「もっと仕事がしたい」「もっと会社に行きたい」産業医が驚いたコロナ禍の新入社員に共通する"3つの悩み"
プレジデントオンライン / 2021年12月28日 12時15分
■在宅勤務やハイブリッド勤務が“普通”の新入社員たち
コロナ禍2回目の年末年始を迎えます。
私は産業医として、2021年も1000人以上の働く人と面談をしてきました。コロナ禍でリモート勤務が普及したため、従来のような対面での産業医面談は少なく、ZoomやTeams、電話等でのバーチャル面談が“普通”です。
私を含めコロナ前から働いていた人にとっては、コロナ禍で始まった在宅勤務やミックス(ハイブリッド)勤務は“新しい”働き方であり、今年になりようやく慣れてきた印象ですが、コロナ禍の新入社員等にはそれが初めから”普通”なことでした。
その結果、コロナ禍の新入社員には3つの共通点があると産業医面談で感じたことをお話したいと思います。
■「もっと仕事したい」不完全燃焼気味の1年目
1つめは、コロナ禍で新社会人生活が始まり、不完全燃焼な1年目を過ごしている新入社員がそれなりにいるということです。
実はコロナ禍の新入社員たちとの面談で多かった相談は、決して、仕事量が多すぎて大変だとか、先輩たちが優しくないなど、ネガティブな内容ではありませんでした。むしろ、社会人1年目としてやる気満々な気持ちが、コロナ禍のため期待していたように満たされないという内容が多かったです。
私のクライエントに入社してくる新社会人たちは、やる気に満ち溢れ仕事に前向き姿勢な社員が多いです。しかし、コロナ禍で在宅勤務やハイブリッド勤務となり、思うように仕事に没頭できず、「もっと仕事したい」、「出社したほうがいろいろ学べるしやりやすい」と、不完全燃焼気味の社員が複数いたことは、私には想定外でした。
コロナ1年目(2020年4月)に入社したA君が産業医面談にきたのは2年目になってからでした。仕事で苦手な領域があるが、先輩たちはそのことを知らず、普通に苦手な仕事も任せてくる。1年目ならばわからないと言えるが、今はもう後輩もいる立場なのでそれも言えず、また、こっそり聞くことができるほど仲のいい先輩もおらず、どうしてもこの苦手領域が克服できない。その仕事に取り組む前日は眠りが明らかにおかしいとの相談でした。ちなみに、全般的に仕事は好きで、この領域以外は全て楽しく取り組めているとのことでした。
■在宅勤務の時期に学んだ領域が苦手なまま
よくよく聞いてみると、A君の部署では入社1年目は数カ月ごとに部内のチームをローテーションするのですが、その苦手領域は昨年の緊急事態宣言で在宅勤務になってしまった時期のローテーションだったとのことでした。仕事を覚えたくても、出社さえてもらえず、また、ちょっと先輩に確認したいことやわからないことがあった時、在宅勤務だと気軽に先輩に相談できなかった(から仕事がそこで止まってしまった)。このチームにいたときは飲み会もなく、先輩たちとも打ち解けることができなかったうんぬん……。A君としては、不完全燃焼となってしまったことが、今も尾を引いていると感じるとのことでした。
このように、社会人になるにあたって持っていた期待やエネルギーが不完全燃焼……。そんな声が多いのが印象的でした。時にそれは後を引く人もいるようです。アフターコロナの時代が来れば、きっともっと仕事に(遊びにも)満足できる状況になるはずです。その時まで、頑張ってほしいと思います。
■「気分転換不足」という新たなストレス源
2つめは、コロナ禍新社会人たちにとって、ストレスやメンタル不調の原因は、仕事の質や量、または職場の人間関係(一般的には上司がストレス)よりも、気分転換不足と思えるものが多かったことです。
ワンルームマンション等狭い自宅で仕事をし、気分転換等も意識しないでいると、知らず知らずのうちに気分が塞ぎ込んできてしまう。大学の同級生が他社で出社して仕事していると聞くと、自分は仕事の習得が遅れてしまうのではないかと不安になり、時に眠れなくなってしまう。同期と比較しても自分は仕事を学んでいる方なのか遅れている方なのか気になってしまう。このように、コロナ前にはなかったパターンの不安やストレスがあることが今年の産業医面談でだんだんわかってきました。
■会社の近くに住み、家には「寝に帰るだけ」の予定が…
社会人になり一人暮らしを始めたBさんは、あえて会社の近くに住み仕事に没頭するつもりでした。寝るために帰るだけと思っていた一人暮らしの小さい部屋は、在宅勤務を続けるには狭すぎて、椅子や机等の家具もしょぼくて、この環境で1日中在宅勤務すると気分が暗くなってしまう。週末も同じ部屋で過ごしていると気分転換なんてない(でもコロナのため外出が怖くてできない)という相談には、私も同情するしかありませんでした。
彼女には、多くの先輩たちも社会人になると学生時代にやっていた趣味や気分転換が、時間がないことや友人たちとの時間が合わないとかでできなくなってしまうこと。その中で、社会人としても継続できるやり方や新しい趣味・気分転換を見つけられる人は、オンとオフのメリハリを上手につけていること、をお伝えしました。
■「職場に居場所が欲しい」所属意識を求めている
コロナ禍の新入社員に共通する点の3つめは、会社への所属意識(帰属意識?)をより求めている印象です。彼、彼女らは大学は卒業したものの、まだ自分はどこにも所属していないという寂しさを感じるのです。
「仕事は単なる仕事」としてドライに捉えているならばそれはそれでいいのかもしれませんが、コロナ禍の新入社員たちは、「もっと職場でつながりたい、職場に居場所が欲しい。でも、そう感じることができない」という気持ちのようです。
自分は職場で本当に必要とされているのだろうか。まだ仕事を覚えていないから必要とされていなくてもしょうがないが、いずれは必要とされるだろうという評価は得られているのだろうか。このような承認欲求が満たされてないのだと感じます。これはやはり、実際に対面で先輩や同僚たちと職場で長時間過ごしていると自然と生まれる職場での連帯感がコロナ禍の新入社員には生まれにくいことが原因かと感じます。
■新入社員が所属感を会社に求めるのは自然なこと
アメリカの心理学者アブラハム・マズローによる自己実現理論では、「人は自己実現に向かって絶えず成長する」と仮定し、人の欲求を5段階の階層で理論化しました。その5段階は下から、生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求、承認(尊重)の欲求、自己実現の欲求で、下層の欲求が満たされないと、その上の段階の欲求が満たされないと説明されます。
現代の日本の新入社員はその多くが、生理的欲求と安全の欲求は満たされています。しかし、人が健やかに日々を暮らしていくためには、このような物質的満足だけあればいいのではありません。その上の階層の社会的欲求のように、家族や組織など、何らかの社会集団に所属して安心感を得たいという欲求が満たされる必要があります。
新社会人生活が始まり、大学やアルバイトの仲間たちと疎遠になった新入社員たちが、所属感や安心を職場に求めることは自然なことです。
話し相手がいない、自分を受け入れてくれているかわからないような生活では、たとえそれが一流企業だとしても寂しい思いはなくなりません。
■対処法は「たくさん褒めること」
では、このような新入社員にはどのように対処したらいいのでしょうか。
それは、たくさん褒めることです。
実際に結果がでたときは、そこをしっかり具体的に褒めてあげましょう。褒めるときは、恥ずかしがらずに、他人の前でも褒めましょう。褒められて承認欲求が満たされた人は、物事をポジティブに考え行動することができるようになります。そして、自発的に動き、もっと仕事に邁進するようになります。
本来であれば、仕事の成果やうまくできたことを褒めたいですが、新人であるがゆえに結果が出ない場合は、まずは、仕事に対する前向きな姿勢、やる気のある部分を褒めましょう。褒められた人は嬉しく感じ、自尊心が満たされます。承認欲求が満たされます。自己肯定感が上がり、他人と自分を比べることに固執しなくなります。
■褒めるところがなければ「ありがとう」を伝える
褒められて本人が自主性を発揮し、自己の成長を自覚できるようになれば、おのずと仕事にやりがいを感じるようになります。そうすれば、仕事や会社がもっともっと好きになります。
このような話をすると、「褒めるところがない新人はどうするのか?」と、聞かれます。その時は、その社員の姿勢、気持ち、やろうとしている部分を見つけ、そこに「ありがとう」と感謝の気持ちを伝えましょう。そうすれば、その新人社員にとって、会社は自分がいてもいい場所だという感覚が得られます。
コロナ禍であることだけでなく、AIの発展、デジタルトランスフォーメーション等々、いろいろな意味で今は大変革期です。産業医仲間ではよく、「職場環境とは上司である」(職場環境ストレスの良しあしは全て上司による)と言います。
ぜひ、先輩社員の方々が、コロナ禍新入社員の特性を捉え、上手に育てていただければと思います。そうすればきっと、数年後には立派な先輩社員になってもらえるのではないでしょうか。
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医師
医学博士、日本医師会認定産業医。一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。ドイツ銀行グループ、BNPパリバ、ムーディーズ、ソシエテジェネラル、アウディジャパン、BMWジャパン、テンプル大学日本校、アプラス、アドビージャパン、Wework Japanといった大手外資系企業を中心に、年間1000件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を実施。働く人の「こころとからだ」の健康管理を手伝う。2014年6月には、一般社団法人日本ストレスチェック協会を設立し、「不安とストレスに上手に対処するための技術」、「落ち込まないための手法」などを説いている。著書に、『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書』や『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣』『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』などがある。公式サイト
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(医師 武神 健之)
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