「どんな凡人でも実行できる」稲盛和夫が考える"必ず成功する"判断の方程式
プレジデントオンライン / 2021年12月31日 12時15分
※本稿は、稲盛和夫述・稲盛ライブラリー編『経営のこころ 会社を伸ばすリーダーシップ』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■自分に都合のいいことは、周りに都合の悪いことかもしれない
部下から相談があったり、仕事をどう進めようかと考えたりと、経営者は物事を判断していかなければなりません。判断をするときに、ともすると我々は直感的に考えて判断します。しかし、トレーニングされていない人間が直感的に判断する場合、だいたい本能で考えています。
本能とは、我々の心の中に備わった基本的なもので、肉体を持つ自分自身を守るために与えられた心です。ですから本能という心は、自分が有利になるようにすべて物事を考え、行動します。
つまり利他の心、人によかれという心とは対極的です。これは肉体を持っている自分を守るために神様が与えてくれたものであり、善い悪いという問題ではありません。
直感的に判断すると、どうしても本能で考えます。自分の会社に都合がいいか悪いか、自分の会社が儲かるか儲からないかというように、全部、自分に都合がいいかどうかで判断しようとするわけです。これは普通、経営者が皆やっていることです。
ところが、自分自身に都合がいいということで判断すれば、自分にとってはいいかもしれないが、周囲の人には都合が悪いかもしれません。
■相手の立場に立って判断する行為は損なのか
極端な例を挙げると、世間の相場を知らない相手が、あるものを相場よりも高い値段で買うと言う。その無知につけ込んで、「本人が買うと言うのだから、いいではないか。こちらもたいへん儲かる、いい商売だ」と売ってしまうということがあります。
相手が損をするのが見えているのに、「本人がいいと言うのだから売ればいい」と、自分の利益だけを考える。あとで必ず相手は困ります。
本能だけで考えて商売をした場合、自分に都合がいいかもしれない、自分は儲かるかもしれないが、周囲の人に損をさせたり、問題を引き起こすかもしれない。そういうケースがいくらでもあるわけです。
しかし利他の心で判断すると、相手のことを考えるわけですから、「ウチは儲かるかもしれないが、相手は今、知らないからこの値で買うと言っているだけだ。あとで必ず困られるはずだ」となって、「こんなに高い値段で買ってはいけません。私もリーズナブルな値段でお売りしますから、このくらいでお買いにならなきゃダメですよ」と言ってあげるはずです。
これは損をしたように見えますが、損ではないのです。相手の立場に立って利他の心で判断するという行為は、その恩恵が巡り巡って必ず自分にも返ってくるはずです。
■リーダーにとって最高の判断基準となるのが「利他の心」
「京セラフィロソフィ」では「自分を犠牲にしても他の人を助けてあげようとする心が利他の心だ」といっていますが、利他の心をもって判断基準にするのは経営者だけではありません。政治家でも、学校の先生でも、リーダーにとって利他の心は最高の判断基準なのです。
とはいえ、本当に利他の心で判断できるのは、悟りをひらいた聖者、聖人だけです。ですから私は、「利他の心で」と言っていますけれども、実際は私自身、まだまだナマクラで中途半端であることを承知で言っているわけです。
利他の心の究極の境地は、悟りの境地です。悟りの境地をひらくような修行をしてこられた人が判断される際の基準なのです。
そういう最高レベルの判断基準を持っていると、よく見えるのです。悟りをひらいた素晴らしい人に相談をした場合、「それはやってもいいと思いますよ」「いや、それはやめておきなさい」と簡単に言われますが、本当に偉い人には全部見えているのです。
自分だけよければいいという本能だけの人たちが、巷にはうごめいています。勝った負けた、取った取られた、儲かった儲からなかったと、もう血みどろの戦いをやっています。
そういう姿を、一段高い利他の心で見ると、本人は正しい判断をしたつもりでも、つまずくのが見えるのです。「そっちに行ったらこける」「そこでケガをする」ということが見えるわけです。
■悟り得ない凡人が身につけるべき「思考の方法」
利他の心で考えれば、「そっちではなくてこっちだろう。そっちには溝があるやないか。溝に落ちるやないか」と見えるのですが、本人には見えていない。アスファルトに見えて、デコボコの畦道より歩きやすいと思う。そして溝に足を踏み入れて、ドボンと落ちてしまう。欲でもって見ているから、そうなるのです。
修行をしていない我々凡人は、「利他の心で判断せよ」と言われてもチンプンカンプンで、分からないわけです。すぐにまた「儲かるか、儲からないか」で考えてしまいます。それでは何にもなりませんから、一つ方法を教えます。
物事を考えなければならないとき、例えばこれを買うか買わないか、これを売るか売らないか、頼まれたことをするかしないか、というようなことを考えるとき、「よし、これをやろう」とフッと思う。それは全部、本能から出てきたものなので、最初に出てきたその思いに、ひと呼吸入れるのです。
その思いを一度、横に置いて、「ちょっと待てよ。俺が儲かるか儲からないかではなく、相手にとっていいか悪いかで考えてみよう」と、ワンクッション入れる。そして、「自分にもいいけれど、相手にとっても悪くない。相手も喜んでくれる」となったときに判断を下す。
そうしないと、どうしても自分に都合がいい話にポンと乗ってしまって、相手にたいへんな不利益を被らせかねません。
利他の心は悟りの境地、最高の判断基準です。我々は悟ってなどいませんから、利他の心で判断しようと思っても、なかなかできるものではありません。
ですから必ず、「いいな」と思った瞬間、「ちょっと待て」と自分を抑える。そして「相手にとってはどうだろうか」と考えて、「相手にとってもいい」と確信したときに結論を出す。思考のプロセスにそういう回路を入れておくことがたいへん大事だと思います。いくら人間ができていなくても、習慣をつけさえすれば、それはできるはずです。
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京セラ名誉会長
1932年、鹿児島県生まれ。55年京都の碍子メーカーである松風工業に就職し、ファインセラミックの研究に邁進。59年、27歳のときに、京都セラミック株式会社(現・京セラ)を設立。通信自由化を受けて、84年に日本初の異業種参入電気通信事業者となる第二電電企画(現・KDDI)を設立。2010年には民事再生法の適用となった日本航空(JAL)の会長に就任。無給で再建に尽力し、12年に再上場を果たす。
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(京セラ名誉会長 稲盛 和夫)
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