「年中行事のただの茶番劇」なぜアメリカでデフォルト騒ぎが頻繁に起こるのか
プレジデントオンライン / 2021年12月31日 11時15分
■米国債は発行額に上限がある
アメリカでは何年かに一度「デフォルト危機」が起こります。デフォルトとは「債務不履行」、つまり国債で借りた金が返せない、金利が支払えない、といったことで、ふつうは経済的に困窮している発展途上国や敗戦国で起こります。それが、なぜ世界一の経済大国であるアメリカで起こるのか。しかも頻繁に。答えは、アメリカ独特の「債務上限問題」にあります。
実はアメリカ政府が発行する国債には、法律で「発行額の上限」が設定されています。アメリカは経済規模が大きいだけに政府支出も大きく、税収だけでは年間予算が足りません。そこで日本同様、国債発行による借金で、不足分をまかなっています。つまりアメリカは、毎年国債を発行することで、公務員の給与や社会保障費を捻出しているのです。
ということは、もしも何らかの理由で国債発行額を増やす必要が出た場合、アメリカでは「発行額の上限拡大」をしなければなりませんが、それには法改正か新法制定、つまり議会の同意が必要です。そしてアメリカでは「議会と大統領の“ねじれ現象”(大統領は民主党、議会過半数は共和党、みたいな形)」がわりと頻繁に起こり、そういうときには議会側が大統領とのかけ引きの道具として、この債務上限への同意を持ち出すのです。つまり「大統領、もしもあなたがわれわれ共和党の要求を聞いてくれないなら、われわれは上限引き上げには同意しませんよ」ということです。
もしも議会の同意が得られなかったら大変です。国債発行による新たな借金ができなくなったアメリカは、各種支払いも滞り、本当にデフォルトしてしまいます。
■米国債がデフォルトしたら日本はバブル崩壊直後に戻る
ではここで、もし米国債のデフォルトが本当に起こったらどうなるか考えてみましょう。まずアメリカ国内では、国家公務員への給与が支払えなくなり、政府機関の一部は閉鎖、職員は自宅待機となるでしょう。さらに、社会保障も一部機能しなくなります。
でも本当に怖いのは、世界経済への影響です。おそらく米国債がデフォルトすれば、1929年の世界恐慌や2008年のリーマン・ショックに匹敵するほどの、グローバルな金融危機に発展してしまうでしょう。まず米国債は投げ売られ、利回りは急激に上がります。「米国債の利回りが急上昇する」なんて景気のいい話に聞こえますが、逆です。結論だけ言うと、国債利回りの上昇とは「国債価格の暴落」を意味します。そうなると当然、米国債の格付けも下がり、ますます売りが加速するでしょう。
ちなみに米国債の大量保有国は、1位が中国、2位が日本ですが、おそらく中国は、米国債がデフォルトしたら、一気に売りに出る気がします。なぜなら中国は、ゆくゆくは人民元をドルに代わる国際通貨に押し上げたがっていますから、短期的な損得を度外視してでも、米ドルの地位が揺らぐことをしてくる可能性があるからです。しかし日本は、アメリカとの関係性でがんじがらめになり、結局売れない。すると、どうなるか? 日本は、とてつもない額の「不良債権」を抱えることになります。
こうなると、誰もアメリカを買い支えなくなるため、国債安だけにとどまらず、ドル安・株安まで合わさった、いわゆる「トリプル安」が進行します。そしてドルが下がれば、次に来るのは「超円高」。これは日本の輸出産業に大きなダメージとなります。このように、多額の不良債権に超円高が重なれば、これはもうバブル崩壊直後の1990年代半ばと同じ。つまり日本は、あの深刻な不況期に逆戻りする可能性が高いのです。
■アメリカのデフォルト危機はお祭り騒ぎ
と、いろいろ想像してみましたが、実際のところ、米国債がデフォルトする確率は「ほぼ0%」といっていいでしょう。そもそも米国債のデフォルト問題は、途上国や敗戦国でよくある「金がなくて返せません」ではなく、「議会に足止め食らって、余力はあるけど新規の借金ができません」ですから逆にいうと、議会の許可さえもらえれば回避できます。そして議会も、大統領とのかけ引きなどという、つまらない理由のために国家に壊滅的なダメージを与える気などないですし、そもそも共和党支持者は富裕層が多い。わざわざアメリカが損をするデフォルトを、本気で選択するはずがありません。
つまり米国債のデフォルト問題とは、腹にダイナマイトを巻きつけた犯人が、死ぬ気もないのに「近づくとスイッチを押すぞ!」と脅しているようなものです。一見緊迫した状況ですが、本気でスイッチを押す気など、これっぽっちもありません。だから皆さんも、新聞やネットニュースで「アメリカのデフォルト危機、迫る」という見出しを見かけたら、「おー、今年もやってるやってる」くらいに受け流しておけばいいのです。
■ほとんどの国がデフォルトを経験ずみ
アメリカのデフォルト騒動が、ただの茶番劇・年中行事なのはわかりました。では実際、過去にデフォルトに陥った国はあるのでしょうか。
あります。というより、ほぼすべての国がデフォルトを経験しています。『国家は破綻する―金融危機の800年』(カーメン・M・ラインハート/ケネス・S・ロゴフ)という本によると、この地球上で過去に財政破綻を起こしていない国は、なんとアフリカのモーリシャスだけなのだそうです。ということは、それ以外の国は、過去に大なり小なり何らかのデフォルトを経験しているのです。ただその多くは“対内的”な債務不履行、つまり「ちょっと恥ずかしいローカルニュース」程度の扱いのため、伝わってこないだけのようです。
しかし、それが“対外的”な債務不履行になると、さすがに他国にも伝わりますし、しかも調べてみると、その回数は、私の想像以上でした。
たとえばスペインは過去14回(うち13回は20世紀より前)もデフォルトしている「デフォルト界のレジェンド」ですし、現在進行形の「生きた伝説」ならアルゼンチンの9回(すべて20世紀以降)が挙げられます。
そのほか、19~20世紀初頭という「戦争+大恐慌」の時期には、ヨーロッパをはじめとする多くの国でデフォルトが起きていますし、第一次世界大戦直後のドイツは、ハイパーインフレと天文学的な賠償金(GDPの20年分を請求されました)でデフォルト、第二次世界大戦後の日本だって、事実上のデフォルト状態です。
また1980年代の中南米累積債務危機時にはラテンアメリカ16カ国、1990年代末のアジア通貨危機時にはタイ、インドネシア、韓国、同時期のロシア通貨危機ではロシアもデフォルトしています。さらに21世紀に入ってからも、記憶に残るものだけでも2015年ギリシャ通貨危機時のギリシャ、2001年・2014年・2020年のアルゼンチン(さすがです)などがデフォルトしています。
これらを見る限り、結局デフォルトは、私たちが思っているほど珍しい現象ではなく、デフォルトがあったからといって国が亡ぶわけでもないということです。でも、それを耳にすることが少ないのは、主要国のデフォルトが少なく、ニュース性が低いからでしょうね。
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代々木ゼミナール公民科講師
「現代社会」「政治・経済」「倫理」を指導。3科目のすべての授業が「代ゼミサテライン(衛星放送授業)」として全国に配信。日常生活にまで落とし込んだ解説のおもしろさで人気。『経済学の名著50冊が1冊でざっと学べる』(KADOKAWA)など著書多数。
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(代々木ゼミナール公民科講師 蔭山 克秀)
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