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「ネルソン提督のようですね!」部下の時間を奪うダルい上司を私がそう褒める本当の理由

プレジデントオンライン / 2021年12月22日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/andylid

どうしても悪口を言いたいときには、どんな言葉を選べばいいのか。「インテリ悪口専業作家」を名乗る堀元見さんは「不快な気持ちを楽しさに変えられるのが正しい悪口だ。話が長い上司には『ネルソン提督のようですね』と言ってみてはどうだろうか」という――。

※本稿は、堀元見『教養悪口本』(光文社)の一部を再編集したものです。

■イギリスの苦境を救ったネルソン提督

ネルソン提督といえば、世界三大提督にも数えられる、イギリスの英雄である。カッコいい逸話だらけで、「マンガの主人公じゃん」と言いたくなるような男だ。

そんな彼の名前を使って上司の悪口を言えば、聞いた上司もまさか悪口だとは思わない。むしろ「褒められてる!」と思うだろう。完全無欠のサイレント悪口なので、初心者にもオススメだ。

1805年、ナポレオン率いるフランスはヨーロッパを丸ごと手中にしたと言ってもいい勢力を誇り、巨大な軍隊を組織していた。このままだとイギリスも侵略されそうだ。イギリス人的にはめっちゃピンチである。

そんなイギリスの苦境を救ったのが、ネルソン提督だ。飛ぶ鳥を落とす勢いのフランス(とスペイン)の連合艦隊に対して、彼は鮮やかな勝利を収めた。その戦いは「トラファルガーの海戦」と呼ばれる。

イギリス側の死者は推定449人だったのに対し、フランス・スペイン側の死者は推定4395人。実に10倍だ。フランス側の船はほとんどが大破するか拿捕(だほ)されて、フランス海軍は事実上壊滅した。まさに圧勝である。

■「各員がその義務を果たすことを期待する」

この圧勝っぷりだけでもマンガっぽいのだが、ネルソン提督のエピソードはもっとずっとマンガっぽい。

まず開戦時。ネルソン提督は「英国は各員がその義務を果たすことを期待する」という信号を出した。イギリス人のプライドを刺激する、提督からの鋭い激励の言葉。これを受け取った船員は大歓声をあげ、圧倒的な士気で戦に臨んだとされている。すごい。

マンガだ。ほぼ『キングダム』の世界。

戦の展開もすごい。ネルソン提督が考案した新戦術は「ネルソンタッチ」と呼ばれており、当時の常識を覆すものだった。細長い隊列を組んだ敵艦隊の真ん中に突っ込んでいき、敵を分断するというめちゃくちゃ危なそうな作戦だ。

■敵艦隊に突っ込む役割を自ら引き受けた

この作戦の問題点は、突っ込んでいく先頭の船が集中砲火を受けるというものである。危険な役割。ネルソン提督はこれを自分で引き受けた。

何これ? ず~~~っっとマンガ? ホントに史実? 見たことあるよこれ。こういうマンガ読んだことあるよ。

【ネルソン】「敵の艦隊列に突っ込んで、分断しよう」
【部下】「何を言ってるんですか⁉ そんな作戦、見たことも聞いたこともない‼ 無茶です‼」
【ネルソン】「いや、やる。やるしかない」
【部下】「そもそも、突っ込んでいったら先頭の船は集中砲火を受けてしまいますよ! そんな役回りをやりたがるバカはどこにもいません‼」
【ネルソン】「いるんだよ……。ここに、な(心臓を親指でトン)」

読者が「と、尊い~~‼」ってなるヤツ。「山田@ネルソン提督推し」みたいなTwitterアカウントがいっぱい生まれるヤツだ。アイコンは多分ヘッタクソな手描きのネルソン提督のイラストだと思う。

ちなみに、親友のコリングウッド提督も「おいおい。お前だけにそんな面白い役回りを任せらんねえな」と同じ役割を引き受けてくれる。「コリングウッド提督推し」も生まれると思う。

それだけではない。ネルソン提督は死に方もカッコいい。銃弾飛び交う甲板の上で、彼は堂々と指揮を執った。手投げ弾がそこら中で炸裂し、次々に人が死んでいく血みどろの甲板で、優雅に淡々と歩き、指揮を執り続けた。

結果として、彼は射撃を受けてしまい、船の上で死ぬことになる。死ぬ前に残した言葉は「神に感謝する。私は義務を果たすことができた」である。超カッコいい。まさかの伏線回収。「英国は各員がその義務を果たすことを期待する」という開戦時の言葉と対応する死に方だ。ホントに台本ないの???

トラファルガーの海戦が描かれた絵
写真=iStock.com/retroimages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/retroimages

■船員たちをイラッとさせていた激励の言葉

このように、「開戦時のセリフ」「戦略」「死に方」の全てにおいてマンガっぽいネルソン提督は、まさに英雄になるべくしてなった人物という感じがする。

ところが、現実は必ずしも完璧ではない。

先ほどの説明では微妙にウソをついてしまった。申し訳ない。開戦についてのこの部分だ。

「これを受け取った船員は大歓声をあげ、圧倒的な士気で戦に臨んだとされている」

ここ、どうやらウソらしい。一部の記録ではこういう内容も伝わっているのだが、そんなに皆が喜んでいたワケではないようだ。それどころか、「英国は各員がその義務を果たすことを期待する」という信号を受け取った船員や艦長たちは割とイラッとしていたらしい。

当時の海軍の信号の出し方、皆さんには想像がつくだろうか?

言うまでもなく、無線通信はまだ発明されていない。信号は旗で出されていた。

つまり、信号が出される度に「必死で旗を解読する」というステップが必要になった。ここに時間も労力も取られる。有り体に言えば、めちゃくちゃめんどくさいのである。

めんどくささを実感してもらうために、実際に「英国は各員がその義務を果たすことを期待する」に対応する旗を見てもらおう(図表1)。

トラファルガー海戦の開戦時、ネルソン提督が各艦を激励するために出した信号旗
トラファルガー海戦の開戦時、ネルソン提督が各艦を激励するために出した信号旗(作=JW1805/PD-user/Wikimedia Commons)

■「今この大事なタイミングでポエム?」

どうだろう。これを解読するのは明らかにめんどくさそうだと思わないだろうか。

実際、解読には4分ほどかかったと推測される。LINEをポンと送れば済む現代とは大違いで、当時は読む側の負担がバカでかいのだ。

堀元見『教養悪口本』(光文社)
堀元見『教養悪口本』(光文社)

ここで、当時の艦長たちの気持ちになってみてほしい。

あなたは艦長で、これから戦いに挑む。いよいよ相手の艦隊が目の前に見えてきた。もう間もなく戦闘が始まる緊迫の瞬間。全ての集中力を目の前の相手に注ぎたいだろう。いわば「全集中・艦長の呼吸」に入っている。

そこに突如として、提督からの信号が送られてきた。旗が掲示されたのだ。このタイミングで送られてくるということは、戦略的に重要な情報に違いない。作戦の変更だろうか?

解読係に急いで解読させる。あなたの全集中はすっかり途切れている。信号の内容次第でこれからの動きが変わるかもしれない。

やっと信号が解読された! 内容は「英国は各員がその義務を果たすことを期待する」である。

あなたはこう思うだろう。「はぁあ?????」と。「ポエム??? 今この大事なタイミングでポエム???? オレ忙しいんだけど???」と。「今まさにその義務を果たすのをお前が邪魔してるんだけど???」と。

■部下の時間をムダにさせたダルい上司だった

実際、一部の水兵や士官たちから「言われなくてもやってるだろ」「今それ言う必要あった?」などの不満が出たし、多くの水兵はブツブツ文句を言ってたらしい。

ネルソン提督は英雄だが、開戦直前の忙しい時に余計なこと言って部下の時間をムダにさせちゃったダルい上司でもある。完璧な英雄など存在しないのかもしれない。

ということで、話が長い上司には「ネルソン提督のようですね」と言ってあげると良いだろう。

特に、大事なプレゼンの直前に精神論を語ってきて準備の時間を奪う上司などに使うとピッタリだ。

【あなた】「…… ……(プレゼンに向けて資料の確認をしている)」
【課長】「山本くん、ちょっといいか?」
【あなた】「はい」
【課長】「今日のプレゼンは大事だぞ! お前はうちの部署のエースなんだ! 全力を尽くせよ! オレは昔からお前に心から期待していて……」
【あなた】「(いや、そんなことより資料の確認したいんですが……)」
【課長】「……だから、全力で挑んでくれよ!」
【あなた】「承知しました! 課長、ネルソン提督みたいですね!」

参考文献/ロイ・アドキンズ『トラファルガル海戦物語(上・下)』(山本史郎訳・原書房)

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堀元 見(ほりもと・けん)
インテリ悪口専業作家
(たぶん)世界で唯一のインテリ悪口専業作家。慶應義塾大学卒業後、就職せず「インターネットでふざける」を職業にする。初年度の年収はマイナス70万円。2019年に開始した「インテリ悪口で人をバカにする有料マガジン」がウケてそれだけで生活できるようになったため、インテリ悪口作家を名乗り始めた。飲み会で職業を聞かれると「悪口を書いてます」と答えて相手を困惑させている。他の代表作に、YouTubeチャンネル「ゆる言語学ラジオ」などがある。

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(インテリ悪口専業作家 堀元 見)

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