「若者の所得が下がり、失業率が上がる」経済学者が指摘するジョブ型雇用のリアル
プレジデントオンライン / 2021年12月21日 13時15分
■ジョブ型雇用で給料は増えるのか
グローバル化とIT化が進む中で、失われた30年とも言われる経済成長の低さに甘んじてきた日本。
少子高齢化による人材不足、人材の争奪戦、コロナリモートワークによる、より柔軟な働き方への欲求などから、雇用方法を見直す企業が増えている。
従来、日本では終身雇用が前提のもと新卒一括採用ののち、ローテーションで部署を異動させるなかで社員が多くのスキルを身につけさせていく雇用方法が主流だった。しかし、現在では必要な資格や仕事内容が明示された職種に、条件の見合った人が応募する「ジョブ型雇用」という形式を採用する企業が急増している。いわゆる欧米型の採用方式だ。
この方式をすでに取り入れているのが、日立製作所、富士通、カゴメ、三菱ケミカル、資生堂、KDDIなど、大学生の就職先としても人気の高い大手企業。ITや研究職など、高度な知識や専門性を必要とする職務では以前から採択されている方法だが、今や多くの職種に広がりつつある。
従来の雇用方式は、長時間労働の温床になる、個人のキャリア志向と関係なく異動させられる、人材の流動性が低く、高いスキルを持つ人材を獲得できないなどの問題点があり、政府も2018年の第5回「今後の若年者雇用に関わる研究会」の参考資料で、ジョブ型雇用を徐々に推進する方向性を打ち出している。
しかし、ジョブ型雇用は、既にスキルや資格がある者にとっては選択肢が広がる雇用形態だが、若年者にとっては不利な制度という見方もある。
実は、すでにジョブ型雇用が一般的な欧米では、若年層の就職のハードルが高くなることがわかっているため、若者を対象にした職業訓練プログラムが制度化されているほどだ。こうした状況を踏まえ、日本でこれから増えていくと予想される「ジョブ型雇用」の問題点とは何かを、経済の専門家である飯田泰之さんに聞いた。
■若者にはツラい“ジョブ型雇用”制度
「ジョブ型雇用」(以下、ジョブ型)は欧米型の雇用形態で、職務に対して人をはりつけるもの。これに対し、従来の日本企業のように、長期雇用を前提のうえ、年次で業務をローテーションしながら少しずつさまざまなスキルを身につけ、ポストも上がっていく仕組みを「メンバーシップ型雇用」(以下、メンバーシップ型)と呼びます。
ジョブ型では、ポストが空くと、そのポストに必要な条件や能力が示され、社内外への公募により人を募ります。
メンバーシップ型では、例えばA支店で店長ポストが空くと、支店網から、次に店長を経験させるべき人がリストアップされ、別の支店の副店長がA支店の店長職への異動を命じられたりすることもあります。
ジョブ型のほうが職務に直結した人を採用できて、効率的だという主張が多くありますが、話はそうは簡単ではありません。そして、ジョブ型は若い人には“ツラい制度”であるという点にも注意が必要です。
■スキルアップしない労働者が増えるのは社会全体の問題に発展する
ジョブ型採用では「◯◯の職務経験3年以上」といった経験を問うものが多くなりがちです。初めて仕事に就く人は永遠にスタートラインにすら立てないこともある。そのため、若者で未経験者は無給のインターンシップや、超薄給の職場で経験を積むしかなくなるのです。その結果、若い世代の所得が下がり、雇用が不安定になり、失業率が高くなります。
また、ジョブ型では自らスキルアップする必要がありますが、若い人は給与が低く、自己投資の余裕はありません。スキルアップしない労働者が多くなるのは社会全体にとってもよいことではありません。こうした点で、ジョブ型は中間以下の管理職や一般社員の採用には向いていない可能性があるでしょう。
■企業内の人的資本の蓄積はメンバーシップ型が有利
今後求められるビジネスのイノベーションは、メンバーシップ型のほうが生まれやすいとみることもできます。今後はAIで代替できない「ホスピタリティ」「マネジメント」「クリエイティビティ」の3つの仕事の重要度が増すことは必至です。
サービスやソリューションも、ますますソフト化していきます。そのとき、物量で中国に負ける日本では、既存技術の上手な使い方を思いつくことや、既存のリソースを使って何ができるかを突き詰めることが、イノベーションを起こす近道となるでしょう。
しかし、社内の暗黙の情報を共有し、誰がどこで何をしているかがわかっていて、あうんの呼吸のような連携が取れる状態になければ、それを実現することは難しいのです。
誰と連携するか、誰と誰を一緒のチームにすれば、能力を補完し合ってチームが回りやすいのかといった、企業内の人的資本の情報の蓄積は、従来のメンバーシップ型のほうが容易にできる可能性があるのです。
また、従業員間の教え合い、助け合いもメンバーシップ型のほうが活発化する傾向があるようです。
■中間管理職以下は人的ネットワークの活用が不可欠に
一方で、役員など上級管理職はジョブ型で公募するほうが、経営人材の流動化などの意味でも適当ではないでしょうか。「上級管理職ほどジョブ型で」が日本経済復興の処方箋です。
なお、ジョブ型への転換が一定以上進むなら、中間管理職以下の人は同じ職業、趣味、同窓のつながりなどを大切にし、メンバーシップ型で培われていた人的ネットワークを各自で補填する必要があります。
大学の機能としての同窓会の役割が大きくなってくるかもしれません。
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明治大学政治経済学部准教授
1975年生まれ。東京大学経済学部卒業、同大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。専攻はマクロ経済学、経済政策。『経済学講義』(ちくま新書)、『日本史に学ぶマネーの論理』(PHP研究所)など著書、メディア出演多数。noteマガジン「経済学思考を実践しよう」はこちら。
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(明治大学政治経済学部准教授 飯田 泰之 構成=奥田由意)
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