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「夜中に着の身着のまま逃げ出した」夫を"しもべ"にしたモラハラ妻の逆DV行状の戦慄

プレジデントオンライン / 2021年12月26日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

「配偶者や恋人など親密な関係にある(あった)者から振るわれる暴力=DV」は、腕力のある男性(夫)が女性(妻)や子供にしているケースが目立つが、その逆もある。トラブルを抱える家庭の取材を数多く手がける旦木瑞穂さんは、「妻が夫にするDVが成立するのは、意図的か本能的かは不明ですが、DV加害者の多くが、段階を踏んで被害者への支配や恐怖を強めていくからだと考えられます」という――。

ある家庭では、ひきこもりの子供を「いない存在」として扱う。

ある家庭では、夫の暴力支配が近所に知られないように被害者の家族全員がひた隠しにする。

限られた人間しか出入りしない家庭という密室では、しばしばタブーが生まれ、誰にも触れられないまま長い年月を暮らすケースも少なくない。

なぜそんな「家庭のタブー」は生じるのか。どんな家庭にタブーは生まれるのか。具体事例からその成り立ちを探り、発生を防ぐ方法や生じたタブーを破る術を模索したい。

■ヨソからは何も見えない「家庭のタブー」を生む3つの条件

筆者はこれまで多くの家庭を取材してきた。中には、DV夫がいる家庭や、ニートの子どもがいる家庭、認知症の親を介護する家庭や障害のある子どもを持つ家庭なども含まれる。その際、一部の家庭で時々疑問に感じるのは、「被害者(困っている家族)は、なぜもっと早くに助けを求めないのか?」ということだ。

例えばDVの場合、加害者の多くがDVの事実を外に漏らさないようにする。だが、被害者までもが外部に助けを求めず、隠蔽し続けるケースが散見される。そのため外部の人たちが気づくのが遅れ、悲しいニュースになってしまうことや、被害者が後遺症に苦しみながら生きるケースも少なくない。

家庭にタブーが生まれることは、決して特殊なことではない。条件さえ揃えばどんな家庭でもタブーを生み育てることができると筆者は考えている。その条件とは、「短絡的解決」「孤立」「恥」の3つだ。

■「家庭のタブー」条件1:短絡的解決

本連載で前回紹介した家庭の事例を基に、3つの条件を解説する。話を簡単におさらいしよう。

フリーターをしていた橋本幸男さん(40代・独身)は、25歳の頃、参加した合コンである女性と出会う。意気投合し、数回食事や買物をしたあと、交際を開始。橋本さん宅で同棲を始めた初日、橋本さんが自分のお金で購入した漫画を彼女に見せると、彼女は突然空気が変わり、橋本さんを無視。約6時間に及ぶ無視の後、彼女が発した言葉は「勝手にお金を使わないでくれる?」。橋本さんが漫画を買ったことが気に入らなかったようだった。

橋本さんは衝撃を受け、「自分が働いて稼いだお金で買ったのになぜ? 同棲は始めたけど、まだお金のことについて何も決めてないよね?」とモヤモヤが溢れ出したが、当時の橋本さんは、「お金に対してしっかりした子だなあ」という気持ちでモヤモヤに蓋をしてしまい、しっかりと戦わなかった。

これが、タブーが生まれた瞬間だった。

このとき橋本さんは、彼女は「経済的にしっかりしている」と納得した。しかしその納得には、「自分で稼いだお金で、自分の判断で物が買えなくなる」という“重い鎖”が付随していた。了解してしまえば自分の自由が犠牲になる。けれど、6時間もの無視に及んだ彼女だ。抗えば機嫌を損ない、最悪の場合、別れることになってしまうかもしれない。

橋本さんはとりあえずその場を上手く収めることだけを優先し、「彼女はまだ若いから」「きっといつかわかってくれる」と、自分自身を納得させてしまったのではないか。これが「短絡的解決」だ。これにより、その後、彼女と結婚した橋本さんは、さらに自分を苦しめていくことになる。

■「家庭のタブー」条件2:孤立

家族、友人、恋人などの人間関係において、「自分が我慢すれば解決する」という自己犠牲の精神でいると、自分の味方が自分ではなくなる。1対1の人間関係の場合、自分が味方でなくなれば、自分を救ってくれるのはもはや相手だけだ。橋本さんの場合、残念ながら彼女は、橋本さんを救おうとはしてくれなかった。それどころか、同棲する以前から意図的に支配関係を構築していた節がある。

なぜならそれは、橋本さんと彼女が付き合い始めた頃まで遡る。彼女は橋本さんと付き合い始めたとき、幼馴染や同級生、昔のバイト仲間など、すべての交友関係を切るよう命じていたのだ。

女友だちの連絡先は、彼女の目の前ですべて消去された。以降、同窓会や飲み会などの誘いを受けても断るしかなかったため、次第に誘いも来なくなっていった。

友だちとの交際が続いていれば、橋本さんが彼女のことを話す機会もあっただろう。もしかしたら友だちは、「お前の彼女、おかしいよ」と言ってくれたかもしれない。しかし付き合い始めて早々に友だちとの交際を禁止され、情報が遮断され、孤立してしまった橋本さんは、目の前の彼女を信じる努力をし続けるしかなかった。

シティウォーク
写真=iStock.com/Ryosuke_jp
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ryosuke_jp

では、橋本さんの両親はどうだったか。

結婚前に紹介されたとき、両親は多少の違和感を抱きつつも、猫をかぶる彼女にすっかり騙された。唯一、おばあちゃん子だった橋本さんを可愛がっていた母方の祖母だけは、「あの子はやめときな」と言ったが、そのときは橋本さんを含め、誰も耳を貸さなかった。

最近よく耳にするようになったモラハラは、モラルハラスメントの略であり、言葉や態度によって行われる精神的暴力をさす。モラハラはどこでも起こり得るが、家庭で起こる場合、「ドメスティック・バイオレンス:DV」と混同されがちだ。DVには身体的・精神的・経済的・社会的・性的と5つのDVがあり、このうち「精神的DV」をモラハラと呼ぶことが多い。

橋本さんは、彼女との交際が始まった時点で、友人との交際禁止や行動範囲の制限などといった「社会的DV」を受け、同棲が始まったと同時に、自分の稼いだお金を自由に使えない「経済的DV」が始まった。

外部からの情報を遮断され、被害者が発信することも禁止されれば、被害者は「孤立」する。「孤立」してしまえば、被害者は自分の家庭がおかしいと気づくことも、助けを求めることも難しくなる。

橋本さんは彼女に「交友関係を切って」と言われて素直に従ってしまったとき、すでに「短絡的解決」がなされていた。そして意図的か本能的かはわからないが、彼女は橋本さん以前に付き合った交際相手も、同様の手口で社会的に孤立させてきたに違いない。

■「家庭のタブー」条件3:羞恥心

多くの場合、DVは、加害者はもちろん被害者もそれについて言及しようとしない。まさに「家庭のタブー」の代表格だと言える。

だが、なぜ被害者はそれについて言及しようとしないのだろうか。その理由は、タブー下における被害者心理にあると考えられる。

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写真=iStock.com/sauercrowd
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sauercrowd

先述のように被害者はまず、「短絡的解決」により、タブーを生み出す。橋本さんのケースで言えば、これまでの交友関係を切るように言われたときと、「勝手にお金を使わないでくれる?」という彼女に対し、反論しなかったときだ。

以降、橋本さんは「孤立」していき、自分で稼いだお金で、自分の判断で物が買えなくなった。ひとたびタブーが生まれれば、加害者側はしめたものだ。みるみる本性を表し始め、ことあるごとに「怒らせるお前が悪い」などと言い、「DVの原因は被害者」だと洗脳・刷り込みをする。

一方、被害者側は、加害者側が暴力や暴言を振るっていない、いわゆる「ハネムーン期」の振る舞いや言葉にほだされ、「自分は愛されている」「(加害者側が)反省してくれたからもう大丈夫」と思い、暴力・暴言を受けてもその度に許してしまう共依存関係に陥っていく。

そして、洗脳状態、共依存状態に加え、被害者側がタブーを破るうえで大きな障害となるのが、「羞恥心」だ。精神的DVや経済的DV、社会的DVなど、目に見えないDVはもちろん、身体的DVであっても、病院での治療が必要なほどの大ケガを負わされたわけではない場合、「おおごとにしたくない」「体裁が悪い」など、「恥ずかしい」という気持ちから、被害者側はDVの事実を隠そうとするのだ。

特に、橋本さんのようにDV加害者が妻の場合、夫は「一般的に、男性より非力とされる女性にかなわない自分」に感じる「情けなさ」や「恥ずかしさ」から、なかなか外に助けを求められなかった可能性がある。

橋本さんは付き合ってから約1年後に彼女と結婚し、2人の子どもをもうけたが、約5年後には妻からのDVに耐えきれなくなり、真夜中に着の身着のまま家を飛び出した。弁護士に依頼した後、妻からの報復をおそれて警察に相談したが、「何かあってから呼んでくれる?」と冷たくあしらわれ、こう思ったという。

「きっと、『男のくせに情けないな』くらいにしか思われなかったのでしょう。『何かあったらすぐに連絡くださいね』と言ってくれたら、それだけで安心感が違います。やはり、長年DV加害者に支配されてきた被害者の恐怖は、経験した者にしかわからないのだと思いました」

「短絡的解決」により経済的DVを受け、自由にできるお金もなく、社会的DVを受け、親しい友人知人との交際を禁止され、「孤立」していた橋本さんは、長年の精神的DVによる支配や恐怖、そして「羞恥心」から、極限まで声を上げることができずにいたのだ。

■家庭のタブー=人を身動きできなくさせる恐ろしい凶器

タブーを生み出す「短絡的解決」「孤立」「羞恥心」という3つの条件は、DV家庭だけに言えるものではない。ニートの子どもがいる家庭、認知症の親を介護する家庭、障害のある子どもを持つ家庭……のみならず、傍から見れば何の問題も抱えていなさそうな家庭でも、条件さえ揃えばタブーは発生するだろう。

コミュニティが小さく、風通しが悪い環境であればあるほど、そのコミュニティを構成する各人の影響力が大きくなる。だからこそ、令和3年が過ぎ去ろうとしている現在でも、耳を疑うような事件が後を絶たないのは、家庭なのではないだろうか。

自分の味方は自分。自分の身を守るのも、他でもない自分だが、社会には、当たり前にできることさえも当たり前にできなくなる。そんな皮肉な現実が存在する。

「短絡的解決」「孤立」「羞恥心」という3つの条件が揃ったときに生じるグロテクスな「家庭のタブー」。この視点で個々の事例を見通せば、共通する何かしらの解決策が見えてくるかもしれない。

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旦木 瑞穂(たんぎ・みずほ)
ライター・グラフィックデザイナー
愛知県出身。印刷会社や広告代理店でグラフィックデザイナー、アートディレクターなどを務め、2015年に独立。グルメ・イベント記事や、葬儀・お墓・介護など終活に関する連載の執筆のほか、パンフレットやガイドブックなどの企画編集、グラフィックデザイン、イラスト制作などを行う。主な執筆媒体は、東洋経済オンライン「子育てと介護 ダブルケアの現実」、毎日新聞出版『サンデー毎日「完璧な終活」』、産経新聞出版『終活読本ソナエ』、日経BP 日経ARIA「今から始める『親』のこと」、朝日新聞出版『AERA.』、鎌倉新書『月刊「仏事」』、高齢者住宅新聞社『エルダリープレス』、インプレス「シニアガイド」など。

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(ライター・グラフィックデザイナー 旦木 瑞穂)

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