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「別腹なのはデザートだけではない」飲み会後にシメのラーメンを食べたくなる"医学的な理由"

プレジデントオンライン / 2022年1月1日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hxyume

「デザートは別腹」というのは本当か。兵庫医科大学の三輪洋人主任教授は「別腹は医学的に証明されている。ただ、デザートだから別腹になるわけではなく、それまで食べていたもの以外の好物を見ると自然と胃がふくらむことが分かっている。シメのラーメンを食べたくなるもの同じ現象だ」という——。(第1回/全2回)

※本稿は、三輪洋人『胃は歳をとらない』(集英社新書)の一部を再編集したものです。

■消化にいい食材にはどんな特徴があるか

胃不調、胃疲労時に食べるとよい食材はあるのでしょうか。

実のところ、急性の胃痛、胃けいれんなどがあるときは、食欲はまったくなくて、水を飲むのもつらいでしょう。そんなときは1日3食ほどは絶食して安静にし、消化器官を休めるほうがいいのです。

受診すると医師にもそう指導されるはずです。調子がよくなってきて食欲が出てきたときは、下痢や腹痛の回復時同様に、とにかく消化がよくて酸性度が低く、つまりは刺激が少ない、牛乳やヨーグルトを少し温めたもの、おかゆ、軟らかいうどん、バナナ、リンゴなどを選びましょう。

「消化がよい」とは、「胃の中に滞留している時間が短い」ということです。それが胃にやさしいという理屈は、胃での滞留時間が短いと胃酸の分泌時間も短く、量は少なくなるため、胃に負担が少なく、また胃酸の逆流量も少なくなるということなのです。消化によい食材として、次のポイントごとに紹介します。

(1)キャベジンという成分を豊富に含む

キャベジン(メチルメチオニンスルホニウムクロライド)とは、胃の粘膜を修復する作用や胃酸の分泌を抑える作用などがある水溶性の化合物で、戦後にキャベツのしぼり汁から発見されたことからこの名前がついています。多くの胃腸の治療薬の成分として使われていて、同名の市販薬も知られています。

通称では「ビタミンU」とも呼ばれますが、実はビタミンの一種ではありません。ビタミンと同じような働きがあることからこう呼ばれています。キャベジンはキャベツ、レタス、ハクサイ、ブロッコリー、アスパラガス、カリフラワー、ナノハナ、トマトなどの野菜や青のりに豊富に含まれます。水溶性のため熱に弱い性質があり、熱すると流出します。温野菜として調理すると煮汁に溶け出るので、煮汁ごと飲みましょう。

■ダイコンには消化酵素が豊富に含まれている

(2)消化酵素を豊富に含む

胃や十二指腸、肝臓など消化器官からは、消化を促して栄養素に分解する消化酵素が分泌されています。その消化酵素が含まれる食材もいくつかあり、そうしたものを食べると胃での消化も促されて負担が軽くなります。次に挙げる消化酵素はどれも、胃の薬の成分にもなっています。

・脂肪分解酵素のリパーゼが豊富……ダイコン、セロリ、ホウレンソウ、ニンジン、イチゴ、スイカなど。
・タンパク質分解酵素のプロテアーゼが豊富……ダイコン、ゴーヤ、パパイア、ナシなど。
・デンプン分解酵素のジアスターゼが豊富……ダイコン、ヤマイモ、カブ、バナナ、キウイなど。

なお、リパーゼが豊富なオレンジ、プロテアーゼが豊富なタマネギ、ジアスターゼが豊富なショウガなど刺激が強い食材は、逆流性食道炎をはじめ、胃不調、胃疲労のときには不向きです。

ダイコン
写真=iStock.com/Yuuji
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yuuji

■ネバネバしている食材には胃の粘膜を守る作用がある

(3)胃の粘膜を保護する

胃腸の粘液の主な成分を「ムチン」といいます。ムチンのありようは胃の健康を維持するうえで重要です。豊富であるほうがいいのです。食品のうち、ネバネバしているものの成分もムチンであり、これは胃の粘膜を守る、タンパク質の消化吸収を助ける働きがあります。

胃不調の治療薬として医療機関で処方されることが多い「ムコスタ」には、ムチンの増加作用、粘膜修復作用があります。また、「アルギン酸」という海藻類のぬめりの成分は食物繊維の一種であり、ムチンと同様の作用があります。

アルギン酸ナトリウムが食道の粘膜修復と胃酸の逆流防止に効果があることは多くのエビデンスがあり、逆流性食道炎の治療薬のひとつのアルロイドGはこのアルギン酸ナトリウムの5%水溶液でもあります。

海藻のぬめり成分としては「フコイダン」というものもあり、薬理研究が進んでいるようです。近ごろでは便秘対策などのサプリメントや機能性食品としてよく見かけます。

・ムチンが豊富……ヤマイモ、サトイモ、オクラ、レンコン、ナメコなどネバネバしているもの。
・アルギン酸やフコイダンが豊富……ワカメ、モズク、メカブ、コンブ、ヒジキなどの海藻類。ただし、酢のものに調理するのは、酢は酸性度が高いため、胸やけや吞酸を引き起こすことがあるので避けてください。

■青魚の脂には胃酸の分泌を抑える作用がある

青魚のイワシ、サンマ、サバ、アジ、ブリ、カツオ、マグロなどが推奨されています。これらの青魚の油には、DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)、α-リノレン酸などの「オメガ3脂肪酸」が豊富に含まれています。

焼き魚
写真=iStock.com/marucyan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/marucyan

青魚の油が胃に好影響とは不思議に思われるかもしれませんが、胃酸の分泌を抑える作用があることが確かめられています。同時に、オメガ3脂肪酸が血液中の悪玉コレステロール(LDL)や中性脂肪を減らして善玉コレステロール(HDL)を増やす、つまり血液サラサラ効果など、ヒトの体と脳によいこともよく知られています。

ただし、患者さんの中には、「青魚は苦手なのですが……」という人もいます。その場合は無理に食べる必要はなく、白身魚でも有用です。ほかに消化によいタンパク質では、豆腐、ナットウ、卵、トリのササミ肉、トリのムネ肉、牛乳やヨーグルト、チーズも推奨されます。

とはいえ、いくら胃によいからといって、青魚だけや豆腐だけを食べるといった偏った食べ方ではなく、先に紹介した野菜とともに栄養のバランスが整うように組み合わせて変化をつけましょう。

■オリーブオイルは便秘にも逆流性食道炎にも効果がある

近年、食品の中でももっとも多く質問を受けるのは食用油についてです。「オリーブオイルは油なので胃にいいようには思わないのですが、本当にいいの?」といったことですが、はい、本当です。

オリーブオイルにはオレイン酸という胃腸の働きによい成分が豊富に含まれています。これが胃の滞留時間が短く、消化に時間がかからない、胃酸を分泌する時間が短く量が少ない、下部食道括約筋への影響も少ないため、逆流性食道炎の患者さんにも勧められます。

またオレイン酸は腸の蠕動(ぜんどう)運動を促す作用があり、便通をよくする作用もあります。便秘は胃を圧迫するため、とくに逆流性食道炎にとっては悪影響が大きいのですが、それを防ぐ食品と言われています。

さらに、青魚の油と同じく、悪玉コレステロールを抑え、善玉コレステロールを増やすことも知られています。一般の食用油は消化に時間がかかって胃酸分泌が増えます。そのため、その油を使った脂っこいおかずも胃に悪影響となるわけです。調理やドレッシングには、オリーブオイルを使いましょう。

■LG21乳酸菌が含まれているヨーグルトは胃の働きを助ける

医療の現場では、ヨーグルトについての質問も毎日のように受けています。「種類がたくさんあって選べない。胃のためにはどれを食べればいいの?」「ヨーグルトはどれぐらい食べるといいの?」「冷たいまま食べて胃腸に悪くない?」などさまざまです。

多くの研究者がそうした質問に明解な回答を出したくて、胃や腸にヨーグルトが与える影響について研究を進めてきました。最近、LG21というヨーグルトには、胃の蠕動運動を活発にする作用が認められたとの論文が発表されました(*1)

これは科学的な手法にもとづいた研究です。このヨーグルトが胸やけや胃の重苦しさなどの症状を改善することは以前から報告されていましたが(*2)、蠕動運動の促進と関連している可能性があります。前者の研究は、ラクトバチルス・ガセリ菌という乳酸菌株(LG21)の入ったヨーグルトと、入っていないヨーグルトの無作為化比較試験を経て結果を得ています。

また、LG21摂取群では、自律神経の不調の指標である唾液内のアミラーゼの濃度が低下したことも明らかになっています。このことはLG21が自律神経のパワーを強くし、胃の運動を活発にしている可能性を示唆しています。

また別の研究では、ピロリ菌の除菌の成功率を高めることなども報告されています。そのため、除菌治療の際に、LG21乳酸菌ヨーグルトの摂取を併用する医療機関もあります。すべてのヨーグルトの作用はわかりませんが、胃に関しては、LG21乳酸菌入りのものはよい影響があると言えるでしょう。

質問にあった、冷たい刺激が苦手な場合は、レンジで1分ほど温めてから毎日1個程度を食べるとよいでしょう。

(*1)Ohtsu T, et al. The effect of continuous intake of Lactobacillus gasseri OLL2716 on mild to moderate delayed gastric emptying: A randomized controlled study. Nutrients. 2021;13(6):1852.
(*2)Koga Y, et al. Probiotic L. gasseri strain (LG21) for the upper gastrointestinal tract acting through improvement of indigenous microbiota. BMJ Open Gastroenterol. 2019;6(1):e000314.

■「デザートは別腹」は医学的にも証明されている

おなかいっぱいに食事をしたあとでも、好物のデザートを見たらまた食べられる……スイーツが好きな人なら、「デザートは別腹」と言う人は多いでしょう。この「別腹」とはいったいどういう現象なのでしょうか。そのとき、胃はどうなっているのでしょうか。

ケーキを食べている人
写真=iStock.com/Milatas
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Milatas

結論から言って、デザートは別腹という現象は、医学的に本当のことです。食後に、それまでに食べた食品以外の好物を目にしたら、胃の上部(胃底部)にスペースができるのです。そうしてまた食べられるようになるのです。これは脳と胃の働きによって起こります。胃がふたつあるわけではなく、別腹と呼べる空間ができるということです。

そのとき、脳では何が起こっているのかを知っておきましょう。まず、食欲に関して、満腹や空腹を調節しているのは脳の視床下部(ししょうかぶ)という部分です。視床下部にある「摂食中枢」は、胃が空っぽになると「おなかがすいたから何かを食べよう」と指示を出します。

一方、「満腹中枢」は、胃が満杯になると「もうおなかがいっぱいになったから食事を終了しよう」と指示を出します。食欲は脳の働きによるわけです。食事をすると、満腹中枢が刺激されて満腹感を得ます。このとき、摂食中枢のほうは抑えられています。

ただしヒトの脳は複雑です。食欲は、食べものの風味、見た目、香り、またそのときの環境、気分、過去のおいしかった・まずかったという記憶などでも変化します。それに、ひとつのおかずだけを食べ続けたときには、実際には胃は満杯ではなくても、「このおかずはもういらない。もう満腹だ」と感覚的に判断するといった特異な満腹感が存在するとの研究報告もあります。

■デザートでなくても好物であれば胃は伸びてふくらむ

一方、メインのおかずでおなかがいっぱいになっても、まったく違う風味の好物のデザートが現れた場合、摂食中枢からオレキシンという摂食を促す物質が分泌されます。このとき胃は、内容物の消化を促進させて新たなスペースをつくることがわかっています。

「脳の働きで食欲に関する感覚的な反応が生じて、胃の状態が変化し、満腹であってもさらにデザートが食べられる」という現象にいたるわけです。小皿料理の食べ放題などでつい食べ過ぎる現象も、この脳の働きで説明ができます。目の前にずらりと違う風味の料理が並ぶと、「これは別腹」「あれも別腹」と脳が感知して食べられるようになるのです。

胃は食べものが入ってきたら、伸びてふくらみます。その動きも満腹中枢に伝えられて食欲は抑えられるのですが、好物に触れた場合は摂食中枢の作用のほうが上回ると考えられています。

ということは、甘いデザートではなくて、おかきやポテトチップスなどしょっぱい系のお菓子や、飲食のシメにラーメンやうどんを……というときでも同じ現象が起こるわけです。それまで食べたおかずと違う味わいで、好きな食べものなら起こりえます。

もうひとつ、好物と食欲の関係が影響しています。好物を食べると、脳では多幸感をもたらすといわれる「β(ベータ)-エンドルフィン」や、快楽の感情や意欲を駆り立てる「ドーパミン」という神経伝達物質が分泌されます。過去に好きなものを食べて気分が満たされた体験が、幸福感を得られるという記憶となって食欲を呼ぶわけです。

■「別腹は食べ過ぎサイン」と認識することが大切

この話を患者さんにすると、皆さん、「思い当たる」と言われます。そして、「『デザートは別腹』を我慢する方法はありますか」と聞かれます。

三輪洋人『胃は歳をとらない』(集英社新書)
三輪洋人『胃は歳をとらない』(集英社新書)

おなかいっぱいに食事をしたあとの「デザートやラーメンは別腹だから食べる」という行為は、胃もたれ、胸やけの苦しみのもとであり、また1食の適量を超えるカロリーオーバーとなるのは間違いありません。これを防ぐには、「デザートは別腹と思うのは、実は食べ過ぎのサインだ」という認識がポイントになります。

同時に、「本当にまだ食べる必要があるのか?」「あとで胸やけがするぞ」「後悔しないか?」と自問してください。それでも我慢は難しい、と思うこともあるでしょう。夜に飲み会や会食の予定がある場合は、「今日はデザートやシメのラーメンまで食べるかもしれない」と朝から想定しておき、朝食や昼食で少しカロリー摂取を減らしておきましょう。

または、その飲み会や会食時の1食全体でのカロリーが過多にならないように、料理やごはん、パンを食べる量を少しずつ減らすといった工夫をしましょう。こうした食事どきの工夫はそう難しいことではありません。数回くり返すと、「慣れました。胃も腸も軽くなって、食べ過ぎた罪悪感もなくなるので楽に続けられる」という患者さんも多いのです。

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三輪 洋人(みわ・ひろと)
兵庫医科大学主任教授
1956年生まれ。大阪府出身。鹿児島大学医学部卒。医学博士。兵庫医科大学副学長、同病院副院長。日本消化器内視鏡学会評議員・指導医・専門医、日本消化管学会代議員・胃腸科指導医・専門医。著書に『胃は歳をとらない』(集英社新書)などがある。

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(兵庫医科大学主任教授 三輪 洋人)

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