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1年目から年収1000万円…「シロウト店長」でも稼げるワークマンのスゴい仕組み

プレジデントオンライン / 2022年1月4日 12時15分

ワークマン 三田店(写真=Mti/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons)

ワークマンにはフランチャイズ制度のほかに、「店長候補社員」という、店舗運営ノウハウを学ぶための社員研修制度がある。店長として店を引き継ぐと、1年目から年収1000万円を超えるケースも多いという。一体どのような仕組みなのか――。

※本稿は、土屋哲雄『ホワイトフランチャイズ』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■年収1000万円超えも狙える「店長候補社員」

ワークマンには「店長候補(契約)社員」を募集する制度がある。

最長2年間、契約社員として直営店などで店舗運営のノウハウを学んだのちに加盟する流れになり、その際には基本的に優良店を引き継ぐことになる。そのため加盟初年度から1000万円以上の年収となる公算も大きい。

2014年に始まったこの制度の一期生3人のうちのひとりが周東慶和さん(45歳)だ。約1年間の研修後、埼玉県のワークマン新座野火止店の店長になっている。この店舗は当時、約2億円の売上げがあった全国でもトップクラスの優良店だった。

周東さんは振り返る。

「それまでは運送業界に長くいたんですが、管理職になって経営にも興味をもつようになっていたんです。そういうなかでこの募集があるのを知って応募しました」

20代のときにもワークマンの経営に興味をもったことがあったそうだが、そのときは応募にまではいたらなかった。それから10年以上が経ち、まもなく40歳になるというタイミングで決断したわけだ。

■審査が通ることに不安はあったが…

「この頃はふたり目の子が生まれたばかりだったんですけど、ワークマンを選んだ不安はなかったですね。ブームの前でも、手堅い商売という印象があったからです。運送業界にいた頃から客の立場でお店は利用していました。不安といえば、審査が通るかということと、それまでとは畑違いの仕事になるのでやっていけるのかということのほうでした。でもまあ、まだ若いから、採ってもらえたならなんとかなるだろうという感覚でしたね」

募集段階では全国各地の直営店舗で経験を積むことになっていたが、周東さんの場合は最初から新座野火止店の研修に入った。

自分でも「家族がいるので、全国というより関東の店舗を回ることになるのではないか」と考えていたそうだ。その予想は当たったどころではなかった。結果的には新座野火止店しか知らないまま店長になっている。

「同期はみんな独身だったので、やっぱり、あっちこっちの店舗に行ってました。いろんなところで仕事ができるということで、うらやましく感じるところもあったんですけど、ずっと同じ店舗になった自分もよかったと思っています。

1年間、当時のマネージャーから教えてもらえることになったのもありがたかったですね。そのマネージャーはいま、本部の重要なポジションに就いてるんですが、当時は、こういう人がマネージャーになっている会社ってすごいな、というふうに感じていました。このときの新座野火止店には社員が3人くらいいたので、いろいろな話や意見が聞けて、その点でも勉強になりました」

■研修店舗の野火止店を引き継いだ理由

研修期間中は契約社員としての給料制になる。周東さんの場合、「前職に比べれば収入は落ちたけれど、生活には何の問題もない額だった」と話している。

2021年時点のおよその基準でいえば、30代で配偶者がいれば、手当込みで研修期間の年収は550万円ほどになる。

「契約社員でいる期間は最長2年間ということでしたが、1年後に“加盟してはどうか”という話になったんです。自分としては、このまま野火止店を引き継げればいいな、とは思っていたんです。自宅から近くて、売上げが高く、パートさんやお客さんとの関係も良くなっていたからです。実際にそうなったんだから嬉しかったですね」

この制度では、どの店舗を引き継ぐかは、本人とも相談のうえ決めることになっている。希望が通ることもあれば、希望に添えないこともあるが、基本的に売上げ1.5億円以上ある優良店のなかから選ばれる。

安全靴
写真=iStock.com/fcafotodigital
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fcafotodigital

■誰もが必ず加盟できるわけではない

「同期みんなが集められて、『候補としてはこれらの店舗がありますが、加盟はどうですか』みたいな話があったんです。僕に限らず、みんなが納得のいく店舗の店長になれたように思います」

実をいうと、一期生のうちひとりはワークマン側の判断によって加盟が見送られている。研修期間中の態度に問題があったからだ。店長候補社員になれば、必ず店舗を任されるわけではないということだ。

加盟時に保証金や開店手数料、加盟金が必要となるのは通常どおりだ。ただし、すでに研修を受けているので研修費は免除される。

新規オープン店の場合、夢がある一方、少なからず不安をかかえることになるのに対し、最初から売上げ1.5億円以上の実績がある店舗のオーナーになれるのは大きい。売上げを落とさなければ高収入を見込みやすい。

■店内在庫を買い取るワークマンのシステム

年収については店長の考え方によっても左右される部分である。

ワークマンでは店内在庫をオーナーが買い取るシステムを取っている。店をやめるときには在庫が買い戻されるので“積み立て預金”のようなものだと考えてもいい。平均的な在庫の総額は原価で約2240万円(店舗での販売価格で約3500万円)となる。

買取り金を本部から借り入れた場合、金利の支払いは別にして、元本の返済をどうしていくかは本人次第だ。できるだけ早く返済したいと考えるか、ゆっくり返済していこうと考えるか。それによっても月々に手にできる金額は変わってくる。周東さんがどうだったかといえば……。

「僕は買取り金の返済もそれなりの早さで進めていったんです。やめるときには店内在庫を買い戻してくれるので、返済が済んでいれば、まとまった額を受け取れますよね。会社勤めの感覚でいうなら、退職金がわりのようにもなるといえます。僕の場合は銀行に返済していく方法に変えていて、いまもできるだけ早く返せるようにとがんばっています。うちより売上げが低くても、店長の収入が多い店もあるようなので、そのあたりも含めての考え方次第なんでしょうね」

■年収も働き方も「自分で決める」

「人件費もそうです。ある程度、人件費を使っても、いい売り場を維持していきたいという考え方です。そのほうが長い目で見たアベレージは高くなるんじゃないかなと思っているからです。

店長ひとりでがんばって、なんでもかんでもやりますってところは実入りがいいかもしれないけど、体を壊してしまうことだってあるかもしれない。そこら辺のバランスを自分で選べるというのはありがたいことだと思っています。僕にしても、今現在でいえば、ちょっと働きすぎになっているところがあるんですよ。うちにいたスタッフが一人、独立して別の店舗に加盟したので、その分を埋めていく必要があるからなんです」

休みをあまり取らず、長時間働きがちな店長もたしかにいる。しかし、そういう店長たちも、自分たちの労働環境がブラックだとは感じていない場合が多いようだと話してみると、周東さんも頷いた。

■小売業なのに休みの取り方も自由

「それはきっとそうでしょうね。サラリーマンの人が、ひとりで店をやれって言われたら、ん? ってなるでしょうけど。僕たち店長は、何かに縛られているわけではないですから。ちゃんと店を開けてちゃんと閉めて、任せられる人がいたら任せちゃうのもありだし、僕自身、そっちのほうが合ってる気がしています。繁忙期とか勝負時になったら店にカンヅメになって売り場をつくったりすることもあるんですけど、逆に閑散期もあるのでバランスを取りながらやってる感じです」

現在、周東さんは毎週日曜に休みを取るようにしている。野火止店もやはり日曜日に一般客が増えるが、平日に比べて、仕入れの処理などのオペレーションがシンプルになるのでスタッフに任せやすいからだという。

「連休を取りたいと思うなら、その分、人を入れればいいだけですからね。決められていることより、自分で決められることのほうが多いというのはやっぱりいいですよ」

■“専業”を条件に法人化も認められている

加盟当時、新座野火止店の売上げは約2億円あった。年収として2000万円に達していたかといえば、「そこまではいかなかった」という。それもやはり人件費や店内在庫の返済金などを多めにとっていたからなのだろう。

デスクトップで電卓
写真=iStock.com/marchmeena29
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/marchmeena29

はっきりとした数字は口にしにくいとしても、現在の収入はどうなのだろうか? たとえば同じくらいの年代のサラリーマンと比較するとしたなら……。

「おそらく平均額よりは上だと思います。一概に言いにくいのは、うちの場合は加盟した2年後に法人化したからでもあるんです。法人化する店長も多いようですが、法人化すると、個人の収入にするか、会社に残すようにするかという考え方によってもずいぶん手取り額は違ってきます。僕はどちらかというと会社に残しておきたいタイプなんです。そのかわり、必要な部分は経費から出せるようにしているので、車にかかるお金や携帯電話の料金なんかはそこから出せています」

店舗の運営を法人化するパターンは実際に少なくない。ワークマンとしては、最初から法人として加盟することは認めていないが、加盟後一定の条件を満たしていれば“ワークマンの専業”を条件に法人化を認めているのだ。

■近隣店舗へのライバル意識はあるのか

新座野火止店の売上げは、加盟後半年ほどはかなり好調だった。ただし、この地域ではワークマンを2店舗増やしたこともあり、その後はいったん売上げが落ちてしまった。

それでも周東さんは、新規2店舗の店長とも良好な関係を築きながら、売上げを回復している。

「売上げはいま、いいときと同じくらいにまで戻せています。それができたのはブームのおかげだとも思っています。売上げが落ちていた時期はけっこう長かったので、どこまで落ちるかなという不安はありましたけど、その頃に支えてくれていたのは常連さんだったので、常連さんはこれからもずっと大事にしていきたいと思っていますね」

同期の店舗と売上げの比較などはするのだろうか?

「よく話はするんで、だいたいの感じはわかっています。引き継いだ時点ではうちの店の売上げがいちばんよかったんですが、その後、同期のふたりはすごく売上げを伸ばしていって、逆転されました(笑)。ライバル意識ですか? それはまったくないですね。同期に対しては仲間意識しかなくて、何かあったら協力するようにしています。ひとりは僕と同じ年で、ひとりは僕たちより若いですけど、話していると、ふたりとも僕よりずっと優秀だな、と感じますね」

■店長候補社員制度はワークマンドリーム?

あらためて店長候補社員制度を振り返ってみてどうか。この制度に応募したことが正解だったと振り返られるだろうか?

「最初から安定した経営ができるというのは大きいですよね。どんな業種であれ、売上げがどうなるかもまったくわからない店をイチから自分でやっていくリスクは大きいし、コロナ禍であればなおさらそうだと思うんです。この制度はもともと“繁盛店を譲ります”というニュアンスだったんですから、なかなかない機会だとは思いました」

安心感のある独立というのは、たしかに普通は難しい。店長になったあとにも売上げを伸ばしていければ収入はさらにあがっていくのだからまさに“ワークマンドリーム”だ。

周東さんは、この制度に応募して研修を受けていた段階から「自分の選択が正解だという確信があった」とも話している。

「店長候補社員は教育部に配属されるかたちで、教育部の人たちや当時のマネージャーにいろいろ教えてもらって、本当に恵まれていたと思っています。お世話になっているなかで、時間が経てば経つほど確信が強まっていった感じでした。僕を採ってくれた人事部と、育ててくれた教育部、それにマネージャーの平野さん。この人たちには心の底から感謝しています。僕には小売りの経験がなかったのに、イチから基礎を教えてくれたんですからね。1年間ですべては吸収しきれなかったんですけど、すごく勉強になりました」

■求めるのは“乾いたスポンジ”のような人

周東さんがこれほど感謝しているという平野マネージャーとは現在の営業本部長だ。

土屋哲雄『ホワイトフランチャイズ』(KADOKAWA)
土屋哲雄『ホワイトフランチャイズ』(KADOKAWA)

念のため、平野本部長にも周東さんの言葉を伝えてみたのだが……。

「当時は担当SVとして他の店舗と同じ巡回をしていたので、そこまで言っていただけるとかえって恐縮しちゃいます。当時の周東さんには店長候補社員の一期生としてのプレッシャーがあったと思うんです。自分たち一期生がダメならこの制度自体がダメになってしまうという思いのなかで必死にやられていました。たとえるなら、乾いたスポンジじゃないですけど、いろんなことを吸収する力が強い人だという印象です。

人事部が周東さんを採用したのは、そういったところを見抜いていたからだと思います。新しいことに挑戦するとき“吸収力”はとても強力な武器になりますから。担当を外れるときに冗談で、『本当に困ったときには、3回まで直接連絡してきてもいいですよ』と言ったのに、一度も連絡してきたことがないんです。周東さんに聞いてみたら『もったいなくて使えない』って言ってましたけど、私は一期生としての誇りがあるんだと思っています」

乾いたスポンジというのはうってつけの表現かもしれない。ワークマンはそういう人材を欲し、そういう人材が夢を掴みやすくなるシステムを考え続けている。

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土屋 哲雄(つちや・てつお)
ワークマン専務取締役
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役など30年以上の商社勤務を経て2012年、ワークマンに入社。プロ顧客をターゲットとする作業服専門店に「エクセル経営」を持ち込んで社内改革。一般客向けに企画したアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」が大ヒットし、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」大賞、会社として「2019年度ポーター賞」を受賞。著書に『ホワイトフランチャイズ』(KADOKAWA)がある。

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(ワークマン専務取締役 土屋 哲雄)

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