「言葉よりも気持ちが伝わる」お客の心を一発で掴んでしまう銀座ママの"ある仕草"
プレジデントオンライン / 2021年12月29日 11時15分
※本稿は、伊藤由美『銀座のママが教えてくれる「会話上手」になれる本』(ワニブックスPLUS新書)の一部を再編集したものです。
■身体のリアクションだけでも意図は伝わる
外国人、とくに欧米人の方とお話しするときにいつも思うのは、みなさん表現力がとても豊かだということ。驚いたら大きく目を見張ってのけぞり、納得すれば深く大きくうなずき、恥ずかしければ手で顔を覆い、主張したいことがあれば手を大きく広げてアピールする――。
会話のトーンもそうなのですが、やはり日本人と大きく違うのは、会話に常に「身振り手振り」やジェスチャーが伴っている点です。歴史のなかで異なる民族との接触が多い民族ほど、ジェスチャーによるコミュニケーションが多いと聞いたことがあります。言葉が通じないから身振り手振りで意思疎通を図るしかなかったということでしょう。
日本人が会話のなかで身振り手振りをあまりしないのは、シャイな国民性に加えて、島国で異民族との接触が極端に少なかったという民族的な理由があるのかもしれません。事の真偽はともかくとして、他者と深くコミュニケーションを取るには、言葉だけより「身体」での表現が伴うほうがより効果的なのは間違いないでしょう。その分、こちらの意図を伝えるための情報が増えるのですから。
身体は口ほどに会話する、ということ。相手の話に対して、言葉だけでなく身体でも反応する。ときには、言葉がなくても、身体のリアクションだけでこちらの意図がしっかり伝わることもあります。
■基本的なリアクションは3つ
先に申し上げたように日本人にはいまだに、会話におけるジェスチャーや身振り手振りが苦手な人が多いようです。何も外国人と同じレベルを追求する必要はありません。まずは基本パターンを覚えて、会話のときに意識して身体を動かすような「体話」を心がけましょう。
相手に気持ちよく話してもらうための身体のリアクション、そのもっとも基本となるのは次の3つでしょう。
①うなずく
②身を乗り出す
③のけぞる
どれもシンプルで簡単なものばかり。というか、誰でも無意識にこうした行動をとっているはずです。でも意識していないがゆえに動きが不明確になり、相手に伝わっていないだけです。だからこそ相手に伝えることを意識して身体を動かすことが大事です。
意識したら逆に動けなくなるという不安もあるでしょう。でも普段、何気なくやっていることを意識してやるだけですから、できないはずがありません。動く、動かないは「慣れ」の問題。実践しているうちに自然に身体がスムーズに反応するようになります。
私も銀座デビュー当初は緊張してしまい、お客さまとの会話では言葉以上に身体が動きませんでした。でも数多くの接客経験を積み重ねることで、少しずつ言葉と身体のリアクションの“妙”を身につけてきたのです。
■うなずくことで「もっと話したい」と思わせられる
品がなく見えるほど動くのはやりすぎですが、相手が気づかないほどこぢんまりした動きでは意味がありません。「少し大げさかも」と思うくらいがベストです。
①うなずく(確認、共感、納得)――「きちんと話を聞いています」のサイン
もっともシンプルで、なおかつポジティブなポテンシャルが非常に高い身体のリアクションが「うなずく」という動きです。首を縦に振るのが同意や共感の「YES」を伝える動作なのは全世界共通。聞き手がうなずくことで話し手は自然に心を開き、「もっと話したい」という意欲も高まります。
また、「うん、うん」とうなずく行為は、「大丈夫、私はあなたの話を聞いていますよ」という確認のサインでもあります。その気持ちが伝わると、話し手は内なる承認欲求(認めてもらいたい欲求)が満たされ、「話していてもいいんだ」という安心感を覚えます。その結果、気持ちよく話を続けることができるのです。
■言葉を重ねるよりも深くうなずいたほうが効果的な場合も
さらに私がお客さまとの会話で心がけているのは、うなずきにメリハリをつけるということ。お客さまのお話には必ず、「ああ、これがいちばん伝えたいところだな」という核心部分があります。
それまでは軽めの相づちや普通のうなずきで聞きながら、まさにその核心部分にきたときに、より深く、強く、ゆっくりとうなずくんです。そうすることでお客さまに「そうそう、ここが話の“肝(きも)”なんだよ」「由美ママ、大事なところをちゃんとわかっているじゃないか」と感じていただけるんですね。
おもしろいもので、あれこれ言葉を重ねるより、真剣な表情で無言のまま深くうなずくだけのほうが「話を理解している」という説得力が増すこともあるんです。聞き手がうなずき、それを受けて話し手もうなずく。目を見てうなずきあうだけで、お互いが話の核心を共有できたことが伝わる。
これも身体のリアクションだけで通じる心地よいコミュニケーションの完成型のひとつです。
■身を乗り出すことで「ポジティブな空気感」を作り出せる
②身を乗り出す(関心、促し)――「もっと聞きたい」のサイン
「その話、もっと聞きたいです」という気持ちをもっとも端的に表す身体のリアクションが「身を乗り出す」という動作です。
人は興味や関心があるものに対しては、心も身体も“前のめり”になるものなのですね。逆に言えば、前のめりの姿勢になることで、話し手に「自分の話に乗ってきてくれた」「関心を示してくれた」という印象を与えることができるということ。そう思ってもらえたらしめたもの。会話は相手のリードで気持ちよく進んでいくことでしょう。
前のめり、身を乗り出すような前傾姿勢はポジティブな心理状態の表れでもあります。極端なことを言えば、「会話が広がりそうな、ポジティブな場の空気感」とは会話の内容というより、聞く側の姿勢によってつくり出されるものでもあるのです。
また、聞き手が身を乗り出すことでたかだか数センチとはいえ、物理的にも相手との距離が近くなります。これは話の内容に興味があることに加えて、話し手本人に対しても好意、好感、親近感を持っていることの表れにもなります。彼氏や彼女、憧れの先輩、尊敬する上司など、自分が好きな人の話を聞くとき、人は自然と相手に近づこうとするもの。
身を乗り出すというリアクションは、興味や関心に加えて、好意や親近感を示すサインでもあるのです。
■のけぞるリアクションは小さくてもいい
③のけぞる(驚き、感嘆)――「本当ですか! びっくりしました」のサイン
身体を前に乗り出すのは興味や関心を示す動作になりますが、その逆で身体を後ろにのけぞらせると、それは「驚き」や「感嘆」を表現するサインになります。ただ、そんなに大げさにのけぞる必要はありません。
「え、そうなんですか」「あ、なるほど」というタイミングに合わせて、上半身を少しだけ後ろに傾けるくらいで十分です。このとき「はっ」と息を呑むようにすると自然な感じに。そのあと身体を戻してから再び身を乗り出し、「それで?」とさらに先を促す。
これだけのちょっとした動作で、相手の“話す気”はぐんと高まります。
小さくても身体のリアクションを交えることで、「自分はその話がおもしろくて引き込まれている」という印象を与えることができます。話をする側は、心のどこかで「この話、おもしろいかな」「つまらないと思われていないかな」という不安を抱えているもの。
それに対して、身体を使って目に見えるように驚きや感嘆のリアクションを示せば、話し手は自分の話に手応えを感じ、その不安も解消されるでしょう。相手を「もっと話して大丈夫」という気持ちにさせる。これもリアクションによる心遣いなのですね。
■おもしろい話の主導権を握っているのは聞き手側
会話を楽しく、ポジティブに盛り上げるためのリアクションとして欠かせないのが、「笑う」という反応です。
そんなに上手なジョークなど言えない、ウケる話などできないという人もいるでしょう。でも、それでかまいません。ここで申し上げているのは、あくまでも「リアクション」です。つまり、相手を笑わせるのではなく、相手の話を聞いたこちらが笑うということ。自分が「笑う」のはそう難しいことではありませんよね。
ジョークを言うとき、その人は大なり小なり「スベッたらどうしよう」「ウケなかったらカッコ悪い」という不安とリスクを背負っています。そこで、「何それ、寒っ」「全っ然、おもしろくない」「はぁ?」などと反応されようものなら、一気に失意のどん底に突き落とされてしまうでしょう。
話が本当におもしろければ、爆笑すればいい。でも、たとえ相手のジョークがイマイチでも、シラケて黙り込んだりせずにウケてあげる、笑ってあげる。相手がリスクを冒して投げてきたボールをスルーしない。それは会話における大人の礼儀だと思うのです。
おもしろい話というのは、話し手ではなく聞き手が主導権を持ってつくり出すものだと思います。「アハハ、それ、おもしろい」「ハハハ、うまいこと言いますね」聞き手が笑えば、話し手も気分がよくなります。笑いを共有することで、場の空気が軽くなります。笑うというリアクションは、それだけで会話に楽しさという弾みをつけてくれます。
ですから、多少ジョークがつまらなくても、笑顔で反応してあげましょう。
■スベッているオヤジギャグへの対処法
ただ、問題は相手が「スベる」リスクを感じていない、自分ではウケると思い込んでいるジョーク――そう、オヤジギャグへの対応です。
優しさからウケたフリをしたら、調子に乗ってつまらないダジャレを連発されたという“悲劇”をよく耳にします。そんなとき、私がよくするリアクションのフレーズをお教えしましょう。
それは「またですか~(笑)」「あ、でましたね~(笑)」「あら、絶好調ですね~(笑)」「もう~、勘弁してくださいよ(笑)」といったニュアンスの言葉です。「おもしろい」とか、「ウケる」とはひと言も言っていません。
むしろ「また始まった」というニュアンスのほうが強いでしょう。「絶好調」もその9割方は皮肉でできています。「勘弁してください」に至っては、その意味合いは「やめてください」と同じ拒絶の言葉です。でもストレートに拒絶していないだけソフトな印象になりますよね。
そしてここでも重要なのは、「(笑)」の部分。気を遣って爆笑する必要はありませんが(相手を調子に乗せるだけ)、軽く笑みを浮かべて言うのがポイントです。同じ拒絶するにしても真顔や仏頂面でスルーされるより、笑顔があったほうが相手だって悪い気はしないはず。
笑うというリアクション、笑顔での反応は、大人のコミュニケーション、会話の基本です。
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銀座「クラブ由美」オーナー
東京生まれの名古屋育ち。18歳で単身上京。1983年4月、23歳でオーナーママとして「クラブ由美」を開店。以来、“銀座の超一流クラブ”として政治家や財界人など名だたるVIPたちからの絶大な支持を得て現在に至る。本業の傍ら、「公益社団法人動物環境・福祉協会Eva」の理事として動物愛護活動を続ける。
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(銀座「クラブ由美」オーナー 伊藤 由美)
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