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「小学校1年生の運動会は一度だけ」小児科医が語るコロナ禍で犠牲になった"成長の機会"の大きさ

プレジデントオンライン / 2022年1月12日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/7maru

新型コロナウイルスは、子供たちの生活に大きな影響を与えた。行事の中止や縮小もその一つだ。小児科医の森戸やすみさんは「子供たちはさまざまな体験の機会を失ってしまった。子供の感染の7割は家庭内感染のため、まずは大人が対策をしてほしい」という――。

■現段階では子供が重症化することは少ない

新型コロナウイルス感染症が話題の的になって久しく、そろそろ「新型」というほどは新しくなくなってきましたね。そして、この2年の間にわかってきたことがあります。次々と変異株は出ているものの、現段階で子供は重症化することが少ないということです。

日本では今まで、新型コロナウイルスによって、20歳以下で亡くなった人はいません。コロナウイルスが猛威を振るっているアメリカでも、小児の入院や死亡率は低くそれぞれ5.2%、0.04%でした(日本小児科学会「小児の新型コロナウイルス感染症の診療に関連した論文|公益社団法人 日本小児科学会 JAPAN PEDIATRIC SOCIETY」)。イギリスも18歳未満の死亡は200万人に1人です(BBCニュース「新型ウイルスによる子供の死亡、極めてまれ 200万人に1人=英研究」)。若い人、特に子供だと、感染しても無症状のままである場合も多いのです。

その理由は推測にすぎませんが、子供は新型コロナウイルスに対する感受性(※かかりやすさのこと)が低いからだといわれています。コロナウイルスは、その表面上にある突起がヒトの細胞膜上にあるACE2受容体にくっつくことによって、体内に入り込みます。子供は、このACE2受容体の遺伝子がまだ十分に働いていないから、感染者が少ないと考えられているのです。

■「対策は必要ない」とは言い切れない

ただし、リスクがないわけではありません。特に基礎疾患(持病)がある場合は重症化しやすいのです。ごく稀にしかない子供の死亡例は、ほとんどが基礎疾患のある場合でした。また、新型コロナウイルス感染症にかかってしまったら1歳未満は具合が悪くなりやすいですし、今後出てくる変異株によっては「子供は絶対に重症化したり亡くなったりしないから、対策は必要ない」と言い切ってしまうのでは認識が甘いでしょう。

2021年夏の日本の第5波は特に若い人にも感染が広がり、20代でも入院治療を必要とする感染者は1万人を超えました。現在までに20代だけで25人が亡くなっています(厚生労働省「データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-」) 。

今話題となっているオミクロンは、比較的軽症で終わるのではないかと言われていますが、これはウイルス変異が原因の特性なのか、世界中で新型コロナウイルスワクチンを受けている人が多いことが原因なのかなど詳しいことはわかっていません。これからオミクロン株が多くの子供に感染した場合、どのようになるかは不明です。

■一般の人と医療者では「重症化」の認識が違う

そして重症ではなくて、軽症や中等症であればいいとも言えないでしょう。実際にかかってしまったら、どうなるかは誰にもわかりませんし、ひとくちに「重症化」といっても、その意味は一般の人と医療者が考えるものとで、ずいぶん乖離(かいり)しています。

Twitterで話題になったアメリカの内科専門医・安川康介先生の作った画像(図表1)がわかりやすいですね。中等症と言っても、多くの人にとっては今まで経験したことがないくらい苦しいようです。重症は亡くなることがあるくらい症状が重い状態です。軽症なら酸素投与は必要ないかもしれませんが、よく眠れないくらい苦しくなることがあります。「うちの子は10代だから軽く済むはず」と考えていたとしても、想像していたよりも、ずっとつらい目にあうかもしれません。

ツイート時の画像を安井先生がさらにわかりやすくしたもの
画像提供=安川康介先生
ツイート時の画像を安川先生がさらにわかりやすくしたもの - 画像提供=安川康介先生

それに感染する人の母数が増えると、若くても重症化したり、亡くなったりする人が増えるのです。また、たとえ無事に治ったとしても、後遺症として嗅覚や味覚がないままになったり、毛髪が脱けたり、あちこち調子が悪い不定愁訴に悩まされたりといったことも十分にあり得ます。さらには、若い人や子供が新型コロナウイルスに感染した場合の、より長期的な予後はわかっていません。

■子供にはその年齢で学んでおきたいことがある

一方で、子供は大人とは違って、その年齢に学んでおきたいこと、経験しておいたほうがよいことがたくさんあるものです。ところが、新型コロナウイルス感染症蔓延防止のために、保育園や幼稚園、学校がお休みになったり、夏休みが延長されたりしました。

今のところ、日本は休校期間が短くて済んでいますが、世界では2021年7月現在でもほぼ半数の国が、200日以上学校を閉鎖しています(Yahooニュース個人「コロナによる学校閉鎖:世界中の3分の1の子供がリモート学習できない ユニセフが報告」)。人数にすると世界中で6億人です。世界銀行によると、このように子供が学校に行けない、リモート学習を受けられないことは長期的にみると、10兆ドルの損失になると推計しています。教育危機です。

日本でも2020年に多くの学校が閉鎖しました。オンライン授業の体制が整っていない学校が多かったこと、保育園・幼稚園はオンラインでの登園ができないことなどが大きな問題になりましたが、今後も同様のことが起こりうるでしょう。

■「小学校1年生の運動会」は一生に一度

それ以降も、行事が中止になったり、縮小されたり、延期になったりしました。普段の学習も大切ですが、さまざまな体験から学ぶ子供たちには行事なども必要です。あえて言うまでもなく「小学校1年生の運動会」というのは一生に一度しかありません。

例えば、東京都では運動会の規模が縮小されたり、修学旅行が日帰りのバス遠足になってしまったりした学校がたくさんあります。感染状況によっては仕方のないことですが、修学旅行に行けないまま卒業したり、あるいは留学の予定がなくなったりしてしまった子供たちは体験の機会を失ったことになりますし、とても残念に思っていることでしょう。

コロナ禍に限らず、災害が起こると犠牲にされがちなのが弱者である子供たちです。私は日々、小児科診療をしていますし、幼稚園や小学校での健診もしています。子供たちはとても素直に大人の言うことを守るのです。WHOはマスクを適切に着けられない5歳以下は着けなくてもいいと言っていますが、2歳でも自分からマスクをするんだといって喉の状態を診せてもらうとき以外はすぐにマスクを着ける子もいます。手洗いをしっかりしてあかぎれになっている子もいます。本来、できるはずだったいろいろなイベントを我慢して、感染予防に努める子供たちのために大人がしっかりするべきだと思います。

洗面所で手を洗う少女
写真=iStock.com/kohei_hara
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kohei_hara

■「保護者からウイルスをもらう」ことが圧倒的に多い

新型コロナウイルスに感染した子供の7割が家族内感染……、つまり子供は保護者からウイルスをもらうことが圧倒的に多いのです(日本小児科学会「新型コロナウイルス感染症の流行拡大から子供の生活を守りましょう」)。大人たちは気が緩んで大人数で会合や旅行をし、子供たちには手洗いとマスクを厳しくやらせて、あらゆる行事が自粛のままというようなことになったらアンバランスでしょう。

まずは大人が感染対策を徹底してください。マスクと手洗いの徹底はもちろん、感染者が増えてきたらより三密を避けましょう。大人にもう一つできることは、子供を守るためにも、ワクチンをきちんと接種しておくことです。間もなく大人のワクチン接種3回目が始まりますが、大人がしっかり受けた上で、子供への接種を考えたほうがいいでしょう。

■早ければ2022年2月から、5~11歳の接種が可能に

以前もお伝えしたように、子供が新型コロナワクチンを接種する場合もメリットはあります(「子供にコロナワクチンを打っていいのか」迷う人に現役小児科医が伝えているたった一つのこと)。日本では現在、12歳以上でないと接種できませんが、早ければ2022年2月から5〜11歳の新型コロナワクチンの接種が始まります。今のところファイザー・ビオンテック社のものだけで、大人と違って1回の量は0.2ml、間隔は未定ですが2回接種の予定です。

ただ、一方で本人や家族に持病のない子供のワクチン接種に関してはメリットが少ないと考えている感染症の専門家、小児科医もいます。そして、発熱などの副反応が増えたり、失神の原因となる血管迷走神経反射(緊張やストレスにより一時的に血圧・脈拍が低下する)が起こったりしやすい可能性があるため、大人のように対象者全員に接種券を配って「必ず受けましょう」というのは違うのではないかという考えもあります。

予防接種を受ける女性
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

■ワクチン接種での心筋炎は、コロナ感染時の心筋炎よりも少ない

そのほか、子供が新型コロナウイルスワクチンを打つ際の注意点としては、副反応として、わずかながら心筋炎の危険性があることです。ファイザー・ビオンテック社やモデルナ社の報告では、思春期の若い男性に多く見られるようです。心筋炎の頻度は12~24歳の男性では100万回接種あたり50~60人程度、女性は4~8人程度です(厚生労働省新型コロナワクチンQ&A「Qワクチンを接種すると心筋炎や心膜炎になる人がいるというのは本当ですか。」)。

ほとんどの症例は、軽症です。症状は、胸の痛みや違和感、息切れなどで、ワクチン接種から4日以内に出ることが多いので、その間は激しい運動をしないようにしましょう。でも、実際に新型コロナウイルスに感染してしまったとき、合併症としての心筋炎の発症は、100万人あたり男性で923人、女性で702人で、このうち10〜29歳男性だと100万人あたり893人だったという報告があります(日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会「新型コロナワクチン接種後の心筋炎関連事象について~小児科医への情報提供」)。

ということは、ワクチン接種後の副反応としての心筋炎は新型コロナ感染後よりもとても少なく、かかってしまうよりワクチンを接種したほうがいいと考えられます。

■判断はケース・バイ・ケースになってしまうのが現状

ですから、子供の新型コロナワクチンの接種に関しては、流行の状況、本人や家族の持病の有無、高齢者と接する頻度、価値観などによって個々が選択することになるだろうと思います。新型コロナウイルスが流行している地域(海外)に行く場合、移動が多い場合、受験や大会などがある場合は受けておいたほうが安心かもしれません。……と、このように言われると、迷われる保護者の方も多いでしょうから、本当は厚生労働省や小児科学会が指針を出してくれるといいだろうと思います。

ちなみに私の子供は12歳以上なので二人とも既に新型コロナワクチンを接種していますが、例えば6歳だったとしても私はワクチン接種が可能になれば接種させます。万が一にも新型コロナウイルスに感染して重症化してほしくないから、また誰かにうつしてほしくないからです。

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森戸 やすみ(もりと・やすみ)
小児科専門医
1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。

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(小児科専門医 森戸 やすみ)

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