1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

TikTokでは2200万回再生…児ポ法で逮捕された男が、歌舞伎町で神格化されてしまうワケ

プレジデントオンライン / 2021年12月23日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nikada

東京・歌舞伎町の「新宿TOHOビル」の周辺は、「トー横キッズ」と呼ばれる若者たちのたまり場になっている。そこでは何が起きているのか。歌舞伎町での取材を続けている佐々木チワワさんの著書『「ぴえん」という病 SNS世代の消費と承認』(扶桑社新書)から一部をお届けする――。

■ルーツは自撮りを投稿する若者たち

「トー横キッズの専門家として、彼らの生態を教えてください」

2021年下半期、SNSやメディアで大きく騒がれた「トー横キッズ」。彼らは歌舞伎町の新たなシンボルとなったゴジラが吼える「新宿TOHOビル」(旧コマ劇場)、その東側の路地でたむろする若者たちのことだ。

歌舞伎町のセントラルロード中央に位置するTOHOシネマズ新宿が誕生したのは、2015年4月17日。旧コマ劇場跡地に建設され、ゴジラヘッドと呼ばれるゴジラと同じ高さに設置されたモニュメントから、「ゴジラ前」「TOHO前」などと呼ばれる歌舞伎町のシンボルとなった。

筆者が歌舞伎町に足を踏み入れたのは2015年末。彼らの存在を知り、交流を持ちはじめたのはその3年後からだ。最初に路上にたむろしはじめた初期メンバーと友達になり、時に彼らと飲むこともあった。そして今では彼らの経緯を知るライターとして、メディアで専門家的な扱いを受けている。では、トー横で生きる彼らは、一体どのようにして誕生したのか。

ルーツは、自撮りを投稿する若者たちのSNSにおける「#(ハッシュタグ)」からだ。2010年頃から女子中高生たちがSNSでかわいく撮れた自撮り写真を「#自発ください」というハッシュタグとともに投稿することがブームになった。自発とは“自分から発信する”の略であり、褒め称えるリプライやいいね!などがたくさん欲しいということをライトに表現していた。そこから「#らぶりつ」(いいね!&リツイートをください)になり、現在は「#1mmでもいいとおもったらRT」などをつけた投稿に変化。そうした自撮り写真を投稿する人たちを、「自撮り界隈」と呼ぶことがSNSに定着した。

そんな自撮り界隈の人間がオフラインで交流する際の待ち合わせ場所として指定されるのが、新宿TOHOビル前だったのだ。自撮り界隈には歌舞伎町で働くバーテンダーがいたことから、店が開くまでの0次会の場所になり、そこに歌舞伎町の住人であるスカウト、営業時間外の売れないホストも合流し、混沌とした路上飲みの場所になったのがそもそもであるとされる。

■「トー横キッズ」という名称のおこり

自称「初代トー横界隈」のバーテンはこう語る。

「僕がトー横にいたのは2018~2019年だったんですけど、都内でオフ会する連中が待ち合わせに使っていたのがTOHO前。あのビルに隣接するバーには、自撮り界隈で有名な人物がキャストとして働いていたり、歌舞伎町と自撮り界隈の癒着というか、関係が深くなっていった感じでしたね。あと、初期メンバーには18歳未満の子が多くて、ホストクラブとかは年齢確認が厳しいから入れなかったのも大きい。結果、遊びに行くならホストより安いし、年齢確認も緩いバーになった。歌舞伎町のバーは24時以降にオープンする店がほとんどだったから、24時まで居酒屋だったり、路上で時間をつぶすというのが当時の流れでしたね」

お金もなく、路上に集まる彼・彼女たちのことを、ホストとその客である風俗嬢やキャバクラ嬢たちが「キッズ」と呼びはじめた。それがトー横キッズ、という名称のおこりだ。

Twitterで「TOHOキッズ」という投稿で最も古いのは2019年の9月17日。令和になって誕生した言葉である。

■誘拐事件で人気者になった男

トー横でメディアで取り上げられた事件がある。2021年5月の誘拐事件だ。界隈でも中心メンバーだった当時20歳の男が、トー横に出入りしていた13歳の少女を誘拐したとして、逮捕されたのだ。ふたりはSNSで交流を深め、トー横で会い、関係をもっていたという。男が警察に取り囲まれている様子も撮影され、仲間たちは「あいつは児ポで逮捕!」「誘拐ワロタwww」などとからかう投稿を行っていた。彼らにとってはさほど大事件ではない様子だった。

逮捕された当の本人も釈放後にすぐに、報道された実名をハッシュタグにし、自撮りを中心にした動画を数多くTikTokに投稿した。謝罪もなく、反省の色は一切見られないこの行動。炎上するかと思いきや、投稿のコメント欄には「○○君(男の名前)やっぱりカッコイイ!」「推しです!」「はやくお金稼いであなたに貢ぎたいよ~」「いくらで会ってくれます?」など、ファンの女性たちによる好意的なものが多く見受けられた。そのコメントの多くが、中高生の少女。そう、男は割とイケメンだったのだ。

男はその後、歌舞伎町のバーとコンカフェ(コンセプトカフェの略)で働きはじめる。事件があったことなど一切気にせずSNSの投稿を続け、ファンの女性たちは店に通うようになる。なかには男がSNSにアップしたPayPayのQRコードに、送金するファンもいたという。

男に好意を抱いていたという12歳の少女が、SNSを通して男に好意を伝えると、「好きなら貢いでよ」と金銭を要求されたという。そして少女は数万円を稼ぐ手段として、SNSで援助交際の相手を募り、歌舞伎町のインターネットカフェなどで自身のカラダを売ったという。そんな事情をネットで晒していた。

■14歳の少女は男からベッドに誘われ…

こうした信者たちの応援により、男はバーでひと月100万円の売り上げを達成する。実際に男に貢いだと話す14歳の少女・アヤカに接触したのは、2021年7月のことだ。彼女も誘拐事件の後に、男と出会ったと話す。

少女
写真=iStock.com/maruco
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maruco

「最初、TikTokでトー横を知りました。自分と同じようなぴえん系の服を着ている男の子・女の子がいっぱいで、チョーかわいい~と思いました。だから自撮り垢(※)で『私もトー横に行きたい!』と投稿したら、彼から『待ってるね~』と返信がきたんです。あのときは嬉しかったな~。Twitterのダイレクトメッセージの交換をするようになり、『案内してあげるよ』って言われて。駅まで迎えにきてもらうことになりました」

※自撮り垢
自撮りを上げることを目的としたSNSのアカウント。裏垢(匿名のリアルとは違うアカウント)と併用して使っているパターンも多い。自撮りを上げ、「#自撮り界隈」「#オシャレさんと繋がりたい」などのハッシュタグを用いて交流を行っている。SNSで出会って会話をしたり、実際に会うケースも。そうしたコミュニティは「自撮り界隈」と呼ばれている。「自撮り たぬき」で検索すると自撮り界隈のいろんなものを垣間見ることができる。胃もたれ注意である。「たぬき」とは、ネットの匿名掲示板のこと。

当日、少女は食事をご馳走になり、男から「お金を取りにいくから、借りているホテルで待っているか、歌舞伎町をウロウロして待っていてほしい」と言われたという。少女にははじめての歌舞伎町を歩く勇気などもなく、ひとりでホテルで待っていた。そしてホテルに来た男はお酒をもっていて、「飲もう」と誘ってきたという。14歳の少女が経験するはじめてのホテルに、はじめてのお酒。そして……、ベッドにくるように誘われた。そこで初めて、男の目的を察した。彼女は必死に抵抗し、未遂で終わったという。

■自宅にも学校にも居場所がなかった

「事件で未成年に手を出していたのは知っていたけど、自分もそうなるとは思いもしなかった。今思えば、バカですよね。最初会ったときに年齢聞かれて、14歳って答えたら『俺ロリコンなんだよね!』と嬉しそうに言ってました。冗談だと思ったんですけど……。話すことは楽しかったので、『エッチなことはしない』と約束して、翌日もトー横で遊びました」

アヤカの家庭環境はいたって普通だ。会社員の父と専業主婦の母、そして妹。ただ、本人が病気を抱えていた。

「2年前に適応障害って診断されました。それから父と喧嘩するたびに『お前は何でも病気のせいにする』と責められて……。学校でもいじめがあり、不登校に。でもコロナで父がテレワークで家にいることは増えた。何度も何度も喧嘩した。罵られた。自宅にも学校にも、居場所がなかった。そんなときに知ったのが、トー横でした」

■「あの男の件があってから、もうトー横には行ってない」

男と一緒にトー横で撮影した動画はTikTokにも投稿され、彼女が通う学校で大きな話題になった。クラスメイトのなかで、「アヤカは児童ポルノで逮捕されたやつと一緒にいる」「売春している」などの噂が広まり、彼女をより傷つけた。相談できる相手は、トー横で知り合った友達だけだったとアヤカは話す。

「メンバーと話すのすごく楽しかった。普段騒げる場所がなかったから、走り回るのも、踊るのも楽しかった。でも、あの男の件があってから、もうトー横には行ってない。今は歌舞伎町で知り合った彼氏と幸せにしています」

男は未成年に手を出し続けていたのが理由か、2021年7月20日以降、SNSに一切の投稿をしなくなった。だがその後、またしても彼の姿をメディアで目にすることになる。2021年10月28日、その男は再逮捕されたのだ。

■事件を起こし続けても、男のTikTok人気は続いた

16歳の女子高生と性交し、その様子を盗撮したとして、警視庁少年育成課は、児童買春・ポルノ禁止法違反(児童ポルノ盗撮製造)などの疑いで逮捕したのだ。男は「ストレス発散のためだった」と容疑を認めている。テレビのニュースで「トー横界隈」という言葉が使われた初の事件となった。アヤカのようにトー横に興味をもっていたり、憧れている未成年の少女を言葉巧みに誘い出し、行為に及んでいた男。彼のスマートフォンには複数の児童ポルノ画像や動画が確認されており、同課は余罪を含めて捜査を進めている。

このような事件が連続しても、男のTikTokの動画は人気で、2021年11月7日時点で約2200万回も再生されている。さらにファンアート的に男の写真や動画、逮捕当時の動画を加工したものもSNSには多数アップされ続けている。再逮捕後はさすがに「またかよ」というコメントがあふれていたが、最初の逮捕後は「早く会いたい。○○くん(男の名前)ちゅき。カッコイイ、いけめん、推し、#○君 #○○ #アイラブ歌舞伎町 #いつか会いにいくね #推しです #○○しかかたん」というコメントが動画に添えられていた。

歌舞伎町には青年の髪色やファッションを真似する少年たちがあふれている。男の「二号」と名乗る若者が現れ、最近では五号まで誕生していた。二号の動画ですら、逮捕された男を崇拝するコメントで溢れており、神格化した存在となっていることがわかる。

■年齢確認が緩いバーは未成年の格好のたまり場に

筆者は2021年10月下旬、界隈の最新事情を探るべく、トー横キッズが働いているというバーに潜入した。筆者以外は店員も客も、全員未成年に見える。店も仕切るような人物がいないのか、全体的にグダっとした印象を受けた。

佐々木チワワ『「ぴえん」という病 SNS世代の消費と承認』(扶桑社新書)
佐々木チワワ『「ぴえん」という病 SNS世代の消費と承認』(扶桑社新書)

カウンターで筆者の前に立った青年は、例に漏れずドンペンファッション(大手ディスカウントストア「ドン・キホーテ」の公式キャラクターのドンペンがデザインされたTシャツ、パーカー、サンダルなどによるコーディネート)に身を包み、「20歳ってことにしておいてくださ~い」「とりあえずカラオケします?」「アゲっすね」と会話を盛り上げようと接客してくれた。

聞けば、店のオーナーは歌舞伎町でそこそこ有名なホスト。現在の歌舞伎町では、ホストがバーやシーシャバーをオープンすることは決して珍しくない。こうしたバーは深夜1時を回るとホストクラブの延長営業のようなかたちで、客やホストがなだれ込むこともある。接客する青年が、現在の懐事情を語ってくれた。

「PayPayのQRコードをSNSに貼っておくと、数百円から多いときは2万円とか送金されてくる。ファンたちは俺に認知してほしいってのがあるんじゃないですかね? だからバーにも来てくれる。接客とかじゃなくて、単に俺と話したいって感じっすね」

有名人に会いたい、認知されたいという欲求に加え、年齢確認が緩いバーは未成年の格好のたまり場になっているようだ。

----------

佐々木 チワワ(ささき・ちわわ)
ライター
2000年生まれ。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)在学中。10代のころから歌舞伎町に出入りし、フィールドワークと自身のアクションリサーチを基に「歌舞伎町の社会学」を研究する。歌舞伎町の文化とZ世代にフォーカスした記事を多数執筆。

----------

(ライター 佐々木 チワワ)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください