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「副反応の重さとワクチンの効果は関係がない」コロナワクチンが"効く人"と"効かない人"がいる理由

プレジデントオンライン / 2021年12月23日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ridofranz

新型コロナウイルスのワクチンの副反応には大きな個人差がある。これにはどんな意味があるのか。国立国際医療研究センター(NCGM)の満屋裕明研究所長は「接種後の発熱や痛みとワクチンの効果には関係がないことが分かっている。ワクチンを接種しても1000人に5人は効果がでないが、これは人類の歴史と関係している」という――。(第2回)

※本稿は、国立国際医療研究センター『それでも闘いは続く コロナ医療最前線の700日』(集英社インターナショナル)の一部を再編集したものです。

■感染後に抗体ができる人とできない人がいる

人間や動物がウイルスに感染すると、中和抗体が作られます。どんなウイルス感染症でもそれは同じです。しかし、中和抗体の働きはウイルス感染症の種類によって異なります。

たとえばエイズにかかったときにも中和抗体は作られますが、その活性は弱く、エイズウイルスは中和抗体をかいくぐる形で増殖を続けます。だからいったん感染すると、今では治療が進んで非常に高い効果が得られるようになっていますが、治療を受けないと自然に癒(なお)ることはありませんし、ほぼすべての感染者がエイズを発症して生命が奪われます。

では新型コロナはどうでしょうか。

一度かかって回復した人は、高い中和活性を得られるのかどうか。結論から言えば、高い活性を得られる人もいます。そうした人たちの中和抗体を使って、感染症の治療を行なうこともできます。これは回復者血漿療法という治療法で、NCGMでは新型コロナの治療法としてその研究を進めています。

新型コロナの回復者血漿療法については、すでに動物実験で高い効果が示されました。中和活性が高い回復者の血漿を新型コロナに感染させたハムスターに投与しますと、ウイルスによる肺の破壊(重症肺炎)を阻止できることがわかっています。同じくマウスを使った実験では、回復者血漿によって肺のウイルス量が1300分の1に減少しました。100万個のウイルスが約770個まで減ったわけです。

このように、新型コロナにかかって回復した人の中には、ウイルスの増殖を抑え込むのに十分な中和活性を得ている人たちがいます。しかし一方で、中和活性がほとんど得られない人もいて、そうした人たちは新型コロナからせっかく回復しても、再び感染してしまう恐れがあると考えられます。この問題の解決策の一つは、ワクチンの接種です。

■ワクチン接種後の抗体値は感染回復後よりも高い

ファイザー社のワクチンの場合、接種した人たちの平均中和抗体値は、新型コロナから回復した人たちのそれより約3.8倍高いことが明らかになっています。同じくモデルナ社のワクチンは、回復者の約3.4倍高い中和抗体が得られることがわかっています。

同様の結果は、私たちが行なった調査からも確認できました。NCGMでは熊本総合病院の島田信也先生と共同で、ファイザー社のワクチンを2回接種した225人を対象とした調査を行なっています。この225人の平均中和抗体値は、新型コロナから回復した40人の平均中和抗体値の約1.6倍でした。

ワクチン接種者のうち最も中和活性が高かった人と、回復者のうち最も中和活性が高かった人を比べると、前者が後者の約1.8倍です。こうした事実から、すでに新型コロナにかかって回復した人もワクチンを接種するメリットは十分にあると考えられます。ただし、ワクチンの効果を最大限に得るためには、接種まで一定の間隔を空けるべきケースがあります。

たとえば抗体カクテル療法を受けて回復した人の場合、接種まで90日以上の期間をおくことを、アメリカCDC(疾病予防管理センター)は推奨しています。すでに新型コロナに感染し、これからワクチンを打とうと考えているみなさんには、医師とよく相談したうえで接種の時期、回数を決めていただきたいと思います。

■ワクチン接種後の発熱や痛みと“効き目”は関係あるのか

先ほど紹介した共同研究では、ファイザー社のワクチンについて他にもさまざまなことを調べていますので、以下、明らかになったことを紹介していきたいと思います。

まず「接種後の発熱」と中和活性との関係ですが、結論から言えば、相関はほとんどありません。たとえば40度の熱が出た人と、いわゆる平熱(36.8度前後)のままだった人を比べてみたとき、有意の差は認められなかったのです。男性と女性を比べてみても、やはり有意の差はありませんでした。

ワクチンを打ったあとに熱が出たからといって高い中和活性が得られるわけではないし、熱が出なかったからといって中和活性を得られないわけでもないのです。すでに述べたとおり、発熱は接種後1日目から3日目くらいに起きる副反応です。中和抗体が産生されるのは接種後10日前後です。両者にほぼ関係がないことは、このタイムラグからも容易におわかりいただけるのではないかと思います。

医師のオフィスで予防接種を受ける上級成人男性
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

次に、接種後の「痛み」についての調査結果です。痛みが激しかった人と、ほとんど痛みが出なかった人では、ワクチンの効果に違いはあるのか。これも結論から言えば、相関はほとんどありません。

この共同研究では痛みの種類を15種類に分け、「どれくらい痛かったか」という程度を点数化して中和活性との関係を調べたのですが、有意の差は見られなかったのです。接種後に激しい痛みが出たからといって高い中和活性が得られるわけではないし、まったく痛みが出なかったからといって「ワクチンが効いていない」ということでもないわけです。

■60歳以上でも抗体は十分に得られる

年齢による違いはどうでしょうか。この共同研究に協力してくださったのはすべて病院のスタッフで、年齢分布は20歳から39歳が97人、40歳から59歳が110人、60歳以上が18人でした。

結論としては、「60歳以上の人たちで得られる中和活性はやや低い傾向があるが、著明ではない」ということになります。

60歳以上の参加者は全体のわずか8%ですから、年齢と中和活性との関係について、この調査だけで結論を下すことはできません。しかし少なくとも、この調査においては著明な差は出なかったわけです。

この共同研究では、ワクチン接種後の中和活性の減衰についても調べています。これも結論から言えば、時間の経過とともに減っていきます。平均値で見ると、2回目の接種を終えた30日後では約42%減衰しました。その後の傾向については現在(2021年9月)調査中ですが、時間が経てば経つほど減っていくのはまず間違いありません。接種後1年では相当な低下が見られるでしょう。この問題に対して、私たちはどう対処すればいいのか。

まず一つ言えるのは「人体には免疫記憶という仕組みがある」ということです。ワクチンを接種するとB細胞が中和抗体を産生するようになります。その後、B細胞は減っていきます。しかし、新型コロナウイルスを異物として認識したという「記憶」は残って、新型コロナウイルスが体内に入ってきたときにはB細胞は急速に増加し、B細胞が産生する中和抗体も急増するのです。

出所=『それでも闘いは続く コロナ医療最前線の700日』
出所=『それでも闘いは続く コロナ医療最前線の700日』

■ワクチンが効かない人がいるのはなぜか

免疫記憶が十分に作用すれば――たとえワクチンで得られた中和活性が減衰していたとしても――感染は防げるわけです。しかし、2021年9月現在では「免疫記憶は新型コロナウイルスに対してどのように働くのか」というデータの蓄積はまだ不十分です。

そこで各国では「3回目のワクチン接種が今後必要になるだろう」と想定し、その研究を進めています。たとえばファイザー社のワクチンを2回接種した人は、3回目もファイザー社のワクチンを接種したほうがいいのか。そうではなく、3回目はアストラゼネカ社などの別タイプのワクチン(ウイルスベクターワクチン)を打つべきなのか。そうした研究が世界中で行なわれているのです。結論はまだ出ていません。

今後、臨床データの蓄積と解析が進んでいけば確かなことがわかってくるでしょう。

ワクチンについてはもう一つ、「接種しても中和活性を十分に得られない人がいる」という問題もあります。たとえば私たちの共同研究では、ファイザー社のワクチンを接種した225人のうち、1人の方は少なくとも私たちの検定方法ではまったく中和活性が見られませんでした。

すでに述べたとおり、ファイザー社のワクチンには95%の予防効果があります。この95%の予防効果というのは「100人のうち5人はワクチンが効かない」ということではありません。ワクチンを打たなかった人が1000人いたとき、100人が感染して発症する。ワクチンを打った人が1000人いたとき、5人だけが感染する。これが95%の予防効果です。

言い方を少し変えると、1000人中5人(全体の0.5%)はワクチンを打っても感染・発症してしまうわけです。なぜそうしたことが起きるのかと言えば、私たちのいろいろな病原体に対する免疫学的な力、すなわち免疫応答能には多様性があるからです。

■免疫に多様性があることで人類は生き延びることができた

私個人の話をすると、新型コロナワクチンを接種して得られた中和活性は、全体から見て「中の中の下」といったレベルでした。先に示した共同研究において最も高い中和活性を得た人と比べると、私の中和活性は約7分の1しかありません。しかし、私のB型肝炎に対する中和活性は平均よりずっと高いことが、過去に受けた検査でわかっています。

抗体免疫学
写真=iStock.com/wildpixel
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/wildpixel

つまり私は、新型コロナに対しては人並みの免疫しか持っていないけれども、B型肝炎に対しては並外れて強い免疫を持っているようです。これは私という人間が先祖から受け継いだ特性です。

人類はその長い歴史の中で、幾度も生命を脅かす感染症の脅威に晒さらされてきました。しかし、たとえばペストや天然痘のような恐ろしい感染症の大流行が起きても、絶滅はしていません。なぜかといえば、多様性があるからです。

ある人はペストでは死なないけれど、天然痘では死んでしまう。またある人は天然痘では死なないけれども、ペストでは死んでしまう。そうした多様性があるからこそ、私たち人間は今日まで命をつなぐことができたのです。

■新型コロナを最終的に解決するには抗ウイルス治療薬が必要

新型コロナに対しても、やはり同じことが言えます。感染しても症状が出ない人、ごく軽い症状が出るだけですむ人たちが多数いる一方で、重症化して苦しむ人、命を失ってしまう人がいます。幸いにもきわめて効果の高いワクチンが開発されましたが、一部の人はワクチンの恩恵を得られないと推定できます。

変異株の問題もあります。いくつかの変異株には、ワクチンの効果が十分に及びません。新型コロナに対する現在唯一の認可抗ウイルス治療薬であるレムデシビルに対して、耐性を有する変異株の存在も報告されています。ワクチンや治療薬が効きにくい変異株が今後も出現し続けると覚悟しなければなりません。

そこで必要になるのが、新しい抗ウイルス治療薬です。変異株に対しても等しく強力な効果のある抗ウイルス薬を開発しなければ、新型コロナに関わる問題は最終的な解決に至らないと思われます。

■経口投与の新薬を開発中

ご承知のとおり、治療薬の研究は現在世界中で進められています。NCGMでも新薬の開発に取り組んでいて、新型コロナウイルスに対して強力な活性を発揮する化合物をすでに開発しています。私たちとしては、新薬は経口投与できるものにしたいと考えています。一日の服用回数は1回から3回、服用期間は1週間から10日を想定しています。

国立国際医療研究センター『それでも闘いは続く コロナ医療最前線の700日』(集英社インターナショナル)
国立国際医療研究センター『それでも闘いは続く コロナ医療最前線の700日』(集英社インターナショナル)

PCR検査で陽性だと判定された人がその薬を飲んだとき、高い中和活性を持っている人と同等のレベルでウイルスがブロックされる。なおかつ、体内にウイルスが入ったことによって免疫システムが作用し、中和抗体が生まれる。そうした薬の開発を目指しているのです。

今しがた述べたとおり、私たちが開発した化合物は、新型コロナウイルスに対して強力な活性を発揮します。しかし、これを薬として世に送り出すまでには、まださまざまなことを検討・確認しなければなりません。飲み薬にするためにはどうすればいいのか。1日に最大3回、最長10日の服用で十分な効果を得るためには、どうすればいいのか。有効成分は飲んでからどれくらいで血中に現われ、どれくらいで半減するのか。

そうした検討や確認を一つ一つしていかなければならないわけです。何より重要なのは副作用の有無です。人体に悪い影響が出るのか、出ないのか。そこは特に綿密な検討をしなければなりません。いずれもなかなか大変な仕事ではありますが、日々少しでも前進していけるよう、これからも全力で取り組んでいきたいと思っています。

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満屋 裕明(みつや・ひろあき)
国立国際医療研究センター研究所長
1950年生まれ。1975年熊本大学医学部卒業。1980年同大学医学部助手。1982年米国国立癌研究所客員研究員。1991年米国国立癌研究所、レトロウイルス感染部部長(現職)。1997年熊本大学医学部教授。2012年国立国際医療研究センター理事・臨床研究センター長(兼任)。2016年より現職。同年熊本大学名誉教授。1985年米国で世界初のHIV治療薬「AZT」を開発。

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(国立国際医療研究センター研究所長 満屋 裕明)

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