掛布雅之「いまの阪神が優勝できない最大の要因は、四番打者を育てていないからだ」
プレジデントオンライン / 2021年12月22日 10時15分
※本稿は、掛布雅之『阪神・四番の条件』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。
■エラーが多いままでは優勝は難しい
2021年シーズン、阪神はヤクルトに13勝8敗4引き分け、巨人に13勝9敗3引き分け。ホームゲームでは36勝31敗4引き分けと、貯金は5つしかできなかった。
また、球団エラー数は86で、4年連続でリーグ最多エラーを数えている。リーグで唯一、甲子園の土のグラウンドで戦うとはいえ、エラーで無駄な走者を出して無駄な失点を献上する。あれだけ強力なリリーフ陣を抱えながら引き分けに持ち込めず、その前に負けてしまう。引き分けがリーグ最少というのは、エラーに原因があるのではないかと思っている。
優勝の可能性を残した10月26日の最終143試合目。エラーで先取点を許して敗れたのは、阪神の2021年シーズンを象徴していた。
逆に、球団エラー数のリーグ最少は巨人の45。阪神の約半分だ。「野球は守り」とよく言われるが、エラーは投手の球数を増やすことに始まり、悪循環を招く。エラーが多いまま他チームの頭ひとつ上にいくというのは、やはり非常に困難だ。
直近の5年間、阪神でゴールデングラブ賞を獲得したのは、2017年の鳥谷敬と18~20年の梅野隆太郎しかいない。
■1985年の阪神は「守り勝ったチーム」だった
思えば1985年の優勝は、真弓明信・バース・掛布・岡田彰布と30発カルテットを擁して「打ち勝った野球」の印象は強いが、木戸克彦捕手、岡田二塁手、平田勝男遊撃手、僕が三塁でゴールデングラブ賞を受賞していた。バースの一塁もうまかった。
僕は優勝の共同会見でこう言った。
「マスコミのみなさんは『200発打線』のひとことで片付けがちですが、このチームは守り勝ったチームなんです」
1-0だろうが、10-9だろうが、1点差を守る力がなければ優勝はできない。
日本シリーズは阪神・吉田義男監督、西武・広岡達朗監督の「遊撃手対決」だったが、あの守備に辛口の広岡さんをして「日本シリーズの大きな誤算は、阪神は打つチームであり守れないのだと私が思い違いをしていたことだ」と言わしめた。
2021年のオリックス優勝により、阪神は12球団でDeNA(1998年)に次いで優勝から遠ざかるチームとなってしまった。2022年以降、阪神が優勝を狙うには、とにもかくにも守備力改善が最大の課題である。
■走塁に関しては、今年は合格点だった
一方、タイガースの大きな躍進の要因は、「走る力」が他5球団よりもまさっていたことだ。チーム盗塁はダントツの114で、3年連続でリーグ最多をマークした。
一番・近本の24盗塁、二番・中野の30盗塁はもちろん、四番の大山も2盗塁ながら、一塁までの全力疾走は見事だった。
前の塁を狙う姿勢は、チームに積極性という波及効果をもたらす。優勝すれば、走力はいちばんの勝因となるはずだった。この姿勢は2022年以降も持ち続けてほしい。
■阪神V逸の原因は大山にある
そして、もうひとつ。阪神V逸の原因は、四番打者の座を任された大山が、シーズンを通してきちんと四番を守り切れなかったことにある。
四番打者がある程度固定されて1年間戦えれば、前後のバッターが非常に楽になる。勝てない責任は、やはり四番にあると思う。
大山は僕が阪神二軍監督を務めていた2016年、ドラフト1位で入団してきた選手だ。
中央球界では無名だった大山の名前が読み上げられた瞬間、ドラフト会場内で響き渡った阪神ファンの悲鳴とも嘆息ともつかない反応。大山は述懐した。
「悔しかった。一生忘れられない。声をあげた全員を後悔させてやる!」
その気概を持ち続ければ、大山はきっと這い上がれる。だからあえて厳しいことを言わせてもらう。
2021年は勝つにしても負けるにしても大山が背負わなければならないシーズンだった。大山の印象深い一打は9月4日に巨人のビエイラから放ったサヨナラ逆転2ランだけだ。
10月18日、2-1で辛勝した広島戦、四番で4打数4三振。翌19日、大勝したヤクルト戦ではスターティングメンバーから外された。勝つにしても負けるにしても、これでは大山がチームを背負っていない。
■四番打者が背負うべき本当の役割
同日、大山が途中出場でヒットを打ったとき、大山はダグアウトを一瞥(いちべつ)もしなかった。「なぜスタメンで出られなかったんだ」――自分の野球に対する怒り、悔しさを初めて感じたのではないか。
もちろん責任は不甲斐ない自分にある。自分の出した結果に対するチームへの影響を、大山はもっと感じていい。もっともっと、そういう表情を出したほうがいいと思う。大山のそんな表情を初めて垣間見られた気がして、僕は少しうれしかった。
すなわち、チームの勝ち負けの責任を背負うのが「四番打者の条件」なのだ。阪神タイガースというチームは、とくにその色が濃いと僕は思う。
極端なことを言えば、四番が打てなくてもチームは勝てる。別に僕が打たなくても、真弓さんなり、バースなり、岡田が打てばチームは勝った。しかし、四番の僕が打てば、勝つ確率が当然もっと高くなった。
それよりも、敗戦のチームの「負の部分」を背負うことが、本当に大切だったのだ。
仮に、僕が4打数3安打しても、チャンスで打てなくて負ければ、その打てなかった1打席をマスコミに痛烈に批判される。「掛布、チャンスで凡退」。
いや、それでいい。四番が責任を背負うことによって、ほかの選手たちが非常に楽にプレーできるからだ。
「四番」は正直難しい。だからこそ「四番」なのだ。
■巨人・岡本、ヤクルト・村上にあって大山にないモノ
思えば、1986年からの9年間で実に8度のリーグ優勝を果たした森・西武。四番・清原和博を援護した五番・デストラーデが1992年、三番・秋山幸二が93年を最後に西武のユニフォームを脱いだ。清原はどうしたか。1994年、苦しみながらもリーグ最多の100四球を選んで、リーグ優勝に貢献したのだ。
巨人は高橋由伸監督時代、岡本を使い続けた。優勝を逃したが、由伸監督は生みの苦しみに耐え、「四番・岡本和真」を誕生させた。全143試合出場、打率3割30本100打点は、まさに待望久しい大砲だった。
原監督になり、四番・岡本で2連覇を遂げる。2020年は本塁打・打点の二冠王だ。その2年間は坂本と丸が岡本を援護した。2021年は坂本と丸の調子が芳しくなく、岡本ひとりのバットでは勝てなかった。
これまで坂本が背負っていた「負の部分」を岡本が背負ったことにより、「巨人の四番・岡本」をさらに成長させる1年になったのではないか。
「2020年は最下位チームの四番だった。2021年は優勝チームの四番になりたい」
その言葉どおり、勝負強い村上が軸になって、12球団で唯一、チーム総得点が600点を突破したヤクルト。阪神とのマッチレースを制し、優勝の果実をもぎ取ったことにより、村上が四番打者としてひと皮むけるのは間違いない。
岡本も村上も、負けても勝ってもチームの責任を背負ったのだ。
巨人の松井秀喜、坂本、岡本にしても、そして僕にしても、奇しくも高卒プロ入り6年目で打撃タイトルを獲得している。筋力、木製バットへの対応からしても、それぐらいの時間を要する。
その点で言えば、2年目の阪神・井上広大は少し長い目で見てあげなくてはならない。
■名門復活に「不動の四番の育成」は不可欠
もう一度、翻って大山だ。プロ4年目の2020年、打率.288、28本塁打85打点。2021年は打率.260、21本塁打71打点。大山は2020年にあれだけ打って、チームの負の部分を背負わなければいけないのは十分わかっているはずだ。さらに2021年からはキャプテンも務めている。
大山がヤクルトの村上や巨人の岡本のように、勝っても負けてもフルシーズン四番に座って、四番打者としてやらなければいけない野球をやり、ある程度ベンチが納得する数字を残してくれていたら、タイガースは変わっていたと思う。
星野仙一監督と岡田彰布監督は就任2年目に優勝した。以後、真弓明信監督、和田豊監督、金本知憲監督、矢野燿大監督は就任2年目にすべて2位。以降あと一歩届かないどころか、逆にBクラスに沈んでいる。タイガースはなぜ優勝できないのか。
近い将来、阪神が常勝軍団になっていくために、「真の四番打者の育成」は必要不可欠だ。
そして可能性があるのは、大山悠輔と佐藤輝明しかいない。2人がどういう形でこれからの1年、2年の野球をやるのか――阪神タイガースの未来を大きく左右するのは間違いない。
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野球解説者
1955年、千葉県出身。習志野高校卒業。73年、ドラフト6位で阪神タイガース入団。本塁打王3回、打点王1回、ベストナイン7回、ダイヤモンドグラブ賞6回、オールスターゲーム10年連続出場などの成績を残し、「ミスター・タイガース」(4代目)と呼ばれる。85年には不動の四番打者として球団初の日本一に貢献。88年に現役を引退。阪神タイガースGM付育成&打撃コーディネーター、二軍監督、オーナー付シニア・エグゼクティブ・アドバイザーを歴任。
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(野球解説者 掛布 雅之)
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