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「遺言を書いてください」親を怒らせずに切り出せるコールセンター流のすごワザ

プレジデントオンライン / 2021年12月24日 10時15分

遺言書は最強ツールになる一方で、作ろうと言い出しにくいのが問題だ。どうすれば、親を傷つけず、前向きになってもらえるのか、心理学や行動科学からアプローチしよう。「プレジデント」(2022年1月14日号)の特集「親も子も、日本一わかりやすい 実家の相続」より、記事の一部をお届けします――。

■自分自身の意識を改革することが重要

「そろそろ遺言書を書いてもらわないと」。いきなり子どもからそんなことを言われれば、親が面食らうのも無理はありません。言いにくいことは急に切り出すのではなく、話の前に“枕詞”を付けるのがよいでしょう。「お母さん、気を悪くしたら申し訳ないんだけど」や「こんなこと言われたら気分を悪くする人もいるけど」と冒頭に入れると、相手は気持ちの準備をしやすくなる。

次に「遺言」という言葉は死を連想させるので、ニュアンスを柔らかくするため「終活」や「エンディングノート」に言い換えたほうがいいでしょう。「お父さん、終活はどうしているの?」と聞いてから遺言書へ誘導するほうが、話をスムーズに進めやすいのです。

一番よくないのが、「死ぬのを待っているかのような雰囲気」をつくってしまうこと。後ろめたさを払拭するには、「リフレーミング」という心理学のテクニックを活用するのがおすすめです。

■未来の行動プランを教えてもらう

これは物事を表現する枠組みを変え、自分の気持ちの中にあるネガティブな枠組みをポジティブな枠組みに変えてしまう技術です。「子どもたちが仲悪くなるのは嫌じゃない?」「お父さん、文章に残したほうがいいかもよ」などの言葉を添えて“未来の行動計画”のフレームにしてしまうわけです。

人間が行動できない理由の1つに「相手への気づかいが大きすぎる」というものがあります。だからまず「自分はおかしなことを言うわけではない」と考えるようにする。自分自身の意識を改革するのです。「遺言を書くのではなく、未来の行動プランを教えてもらう」と考える。そう切り替えれば、緊張せずに聞くことができるはず。

もし、親の顔色が変わったなら話をやめればいいだけです。どんな交渉でもそうですが、一回でなんとかするなんてまず無理。営業やセールスの経験者ならよくご存じのはずです。初っぱなから契約を結んでもらおうとギラつくと、どうしても不自然なトークになる。「3度目、4度目の交渉でうまくまとまればいいや」と、余裕のある気持ちで臨んだほうがいいと思います。

怒り出しそうな親の場合、話を始めるタイミングも重要です。遺言書は、病気で倒れたりしたときに書くこともありますが、それこそ「私が死ぬのを待っているのか!」となります。ですから、むしろ元気なときにこそ遺言書の準備をしたほうがいいです。また、お腹がすいているときはイライラしがちなので食後にするとか、何か良いことがあった後にするとか。閉鎖的な性格の人でもふっと心が開くときがあるものです。寒い日よりポカポカ陽気の良い日に話す、親が朝型か夜型かにより午前中に言う、夕方以降に言うなど機嫌や体調が良いタイミングで切り出したほうがいい。

正月に兄弟姉妹が集まる際は、事前に必ず根回しをしておくこと。1人で言うのではなく、兄弟姉妹で「同調圧力」をかけるわけです。

きょうだいに女性がいるなら、女性が話を切り出したほうがよいです。ドイツで行われたコールセンターのクレーム電話の研究によると、女性が対応したほうが断然納得度が高くなったという結果が出ています。男性が言うと、お客様から「なんだその口の利き方は」となるのに、女性だと角が立ちにくい。もし男性が話をするなら、できるだけ温かみのある表情や声のトーンを意識すること。

「遺言書を書いてください」切り出し方10のポイント

「実はお話があります」と言うと、親も「何事か」と身構えます。世間話にすれば、身構えずにいられるわけです。昔から、職場の喫煙所、給湯室、トイレは本音が出やすいと言われます。心理学では「環境要因」と言いますが、そういう“無防備な状態”をつくるのも効果的です。

最後に、そもそも遺産といっても、親のお金ですから、親が好き勝手にお金を使うのはいいのではないかと思います。むしろ使い切ってくれたほうが、喧嘩もないですから。もし、心配なら「お父さん、葬儀代だけ残しといて」と伝えておけばいい。そういう関係だと楽だと思うんですけどね。(心理学者 内藤誼人氏)

■行動科学の視点から――要求の裏側にある気持ちを伝える

行動科学の視点では、人間は繰り返される問題に対しては、試行錯誤の結果それなりの判断をすることができますが、この問題のように人生で初めて直面するような問題は、良い選択をすることは難しく、多くの人が悩みます。

相手の心理を理解し、関係性を壊さないようにコミュニケーションを取る方法として私は、NVC(Nonviolent Communication=非暴力コミュニケーション)という方法を学んでいます。NVCの視点によると、要求としての「遺言書を書いてほしい」ことだけを伝えるのは、意図が誤解される恐れがあり危険です。NVCでは要求の裏側にある自分の感情や気持ち、願い、考えも伝えることが重要としています。

自分の感情としては、「もしものことを考えると不安で仕方がない」「お父さん(お母さん)の思いを大事にしたいけれど、そういう財産の分け方ができるのか心配」などと伝えます。気持ち、願い、考えとしては、「お父(母)さんにはいつまでも元気で長生きしてほしい。そのことは理解してほしい」「きょうだいとケンカにならないようにお父(母)さんの気持ちを(遺言書の形で)ちゃんと伝えておいてほしい」などと説明するとよいでしょう。

もう1つ大事なことは、お父(母)さんが、何を望んでいるのかにきちんと耳を傾けることです。親の気持ちを尊重したいこと、無理に遺言書を書かせる気持ちはないことなどを理解してもらうことは深いコミュニケーションを行うには大切なことです。

切り出し方としては、「老後のことで何か心配なことはない?」と聞くことは比較的簡単なのではないでしょうか。親を思う気持ちが伝わり、それを受けて「子どもたちに迷惑をかけたくない」と言ってくれたら、「私が心配なのは……」と、自分の気持ちや思いを伝えたら良いですね。その際も自分の思いを一方的に伝えるだけではなく、「どうしてほしい?」と親の気持ちに耳を傾けることです。そういうプロセスの中で、どういう準備をすればいいかを考えてくれるようになれば、心配事の大半は解決できると思います。(上智大学経済学部教授 川西諭氏)

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内藤 誼人(ないとう・よしひと)
心理学者
立正大学客員教授、有限会社アンギルド代表取締役社長。慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ心理学系アクティビスト。趣味は手品、昆虫採集、ガーデニング。『すごい! モテ方』『すごい! ホメ方』『もっとすごい! ホメ方』(以上、廣済堂出版)、『ビビらない技法』『「人たらし」のブラック心理術』(以上、大和書房)、『裏社会の危険な心理交渉術』『世界最先端の研究が教える すごい心理学』(以上、総合法令出版)など著書は200冊を超え、、近著に『めんどくさい人の取扱説明書』(きずな出版)がある。

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川西 諭(かわにし・さとし)
上智大学経済学部教授
近年は行動経済学やゲーム理論の知見を含む経済学を応用した地域貢献、社会貢献を研究テーマとする。著書に『知識ゼロからの行動経済学入門』『マンガでやさしくわかるゲーム理論』(共著)などがある。

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(心理学者 内藤 誼人、上智大学経済学部教授 川西 諭 文=篠原克周)

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