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「生き残るにはそうするしかない」フランスのマクロン大統領が"自民党化"を急ぐワケ

プレジデントオンライン / 2022年1月2日 9時15分

2021年12月17日、ベルギーのブリュッセルにあるEU本部で、欧州連合(EU)首脳会議後にドイツのオラフ・ショルツ首相と共同記者会見に臨むフランスのエマニュエル・マクロン大統領 - 写真=SPUTNIK/時事通信フォト

■2022年はフランスの国政選挙に注目

2021年のヨーロッパ政治の最大の注目点はドイツの総選挙だった。4期16年を務めたメルケル首相が率いる保守連合(Union,キリスト教民主同盟と同社会同盟の連合)が惨敗し、中道左派の社会民主党(SPD)を首班とする新政権が成立した。

有権者はメルケル首相の片腕として活躍したSPDのショルツ氏をその正当な後継者に選んだわけだ。

続く2022年のヨーロッパ政治の最大の注目点は、フランスの国政選挙にほかならない。フランスでは4月に大統領選が、続いて6月には総選挙が行われる。フランスでは、大統領選も総選挙も「二回投票制」で行われることに特徴がある。

仕組みはそれぞれで異なるが、死票を防ぎ幅広い支持に基づく政治家を選出しようという意図があるわけだ。

大統領選は4月10日に一回目の投票が行われ、そこで選出された上位2名の候補による決選投票が24日に行われる。現職のマクロン大統領はまだ出馬を表明していないが、もちろん再選を目指すはずだ。

そのマクロン大統領の最大のライバルに急浮上したのが、中道右派の名門、共和党から出馬するバレリー・ペクレス氏その人である。

イル・ド・フランス地域圏議会の議長を務めるバレリー・ペクレス氏は、自らの3分の1はサッチャー元英首相、3分の2がメルケル独首相と表現し、ヨーロッパの卓越した女性政治家と照らし合わせる。

一部の世論調査はペクレス氏が決選投票に進んだ場合、マクロン大統領に勝利する展開を示唆しており、目下のところ最大のライバルだ。

■強いフランス路線を明確にするマクロン大統領

一方、前回の大統領選でマクロン氏に決選投票で敗れたマリーヌ・ルペン氏は、従来の過激な保守路線を現実主義的に転換したことにより、有権者の支持を失った。

その支持は反移民や反イスラームを公言してはばからないフィガロ紙の元記者、エリック・ゼムール氏に流れたが、政治的実績が皆無なこともあり彼の支持率はそこまで伸びていない。

かつてはルペン氏が、今はゼムール氏が過激な保守層の支持を集める。彼らの共通点は、反移民や反イスラームという「内向き志向」にある。

マクロン大統領もそうした民意に配慮し、来年前半に欧州連合(EU)の議長国を務めるに当たり、シェンゲン協定(検査なしで欧州内の国境を越えることを許す協定)を見直しする意向を示した。

それ以外にも、マクロン大統領は保守層に受けが良い政策の実現を強く訴えるようになっている。フランスの国策産業である原子力へのサポート強化などはその典型例だ。

就任当初のマクロン大統領は原発依存度の引き下げを主張していたが、今や脱炭素化の重要な手段として、そして重要な輸出産業として原子力を強化する方針に転じた。

そうしたマクロン大統領の姿は、フランスの伝統的な保守政治家そのものだ。国家介入主義(ディリジスム)やド・ゴール主義(ゴーリスム)にもつながる、フランスの保守層が好む伝統的な主義主張をマクロン大統領は展開する。

大統領選での勝利を見据え、保守層の有権者を取り込むための選挙戦術にマクロン大統領は打って出たのだろう。

■中道右派による「大きな政府」路線に転換へ

マクロン大統領は元々、中道左派である社会党出身のフランソワ・オランド前大統領の下で政治家としての道に入った。

「新しい中道」というキャッチフレーズを掲げて硬直的なフランス経済の体質改善を図ろうとしたマクロン大統領だったが、コロナ禍という特殊な環境もあり、労働市場を中心とする構造改革は志半ばで終わってしまった。

バレリー・ペクレス氏
セザール賞授賞式でのバレリー・ペクレス氏(写真=Georges Biard/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons)

マクロン大統領はいわば「小さな政府」路線を歩もうとしたわけだが、結局はフランス伝統の「大きな政府」路線に歩み寄った。

ライバルに躍り出た共和党のペクレス候補は公務員の削減を公約に掲げるが、それも程度の問題にすぎず、ド・ゴール大統領以来の中道右派政権が志向する成長に重きを置いた「大きな政府」路線が踏襲されるはずだ。

特別な醜聞でも生じない限り、大統領選の決選投票はマクロン大統領とペクレス氏で行われる公算が大きい。とはいえ、どちらが勝利しようと「大きな政府」の下で経済成長を目指すという戦略が目指されることになるとみる。

具体的には、自動車や通信などの基幹産業に対する介入や老朽化が目立つインフラの更新投資などが強化される見込みだ。

コロナ禍で財政赤字をGDPの3%以内とするEUの財政ルールが棚上げされたこと、脱炭素化・デジタル化にかなう公的支出が容認されたこと、EU復興基金からの資金配分が見込めることなど、財政拡張への追い風は強まる一方だ。

中道右派政権の下で、それを分配ではなく成長のために費やす時代に、フランスは突入することになるだろう。

なおマクロン大統領が勝利しても、中道の与党・共和国前進は議席を大きく減らしそうだ。代わって議席を積み増すと予想されるのが、中道右派の共和党である。

もちろん、ペクレス氏が大統領選で勝利すれば、共和党が第一党になる道が開ける。とはいえ単独過半数は難しく、いずれの候補が勝利してもハングパーラメントになる可能性が高い。

■生き残りをかけて自民党化するマクロン大統領

保革の立場を問わずに「大きな政府」を志向するというのはフランスの伝統だ。「小さな政府」を目指すと言って当選したマクロン大統領も、結局はそうしたフランスの伝統にのまれてしまった。

エッフェル塔空撮
写真=iStock.com/saiko3p
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/saiko3p

とはいえ、このタイミングで「大きな政府」の道を模索することはフランスの経済を考えるうえでは、あながち間違いではないのかもしれない。

なぜなら、フランスが志向する「大きな政府」路線は、EUが描く経済成長戦略と高い親和性を持つからだ。政府による強いイニシアチブがなければ、脱炭素化とデジタル化を両輪とするEUの経済成長戦略は実現不可能である。

フランスの「大きな政府」が先頭に立ってこの経済成長路線を実現できれば、EUでの指導力は確たるものになる。

他方で、そもそも「大きな政府」が民間の活力をそいできたからこそ、先進国を中心に各国で国営企業の民営化などを推進し、「小さな政府」の実現を模索してきた歴史的な事実もある。

フランスの新政権が経済的なパフォーマンスを残すことができなければ、結局のところフランスの対外的な評価は世界中で低下を余儀なくされるだろう。

日本でも近年、本来なら中道右派に属する自民党政権の下で「大きな政府」路線を強めている。その功罪はともかく、フランスの新政権と自民党政権の親和性は高そうだ。

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土田 陽介(つちだ・ようすけ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。

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(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員 土田 陽介)

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