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「未来は必ず変えられる」ゴルゴ松本さんが少年院で続ける"命の授業"のメッセージ

プレジデントオンライン / 2021年12月22日 10時15分

講演会で「命」について話すゴルゴ松本さん - 写真提供=筆者

お笑いコンビTIMのゴルゴ松本さんは、2011年から各地の少年院で講演を続けている。松本さんは子どもたちに何を伝えているのか。『「命の相談室」 僕が10年間少年院に通って考えたこと』(中公新書ラクレ)からお届けする――。

■情熱おじさん、北村さんとの出会い

ある日、友人たちとの食事会から帰ってきた妻にこう言われました、「友だちの知り合いで、あなたに少年院で何か喋ってほしいという人がいるんだけど」。

僕は「へえ、そう」と聞き流していました。そういうことが何度か繰り返されるうちに僕の心も動かされ、「じゃあ、直接、話を聞いてみよう」となりました。

会ってみるとその中年の男性は、「日本の犯罪発生率を減らしていきたい」「再犯率が高いのは大人。大人になる前の子どもたちから変えたい」「だから少年院の子どもたちに慰問講演をしてほしい」と熱く語ります。

その人が北村啓一さん。出版社を定年後、罪を犯した人たちの就労など立ち直りを支援するボランティアをしている人でした。

話を聞くうち、北村さんの情熱に押されるように、僕は「わかりました」と引き受けることを承諾していました。「大丈夫、やってみましょう」と。

■「『命』の授業」が生まれた瞬間

「どういう内容の講演をしてくれますか?」と問われ、僕は「ゴルゴ塾」のことを説明しました。罪を犯して少年院に入っている子たちと、お笑いの世界で夢と目標を失っている若手芸人、その境遇は似ていて、話す内容はさほど変わらないんじゃないかと思ったからです。

ごく簡潔に言えば、「やる気」「元気」「勇気」ひとつで人生は変わるということ。「具体的に、漢字を使ってこういう解説もします」とも伝えました。

北村さんは「ゴルゴ塾」のことなど全く知りませんでした。ではなぜ僕に声をかけたのかと言えば、これまで会社の社長さんだとか、社会人として立派な方を連れて行き、講演をしてもらったのだけど、どうも堅苦しくて、子どもたちの反応がイマイチだったそうです。

そこで芸能人やお笑い芸人で誰かいい人はいないかと思っていたところ、僕の妻を通して、「そうだ、ゴルゴさんだ」となったそうなのです。「ゴルゴ塾」のことをはじめ、僕の説明を聞いて、北村さんは「ぜひお願いします」と力強く言ってくれました。

講演活動を行うに際し、ジャケットをピシッときた僕は北村さんに連れられ、生まれて初めて霞ヶ関の法務省に挨拶に行きました。法務省には、その後、2018年に矯正支援官に選ばれ、委嘱式に出席するために、その門を再びくぐることになるのですが。

■少年院での初めての講演

2011年11月、晩秋の晴れた日、僕は関東地方の少年院にいました。体育館の中、150人の少年たちが演壇に立つ僕を見つめています。

「あ、テレビに出ている『命!』の人だ」
「このギョロ目のおじさんが、これからどんな話をするのだろう」

興味津々なのが、その真っ直ぐな視線からも伝わってきます。少年院での初めての講演。僕も少し緊張していました。

まだ年若い彼らにとって、接してきた大人といえば家族や地域の人間がほとんどで、その大人たちへの不信感がどこかにある。だから僕は、「こういう大人もいるんだぜ」「テレビの中の有名人じゃなくて、近所のおっさんだと思って話を聞けよ」と最初に言いました。

話したいことはたくさんあるけれど、僕は少年たちへのこんな質問から始めました。

「富士山に登ったことのある人は?」
「はい」「は~い」、何人かが手をあげます。
「そもそも富士山って何メートルあるか、知ってる?」
「6千メートル」
「おいおい、それじゃキリマンジャロだよ」

目立とうとする子もいれば、大人しい子もいます。まず目立つ子を喋らせて、ちょっとした発言にツッコミを入れる。すると笑いが起きる。これが僕のやり方です。

ああだこうだという会話のやりとりの中で、今度は質問に手をあげなかった子を指して、答えさせる。そうやって、みんなを巻き込んで話を進めていくのです。

ホワイトボードに言葉を書くゴルゴ松本さん
写真提供=筆者
講演会での一幕。漢字の意味からメッセージを伝えている。 - 写真提供=筆者

■今の心が変われば、未来も変わる

少年院にいる子の多くは、ネガティブな感情をもっています。「何でこんなところにいなきゃいけないんだ」「どうせもう自分なんか」と。

家庭に問題があったり、愛情に恵まれなかった場合は、「自分だけこんな目にあって……」という気持ちもあるでしょう。そんな彼らに僕は、「何事も、考え方ひとつ、捉え方ひとつ、そして、やる気で変わるんだよ」と言うのです。

過ちを犯して、そこにいる子たち。「過去」は「過ちが去る」と書きます。また、「反省」の「省」は「かえりみる」こと。

過去に心を立ち返らせて、自分はどうしてあそこであんなことをしたのか。原因は何だったのか。心のうちをよく見てみる。すると、やった事実は事実として残っても、過ちは去って、そこから変わることができる。

そして、今の心が変われば、未来も変わる。これまでの自分を変える「変身」は「変心」、心を変えることでもあるのです。

今は少年院にいるけれど、君たちも自分の力で未来を創ることはできるんだ、そのことを僕はしっかり伝えたかったのです。

■出会いの大切さ

初めての講演では、人との出会いの大切さについても触れました。

この地球上に人口70億人。生まれた瞬間から1秒間にひとりずつ、1分間に60人という物凄いスピードで会ったとしても、100年生きたとして約32億人しか会えない。でも、必要な人だとしたら、どんなに離れていても会う。それが「縁」。そこには意味がある。

そして、出会いというきっかけで人間は変われるのです。荒くれの武蔵坊弁慶が牛若丸と戦って、忠実な御付きとなるように。

出会うというのはすごいこと。今日、ゴルゴというおじさんと会った。もう二度と会わない可能性のほうが高い。でも、一度でもこうして会ったというのは、そこに何かがあるわけで……。

ほかにもいろいろと話し、気づけば90分の予定は30分もオーバーしていました。午後イチの時間に始めて、体育館の外に出たら4時過ぎ。空はきれいな夕焼けの茜色に染まっていました。

秋から冬に変わる空気の冷たさを肌に感じながら、「ああ、出し切ったな」と充実感……。北村さんにも「いいお話でした。またお願いします」と言われ、一回だけのつもりで引き受けたはずが、「これからも、やれる限りやらせてください」と答えていました。

少年たちに向けて、大人としてできることが僕の場合、この活動ならば、喜んでやらせてもらいたいと思いました。

学校の体育館
写真=iStock.com/Dimijana
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Dimijana

■「『命』の授業」に後輩芸人を連れていくワケ

招かれる声に応えて、各地の少年院を訪れました。

講演のテーマでよくやるのは、少年たちの今の状況を考えて、やはり、未来に希望を持てるもの。先にも紹介した「やる気、元気が大事」「目標は達成できる」「考え方で全部変わる」といったことです。

講演には、僕ひとりではなく、「ゴルゴ塾」の塾生もよく一緒に連れて行きました。

後輩のコアという元暴走族同士のコンビはシェーンと改名したのち解散するのですが、彼らは5、6回、行ったでしょうか。あと、あばれる君。そして、2021年に解散しましたが、ザブングルも。

彼らには、僕の講演の中頃、10分だけ時間を与え、ネタをやってもらうのです。最初は緊張しています。けれど、場所や状況は関係なく、舞台に上がればそこはプロ。観客の少年たちは大爆笑。いつものライブとはまた違う高揚感があったようです。

なぜ、後輩を連れていくのか。なかなか売れない彼らに、あらためて笑いを提供する喜びを実感してほしかった。少年たちに対しては、まだ芽は出ていないけれど、夢や目標を持ち、頑張っている芸人の姿から何かを感じとってくれればと考えていました。

また、テレビではなく、目の前で本物のお笑いを見せたかった、というのもあります。そして、芸人と少年たち、それぞれにポッと光る何かを感じたり、刺激になればいいなとも思っていたのです。

少年院で講演をやることは、僕自身にもやりがいをもたせてくれました。

講演会のマイク
写真=iStock.com/Tzido
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tzido

リーマン・ショックのあと、夢中になって本を読みまくりました。勉強を続けるうちに、得た知識がパズルのようにつながっていき、次に、発表する場ができた。

加えて、このギョロリとした眼、オトコオトコした顔、野球部で鍛えたよく通る大きな声。これは授業に際し、僕の武器でもあって、だから少年たちにも「おい、おまえな」と言えるし、男同士の会話としてやりとりができる。

俳優や芸人をやっているから人前で何かを表現して伝えるのも苦になりません。そういったことを考えると、「『命』の授業」をやる今の状況は、なるべくしてなったのだ、という気がします。

■大きな反響

ボランティアですし、ずっと公にせずに続けていました。それが、ニュースや新聞、テレビの情報番組などメディアでも取り上げられると、僕の活動についての問い合わせも相次ぐようになりました。

少年院で講演する様子が最初にドキュメンタリー風に取り上げられたのは、2014年、トークバラエティ番組『ジャネーノ⁉』でした。あばれる君をともなってのその日の「『命』の授業」では、夢をどう実現させるかを漢字を使って解説しました。

これは、未来に希望をもってほしいという思いを込めていて、少年院でよくする話のひとつです。内容を少し紹介すると……。

まず少年たちに問うたのは、つらいときはどうするかということ。

弱音を吐く。「吐く」という字はくちへんに「+」(プラス)と「-」(マイナス)。弱音は吐いてもいい。けれど、その次が大事。成功する人、夢を実現させる人は少しずつ弱音は吐かなくなる。

ポジティブシンキングでマイナスなことを言わなくなってくる。「吐く」から「-」(マイナス)をとるとそう、「叶」です。そうして夢は叶う。実現する……。といった具合です。

板書を指しながら説明するゴルゴ松本さん
写真提供=筆者
「命」の授業風景 - 写真提供=筆者

その翌年に「『命』の授業」は『中居正広の金スマ』でも紹介され、大きな反響を呼びました。

テレビの影響は大きく、少年院以外からの講演依頼やイベント出演の要請もずいぶん増えました。驚くとともに、今、この時代に「『命』の授業」が求められている意味を、あらためて考えるのです。

■「お母さん、ありがとう」の言葉

少年犯罪が少しでも減ることを願って始めたこの活動。統計では犯罪件数は減少しているものの、社会を震撼(しんかん)させるような少年犯罪のニュースも目にします。

自分がやっていることが本当に役立っているのか、僕の講演を聴いた子どもたちの再犯率ははたしてどうなのか、ふと考えることがあります。

それでも、ひとりでもいいから僕の話で将来に希望を見出し、立ち直るきっかけとしてくれる子がいればと、それが活動の原動力になっています。

僕は保護司ではないし、少年院に行っても、その後、少年たちとかかわりをもつことはしないようにしています。僕が行う1時間30分の授業、その中で、自分なりのやり方で彼らに言葉を伝えるのが僕の役目です。ですから、少年院以外のところで顔を合わすこともありません。

ある町の青年会議所で講演会があった時のこと。終わったあと、僕に声をかけてきた女性がいました。

40代半ばくらいの方です。聞けば、僕が以前、講演に行ったことのある少年院に息子さんが入所していたとのこと。そのお母さんが、興奮しながら話し始めました。

「少年院から帰ってきた時、息子が『お母さん、ありがとう』と言うんです。今まで一度もそんな言葉を聞いたことがないから気持ち悪くて、思わず『何なの?』と。悪いことをさんざんしてきた子なんですよ。それが何度も『ありがとう』と言ってくれて……」

■「ああ、やってきてよかった」

僕は、その少年院で話したことを思い出していました。「いいか、女の人、お母さんを大切にしろよ」という話をたくさんしました。

「きみたちは命を授かって生まれてきた。『始』という字は、おんなへんに『台』。女の人を土台にして命は始まるんだぞ」
「お母さんがどれだけ新しい命をおなかの中で守ってくれたか。十月十日だ。おなかにいるとき、みんなは息をしてないんだぜ。お母さんの体の一部として、へその緒ひとつでつながって、そこから栄養をもらっている。お母さんはそうやって十月十日、おなかに子どもを包んで育てているんだ。そう、『包む』。そして生まれ出てきたら、今度は手で包む。てへんをつけて、『抱く』。お母さんに抱かれるんだ」

そういう話を漢字を使っていくつも説明して、「お母さんを大事にしろよ」と言ったのです。それで、その少年は「おふくろに迷惑をかけてきたなあ」と気持ちを切り替えて、少年院を出たあと、素直に「ありがとう」と言えるようになったのでしょう。

女性に関する話は、よくテーマで取り上げます。漢字を調べていると、おんなへんのつく漢字は257もあるのに、おとこへんというものはありません。人をあらわす、にんべんがあるだけなのです。漢字の世界では圧倒的に女のほうがバラエティ豊かです。

さて、そのお母さんと息子は、手紙を書いてきてくれました。そこにはこうありました。

「○○少年院にいました。あの時にゴルゴさんの話を聞いて、お母さんに『ありがとう』を言わなきゃいけないと思いました。そして、いつかお母さんから『ありがとう』と言ってもらえるよう、今、僕は料理人を目指して働いています」

「ああ、やってきてよかった」と思えた瞬間でした。実際には、こんなふうに少年院を出た子のその後を知ることはまずないけれど、どこかに、同じようにお母さんに「ありがとう」と言ってる子がいるかもしれないと思うと、ちょっと嬉しくなりました。

■言葉の力を信じて

少年院の子たちのことを考えながら、あらためて僕自身のことを振り返ってみると、僕は子どもの頃からずっと“言葉”によって元気づけられたり、勇気を与えてもらっていました。本を読んで心に残る言葉があれば、ノートに書き出したりもしていました。

新しいことに取り組む時は、上杉鷹山先生が「為せば成る」と背中を押してくれ、苦しい時は、藤波辰爾選手の「ネバーギブアップ!」の声が聞こえました。

売れない貧乏時代は『成りあがり』の永ちゃん――矢沢永吉さんから檄(げき)がとび、僕は「今に見てろ。こんなことで負けねえぞ!」と拳をあげました。

ゴルゴ松本『「命の相談室」 僕が10年間少年院に通って考えたこと』(中公新書ラクレ)
ゴルゴ松本『「命の相談室」 僕が10年間少年院に通って考えたこと』(中公新書ラクレ)

言葉は「言霊(ことだま)」――霊、つまり、たましい(魂)が宿っています。また言葉は「言」の「葉」。葉っぱのように何度も再生します。繰り返し言うことで、そこに魂が宿り、言霊となって、それを実現させるのです。

美味しい料理をつくりだす庖丁はまた、人を殺す道具にもなります。本は読むと楽しく、知識を与えてくれるけれど、投げつければ相手にケガをさせます。言葉も同じ。罵詈(ばり)雑言、誹謗(ひぼう)中傷のように人を傷つける凶器になる場合もあります。

要は使い方次第ですが、日本人は言葉を言霊として「正しいこと、いいことを言いましょう。そうすれば正しく進むことができる」としてきました。

僕もそんな言葉の力を信じています。だから「『命』の授業」も、漢字を様々な角度から見つめ、歴史の話もしながら、たくさんのよき言葉を届けたい。

それが今、この時代に生きる僕の役割だと思っています。

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ゴルゴ松本(ごるご・まつもと)
お笑い芸人
1967年、埼玉県生まれ。94年、レッド吉田とお笑いコンビ「TIM」を結成。「命」「炎」などの漢字ギャグで人気を博す。以降、バラエティ番組や子ども番組、得意の野球番組を中心に活躍する。2011年より全国の少年院で講演会のボランティアを行い、その活動がテレビ、新聞などで紹介され、話題となる。著書に『あっ!命の授業』(廣済堂出版)、『ゴル語録』(文藝春秋)がある。

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(お笑い芸人 ゴルゴ松本)

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