「司会っぽくないのに、ちゃんとまとまる」今田耕司のMCが各局で引っ張りだこになるワケ
プレジデントオンライン / 2021年12月19日 11時15分
恋愛バラエティー番組「バチェラー・ジャパン」シーズン2発表会が2018年5月23日、東京都内で行われた。(左から)藤森慎吾さん、今田耕司さん、指原莉乃さん、CM出演のゆりやんレトリィバァさんが登壇し番組をPRした。 - 写真=時事通信フォト
※本稿は、古舘伊知郎『MC論 昭和レジェンドから令和新世代まで「仕切り屋」の本懐』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。
■司会者なのに「もわ~ん」とはじめてくれる
『M-1グランプリ』で司会している時の今田耕司君は、上戸彩さんが進行するから、司会に徹しています。
![古舘伊知郎『MC論 昭和レジェンドから令和新世代まで「仕切り屋」の本懐』(ワニブックス)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/b/200/img_db05613044d1efbf00a8e032fb791655153966.jpg)
あの番組って、審査員がいっぱいいるし、今田君がわざと司会然としてタキシードを着ているのも含め、レトロ感がありますよね。
審査員を上手にいじりながら、絶妙な仕切りをしています。
今田君がMCの『ファミリーヒストリー』にゲストで出たことがあるんですが、その時も、やっぱり今田君は上手いと感じました。
昔の大橋巨泉さんのように真ん中にどんと座って、「古舘さんのルーツを今日は探らせてもらいますよ」というような、司会者然とした司会の弁は今田君には一切ありません。
なんというか、もわ~んとはじめてくれるんです。
■「親族に誰かそういう人いました?」
普通、番組の収録は「10秒前、9、8、7……3、2、はい、キュー」とカウントダウンとともに緊張感が高まりゆく中ではじまるので、それが司会者にも伝播して、
「こんばんは、今夜もはじまりました、○○です」
とちょっとかしこまった感じではじまりがちです。
でも、『ファミリーヒストリー』という番組は己のルーツと出会い向き合う番組だから、テキパキはじめられるより、もわ〜んと穏やかに、さかのぼっていくような感じだと、ゲストとしてはやりやすいんですよ。
他にも、上手いなと思ったのは、司会っぽくないフリをフェイクで入れてくるところ。
プロレスの実況中継をやっていた時、僕のしゃべりは「古舘節」と言われていました。それ関連の話は出るだろうと思っていたけど、それを「あの古舘節って、どこから来たんですか?」と直球で聞かれたら、少なからず僕自身の歴史を話さなきゃいけなくなるじゃないですか。
でもそれだと番組の主旨、ファミリーのヒストリーからずれてしまいますよね。だけどそこは、今田君は上手い。
「古舘さんって、何でも描写できるし抜群に上手いけど」
え、まさか実況の話をストレートにしてくる? と一瞬緊張させておいて、
「あれ、どっから来ているかといったら、やっぱり親戚とかおじいちゃん、おばあちゃんとかに、そういう上手い人がいたってことですか?」
みたいな感じで聞いてくれたんです。
一瞬緊張させて、「親族に誰かそういう人いました?」って包んでくる。ここで司会の逆転が起きるんですよ。僕があたかも司会者のように、
「え? それを今日はこの番組でやってくれるんですよね? 『ファミリーヒストリー』なんだから」と返す。すると、今田さんが、
「もちろんやりますよ」
こんなやりとり、アナウンサー系の司会者なら、絶対に起きません。
■滅私状態から急に胸襟開いて自分を出す
もう一つ、今田君の司会で感心したのは、自分を出すべきところではちゃんと出すところです。
番組が中ほどまでいい感じで進んだ時、僕ら世代の司会者であれば、「いやー、おじいちゃんもお父様もこれだけ苦労されて、ずっと外地でやって、何といっても戦争があって、こういういきさつがあったんですね」みたいな、もう1回返すっていう定番があるんですが、今田君はそれを端折る。
「マニラの港に向かう途中、敵方の魚雷が発射されて、これ空砲で船に当たったから、お父さん死なないで済んだんですね。うちの親父もそうなんですわ」
司会を放棄して自分の話をするんです。すると2人で「同じじゃないですか。空砲同士なんだ。だから我々は生まれてきたんだ」って親近感が生まれる。
この出しどころが上手いんですよ。それまでは滅私状態だったのに、急にウワッて胸襟開いて自分を出すから、こっちも出せる。
この人なりの起承転結があるんだなと思って感心しました。
■古舘が18年間気になっていた、今田の学生時代の友人
とにかく、「誘い出し」と「引き取り」が上手いんですよ。
「誘い出し」というのは、僕にツッコませて、「それをやりますから乞うご期待」っていうアレ。「引き取り」は、僕があんまり調子に乗ってしゃべっていたら、「そろそろ、行きましょうか」っていうやつですね。
この切り出し方が上手い。
![オーディエンスの前に置かれたマイク](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/d/670/img_ad53955fef0a81d4ef7896dd2a62290c421333.jpg)
芸人だからというのもあるのでしょうけど、芸人なら誰でも司会ができるというわけではない。やっぱり今田君はすごい司会者です。
僕と今田君はプライベートでのお付き合いはないので、『ファミリーヒストリー』で会ったのは18年以上ぶり。彼が出演してくれた『おしゃれカンケイ』以来でした。
だから収録がはじまる前に楽屋に挨拶に行ったんです。実は、久しぶりだったからというよりも、ずっと気になっていることがあったので。
『おしゃれカンケイ』に出演してくれた時、学生時代から仲良しのヤスダ君っていう友だちの話をしてくれたんですけどね。
彼が変わり者で、独り者の今田君の家にふらっとやって来て、3カ月ぐらい滞在したあと、またふっといなくなって、3年ぐらい音信不通だと思っていたら、ケータイもない時代ですから、代々木上原の公衆電話から「今田、行ってもいいか」と電話をかけてきて、またふらっと戻ってくる。それを繰り返している友だちだという話でした。
それで、番組が仕掛けたサプライズとして、ヤスダ君に登場してもらったんです。奇妙でカラフルな格好して入ってきて、タレント以上にタレントでした。面白くて、風変わりで。
■“今田司会術”をフルで出してもらうための前戯
『ファミリーヒストリー』収録前に、そのヤスダ君の話をしたかったんです。いきなり楽屋を訪ねた僕を感じよく迎えてくれた今田君に聞きました。「ヤスダ君はどうしていますか」って。
「何でそんなことを覚えているんですか?」って、かなりビックリしたあと、
「あれ以降、2回程会ったきり、もう10年くらい会えてませんね」
「え、でも5年に1回ぐらいのペースで来るって」
「いやいや、最近は全然。探してはいるんですけどね。それにしても、よく覚えてまんなあ」
楽屋でひとしきり盛り上がりました。僕は、「ヤスダ君のことを聞きたい」という具体的動機があって楽屋を訪ねたんですが、あとから思うと、番組冒頭から“今田司会術”をフルで出してもらいたいがための前戯だったかもしれませんね。
ポンと楽屋を訪ね、ヤスダ君のことを覚えているんだってアピールして。ヤスダ君をダシに和んでほぐれておいて、遺憾なく、ド頭から今田司会術を見せてほしい。そんないやらしさがあったような気がします。
前戯の効果があったかどうかはわかりませんが、あの時は思う存分、今田司会術を堪能させていただきました。
■ざわついたまま黙らせる『オールスター感謝祭』の仕切り
『オールスター感謝祭』の司会は、普通の番組よりはるかに大人数のゲストが出ているのを束ねなければなりません。今田君は、100人以上いても、誰かに振って上手く回収できる。先ほどの「引き取り」が上手いからまとめられるんです。
そしてもう一つ、「私は何百人を束ねている司会の演技をしています」っていうのが上手い。だって今は、昔のように司会者1人が責任を取るわけではなく、責任分散の時代です。何百人を束ねても、司会者だけに責任がのしかかるわけではありません。
昔の司会者だったら、場内がざわついたら、「ちょっと静まってください。まったく統制が取れていません。大変なことになりますから。いいですか。このあと相撲大会が待っているんですから、ちょっと静まって。いいですね。ダメと言ったらダメです。はい、黙った。はい、じゃあここからいきますよ」
こんな感じでまさにあからさまに統制して束ねようとしますが、今田君はそんなことはやりません。
「ちょっと黙っていただけると有り難いんです。皆さんだって責任ありますよ? ね?」って、笑いながら言って、ざわざわしながらも黙らせるのが上手いんです。
「司会を演じている私を見て」というお芝居をやるから、みんながそれを見て笑う。劇中劇で笑わせることで統制を取り、最後は黙らせてしまう。
■結果的に統制が取れてくる心地よさ
『M-1グランプリ』もそうです。あれも、「司会を演じている私」がいる。審査員が、
「今田ええなあ、本当に。キレイなお嬢さん隣にいて」
って言う。普通だったら、
「関係ない話じゃないですか。じゃあ次のコンビいきますよ」みたいに切り替える。でも今田君は、
「いや、確かに改めて見ると、たいしたもんですわ。本当ドレスがお似合いで。私もそれに合わせてタキシード着てきて大変です。これあつらえてんですよ。私、それなりに体鍛えてますから」
「もうええわ」
自分から統制を取ろうとはしません。「ちょっとそこ、好きにもめといてくれますか」ぐらいのこと、平気で言いますからね。
でも結果的に統制が取れてくる。そこが心地よいんです。
■司会めいたものは懐メロ。その残り香を持っている
これは司会のマネごとやっていますっていう“アマチュア感”だと思うんですよ。司会業に徹する時代じゃないけど、司会めいたものは懐メロとして残したい。
今田君にせよ、爆笑問題の田中裕二君にせよ、そういう懐メロはちゃんと持っているんですよ。
今田君のこの感じ、どこで身につけたのかと考えたんですが、やはりダウンタウンの存在が大きいんじゃないでしょうか。
今田君は、若手の頃、ダウンタウンっていう社長がいて、そのもとで幹事のような役割をしていましたよね。
プロ中のプロであるダウンタウンのもとで幹事をするには、逆にアマチュア感があった方が何かとやりやすかったんだと思うんですよ。
ダウンタウンのもとで幹事としての経験を積み、気がついたら100人ものゲストを束ねることができる大幹事長になっていたんですよ、今田君は。
でも、幹事長というより、今田君が官房長官になって定例会見やってくれたら、嬉しくて毎日見ちゃうな(笑)。
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フリーアナウンサー
立教大学を卒業後、1977年、テレビ朝日にアナウンサーとして入社。3年連続で「NHK紅白歌合戦」の司会を務めるなど、NHK+民放全局でレギュラー番組の看板を担った。テレビ朝日「報道ステーション」で12年間キャスターを務め、現在、再び自由なしゃべり手となる。2019年4月、立教大学経済学部客員教授に就任。
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(フリーアナウンサー 古舘 伊知郎)
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