う店だが、そこでの規制はかなり混沌としている。

一方、ちゃんと決まっているのは人的交流について。たとえ自分の家であっても、その中の誰かが2Gを満たしていない場合、外部の人間はたとえ家族でも2人までしか入れることはできなくなった(14歳以下の子供と、別居中の夫婦やパートナーは例外)。つまり、家族に1人でもワクチン未接種者がいれば、クリスマスの際の親族の集まりなどは不可。一方、全員が2Gを満たしていれば、自宅での私的な集まりは何人でもOKだそうだ。

また、皆が楽しみにしている大晦日の打ち上げ花火(個人でやるもの)は、昨年に引き続き今年も禁止。ナイトクラブやディスコは、市中での感染が一定以上に進んだ時点で閉鎖。学校では、すべての学年でマスク着用が義務となった。

各種イベントは収容人数の30~50%までで、さらに屋外の上限が1万5000人、屋内は5000人までと定められた。先日までサッカーのブンデスリーガでは、ほぼ満杯の観客を入れていたが、もちろんそれもできなくなる。

■接種しないまま感染すると「欠勤」扱い

なお、州政府が2Gでは生ぬるいと判断した場合には、ワクチン接種者やコロナ快癒者に、さらに簡易検査の陰性証明を求める2G+もある。ドイツ南部のバーデン=ヴュルテンベルク州では、レストランやコンサートの入場、さらに動物園やスキー場のリフトに乗る場合にこの条件がつけられる。また、ナイトクラブとディスコはすでに営業中止だし、この時期の市民の楽しみであるクリスマスマーケットも中止された。

要するにドイツでは、2Gにせよ、2G+にせよ、ワクチンを接種していない人は、まるで身動きが取れず、人とも会えない状況になりつつある。

さらに、問題は公共交通機関だ。実は、すでに11月18日に、バスや電車の利用には3Gを適用することが決まり、12月の初めより、多くの州ではワクチンを打っていない人は、陰性証明がなければ乗車できなくなっている。証明は24時間しか有効でないため、当初、通勤前に検査を受けようとする人で検査場がごった返し、かなりの混乱が起きた。これまでは、CO2削減のために公共交通機関を使えと言われていたが、今ではワクチン未接種者はおちおち電車にも乗れないわけだ。

地下鉄入口ゲートへの女性手スキャン列車の切符
写真=iStock.com/PORNCHAI SODA
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PORNCHAI SODA

打たないことによる不便は、他にもたくさんある。例えば、多くの職場ではすでに3Gが適用されており、ワクチン未接種者は、始業前に週に2~3回、職場によっては毎日、検査が必要となる。なお、未接種者がコロナに罹患した場合は病欠にはしてもらえず、欠勤として減俸となる。医療関係の職場では、検査をしてもダメで、まもなくワクチンが義務になる予定。接種しなければ解雇されるケースもあるという。

■ワクチン拒否者はオカルト信者や極右なのか?

そんなわけで、これまでさまざまな理由でワクチン接種を控えていた人たちが、こんな面倒な思いをするなら、やはり打つしかないと諦め始め、現在、ワクチン接種者の数が急激に伸び、多い日には1日で100万件をゆうに越える。ついこの間まで、ワクチン接種は義務にはしないと言っていた政府だが、今では、年内にブースターも含め、さらに2000万本のワクチンを打つのが目標だとか。そればかりか、来年2月あたりをめどに、ワクチン接種は義務になるという。つまり、「打たない」という選択肢は、まもなく公式にはなくなる。

今では、ワクチン接種は「国家的連帯」のためであり、拒否者は連帯を壊す反社会的人間か、間違った情報を信じてしまう頭の悪い人たちか、科学よりも薬草やらおまじないを信じる人たち、あるいは、なぜか極右という位置づけになっている。そこで、政府やメディアや、政府の下部組織である研究所の研究者たちが、皆でそういう人たちの啓蒙に励んでいる。

ただ、それでも打ちたくない人はいるし、打たないという選択肢も認めるべきだと主張する医師や研究者もいる。コロナワクチン拒否者が皆、間違った情報を信じてしまった頭の悪い人や極右であるはずは、もちろんない。

■サッカー選手、政治家、学者が“反対”を表明

例えば10月23日、ブンデスリーガの花形チーム「FCバイエルン・ミュンヘン」のヨシュア・キミッヒ選手(26歳)は、ある有料テレビのインタビューで、コロナのワクチン未接種であると公表した。理由は、「長期的な副作用に対する治験が十分でないため個人的に懸念があるから」。10月31日には、左派党のサラ・ヴァーゲンクネヒト氏がやはりトークショーで同様の主張をした。

また哲学者リヒャルト・D・プレヒト氏も、「子供の免疫システムの構築にこのワクチンを使いたくないので、子供には打たない」と言い、3人ともが例外なく激しい攻撃に晒(さら)された。誰の攻撃かというと、政府、政府と共にワクチンを奨励してきた医師や研究者、そして何よりメディアによる攻撃だ。

ちなみに、12~17歳のワクチン接種は、保健省の下部組織であるロバート・コッホ研究所、さらに同研究所に所属する常任ワクチン委員会によってすでに奨励されており、まもなく、さらにそれより小さな5~12歳の子供への接種(すでに認可済み)も、常任ワクチン委員会が奨励することになっている。

■ワクチン委員会トップも「子供が7歳ならまだ打たせない」

ところが、こともあろうに同委員会の会長が、「自分に7歳の子供がいたならまだ打たせない」と発言し、大騒ぎになった。おそらくこれは失言ではなく、自分の首を賭けての発言だと思うが、やはりバッシングは凄まじかった(12月9日、ワクチン委員会は、持病などリスクを持つ子供への接種奨励を発表。その他の子供は、保護者の判断に任せると、ゴーサインを出した)。

一方、その対極にいるのが世界医師会の会長、ウルリッヒ・モンゴメリー氏(ドイツ人)で、オミクロン型が出た途端に、「オミクロンはデルタ型よりも感染力が強く、エボラよりも危険だ」と言った。国民を恐怖に陥れるのが務めか? 彼は、子供の接種も義務にすべきという意見だという。

■賛成派、反対派の対立は収拾がつかないレベルに

一般国民の間では、コロナに関する意見はきれいに割れており、収拾のつくようなレベルは超えてしまった。本当にコロナを恐れ、全員がワクチンを打つべきと思っている人たちと、ワクチンは打ちたい人が打てば良く、義務化や2Gなどもってのほかという意見の人たちの対立が膠着(こうちゃく)している。ただ、打つべきという意見のほうが、政府やメディアの宣伝効果のせいもあり、絶対的多数だ。

しかし、ワクチン反対者も、すべてのワクチンに反対しているわけではなく、慌てて作ったワクチンを強制的に打たせるのはおかしいと言っているに過ぎない。3年後に何が起こるかは、3年待たなければ分からない。その疑問は、説得で解決できるものではない。

抗ワクチン実証サイン
写真=iStock.com/Firn
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Firn

■ユダヤ人に例えようものなら激しい弾劾に遭う

さらに反対の理由として挙がっているのは、ワクチン接種の有無のみで、ここまで基本的人権を侵害することは憲法違反であるというものだ。もし、コロナが本当に殺人的な伝染病であり、ワクチン接種がその感染拡大を防ぐ唯一の効果的な方策であるなら法的にも通るが、現在のところコロナはその限りではない。そもそも基本的人権は生まれながらに備わっているもので、よほどのやむを得ない理由がなければ、剥奪することも、その付与に条件をつけることも許されない。だから、現状については、多くの法学者がその点を問題視している。

さらに言うなら、ワクチンパスがない人は店にも入れないという今の状況は、アーリアパスがないユダヤ人が社会から締め出された時代を彷彿とさせる。しかし、そんなことを口にすれば、政治家やメディアなどから、「比較のレベルをわきまえず、非常識な極論で社会の平安を乱す人間」として、さらに激しく弾劾される構図が出来上がっている。ワクチンは、高齢者など弱者の命を救うために必要だと言われれば、嫌だとは、限りなく言いにくい。

ちなみに、基本的人権の侵害については、国民からの膨大な数の訴えがあったというが、先日、最高裁が政府のやり方を承認する判決を出し、それらの訴えをほぼ一網打尽に退けた。

■「未接種者が感染しても治療するな」と極論も

そんなわけで、現在、強制ワクチン反対派は盛んにデモを打っているが、何しろ日に日に追い詰められていることもあり、抵抗は激化している。ザクセン州では条例で、デモは10人までで、移動してはいけないと決められたため、何百人もの人々が「散歩」と称して練り歩き、警官と衝突した。

12月初めの世論調査(Forsa社)によると、ワクチン接種者の回答者のうちの86%が、ワクチン未接種者は他人の健康を危険に晒す無責任な人たちであるという意見だった。募る欲求不満を彼らにぶつけている感もある。ワクチンを打たない人にもっと制裁をかけろとか、コロナに罹って病院に運ばれてきても治療するななどという極論も聞く。未接種者はあたかも贖罪のヤギだ。

その一方、2人目の子供を産みたいのでワクチンは受けたくないと言って、週に2回、就業前に検査を受け、戦々恐々で頑張っている人が私の周りにもいる。このままでは、国民の分断がますます進みそうだ。

■偽のワクチン証明が多く出回っている

そんな雰囲気なので、偽のワクチン証明が多く出回っており、11月末の時点で、すでに2500件が摘発されたという。売っている人は犯罪者かもしれないが、買っている人は、儲(もう)けるためでもなんでもない。身を守るために悲壮な気持ちでやっているのだろう。ブンデスリーガ2部「ヴェルダー・ブレーメン」のアンファング監督も、偽のワクチン証明を提出したことがバレて、辞任している。

1年前、ワクチンを皆が打てばコロナに打ち勝てると言われた。しかし、8割以上の人々が接種を済ませた今も状況は変わらない。しかも、ワクチン接種者というステータスは6カ月で、そして、コロナ罹患者というステータスは8カ月で無効だ。

ワクチン注射
写真=iStock.com/Tero Vesalainen
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tero Vesalainen

12月8日、ドイツには新政権が樹立したが、ショルツ首相はすぐさま、「国民のほとんどの人がワクチンに賛成なのだから、声の大きい少数派がいるからといって、社会の分断など起こらない」と断言した。また、新しい保健相によれば、今後はブースター(3度のワクチン接種)を終えなければ、ワクチン接種者のステータスは得られなくなるそうだ。

いずれにせよ、政府は今、すごい勢いでブースターを奨励し、国民は駆り立てられるようにワクチンセンターに詰めかけている。ただ、ブースターの効き目が何カ月続くのか、そもそも変異株に効くのかさえ、まだ誰にも分からない。唯一、確実なのは、この騒動がまだまだ終わらないことだ。本当に社会の分断が進まなければ良いのだが……。

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川口 マーン 惠美(かわぐち・マーン・えみ)
作家
日本大学芸術学部音楽学科卒業。1985年、ドイツのシュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。ライプツィヒ在住。1990年、『フセイン独裁下のイラクで暮らして』(草思社)を上梓、その鋭い批判精神が高く評価される。2013年『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』、2014年『住んでみたヨーロッパ9勝1敗で日本の勝ち』(ともに講談社+α新書)がベストセラーに。『ドイツの脱原発がよくわかる本』(草思社)が、2016年、第36回エネルギーフォーラム賞の普及啓発賞、2018年、『復興の日本人論』(グッドブックス)が同賞特別賞を受賞。その他、『そして、ドイツは理想を見失った』(角川新書)、『移民・難民』(グッドブックス)、『世界「新」経済戦争 なぜ自動車の覇権争いを知れば未来がわかるのか』(KADOKAWA)、『メルケル 仮面の裏側』(PHP新書)など著書多数。新著に『無邪気な日本人よ、白昼夢から目覚めよ』 (ワック)がある。

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(作家 川口 マーン 惠美)

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