「まだお酒が入っているのに」銀座ママが空いていないグラスにもお酌をする"納得の理由"
プレジデントオンライン / 2021年12月30日 11時15分
※本稿は、伊藤由美『銀座のママが教えてくれる「会話上手」になれる本』(ワニブックスPLUS新書)の一部を再編集したものです。
■3人以上で話していると孤立する人が出てくる
2人でする会話は、お互いが「話し手」と「聞き手」の役割を交代しながら進んでいきます。2人しかいないのですから、両者は必ずどちらかの役割を担って会話に参加することになります。でもこれが3人以上集まって交わす会話になると、いろいろと状況が変わってきます。
そこで起こり得るのが、話し手にも聞き手にもなれず、役割を持たないまま会話に入れない人が出てくるというケースです。そうした状況で求められるのは、会話に参加している人ひとりひとりが、誰かを孤立させない気配りをするということです。
最小単位の3人のケースで考えてみましょう。2人でのキャッチボールでは必ずお互いにボールが回りますが、3人でのキャッチボールでは、3人が意識して平等に投げる相手を切り替えないと、ひとりだけ全然ボールが来ない人ができてしまいます。
会話に置き換えると、3人が「話す」と「聞く」を適度に交代し合っているときはいいのですが、ひとたびバランスが崩れると、「話す」と「聞く」に加えて、「その2人を傍観する」という立場が生まれてしまうんですね。例えば、Aさん、Bさん、Cさんの3人が話していて、ふとしたことからAさんとBさんはゴルフが趣味、Cさんはゴルフをしないことがわかったとしましょう。
B「いやあ、行きたいのは山々だけど、週末の出勤が多くてね」
C「......」
A「私もたまに打ちっぱなしに行く程度。下手になっちゃっただろうな」
B「もう身体が覚えてるから、すぐ思い出すでしょ」
C「......」
A「だといいんですけど――。今度、いっしょに回りませんか」
B「いいですね。じゃあ、LINE交換しときましょうか」
話題を共有できるAさんとBさんで盛り上がり、Cさんだけが「傍観者」になって置いてけぼりになっています。すでにこの会話のバランスは崩れかけていると言えるでしょう。
■「蚊帳の外」をつくらないようにすべき
瞬間的にこうした状態になることはよくあります。ただ、このバランスのまま延々と会話が続いていくと、Cさんを孤立させてしまいます。AさんやBさんに悪気がないことはわかります。ただ、このとき「この会話にはもうひとり、ゴルフをしない人がいる」ことに意識を回せるかどうか。それが「孤立させない気配り」ができるかどうかになるのです。
ある程度2人でやりとりしたら、AさんかBさんどちらかが、「Cさんはゴルフ、始めないんですか」「何か他のスポーツやってるんですか」と、Cさんに話題を投げかければいいのです。すると、例えば
A「先週の○△オープン、観ました? いい試合でしたよね」
B「ですよね。まさか、プレーオフになるとは思わなかった」
C「テニスを少々。でも、この歳になると、なかなか上達はしませんね」
A「そうですか。今、大坂なおみ選手がすごいですよね」
C「ええ、試合の中継、全部観ちゃいましたよ」
B「これで、テニス人口がまた増えそうですよね」
と、Cさんも参加することができて、会話のバランスが修正されていきます。
気配りと言っても難しいことはありません。会話のバランスの偏りに注意すること。偏りに気づいたらすぐに修正すること。つまり、「ひとりぼっち」をつくらないこと。「ひとりぼっち」を放っておかないことです。
ここではたまたま3人のケースを例に挙げましたが、4人、5人と会話の人数が増えていっても同じことです。大勢で盛り上がっているときこそ気配り目配りをして、「蚊帳の外」の人をつくらない配慮をする。2人だろうと、3人だろうと、もっと大勢だろうと、気持ちよく会話をするために必要なのはやはり、人としてのやさしさと思いやりなのですね。
■お酌をすることで孤立状態から救い出すことができる
会話のバランスをいち早く察知して話に入れずに蚊帳の外にいる人に話を向ける。こうした目配りは、お酒の席での“ある行為”に通じるものがあるように思います。そのある行為とは何か。グラスが空いている人がいたら、「まあ、一杯」とお酒を注ぐ――お酌です。
やれお酒の強要だ、女性蔑視だ、パワハラだと、何かと否定的に見られがちな日本のお酌文化ですが、本来のお酌には、こうした周囲への気配り、目配りを欠かさないという日本人のよき伝統とメンタリティが込められていると思うのです。
例えば、立食パーティーなどで周囲の話に入れず、ぽつねんと立ち尽くしている人に、「○○さん。グラス空いてるじゃないですか」とお酒を注ぎながら声をかけることで、孤立状態から救い出すことだってできます。
お酒を注ぐこと以上に、話に入る糸口をもたらすのがお酌の役割でもあるのです。テーブルで会話から外れてしまったお客さまがいらっしゃったときは、すかさず「お酒、おつくりしましょうか」――私たちはそう心がけています。たとえまだグラスが空いていなくても声をかけます。そうすることが、そのお客さまを会話の流れに呼び戻すキッカケになるからです。
もちろんセクハラもパワハラも許されませんが、孤立しそうな人への気遣いという意味での「本来のお酌」の心得には、社会人として学ぶべきものがあると思うのです。
■お客さんの名前を忘れたときにどうすればいいか
名前はその人にとって特別なもので、人は名前を呼ばれると「認められた」と感じて気分がよくなります。
ただ、その名前がどうしても思い出せない、街でばったり会って「久しぶり」と声をかけられても、その人の名前が出てこない。親しげに話しかけられて仕方なく、名前がわからないまま探りながら、あいまいな会話でごまかして冷や汗をかいた――こうした経験は誰にでもあると思います。
「クラブ由美」のお客さまにも、目の前の商談相手の名前が出てこなくて難儀した、部下の名前を間違えてがっかりされたといったエピソードをお持ちの方が少なくありません。私は仕事柄、名前を覚えることがおもてなしのひとつとの思いで、かつては3000人のお客さまのお顔とお名前、1500件余りの電話番号を記憶していました。
今も名前を忘れてまったく出てこないということはないのですが、それでも一瞬「あれ?」となることはたまにあります。名前が出てこないと、もう会話どころではなくなってしまいます。焦れば焦るほど記憶の扉は固く閉ざされてしまうもの。
皮肉なことに、何とかやり過ごしてホッと安堵した途端、「あ、△△企画の○○さんだった!」と思い出しても後の祭り――。名前は、呼んでもらえると嬉しいけれど、逆に忘れられていることで受けるショックも大きいもの。名前を覚えてもらえないのは、「自分に興味がない」のだろうと思われ、相手を傷つけてしまいます。それでも出てこなくなるのが「ど忘れ」。
こうした事態に遭遇したときには、どう対処するのがいいのでしょうか。
■名前を忘れたことを伝えて素直に謝罪するのが一番いい
やはり、「どちらさまでしたっけ?」と聞くのは相手に失礼になるからと、思い出せないままごまかしてやり過ごす人が多いと思います。
でも、何かの拍子に「忘れたまま話を合わせている」ことがバレてしまったときの気まずさを考えたら、やはりごまかすのは得策ではないでしょう。ひとつの作戦として、もう一度名刺をもらうという方法はあります。このとき、ただもらうのではなく「交換」するほうがいいでしょう。
「新しい名刺をお渡ししていなかったので、改めて交換させていただいてもよろしいですか?」
こちらから渡すついでに名刺をいただく。そうすれば「名刺をなくした」と言うより失礼にならず、スムーズに名刺をいただいて名前を確認できるでしょう。渡す名刺は新しくなくてもかまいません。「じゃあ、すでにお渡ししていたんですね、うっかりしてました」でクリアできます。
ただ、相手から名刺を持っていないと言われたら、この方法は通用しません。そう考えると、策を弄(ろう)して聞き出そうとするより、正直に「大変失礼ですが、お名前を失念してしまいました。どちらさまでしょうか?」と聞き直してしまったほうが格段に潔いと言えます。
そうしたときにはどうしても「五十を過ぎると物忘れが増えてしまって――」「お酒の飲みすぎで――」などと軽いエクスキューズを入れたくなるもの。でも、それが許されるキャラクターの人ならともかく、多くの場合は苦しい言い訳にしかなりません。忘れていることをごまかすことは、謝罪して素直に聞き直すことよりもはるかに失礼です。
聞くなら、きちんと詫びて聞き直す。下手に取り繕うよりも、このほうがダメージは小さくて済むでしょう。
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銀座「クラブ由美」オーナー
東京生まれの名古屋育ち。18歳で単身上京。1983年4月、23歳でオーナーママとして「クラブ由美」を開店。以来、“銀座の超一流クラブ”として政治家や財界人など名だたるVIPたちからの絶大な支持を得て現在に至る。本業の傍ら、「公益社団法人動物環境・福祉協会Eva」の理事として動物愛護活動を続ける。
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(銀座「クラブ由美」オーナー 伊藤 由美)
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