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「制限時間15分なら本当に重要なのは最後の3分間」交渉の達人が必ず意識すること

プレジデントオンライン / 2021年12月22日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/VioletaStoimenova

交渉上手な人は、どうやって自分の要求を通しているのか。交渉術アドバイザーのロジャー・ドーソンさんは「もし交渉期限が迫っていても、相手に伝えてはいけない。そうしたほうが相手から譲歩を多く引き出せる」という――。

※本稿は、ロジャー・ドーソン、島藤真澄訳『本物の交渉術 あなたのビジネスを動かす「パワー・ネゴシエーション」』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■譲歩を引き出しやすいのは「残り2割の時間」

ヴィルフレド・パレートは、交渉における時間の要素を研究したことはないにしろ、パレートの法則は、時間が交渉に与える大きな圧力を明らかにしています。パレートは19世紀に活躍した経済学者です。パリに生まれ、人生の大半をイタリアで過ごした彼は、民衆に分配される富のバランスを研究しました。パレートは、著書『Cours d'Economie Politique(経済学講義)』(邦訳未刊)で、80%の富が20%の人々に集中していることを指摘しています。

80対20の法則の興味深い点は、一見すると関係のない分野でも繰り返し登場することです。営業マネージャーは、「売り上げの8割を2割の営業担当者が作っている」と言います。やがて彼らは、8割を解雇して2割だけを残すべきだと考えます。すると、80対20の法則が残したメンバーにも適用され、結局、同じ問題が発生します。学校の先生は、2割の子供が8割の問題を起こすと言います。セミナーでは、2割の受講生が8割の質問をします。

交渉では、8割の譲歩は最後の2割の時間に起こるという法則があります。交渉の初期に要求が提示されると、どちらも譲歩したがらず、取引全体が破綻する可能性があります。一方、交渉可能な時間の最後の2割に問題が表面化すればするほど、双方が譲歩することになります。

■相手に交渉期限を明かしてはいけない理由

人と交渉するときには、決して期限があることを明かしてはいけません。例えば、ホテル開発会社との交渉を解決するためにダラスに飛んできて、帰りの飛行機が午後6時だったとします。もちろん、あなたはその便に乗りたいと思っていますが、他の人たちには知らせないでください。もし、午後6時のフライトを知っている人がいたら、午後9時の予備のフライトもあること、あるいは、お互いに満足のいく協定を結ぶために必要な時間だけ滞在できることを必ず伝えてください。

時間に追われていることがわかれば、相手は、交渉の大部分をぎりぎりまで遅らせるでしょう。そうなると、時間的プレッシャーの中で、あなたが何かを渡してしまう可能性が高くなります。

私のパワーネゴシエーション・セミナーでは、受講生が交渉の模擬練習をするように設定しています。15分という限られた時間の中で、いかにして合意に達するかを意識させています。ゆっくりと部屋の中を歩き回って交渉の様子を聞いていると、最初の12分間はなかなか進展しないことがわかります。両者ともに問題点を隠しており、ギブアンドテイクがほとんどありません。

12分になって8割の時間を使い切ったところで、私がマイクを持って「あと3分しかありません」と伝えます。その後も定期的にアナウンスを行い、時間のプレッシャーを与え続け、最後に5秒から0秒へのカウントダウンを行います。そうすると、彼らは最後の2割の時間で、8割の譲歩をしていることがよくわかります。

■立場が弱いときこそ先手を打つ

双方が同じような残り時間しかないときは、どうすればよいでしょうか。興味深い質問は、そんなときに提起されます。

オフィスを賃貸している場合などがそうです。例えば、5年間の賃貸契約があと6カ月で終了し、家主と更新の交渉をしなければならないとします。あなたは、「家主に時間的プレッシャーをかけて、最高の取引をしよう」と考えるかもしれません。「ギリギリまで待って交渉しよう。そうなると、彼にはかなりの時間的プレッシャーがかかる。私が退去すれば、新しいテナントが見つかるまでの数カ月間は空室になることがわかっているだろうから」と。

それは素晴らしい戦略に思えるかもしれません。家主があなたに時間的プレッシャーを与えるために、ギリギリまで交渉を拒否することと、何の違いもないことに気づくまでは。

そこには、双方が同じ時間的期限に近づいているという状況があります。どちらの側がタイム・プレッシャーをかけるべきで、どちらの側がそれを避けるべきでしょうか。答えは、力の強い側はタイム・プレッシャーをかけることができますが、力の弱い側はタイム・プレッシャーを避け、期限よりも十分前に交渉するべきです。

■「私と向こう、どちらが優位?」見分ける方法は

では、誰が一番パワーを持っていますか。選択肢が多い側が最も力を持っています。賃貸の更新交渉が成立しない場合、誰が最も多い選択肢を持っているのでしょうか。

これを判断するには、1枚の紙を用意して、真ん中に線を引いてみましょう。左側には、賃貸の更新ができない場合のあなたの選択肢を書きます。他にどのようなオフィスが空いていますか。転居コストは高いのか安いのか。電話機を移設したり、新しい印刷物を作ったりするのにどれくらいの費用がかかりますか。移転してもお客様に見つけてもらえますか。

次に、ページの右側に、家主の選択肢を列挙してください。このビルはどのくらい特殊ですか。新しいテナントを見つけるのはどれだけ大変でしょう。もっと高い金額を払ってくれるでしょうか。それとももっと安い金額になるでしょうか。新しいテナントを満足させるためには、修繕や改装にどれだけの費用をかけなければならないですか。

■常に自分が弱い側にいると認識しておく

交渉のテーブルのどちら側にいても、自分の方が弱いと思っていますが、事実を補わなければなりません。結局のところ、あなたは自分にかかるプレッシャーについては知っていますが、家主にかかるプレッシャーについては知りません。より強力なネゴシエーターになるためには、常に自分の方が弱いと思っていることを理解し、それを補う方法を学ぶことです。

このようにお互いの選択肢を挙げていくと、最終的には家主の方が選択肢が多いという結論になるのではないでしょうか。選択肢を補っても、明らかに家主の方が選択肢が多い場合は、家主が力を持っています。時間に追われることなく、余裕を持って契約更新の交渉を行うべきです。しかし、明らかに家主よりも自分の方が選択肢が多い場合は、最後の最後で交渉することで家主に時間的プレッシャーを与えることができます。

会議テーブル
写真=iStock.com/imaginima
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/imaginima

■交渉が長引くと人は柔軟になる

相手を長く交渉の場につけておけば、相手も自分の意見に歩み寄ってくれる可能性が高くなります。このままでは相手が動かないと思い始めたとき、マンハッタンに面するハドソン川に浮かぶタグボートを思い出してみてください。小さなタグボートでも、少しずつならあの巨大な外洋船を引いて動かすことができます。しかし、タグボートの船長がバックして、エンジンをかけて強引に外洋船を押そうとしても、全くビクともしません。そんな風に交渉する人もいます。

交渉で行き詰まり、不満が募ると、焦って相手の考えを変えさせようとします。代わりにそのタグボートのことを考えてみてください。少しずつでも、外洋船を動かすことができます。あなたに十分な忍耐力があれば、誰の心でも少しずつ変えることができるのです。

ただし残念ながら、これはどちらにも当てはまります。交渉の時間が長ければ長いほど、譲歩してしまう可能性は双方ともに高くなるのです。あなたは、大きなビジネスの交渉のためにサンフランシスコに飛んだとしましょう。朝8時、あなたは明るく新鮮な気持ちで相手のオフィスに着いて、頑張ろう、目標を達成しようと決意していました。

■「手ぶらで帰るわけにはいかない」と思う時点で負ける

しかし、残念ながら、期待通りにはいきませんでした。午前中は何の進展もなく、昼食をとることになりました。午後になっても、わずかな点でしか合意が得られません。あなたは航空会社に電話して、深夜便のフライトに変更してもらいます。夕食を食べに行って、何かをやり遂げようと思って戻ってきます。気をつけましょう。よほど気をつけないと、午後10時頃には、朝始めたときには意図していなかったような譲歩を始めてしまいがちです。

なぜそのようになるのでしょうか。それは、あなたの潜在意識が今、あなたに向かって「せっかく時間と労力をかけたのに、手ぶらで帰るわけにはいかない」と叫んでいるからです。帰りの便の準備をした時点で、あなたは交渉で負けるように自分を仕向けたことになります。

パワーネゴシエーターは、ある時点までに投資した時間やお金は無視すべきだと知っています。時間とお金は、交渉が成立してもしなくてもなくなってしまうのです。常に、その時点での交渉条件を見て、「今までこの取引に注ぎ込んだ時間とお金を無視しろ。今この時点の、この取引を進めるべきなのか」と考えるのです。

意味がないと思ったら、躊躇せずに手を引くことです。多くの投資をしたからといって、自分に合わない取引を進めるよりも、投資を帳消しにした方がはるかに安上がりだからです。

■交渉で優位に立てるポイント8つ

ロジャー・ドーソン、島藤真澄訳『本物の交渉術 あなたのビジネスを動かす「パワー・ネゴシエーション」』(KADOKAWA)
ロジャー・ドーソン、島藤真澄訳『本物の交渉術 あなたのビジネスを動かす「パワー・ネゴシエーション」』(KADOKAWA)

ドナルド・トランプが強力なネゴシエーターである理由の1つはそこにあります。彼は、意味のない取引では手を引くことを恐れません。例えば、マンハッタンのウエストサイドに「テレビジョン・シティ」を建設するために1億ドルを投じました。さらに数百万ドルを投じて、150階建ての世界最大級の高層ビルや、NBCを誘致するための壮大なテレビスタジオなどの計画を立てました。しかし、市から適切な税制上の譲歩を得ることができなかったため、プロジェクト全体を棚上げにしてしまったのです。

それと同じように、交渉でも考えなければなりません。今までの投資を忘れて、今のままでいいのかどうかを検討するのです。

《覚えておくべきキーポイント》
①譲歩の8割は、利用可能な時間の最後の2割で起こる。
②前もってすべての詳細を決めておく。「あとで考えればいいや」と放置してはいけない。
③人は、タイム・プレッシャーの中で柔軟になる。
④自分に期限があることを明かさない。
⑤相手側にも期限があることを確認してみる。
⑥双方が同じ期限に近づいている状況では、力が強い側はタイム・プレッシャーをかけることができるが、力が弱い側は避け、期限よりも十分前に交渉する必要がある。
⑦力関係は、合意に至らなかった場合、それぞれの側が持つ選択肢に直結している。
⑧受容時間とは、相手が期待通りのものが得られないことを受け入れる時間を与えることである。

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ロジャー・ドーソン 交渉術・企業研修アドバイザー
交渉術に関する米国内トップ講師。カリフォルニア州最大の不動産会社経営を経て、1982年以来プロ講演者としてアメリカ、カナダ、アジア、オーストラリアで経営陣や営業担当者向け研修を行う。全米スピーカー協会の最高賞であるCSPとCPAEの両方を受賞した世界でも数少ない講演家。『本物の交渉術 あなたのビジネスを動かす「パワー・ネゴシエーション」』のオーディオ版の売り上げは3800万ドルに上りビジネス・オーディオ・プログラムで最大のベストセラーを記録している。

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(交渉術・企業研修アドバイザー ロジャー・ドーソン)

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