3位は貫地谷しほり、2位は水川あさみ、1位は…国内ドラマ「2021年俳優ランキング」女性部門ベスト10
プレジデントオンライン / 2021年12月26日 12時15分
■ヒロインの配役に地殻変動が起きた2021年
2021年の国内ドラマ(地上波、BS、WOWOW、Netflix、Amazonプライム)を視聴した中で、俳優の演技を勝手にランキングにしてみた。
男性部門ベスト10、女性部門ベスト10、さらには男女混合のワースト10を全3回でお届けする。
若手で出演数が少なくても、ハッとさせて心奪う芝居をみせた俳優には「新人賞」を。ランキング外だが、演じた役≒本人という残像と強烈な印象を残した俳優には「特別功労賞」を。男女それぞれで選定している。
数字や数値の根拠は一切ナシ。すべては観たときの興奮と感動の度合いで、偏向はなはだしく超主観的であるため、あしからず。今回は女優部門。
そもそも話をひとつ。「大手事務所による民放連ドラのヒロイン当番制」に疑問があった。多少の変動はあるものの、「ホリプロ、オスカー、アミューズで順繰りに」という謎の不文律が数年続いている。要は「綾瀬はるかと石原さとみと深田恭子と吉高由里子で日本のドラマを回す」みたいなことよ。
ただし、今年は百花繚乱というか、地殻変動が起きた。
最も飛躍したのは間違いなく江口のりこ(所属事務所:株式会社ノックアウト)だ。話題作『その女、ジルバ』(フジテレビ系)、『俺の家の話』『ドラゴン桜』(TBS系)の出演だけにあらず。『ソロ活女子のススメ』(テレビ東京系)と『SUPER RICH』(フジテレビ系)の2作で主演を務めた。
女優起用の幅を広げることに大賛成。どんどん広げてほしいという願いもこめて、まずは10位から。
■絶妙なキャスティングに演技で答えた7~10位
10位 石橋菜津美『夫のちんぽが入らない』(フジテレビ系)
ドタバタでもドロドロでもなく、淡々と「入らない」苦悩をつづる役に、石橋の佇まいがしっくりハマった。特性は、純粋と達観の同居。純粋な女をやみくもに演じれば阿呆に見える。達観した女を下手に演じると、はすっぱに見える。純粋だが男性が望むようなウブではない、達観しているが潔くはない。この同居の妙が作品の精度を上げた。
9位 黒木華『イチケイのカラス』(フジテレビ系)、『僕の姉ちゃん』(Amazon Prime先行配信、テレビ東京系で2021年から放送開始)
8位 松たか子『大豆田とわ子と三人の元夫』(関西テレビ系)
![大豆田とわ子と三人の元夫](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/7/670/img_67f94752fffec8cd4f49d68062c6bfd9554163.jpg)
黒木と松の役どころには共通項がある。ポイントは「わきまえない女の説得力」。
いずれも知的で聡明な女の役だが、ちょうどいい加減の辛辣を装備。声に出して言うか言わないかは別として、常に心は理論武装。
理不尽な要求を笑顔でいなす社会人のお作法もわきまえてはいるが、女としてはむしろわきまえない。一見ほわわんとした柔らかい印象だが、このふたりの演じる役には快哉を叫ぶことが多かった。
7位 松岡茉優『生きるとか死ぬとか父親とか』(テレビ東京系)
主役・蒲原トキコを演じた吉田羊もめちゃくちゃ素敵だったが、ドラマの後半でトキコの若き日を演じた松岡が印象に強く残っている。
羊は羊で、寛容を装うことができる成熟と達観の年代を演じ、松岡は父親に対する怒りや許せない気持ちを抑えきれない年代を熱演。いいバトンだったなぁ……とつくづく思う。
■社会や固定概念と闘う女性を演じるならこの女優
同性なので、女優にはやや理想や願望を押し付けてしまう。
ゆるふわで人畜無害で何でも笑って許してしまう女性よりも、わきまえない女や黙っちゃいない女、したたかな女に惹かれる傾向がある。
また、理不尽な思いをしている女性が声を上げたり、自分の足で一歩前に踏み出すシーンや、苦難をのりこえて成長していく姿も大好物。ということで、6位からはこちら。
6位 渡辺真起子『半径5メートル』(NHK)、『コールドケース3』(WOWOW)
静かで深い憤りと言えば渡辺。特に虐げられてきた女性の心情を、冷静を保ちながら吐露する場面にいつも感銘を受ける。怒りが肌にまで伝わってくる。
『半径5メートル』(第8話)では非正規雇用で理不尽な目に遭ってきた女性の役、『コールドケース3』(第6話)では、女性の味方が皆無の社会に憤りを感じ、被害者にある示唆を与えた元警官役。
どちらも閉鎖的で前近代的な男社会に絶望している。絶望した先の行動にこそ違いはあったが、怒りの火種は胸の奥でくすぶり続けている、そんな心情を見事に表現していた。
『TOKYO MER』(TBS系)では策士な厚生労働大臣役を演じたが、闘う相手が個人ではなく、社会や世間や固定観念のほうがグッと魅力を増す気もする。
■フジテレビ系列、テレビ東京のドラマに良作が多かった
5位 中村ゆり『ただ離婚してないだけ』(テレビ東京系)
夫(北山宏光)が自分の不倫相手(萩原みのり)をうっかり殺してしまい、尻拭いをする妻の役。
尻拭いどころか完全に手綱を握る強さ。恐怖と罪悪感が消え、スイッチが入った瞬間の凄みったらもう!
いくつもの修羅場を越えて、タイトルの意味がわかる最終回まで、2度、いや3度、中村は変化していくのが見ものだ。
4位 広瀬アリス『知ってるワイフ』(フジテレビ系)
![『知ってるワイフ』](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/5/670/img_85c94eda9e0506e44d19a9b552ad6726513611.jpg)
家庭運営に非協力的で無神経な夫に対する怒りが絶品。
全国の妻・母たちから共感と賛同の嵐だった。怒りだけでなく、愛が一方通行という悲しみも伝わってきた。時間を行きつ戻りつする物語の中、女子高生から独身時代、出産後までを緩急つけて演じた点も評価したい。
ちょっと振り返ってみると、フジ系とテレ東の作品が多い。多すぎる。
キャスティングのセンスがいいのか、ドラマの中で描く女性像が心地いいのか。
男性部門は圧倒的にNHKが多かった。要するに「刑事・警察・医者」というド定番は、男社会過多であまり好きではないってことだ。
ただ、『相棒』(テレビ朝日系)では昨年、捜査一課に女性レギュラーが初めて配属された。元白バイ隊の篠原ゆき子には、ぜひもっと見せ場を作ってほしい。なんなら右京さんの新相棒は女性でもいいと思っている。ということで、ベスト3を。
■今年は貫地谷しほりの当たり年だった
3位 貫地谷しほり『顔だけ先生』(東海テレビ系)、『珈琲いかがでしょう』『神様のカルテ』(テレビ東京系)
貫地谷は今年当たり年。貫地谷イヤーだ。
『顔だけ先生』で魅せたコメディ筋肉は絶品で、八嶋智人と見せた掛け合いは高速もちつきのような快感。推しを語る姿は熱く、ファン心理の本質をがっつり掴む。
![貫地谷しほり](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/b/500/img_eb030bdb68f5fb25ca70511404a1489c268688.jpg)
逆に『珈琲いかがでしょう』では、気が付いたらベージュの衣類ばかり選んでしまう無難で没個性な女。自然体で女のリアリティを訴える技術たるや。
『神様のカルテ』では入院を拒む末期がん患者役。幼い娘を残して死に向かう無念と覚悟を決めたまなざしは、涙を誘った。お涙頂戴の病気モノは好みではないが、貫地谷だと涙腺は確実にゆるむよねぇ。
2位 水川あさみ『ナイルパーチの女子会』(BSテレビ東京)
いいとこのお嬢さんでエリートだが、女友達との距離を病的なくらいに詰めすぎる厄介な女を演じた。お気楽主婦ブロガー(山田真歩)の抜け感に執着し、次第に支配と管理を始める役どころ。
表情やしぐさには「近寄りたくない」ヤバさがある。独善的なのに悪気はない、常軌を逸しているのに正当性を主張。美人で賢くて裕福なのにとても不憫。恵まれた環境を羨ましいと思わせないのが水川のすごいところ。
眼球の動きで不穏な精神状態を表現。ぞわぞわした。
■全国の四十女を震わせた池脇千鶴の名演技
1位 池脇千鶴『その女、ジルバ』(東海テレビ系)
水商売の世界にうっかり足を踏み入れたが、自己肯定感を高めてくれる熟女たちとの出会いによって、四十女の鬱屈がどんどん取っ払われていく様を生々しく見せてくれた。THE共感。全国の四十女が震えた瞬間。無防備な泣き顔もいい。
![『その女、ジルバ』](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/e/670/img_beb0fce0518a3b6a4973eb77fac6966e692151.jpg)
もともと池脇は無敵の可愛らしさと演技に定評があったものの、ここ10年は寡作の人だ。「かわいらしさに潜む狂気」や「何気ない日常を見せるうまさ」は映画で活きる、と半ば諦めていたが、この作品で改めて世の中のニーズを確認。
常日頃「あー、これが池脇千鶴だったらなぁ……」と思う役が実に多いので、ドラマにもっと出てほしい願いも込めて1位に。
そして、新人賞は湯川ひな『FM999』(WOWOW)。
女子高生の憂うつを淡々と(主にパジャマ姿で)演じた。これくらい自然体でそっけないって稀有。
特別功労賞は桃井かおり『緊急取調室』(テレビ朝日系)。
50年の潜伏を経てハイジャック事件を起こした活動家役。迫力と物悲しさは無二の存在。久々の桃井姐さん、1・2話の登場で、シーズン4全体をガッと牽引した功労者だ。
ここに挙げなくとも称賛されるべき俳優はたくさんいる。来年もねちねちと視聴して、名優たちの一瞬の輝きを脳裏に焼き付けたい。
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ライター
1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より東京新聞の放送芸能欄のコラム「風向計」の連載開始。テレビ「週刊フジテレビ批評」「Live News イット!」(ともにフジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。
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(ライター 吉田 潮)
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