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「成果主義ではみんなやる気を失ってしまう」稲盛和夫がそう考えるようになった納得の理由

プレジデントオンライン / 2021年12月29日 12時15分

写真提供=稲盛ライブラリー

どうすれば人事評価で社員のやる気を引き出すことができるのか。京セラ名誉会長の稲盛和夫さんは「たとえ目標を達成できなくても、必死で頑張った人は頑張ったなりの評価をしてあげないと、後々、誰も頑張らないようになる。だから成果主義ではうまくいかない」という――。

※本稿は、稲盛和夫述・稲盛ライブラリー編『経営のこころ 会社を伸ばすリーダーシップ』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

■ルールをつくってもすぐ矛盾が出てくる

人を評価するということぐらい難しいことはないのです。たとえ二十人、三十人の従業員でも、評価して、役職や給料を上げたり下げたり──下げるというのはめったにないかもしれませんが──するのは難しいことです。

非常に難しく、やりにくいから、何かルールをつくって客観的な評価をする方法はないかと考える。そうすればトップである自分が悩まなくても、若い役員でも、また部課長でも決められます。そういう公平で、えこ贔屓のない評価ができるルールはつくれないものかと、いろいろなことをやるわけです。

しかしこれはやっても、すぐに矛盾が出てきてしまいます。だいたいそういうルールは何年も使えません。もし「ルールをつくってうまくいっています」という企業があれば、うまくいっているのではなく、うまくいったように思っているだけです。

労働組合と一緒にルールをつくったとしても、今、一応、不平不満がないだけであって、それは決して今後ずっと会社を活性化したり、さらに発展させていくためのものにはなっていません。

小さな会社であればそんなルールは要らないのでしょうが、やはり従業員が二百人、三百人になってくると、同じような悩みが出てくると思うのです。

■課長、部長ではなく「責任者」

私の場合は、役職制をやめました。課長、部長という呼称もなくしました。そして、「あなたには二十人でこの仕事をしてもらう」「あなたにはこの工場を見てもらう」ということで分け、そのリーダーを「責任者」という呼称にしました。「私は何々の責任者です」と。例えば「私はファインセラミックス事業部の責任者です」となるわけです。極端にいうと、京セラの社長は京セラの責任者です。

責任者に、「あなたは今度はダメだから降りなさい」という場合、あとは普通の人になります。そして、責任者には他の人になってもらう。課長とか部長というと、「部長が課長に落ちたとなったらメンツが立ちません」と言って辞めるだの何だのと揉めたりするので、責任者として、責任者でなくなれば普通の人というふうにしました。

■どうすればやる気を起こす評価ができるか

では給料はどうするかというと、やはり年功を積んで頑張る人については、それにふさわしい額がありますから、給料を上げるために資格制度を別につくる。そういうことをやったこともあります。

どうすればみんなにやる気を起こさせ、どうすれば評価がうまくいくのかということは、企業の永遠の課題です。それは本人だけの問題ではなく、周囲にたいへん大きな影響を及ぼします。

非常に優秀だからと、ある人を昇格させた。本人は喜ぶかもしれませんが、周囲の人にしてみれば、「あんなやつが上がって、なんで俺が上がらんのや」と、逆にモチベーションが下がるわけです。

つまり、みんなを励ますことにはならない。降格させたらさせたで、今度は「次は俺が下げられるんじゃないか」と恐怖心が出てきて、なおモチベーションアップにはならない。

いろいろなことがあるものだから、何かルールを決めて、それにすがろうと思ってしまう。そうすれば責任がなくなって、気楽になるわけです。

■成果主義では人は頑張れない

ところがそうじゃないのです。人を評価するというのは、そういうことではありません。結局は社長が組織の中に入っていって、会合なんかにもすべて出ていって、何百人という人を心血を注いで見ていかなければならないのです。

その場合、もちろん業績も問題になってきます。京セラでは、部門ごとに来期の目標を、トップも含めてみんなで立てます。そして管理会計の手法で、部門別の業績がピシッと出てきますから、目標をどこまで達成したのかという業績も当然、問題になります。

目標を達成するイメージ
写真=iStock.com/kieferpix
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

よく成果主義といいます。つまり「業績を上げた人には払います、上げなかった人には払いません」というのが成果主義です。以前、大手電機メーカーがとり入れて、二年もしないうちにやめていますが、成果主義で頭を叩いたって頑張れるものではありません。

確かに、立てた目標を達成すれば評価しなければならないと思いますが、たとえ目標を達成できなくても、必死で頑張った人は頑張ったなりの評価をしてあげないと、後々、誰も頑張りません。数字だけの問題ではないはずです。そのあたりが、情というか、本当に難しい。

ですから、これはもう理屈通りにはいきません。成果主義で、「業績が上がればボーナスを出します、ダメだったら出しません」というのは簡単なように見えますが、大企業も含めて全部うまくいっていません。成果主義ではみんながやる気を失ってしまうのです。

業績が上がり、ボーナスをたくさんもらったときは喜んで張り切るでしょう。しかし不況になって業績が悪くなり、ボーナスが出ないとなればどうなるか。

今度のボーナスはいくらもらえるだろうと思っていたら、出ないという。家に帰れば奥さんも子供もいて、住宅ローンも払わなければならないのにと、みんなブツブツ言い出す。

前回はよその倍ほどボーナスを出したとしても、そのとき喜んだだけで、次にボーナスがゼロになったときには誰も、「この前、倍もらったからいいではないか」と言いません。「業績が悪いのかもしれないが、我々にも生活がある」というので、一気にやる気を失ってしまいます。

■「部下をどこまで見ているか」が評価の決め手になる

業績がいいときはもちろん、悪いときでも歯を食いしばって、従業員の生活を考えて面倒を見ていくことが必要なだけに、ただ、いいときには払えばいい、悪いときには払わなくてもいいというわけにはいかないのです。

人間は感情の動物ですから、従業員の気持ちがどういうふうに揺れ動いていくかということが分かり、読める。つまり経営者は、素晴らしい心理学者でなければなりません。しかし、それは難しい。

稲盛和夫述・稲盛ライブラリー編『経営のこころ 会社を伸ばすリーダーシップ』(PHP研究所)
稲盛和夫述・稲盛ライブラリー編『経営のこころ 会社を伸ばすリーダーシップ』(PHP研究所)

ですから、人を評価するにはルールを決めておけばいちばん楽ですが、それよりも本当に心血を注いで従業員を見ていくことです。私は、部門別会議などをいっぱいやって、いろんな意見を言い合います。

また、それを離れて、今度はコンパをして一緒に飲み、従業員の言動を見聞きするなかで、「こいつはしっかりしているな」「こいつはチャランポランやな」「会議ではいっぱしのことを言うけれども、人間としてはダメだな」とか、そうしたことを全部見抜いていって、最終的な評価になっていくのです。

幹部社員にも、「こういうルールに従って部下を評価しなさい」ではなくて、「おまえは自分の部下をどこまで見ているか」と言っています。それが結局は、人を評価する決め手になると思うのです。

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稲盛 和夫(いなもり・かずお)
京セラ名誉会長
1932年、鹿児島県生まれ。55年京都の碍子メーカーである松風工業に就職し、ファインセラミックの研究に邁進。59年、27歳のときに、京都セラミック株式会社(現・京セラ)を設立。通信自由化を受けて、84年に日本初の異業種参入電気通信事業者となる第二電電企画(現・KDDI)を設立。2010年には民事再生法の適用となった日本航空(JAL)の会長に就任。無給で再建に尽力し、12年に再上場を果たす。

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(京セラ名誉会長 稲盛 和夫)

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