「先に希望年収を伝えてはいけない」転職活動で給与交渉に失敗する人6タイプ
プレジデントオンライン / 2021年12月17日 13時15分
※本稿は、ロジャー・ドーソン、島藤真澄訳『本物の交渉術 あなたのビジネスを動かす「パワー・ネゴシエーション」』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■金額は「相手から先に提示してもらう」
交渉上手なパワーネゴシエーターは、相手に先に提示してもらうほうが、通常は有利になることを知っています。その理由は明白です。
●相手の最初の提案が、あなたの予想をはるかに上回るものである可能性がある。
●相手に何かを伝える前に、相手の情報を得ることができる。
●相手の提案をブラケティング(いったん相手の提案を脇に置いて、より自分にとって有利な最初の提案を申し出る)することができる。最終的に差額を折半することになっても、自分の欲しい額で手に入れることができる。
もし、ビートルズのマネージャーだった、ブライアン・エプスタインがこの原則を理解していたら、ビートルズの4人は最初の映画で何百万ドルも稼ぐことができただろう。ユナイテッド・アーティスツは、ビートルズの人気にあやかりたいと考えていたが、人気がいつまで続くかわからないため、思い切ったことができなかった。映画が公開される前に、一時的な成功に終わってしまう可能性もあった。彼らは、この映画を安価なモノクロ映画として企画し、わずか30万ドルの予算で製作したのである。
■相手の出方を待てずに何百万ドルもの利益を失った
これでは、ビートルズに高額のフィーを払うことはできない。そこで、ユナイテッド・アーティスツは、利益の25%をビートルズに提供することを計画していた。1963年当時、ビートルズは世界的なセンセーションを巻き起こしていたので、プロデューサーは彼らに先に値段を挙げてもらうことに非常に抵抗があったものの、勇気を持ってルールを守り通した。彼はエプスタインに2万5000ドルの前金を提示し、利益の何%が妥当だと思うかを尋ねた。
ブライアン・エプスタインは映画ビジネスを知らなかったので、「彼らが映画を作るために時間を割くとは思えないが、もし君が最高のオファーをしてくれるなら、それを持ち帰って、彼らと一緒に君のために何ができるかを考えよう」と言うべきだった。しかし、彼の承認欲求がそれを許さなかった。そのため、彼は「利益の7.5%をもらわないと、やらない」と答えた。
このわずかな戦術ミスで、ビートルズは何百万ドルもの利益を失った。リチャード・レスター監督は、誰もが驚いたように、グループの1日を見事にユーモラスに描いた『ハード・デイズ・ナイト ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!』を製作し、世界中で記録的な大ヒットを収めた。
双方が「先に提示してはいけない」と学習していた場合、双方が数字を出すことを拒否していつまでも黙って座っているわけにはいきませんが、原則として、相手が何をしたいのかを先に確認することが必要です。
■あたかも相手が望んで来たかのように振る舞う
価格以外でも、自分から提案するよりも、相手から提案してもらった方が有利になります。巧妙な交渉者の中には、あたかも相手が自分に近づいてきたかのように見せかける人もいます。
映画プロデューサーのサム・ゴールドウィンは、ダリル・ザナックから契約俳優を借りようとしましたが、ザナックが会議中で連絡が取れなかったことがありました。何度も連絡をしているうちに、苛立ったゴールドウィンはとうとう、会議中のザナックを呼び出しました。ダリル・ザナックがようやく電話口に出たとき、電話をかけたサム・ゴールドウィンは、「ダリル、今日は何の用かな」とあっけらかんと言ったのです。
■給与交渉では先に希望額を言ってはいけない
アトランタに住むエグゼクティブ・コーチで、再就職支援のカウンセラーでもあったルイス・クラヴィッツは、忍耐力と話すべきでないタイミングを見極めることをアドバイスしています。彼がコーチをしたある若者は、クビになったばかりで、次の仕事では2000ドル減の2万8000ドルでもいいと言っていました。しかし、クラヴィッツは彼に「先手を打たせなさい」と指導しました。
この事例では、面接官が3万2000ドルを提示したところ、大喜びした求職者は、一瞬沈黙してしまいました。面接官はそれを不満だと解釈しました。結果、提示額は3万4000ドルになりました。
「交渉事では、先にしゃべった方が損をすることが多い」と、彼は言っています。
①最初に価格を提示しなければならない方は、不利になる。
②相手のオープニングポジションを修正することを躊躇してはいけない。例えば、「捨て値であれば、興味を持てるかもしれない」や、「1万ドルのオファーはすでに断っている」などだ。
■交渉上手な人があえて「バカ」を装う理由
パワーネゴシエーターにとって、賢いことは愚かであり、愚かなことは賢いことです。交渉の場では、他の人よりも知識が少ないように振る舞ったほうがいいでしょう。愚かに振る舞えば振る舞うほど、あなたは有利になります。ただし、あなたのIQが信頼性に欠けるところまで落ちない程度の話ですが。
これには理由があります。ごく稀な例外を除いて、人間は知能や情報量が少ないと思われる人を利用するのではなく、助ける傾向があります。もちろん、世の中には弱い人を利用しようとする冷酷な人もいますが、ほとんどの人は自分が賢いと思う人と競争し、自分より賢くないと思う人を助けたいと思いがちです。
賢くないふりをする理由は、相手の競争心を取り払うからです。交渉を手伝ってくれと言っている相手に、どうして闘争心がわくでしょうか。「わかりません」と言っている人と、どうやって競争的な会話を続けることができるでしょうか。あなたはどう思いますか。ほとんどの人は、このような状況になると、相手に同情して、わざわざ助けてあげようとします。
■一方、交渉で不利になる人のタイプは…
テレビ番組『刑事コロンボ』を覚えていますか。ピーター・フォークが演じた刑事は、古びたコートを羽織り、不明晰(ふめいせき)な頭脳で、古い葉巻の吸い殻を噛みながら歩いていました。彼は常に、何かを置き忘れたような表情をしていて、それが何なのか、どこに置いてきたのかさえも思い出せないようです。実際、彼が成功したのは、頭が良くても、いかにも頭が悪いように振る舞っていたからです。彼があまりにも無力に見えるので、犯人は、彼に事件を解決させてあげたいとすら思うようになったのでしょう。
![握手するスーツの男性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/b/670/img_2bc3b0c67a18558d40e56668bc572d5a390476.jpg)
自分のエゴに支配され、洗練されたネゴシエーターのように見える交渉者は、交渉で不利になります。それは次のような人です。
●決断が速く、考える時間を必要としない人
●誰にも確認せずに進めてくれる人
●専門家に相談する必要がない人
●譲歩を懇願しない人
●上司の指示に左右されない人
●交渉の進捗状況をメモに残して、頻繁に照会する必要のない人
一方、パワーネゴシエーターは、愚かに見える重要性を理解しているので、次のような選択肢を持っています。
●承諾の危険性や、追加の要求をすることで得られる可能性について十分に考えることができるよう、熟考する時間を要求する
●委員会や取締役会に確認する間、決定を延期する
●法律や技術の専門家が提案を検討するための時間を要求する
●追加の譲歩を要求する
●グッドガイ/バッドガイ(相手の味方や敵対者として、その都度、条件に応じて振る舞うこと)を使い、対立することなく相手に圧力をかける
●交渉内容の記録を見直すという名目で、考える時間を取る
■相手の「助けてあげたい」気持ちを引き出す
私は、言葉の定義を聞くことで、間抜けを演じます。相手から「ロジャー、君がこんなことを提案するなんて、もはや形而上の問題だよ」と言われたら、「形而上……形而上って……えーっと」と答える。「その言葉、聞いたことはあるけど、意味がよくわからないんだよね。説明してもらえないかな」、あるいは、「その数字をもう一度説明してもらえないですか。もう何回もやっていると思いますが、なぜか理解できないんです。いいですか」。そうすることで、“今回はなんて不器用なんだろう”と思ってもらえます。
![ロジャー・ドーソン、島藤真澄訳『本物の交渉術 あなたのビジネスを動かす「パワー・ネゴシエーション」』(KADOKAWA)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/7/200/img_5779bc86c353d81bc0daaba14d6854f7219637.jpg)
このようにして私は、妥協案を実現することを困難にしていた相手の競争心を休ませます。相手は私と戦うのをやめて、私を助けようとしてくれます。
ただし、自分の専門分野で間抜けな行動をしていないか注意してください。もしあなたが心臓外科医なら、「三重のバイパスが必要なのか、二重でいいのかわかりません」とは言わないでください。建築家であれば、「この建物が建つかどうかはわかりません」と言ってはいけませんよね。
相互利益の交渉は、それぞれの側が相手の立場に共感しようとする意思に基づいて行われます。双方が競争を続けていては、そうはいきません。交渉人は、“間抜けな行動”が競争心を和らげ、相互利益への道を開くことを知っているのです。
①間抜けな行動は、相手の競争心を和らげる。
②無表情でいることで、相手があなたを助けてくれる。
③言葉の定義を聞いてみる。
④何かをもう一度説明してもらう。
⑤自分の専門分野では間抜けにならないこと。
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交渉術に関する米国内トップ講師。カリフォルニア州最大の不動産会社経営を経て、1982年以来プロ講演者としてアメリカ、カナダ、アジア、オーストラリアで経営陣や営業担当者向け研修を行う。全米スピーカー協会の最高賞であるCSPとCPAEの両方を受賞した世界でも数少ない講演家。『本物の交渉術 あなたのビジネスを動かす「パワー・ネゴシエーション」』のオーディオ版の売り上げは3800万ドルに上りビジネス・オーディオ・プログラムで最大のベストセラーを記録している。
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(交渉術・企業研修アドバイザー ロジャー・ドーソン)
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