定年後に「だれからも声をかけられない寂しい老人」になる人の共通点
プレジデントオンライン / 2021年12月31日 12時15分
※本稿は、大塚寿『50歳からは、「これ」しかやらない』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■勝ち負けにこだわる生活はストレスフル
出世レースは、すでに40代で決着がついてしまっているものです。もし、自分がそのレールに乗っていないとしたら……40代の頃はそれを気に病んだかもしれませんが、50代になったら、むしろ幸いだと思うべきです。
というのも私の経験上、50代あるいはそれ以前で「出世競争から降りた人」のほうが、最後まで出世レースに参加した人よりも明らかに楽しい定年後を送っているからです。
常に勝ち負けにこだわり、ライバルと張り合い、数字に一喜一憂する生活は、おそらく、人間にさまざまなストレスを与えるのでしょう。それが突発性難聴、パニック障害といった病気として現れた知人は何人もいます。原因不明の病気として知られるメニエール病になった人も、片手では足りないくらい知っています。
■「病気」がむしろ幸いすることも
ただ、自分自身でそうした生活の問題に気づくことができるのはむしろまれかもしれません。多いのはやはり「病気」によって身体が悲鳴を上げたケースです。
大手システム会社に勤めるNさんは、メニエール病と腎臓結石を患い、駅で倒れて救急車で搬送されたことすらあるほどのストレスを抱えていたそうです。しかし、そんな中で面談した産業医から「何をそんなに怖がっているの?」と問われ、はっとしたそうです。
「考えてみれば、退院後は無事、職場にも復帰できていたし、なんとなれば自分が働けなくなっても奥さんも働いているので、その収入でなんとかなる。必要以上に不安がることはない」……そう気づいたことで、気持ちが一気に楽になったそうです。
今はシニアスペシャリストとして、後進の育成や指導に励む毎日を送っています。
■定年後の人間関係作りがうまくいかない人の特徴
このNさんの話からもわかりますが、会社人間から脱却して「自分の人生を取り戻す」ためには、「自分は一体何に不安を感じているのか」を知ることがとても重要です。その結果、「別に出世なんかしなくてもなんとかなる」と開き直ることができれば、不要なストレスからは解放されるはずです。
ただ、ここで邪魔になるのが「勝った、負けた」という二元論的思考法です。出世レースに残ったほうが勝ち組で、そうでない人は負け組。その思想に縛られているうちは、いつまでたってもストレスから解放されません。
ただ、そんな勝ち負けはあくまで、あと10年もない会社員生活の間だけの話。その後の30年に関してはむしろ、「負けるが勝ち」とすら言えます。
例えば、出世レースに最後まで残った人は、どうも会社員時代の意識が捨て切れず、定年後の人間関係作りがうまくいかないケースが多いのです。一方、「失敗した人」「病気をした人」は、比較的すんなりとコミュニティに入っていける人が多いようです。
人間関係を縮める鉄板の話題は「失敗話」。そして「病気話」です。
「あのとき大失敗して役職外されちゃってさぁ」「ある日突然、天井がぐるぐる回って……」などという失敗談を面白おかしく語れる人は、すぐに周りと打ち解けることができるでしょう。
人生とは、勝ち負けの二元論では到底、理解できるものではないのです。
■「やり切った感」がないと次に進めない
とはいえ、せっかく長い時間を費やしてきた仕事です。「やり切った」という思いを持って会社人生を終えられるかどうかは、その後の人生に大きな違いをもたらします。いわば「総仕上げ」をどうするか、という話です。
役職定年や出向になったあと、モチベーションが落ちたことでどうしても仕事をする気力が起きず、そのままダラダラと定年までの時間を過ごしてしまった……という後悔は、本当にいろいろな人から聞きます。やはり人は何かをやり切った充実感があればこそ、次に進めるのかもしれません。
では、何を「総仕上げ」とするのか。これはもちろん人それぞれです。会社からそういうお題を与えられているならいいのですが、多くの場合は自分自身で考え出す必要があるでしょう。
その代表的なものは、「現場の知恵の継承」です。マニュアルが存在していないような分野では、ここに大きなニーズがあります。
■第一線ではないから成し遂げられる仕事もある
もう一つは、仕事そのもので足跡を残すということです。
少々前の事例で恐縮なのですが、部品会社に勤めるWさんの話をご紹介したいと思います。
その会社は長年自動車部品を作ってきたのですが、売上的にはじり貧でした。一方、当時は電気自動車(EV)の黎明期で、これから市場が拡大することが予想されていました。
しかし、ガソリン自動車とEVでは、販路が違います。現役世代は現在の顧客の維持に精いっぱいの状況。そこでWさんは、自分がこのEV関連の取引先を開拓することを「ビジネス人生の総仕上げ」とすることにしたのです。
そして実際、その道筋をつけたうえで、Wさんは定年退職。現在ではこの会社のEV事業は大きな柱に育っているそうです。
このように第一線ではないからこそ、成し遂げられる仕事もあるはずです。
■「集大成」があったからこそ、定年後が輝く
もう一つ事例を紹介しましょう。
地方市役所の住民課にて、課長として50代を迎えたKさんが注力したのは「民間への窓口業務委託」でした。
民間への窓口業務委託はその必要性が叫ばれているとはいえ、法律で制限がされていることに加え、個人情報の取り扱いなどもあり、実際にはそう簡単な話ではないというのが現実です。だからこそ、Kさんはこれを公務員としての集大成と位置づけて尽力し、見事に成し遂げました。
Kさんは定年後、大学での就職担当者として新たなキャリアをスタートさせましたが、この経験を学生に話すことで学生を勇気づけているそうです。50代の集大成がその後の人生にも役立つことがわかる好例だと思います。
会社に貢献し、かつ、自分の人生にも大いに意味を持つ「集大成」はどんなことか。ぜひ、考えてみてください。
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営業コンサルタント
1962年群馬県生まれ。リクルートを経て、サンダーバード国際経営大学院でMBA取得。現在、オーダーメイド型企業研修、営業コンサルティングを展開するエマメイコーポレーション代表。著書に、『リクルート流 「最強の営業力」のすべて』『法人営業バイブル 明日から使える実践的ノウハウ』『50歳からは、「これ」しかやらない 1万人に聞いてわかった「会社人生」の正しい終わらせ方』(以上、PHP研究所)や、『40代を後悔しない50のリスト』(ダイヤモンド社)など多数。
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(営業コンサルタント 大塚 寿)
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