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なんと病院内ATMからも…60代男性に117回振り込ませ1.6億円を奪った全カラクリ

プレジデントオンライン / 2021年12月16日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hiloi

12月上旬までに、札幌市在住の60代男性が計1億6600万円の架空請求詐欺に遭った。道内では過去最高の額。ジャーナリストの多田文明氏は「男性が入院先のATMから振り込んでいたこともわかってきている。銀行窓口や街角のATMでは警戒も徹底されていますが、まさか病院内で詐欺が起こるとは誰も思わず、院内ATMへの注意・警戒が手薄だったのではないか」と指摘する――。

2021年12月、1億6600万円の架空請求詐欺の被害が判明しました。被害者は札幌市の60代男性で、北海道内では過去最高額ということです。振り込んだ回数は実に117回(6~10月)にものぼり、全財産を失ってしまったといいます。

「ついに、これだけの金額になってしまったのか」

詐欺犯への憤りとともに、これが筆者の率直な思いでした。

というのも、2020年10月にも同じ札幌市で50代男性が約1億900万円の架空請求の被害に遭っていたからです。これは単なる偶然なのか、この地域の人たちを狙ったものなのか、それは定かではありませんが、同系統の詐欺グループが相手の資産を把握したうえで、昨年以上のお金の詐取をもくろんでいたとしてもおかしくありません。

■きっかけはSMSのメッセージ

なぜ、今回、1億6600万円もの架空請求詐欺の被害に遭ってしまったのか。2021年6月、60代男性の元にショートメッセージで「ご利用料金の支払い確認が取れておりません」との文面が届いたのが巨額被害のきっかけです。「NTTファイナンスサポートセンター」なる組織へ電話連絡するように促されます(「NTTファイナンス」は実在企業)。男性が電話をかけると「未納料金」を払うように言われます。

こうした手口の場合、最初に払わせる金額はたいてい数万~数十万円と少額です。詐欺犯らは、相手がだませる人物かどうかをこの金額を払わせることで見極めます。もしここでお金を払ってしまうと、詐欺のターゲットとしてみなされていまいます。そして次々にさまざまな役割を演じた人物から詐欺の電話がかかり、多額の被害になります。

この男性も最初に10万円ほどのお金を数回払うと、男性の元には「日本個人データ保護協会」「日本ネットワークセキュリティ協会」「神奈川県警察」などを名乗る電話がかかります。これらの協会や警察はすべて実在するものです。疑ってネット検索で調べると正規サイトが出てくるため信じてしまう人もいるかもしれません。

詐欺での王道パターンとして、相手の知らない知識で思考を止めて、焦らせるという手があります。

60代男性は「あなたの端末から、ランサムウエアが使われている」と言われます。ランサム? もしかすると、これを聞いた多くの人は「それ何?」となることでしょう。この時点で、すでにワナにはまっているといえます。よくわからない言葉で思考が止まると、詐欺犯は一気に畳みかけてきます。

被害者は117回も詐欺犯の指示に従って、お金を振り込んでいるので、事実経過もかなり曖昧になっていると思います。

そこで、筆者のこれまでの架空請求業者などへの取材経験から、男性は次のような話をもちかけられたのではないかと想定した形で話を進めます。読者の皆さんにおかれましては、ぜひともこのパターンで話を持ちかけられたら、詐欺だと思ってください。

■最初は丁寧に説明し、信頼を得ようとする

詐欺犯の多くはネット関連の社員などを騙り「ランサムウエア」をわかりやすく説明をしてきます。こんな調子です。

「難しい言葉でわからないですよね。ランサムウエアの『ランサム』は、『身代金』のことです。サイバー犯罪者たちは、相手のパソコンやスマホなどに不正なプログラムを感染させて使えなくさせたところで、それを元に戻すための費用(身代金)を要求するのです」

被害者が内容を少し理解したところで「よく聞いてほしいのですが、その不正プログラムがあなたの端末から発信されていて、数十人の被害者が出てしまい、多額の被害金を発生させているのです」といった話をします。

白い仮面をつけたビジネスマン風の男性
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

知らぬ間に「自分の端末から不正プログラムが出て、被害を起こしてしいる」との言葉に、おそらく60代男性は人様に迷惑をかけてしまったと、パニック状態だったに違いありません。

気が動転しているところに、今後被害を発生させないために「サイバー保険に加入しなければならい」と言われれば、お金を払うのではないでしょうか。しかし、架空の請求ですのでいくらでも詐欺犯は嘘をついてきます。

そのひとつに「被害者の一人が自殺未遂をした」があります。

それを聞いた側は「誰かを自殺するまでに、追いやってしまった」と自責の念を抱きます。心の根の優しい人ほど、「自分のせいで……」と考えます。詐欺犯は、そのタイミングを見計らって慰謝料などの話を持ちかけます。申し訳ない気持ちでいっぱいの被害者は、迷わずにお金を振り込んでしまったに違いありません。人の優しさ、思いやりにつけ入ってお金をだまし取る架空請求が、どれだけ卑劣で、許せない手口かがわかると思います。

2020年10月から12月にかけて、1億900万円ほどの被害に遭った50代男性も「NTTファイナンス」を騙るメッセージをきっかけにして、同じように「サイバー保険」や「損害賠償」の名目で、次々にお金をだまし取られています。

2020年以降のコロナ禍で、還付金詐欺やオレオレ詐欺の手口が横行したために、注意喚起の重点もそちらにありました。架空請求への警戒が疎かになってしまう傾向があったようにも思います。架空請求を行う詐欺グループはそれをしたたかに狙っていたのかもしれません。50代60代の中年層で、ネット事情にあまり詳しくない人は、特に気をつける必要があります。

とはいえ、1億6000万円以上もだまされた男性は「なぜ100回以上も振り込んだのだろうか?」という疑問を抱く方も多いでしょう。

ここには詐欺犯らの「巧みな言い回し」があるのです。詐欺被害はたいがい、被害者が家族や知人など第三者に相談することで「それはおかしい」と気づき、被害が止まるものです。今回、それができなかったということは、男性の周りには相談できる環境がなかった。あるいは、詐欺犯から周りに言わないように口止めされていた。筆者はそう考えていました。

ところが、その後、驚くべき意外な事実がわかったのです。

■入院中に架空請求の被害に遭っていた事実が判明

なんと被害を受けた男性は、病院へ入院中に架空請求の被害に遭っていたというのです。病室には家族・友人・知人がいないため相談しにくい状況だったのではないかとの指摘もありますが、これには少々違和感を覚えます。なぜなら、病院であれば健康状態を気にかける看護師などの医療スタッフもおり、相談しやすい環境だったはずだからです。

病院のベッドに横たわる男性
写真=iStock.com/gorodenkoff
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gorodenkoff

そこで考えるべきは、「なぜ相談しづらい環境になっていたか」です。

今、銀行の窓口や街角のATM(現金自動預払機)、コンビニなどでは、詐欺被害が多発しています。そのため警戒も徹底されており、被害を防いだ事例も多くあります。しかし、まさか病院内で詐欺が起こるとは誰も思わず、院内のATMなどへの注意・警戒が手薄だったのではないかと考えています。

この手の架空請求では、被害者に電話をして振り込みを指示しますが、それが容易にできたことが、今回の被害に大きくつながったようにも思えます。もしかするとATMのそばに誰かがいて被害者の男性が携帯電話で話していることを不審に思った人もいるかもしれませんが、まさか病院内で詐欺が発生しているとは思わず、素通りしたのでないでしょうか。

先入観とは恐ろしいものです。

今や、スマホや携帯を持ってどこにでもいけますし、誰もがスマホを持っている時代です。詐欺は必ずしも家の中だけで起こるのではなく、どこの場所でも、起こりうるのです。もちろん、病院内でも詐欺は起こる。二度とこうした多額の被害を生み出さないために、よもやの場所でも詐欺は起きることを心しておく必要があります。

詐欺被害に気づいていない状況では、目の前で起きているトラブルは自分が引き起こしたことだと思い込まされていますので、何とか自己解決しようと考えてしまいがちです。責任感の強い人ほど、この架空請求詐欺でだまされやすいともいえるでしょう。

とはいえ、困ったときには、誰かに相談したい思いにかられるものです。「相談未満」の漏れ聞こえてきた小さな声を拾ってあげることで、被害を防ぐ道が生まれてきます。

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多田 文明(ただ・ふみあき)
ルポライター
1965年生まれ。北海道旭川生まれ、仙台市出身。日本大学法学部卒業。雑誌『ダ・カーポ』にて「誘われてフラフラ」の連載を担当。2週間に一度は勧誘されるという経験を生かしてキャッチセールス評論家になる。これまでに街頭からのキャッチセールス、アポイントメントセールスなどへの潜入は100カ所以上。キャッチセールスのみならず、詐欺・悪質商法、ネットを通じたサイドビジネスに精通する。著書に『サギ師が使う交渉に絶対負けない悪魔のロジック術』、『迷惑メール、返事をしたらこうなった。』、『マンガ ついていったらこうなった』(いずれもイースト・プレス)などがある。

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(ルポライター 多田 文明)

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