ついに新生銀行を手に入れたが…SBI「第4のメガバンク構想」に立ちはだかる深刻な問題
プレジデントオンライン / 2021年12月20日 15時15分
■“第4のメガバンク”実現へついに動き出す
12月11日、SBIホールディングスとSBI地銀ホールディングス(以下SBI)は、新生銀行に対して実施した株式公開買い付け(TOB)が成立したと発表した。TOBで議決権比率は47.77%に達し、SBIは新生銀行を連結子会社化する。
今回のTOBは、基本的にSBIが“第4のメガバンク”を目指す重要な取り組みとみられる。SBIは地方銀行8行と戦略的資本・業務提携を結び、金融商品ラインナップの拡充などを進めている。SBIは、そこに新生銀行の消費者金融や有価証券関連のビジネスを結び付けることで収益を拡大し、大手メガバンク3行に伍する金融ビジネスの確立を狙っているのだろう。各地方銀行と新生銀行の協業が加速すれば、SBIの銀行ビジネスは相応の成果を上げることができそうだ。
ただ、そこにリスクがあることは忘れてはならない。特に、わが国の超低金利環境は長期化する可能性が高い。それによって提携する地方銀行の経営体力が低下し、期待したほど収益力が上向かない展開も想定される。早期の成果実現に向けてSBIがどのように銀行ビジネスの効率性向上に取り組むかが注目される。SBIの取り組み次第では、銀行業界での再編が加速する展開もあるかもしれない。
■政府の「買収防衛策反対」が決定打に
SBIによるTOB成立に決定的な影響を与えたのは、政府(金融庁や新生銀行の株式を保有する預金保険機構など)が、新生銀行が成立を目指した買収防衛策に賛成しなかったことだ。
これまでの経緯を簡単に振り返ると、9月上旬にSBIは新生銀行に対するTOBを発表した。10月に入ると、新生銀行はTOBに条件付きで反対すると正式に発表し、11月下旬に臨時の株主総会を開催して買収防衛策の発動をめざした。その時点で、SBIによるTOBは敵対的なものに発展した。また、新生銀行は買収者から自行を助けてくれる“白馬の騎士(ホワイトナイト、友好的な買収者を指す)”の獲得も目指したが、ホワイトナイトは現れなかった。
11月に入ると状況は大きく変わった。新生銀行の株式の約2割を保有する政府が買収防衛策の発動に賛成しない方針を固めたのだ。その結果、新生銀行は買収防衛策を撤回し、SBIによるTOBが成立するに至った。
■約3500億円もの公的資金を回収したい
政府が賛成しなかった理由の一つは、新生銀行の買収防衛策がすべての株主を公平に扱っているとはいいがたいとの判断があったからだろう。12月13日に預金保険機構が新生銀行の買収防衛策に「正当かというと疑義が残ると言わざるを得ない」との見解を示したのは、そうした認識の表れといえる。
また、政府は、旧日本長期信用銀行時代に注入した公的資金(約3500億円)を回収したい。政府は新生銀行に民間の一上場企業として独り立ちしてもらいたい。しかし、これまでの経営の実績や経営計画を振り返ると、公的資金返済のめどはたっていない。その一方で、SBIは積極的な買収・提携戦略やデジタル技術の活用などによって急速に証券や銀行ビジネスの成長を実現してきた。経済合理性の観点から考えると、SBIの提案は政府などの株主に新生銀行のさらなる成長期待を与えただろう。
以上の内容から政府は新生銀行の買収防衛策に反対したと考えられる。同様の判断から一部の投資ファンドも新生銀行が一時目指した買収防衛策に疑義を持ったようだ。
■超低金利環境で地銀はどこも厳しいが…
新生銀行買収によって、SBIが掲げる第4のメガバンク構想は相応の成果を上げる可能性が高まった。最も重要なことは、買収によって提携する地方銀行、および新生銀行のビジネスチャンス拡大が見込まれることだ。
わが国では、ゼロ金利政策などを背景に超低金利環境が続き、地方銀行の収益環境は厳しさを増している。特に、銀行の重要な収益源である短期と長期の金利差は縮小傾向で推移してきた。2000年1月初旬の10年国債の流通利回り(長期金利)と無担保コール翌日物金利の差は1.7ポイント程度あった(長期金利が1.7%、翌実物の金利がほぼゼロ)。
その後、日本銀行は金融緩和策を強化し2001年から量的緩和政策が実施された。リーマンショック後も日本銀行は緩和的な金融政策を続けた。2013年4月以降は異次元の金融緩和の実施によって長短の金利差は一段と縮小した。足許の長短金利差は0.10%程度だ。銀行が預金を集め、中長期の資金を貸し出すことによって利ザヤを稼ぐことは難しくなっている。
■カードローン事業で収益源を増やしたい
その一方で、企業は内部に資金をため込み、借り入れのニーズが少ない。財務省が発表する年次別法人企業統計調査によると2020年度末の金融と保険業を除くわが国企業の利益剰余金(新聞報道などで内部留保と呼ばれる)は約484兆円の過去最高に達した。コロナ禍の発生によって一時的に資金需要が増えた場面はあったが、わが国企業全体として資金需要は弱い。
銀行にとって、資金を貸したくても、借りてくれる企業は少ない。結果的に、多くの地方銀行が投資信託の販売などによって収益を得なければならなくなっている。経営体力が相対的に小さい地方銀行が自力で成長期待が相対的に高い海外事業を強化し、海外企業への信用供与などに取り組むことも難しい。
SBIと提携する地方銀行にとって、相対的に厚い利ザヤが期待されるカードローン事業で新生銀行と協業することは、収益源の多角化につながる。新生銀行の証券化商品ビジネスも、地方銀行の収益獲得に資す可能性がある。新生銀行にとっても、地方銀行との協業の強化によって、地域ブランド創生などビジネスチャンスは増えるだろう。
■第4のメガバンク構想に立ちはだかる問題
ただし、SBIの第4のメガバンク構想が想定通りの成果につながらないリスクはある。その一つが、超低金利環境が長引き、想定外に地方銀行の経営体力が低下する展開だ。
SBIが地方銀行との提携を増やした根底には、急速に地方銀行の経営体力が低下する可能性は低いとの見方があるはずだ。その見方に基づき、まずはデジタル技術の導入などによって地方銀行の事業運営の効率性を高める。そのうえでSBIは新生銀行のノウハウを持ち込むことによって銀行ビジネスの成長を加速させたい。
その事業戦略にとって、超低金利環境の長期化の影響は軽視できない。わが国では人口の減少などによって経済の縮小均衡化が加速している。本来であれば、政府はエネルギー政策の転換を急いで新しい産業の創生に取り組まなければならないが、今のところ岸田政権にはそうした考えが見られない。経済全体で新しい需要の創出を目指した取り組みが加速する展開は期待しづらい。
■企業のアニマルスピリットにどう影響するか
そのため、成長期待が高まって資金需要が盛り上がる展開を想定することは難しい。日本銀行が異次元の金融緩和を続ける可能性は高い。かなりの期間にわたって国内の長短の金利差は足許のような低水準で推移する、あるいはさらに縮小することが考えられる。それに加えて、地域によっては急速に過疎化が進行し、都市部以上のスピードで資金需要が低下することも考えられる。
その結果としてデジタル技術導入によるコスト削減や新生銀行のカードローンビジネスによる収益強化などのシナジー効果が発揮されるよりも前に、地方銀行の経営体力が弱まる展開は排除できない。その場合、SBIの銀行ビジネスが持続的に収益を獲得することは難しくなる恐れがある。
そうしたリスクに対応するために、SBIは新生銀行と地方銀行の協業強化を急ぐだろう。それに加えて、SBIは傘下の銀行勢と異業種企業の提携や、より多くの地方銀行との提携を進めることによって、事業運営の効率性を一段と高めようとするだろう。それが、わが国の個人や企業のアニマルスピリットにどういった影響を与えるかが見ものだ。
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法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)
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