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「平均年収が韓国より40万も低く、米国の半分の日本」ではナイキの最新厚底は高嶺の花なのか

プレジデントオンライン / 2021年12月17日 11時15分

ヴィンテージ風の味わい - 写真提供=ナイキ

ナイキが今秋、最新の厚底シューズを発売した。再生原材料やリサイクル原料を使った“サステナブル”なシューズだ。スポーツライターの酒井政人さんは「地球環境を意識したコンセプトに共鳴する消費者もいますが、3万8500円と高額。ここ20年、年収がほとんど上がらず、韓国よりも低い日本人には手が届きにくいかもしれない」という――。

■ナイキの最新厚底シューズが3万8500円もするワケ

エコバッグ、マイボトル、オーガニック商品、エコカー、フェアトレード商品……。「SDGs」の合言葉のもと、生活のなかにサステナブルなアイテムが増えている。

スポーツ界でもそうした世界的潮流に合わせ、ナイキがリーダーシップを発揮している。今秋に発売した「エア ズーム アルファフライ ネクスト ネイチャー」(以下、ネイチャー)は、マラソン界を席巻している厚底シューズの最上位モデルである「エア ズーム アルファフライ ネクスト%」(以下、アルファフライ)のサステナブル版となる。

その価格を見て、目を見開く人も多いだろう。もともとアルファフライは3万3000円と高額だったが、ネイチャーは3万8500円(いずれも税込)とさらに上をいく。

ある大手スポーツショップのシューズ売り場の担当者は「+5500円となるので、日本ではそれほど多くの人には受け入れられないかもしれませんね」と話した。

通常販売では“最高価格シューズ”となるネイチャーとはどのような商品なのだろうか。

■「ネイチャー」はヴィンテージ風なのに最速シューズ

以前から、「炭素と廃棄物排出ゼロ」を掲げてきたナイキはネイチャーに“特別な思い”を込めた。東京五輪で金メダルを獲得したエリウド・キプチョゲ(ケニア)がかつてマラソン2時間切り(非公式記録)した際に履いたアルファフライをナイキ史上最もサステナビリティ思考が高いものに仕上げたのだ。

シューズを製造過程で残った素材は通常なら廃棄される。だが、その切れ端を集めて、再加工することで大幅にゴミを減らすことができる。ネイチャーは重量比にして50%以上のリサイクル素材を活用している。カーボンファイバーは再生原材料率50%以上。外観のミッドソールには最低でも70%のリサイクル原料が使われている。そのためソールはゴツゴツ感があり、全体的にヴィンテージ風の味わいだ。

それでいてオリジナルモデルのパフォーマンスを損なうことのないパワーを秘めている。実際に履いてみると、アルファフライと遜色はない。抜群のクッション性と、力強い反発力を体験できる。ただアルファフライより50gほど重い。アスリートによる試用テストで640km以上の走行を記録しており、耐久性は十分にある。レースはアルファフライ、トレーニングはネイチャー、という使い分けになるかもしれない。

■ナイキは商品を売るだけでなく、アクションを啓蒙している

ゼロからシューズを作るよりも手間がかかるため、3万8500円という販売価格になったわけだが、それはナイキがランナーに寄り添おうとしている証拠だ。同社ランニング シニア フットウエア プロダクト ディレクターのレイチェル・ブル氏はネイチャー製作に関してこう語っている。

「最高のランニングシューズを作っても、走る地球の環境がなければ意味がありません。単にきれいなものを作るだけではなく、この製品を通してパフォーマンスとサステナビリティに関する私たちの思いを表現したいと思いました。サステナビリティの大事な要素は、まずは地球環境について考えること。ランナーも地球のことを考えているからです」

生産過程で発生する廃棄物や端材をテキスタイルのアッパーを作る3D印刷の工程に活用。そのため、アッパーは基本、新たなゴミは発生しない。
写真提供=ナイキ
生産過程で発生する廃棄物や端材をテキスタイルのアッパーを作る3D印刷の工程に活用。そのため、アッパーは基本、新たなゴミは発生しない。 - 写真提供=ナイキ

今夏開催された東京五輪。酷暑のために、マラソンの舞台は東京から約800km北の札幌に変更された。女子は直前にスタート時間を1時間前倒しにしたが、出場106人中30人が途中棄権した。気温の上昇は地球規模で考えないといけない問題だ。

ネイチャーを登場させたのは、「地球温暖化を食い止めよう」というナイキのメッセージと言っていい。今後もさまざまなモデルでサステナブル商品を登場させる予定だ。

■アディダス、アシックスも地球環境に配慮した商品作り

では、他のメーカーはどうか。アディダスは2015年から海岸や海沿いの地域で回収されたプラスチック廃棄物をアップサイクルして生まれた素材を未使用プラスチックの代わりに使用し、スニーカーを製造。2024年までにすべての製品を再生ポリエステルに移行するという大きなミッションを掲げている。

国内メーカーのアシックスは2030年までにシューズおよびウェアのポリエステル材を100%再生ポリエステル材に切り替えて、2050年までに温室効果ガス排出の実質ゼロを。ミズノは2050年に温室効果ガスの排出を実質ゼロとするカーボンニュートラルの実現を目指している。

各メーカーは独自の取り組みで、地球環境に配慮したシューズ作りを実践しているが、値段はやはり安いとはいえない。

■日本でサステナブル商品は広がるのか?

今後、サステナブルシューズは普及していくだろうか。

ネイチャーを購入したという26歳のIT企業勤務の男性は「服やバッグと同じように、シューズも安いものをどんどん買い替えるより、少し高くても製品のコンセプトに共感できるものを長く愛用したい」と語った。

ネイチャーがアルファフライよりも高額なのはアッパー部分の技術にコストがかかっているからだ。ズーム エア ポッドの生産過程で発生する廃棄物や端材をフライプリントとフライニットを組み合わせたテキスタイルのアッパーを作る3D印刷の工程に活用。そのため、アッパー部分については基本、新たなゴミは発生しない。
写真提供=ナイキ
ネイチャーがアルファフライよりも高額なのはアッパー部分の技術にコストがかかっているからだ。 - 写真提供=ナイキ

こうしたエシカル(倫理的な)消費意識の高いユーザーもいるが、大多数は地球環境よりも安く購入したいというのが本音だろう。

ネイチャーの販売価格は日本が3万8500円で、米国が300ドル(現在の為替レートで約3万3900円)。ネイチャーを「高い」と感じてしまうのは、日本人が相対的に“貧困化”したことも背景にあるかもしれない。

OECD(経済協力開発機構)が加盟諸国の年間平均賃金額を公表しているが、2020年のデータは以下の通りだ。

日本3万8515ドル(約435万円)、韓国4万1960ドル(約474万円)、フランス4万5581ドル(約515万円)、英国4万7147ドル(約532万円)、ドイツ5万3745ドル(約607万円)、米国6万9391ドル(約784万円)。

日本の賃金は韓国よりも下で、アメリカの55.5%でしかない。2000年と2020年の年間平均賃金額を比べると、米国、英国、ドイツ、フランスは1.2倍程度で、韓国は1.45倍になっている。一方、日本は1.02倍。この20年間に賃金はほとんど上昇していないのだ。

年収約435万円の日本人と同約784万円の米国人ではネイチャーの“体感価格”に大きな開きがあるのは当然だ。

とはいえ、2017年にナイキが厚底シューズを登場させてから、ランナーのマインドは変わった。高価格でも品質の良いものは売れるようになったのだ。その結果、以前は高くても1万円台後半だったランニングシューズが、今ではナイキ以外のメーカーも2万~3万円台の高価格帯モデルを続々と販売している。ランニングシューズの価格はこの5年足らずで1.5~2倍上昇した。

今後、サステナブル商品が通常モデルよりも、値段が下がるようになれば購買層も増えるだろう。もしくは経済回復して日本国民の給料が高くなり、地球環境への意識も高まれば、サステナブル商品を購入するのが当たり前というマインドになるかもしれない。

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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

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(スポーツライター 酒井 政人)

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