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「猫背は絶対に放置してはいけない」胃腸科の専門医がそう訴える"これだけの理由"

プレジデントオンライン / 2022年1月2日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ipopba

スマホやパソコンの操作中に前屈みになってはいないだろうか。兵庫医科大学の三輪洋人主任教授は「日中の動作でもっとも気をつけたいことは、猫背の改善。猫背はとくに、胃酸の逆流を誘発しやすいという研究報告があり、いま研究者の間でも注目されている」という——。(第2回/全2回)

※本稿は、三輪洋人『胃は歳をとらない』(集英社新書)の一部を再編集したものです。

■睡眠中は逆流性食道炎が起こりやすい

胃不調、胃疲労には、日常の無意識の姿勢や動作も大きく影響します。本稿ではその顕著な例を挙げ、セルフケアの方法を紹介しましょう。

まず、1日のうちで、姿勢や動作をケアしにくい「睡眠中」について考えます。睡眠中は、「1日のうちで食後2〜3時間と同じぐらいに逆流性食道炎が起こりやすい」ことがわかっています。寝ているときに酸っぱいものが食道やのど、口まで込み上げてきて目が覚める、咳が出るなどしてつらい人は多いでしょう。その原因は、睡眠中には食道や胃の運動が制限されることにあります。

具体的には、唾液や嚥下運動が少なくなって、食道へと逆流した酸が排除されにくくなることや、胃酸分泌が増える場合があることなどです。また、逆流性食道炎の場合は、睡眠障害や睡眠時無呼吸症候群(SAS)を発症しやすい、またその逆もしかりであることが知られています。神経質になる必要はありませんが、次に紹介する5つの方法は誰でもすぐに実践できるので試してみてください。

(1)逆流性食道炎や胸やけがある場合、上半身を高くする

猫背や前かがみの姿勢で胃が圧迫されると、胃液が逆流しやすくなります。逆立ちすると重力で胃から胸、のど元へと胃液が逆流しやすいのと同じです。知人の整形外科医は、「猫背や前かがみの姿勢が多い人は、寝ぐせでも背中が丸まっていることが多い」「座業、スマホ姿勢、パソコン姿勢が長い人も同じ」と言います。

■高さがある枕を使っている人は要注意

就寝中に背中が丸まっていると、胃が圧迫されて胃液が逆流する可能性が高くなります。それを避けるために、おなかあたりから頭に向かって徐々に傾斜をつけて高くして寝てください。バスタオルの積み重ね、寝具やクッションを利用、マットを折り曲げるなど工夫しましょう。リクライニングができるベッドなら上半身を少し起こしてください。

どれぐらいの高さがいいかというと、床から一番高い頭部までが10〜20センチ、角度なら15度ぐらいという目安はあります(図表1参照)。

逆流性食道炎や胸やけがある場合の寝姿勢
出所=『胃は歳をとらない』

しかし、細かい数値は気にせず、自分で熟睡するための傾斜をあれこれ試してみて、ちょうどよい具合を見つけましょう。腰から頭部まで傾斜をつけた枕も市販されています。注意は、高さがある枕を使わないことです。

胃酸が逆流してのどまで上がってこないようにと、高い枕を選ぶ人は多いのですが、それではのどが詰まりやすく、睡眠時無呼吸症候群も発症しやすい、首こり、肩こり、寝違いを起こしやすいなど複数のデメリットがあるので避けてください。

■症状によって寝る向きを変えてみる

(2)逆流性食道炎の場合は左側を下にして寝る

図表2を見てください。横向きに寝るなら、逆流性食道炎の人は、胃の形を考えて左側を下にして寝ることが推奨されています。胃は食道からつながって袋状になっていますが、約4分の3は体の中心より左側に寄っています。そのため、胃の内容物は左側のほうが溜まるスペースが広く、左を下にすると逆流は軽減すると考えられるのです。

逆流性食道炎の場合の寝姿勢
出所=『胃は歳をとらない』

一方、右を下にして寝ると、食道と胃の境界の少し上にある下部食道括約筋の圧が低下して開きやすくなり、胃酸が逆流しやすくなります。

なお、睡眠時無呼吸症候群の場合は、のどが落ち込まないように横向きで寝ることが推奨されています。逆流性食道炎がある場合は左側を下に、逆流性食道炎がない場合は次に紹介する右を下にして寝るとよいでしょう。

■うつ伏せで寝るのは避けるべき

(3)消化不良の場合は右を下にして寝る

逆流性食道炎の症状はない場合で、食べ過ぎの消化不良で胃もたれがする、食べてすぐ寝てしまいそうといったときは右を下にして寝ましょう。

胃の出口にあたる幽門とそれに続く十二指腸は体の右側にあります。食べ過ぎて消化不良の場合は、消化物を早く幽門から外へ送り出すために、右を下にしたほうがよいと考えられています。横向きで安定して寝やすい枕が市販されているので試してみるのもよいでしょう。

ただし、「逆流性食道炎も消化不良もあるようだ。どちらか迷う」という場合は、上向きに寝てください。胃の前庭部(図表3参照)から十二指腸へは背中側に流れやすくなっています。うつぶせでなければ問題はありません。

胃の構造
出所=『胃は歳をとらない』

(4)うつぶせで寝るのはNG

うつぶせで寝ると、自分の体重による重力で胃やおなかが圧迫されます。すると、(2)で説明したように下部食道括約筋がゆるんで胃液が逆流しやすくなります。うつぶせで寝るのは避けてください。

■就寝中に胸やけで目覚める人は逆流性食道炎の疑いあり

(5)締め付けが強いパジャマはNG

小さくなったパジャマやウエストがきついズボンは、胃やおなかを圧迫して胃液の逆流をまねくことがあります。パジャマはゆったりしたタイプを選んでください。就寝中の逆流性食道炎を改善するには、「寝る前3時間は食事をしない」「カフェインが豊富に含まれるコーヒー、緑茶、紅茶などや、お酒など刺激的な飲みものを避ける」ようにしてください。さらに、熟睡することが何より胃不調、胃疲労の改善に有用です。

よく眠れるように、休日でも寝る時間を毎日同じにして規則性をキープする、寝る直前までスマホやパソコンの操作、テレビを観(み)るなどで光による脳への刺激を避けましょう。睡眠時間は7〜8時間はキープしてください。

一方、まだ受診していなくて、「日中はなんら症状はないけれど、就寝中に胸やけや口が酸っぱくて目が覚めることがある」という場合は、逆流性食道炎の疑いがあります。日中は大丈夫だからといって放置せず、早めに消化器内科や内科を受診してください。

■猫背は胃酸の逆流を誘発しやすい

日中の動作でもっとも気をつけたいことは、猫背の改善です。猫背はとくに、胃酸の逆流を誘発しやすいという研究報告があり、いま研究者の間でも注目されています(*1)

まず、自分の全身を鏡に映して見つめてみてください。猫背や前かがみの姿勢になっていませんか。加齢とともに猫背がひどくなってきた、またスマホやパソコンの操作中、食事中に背中が丸くなっているなど、思い当たる人は多いと思います。

三輪洋人『胃は歳をとらない』(集英社新書)
三輪洋人『胃は歳をとらない』(集英社新書)

重要なことなのでくり返しますが、猫背や前かがみの場合、おなかのあたりが圧迫されています。すると胃の内部の圧力が高まって、胃の入り口より少し上にある下部食道括約筋がゆるみ、胃から食道のほうへと胃液が逆流しやすくなるのです。

また、猫背や前かがみの姿勢は、横隔膜の働きにも影響します。横隔膜には、食道が通る食道裂孔という通り道が開いています。ちょうどこの部分が食道と胃のつなぎ目にあたり、下部食道括約筋がある場所です。つまり、姿勢が悪いと横隔膜の機能が低下して、下部食道括約筋のゆるみにつながります。すると逆流性食道炎はもちろん、胃不調や胃疲労につながります。

さらに、ストレスが強くて精神的な不安が続くときは、機能性ディスペプシアや非びらん性胃食道逆流症をまねくことがあります。胃の病気でなくても、心配事があるときは食欲がなくて消化が悪い、便秘や下痢をすることはあるでしょう。このとき、姿勢は猫背や前かがみの姿勢になりがちです。

(*1)Fujimoto K. Prevalence and epidemiology of gastro-oesophageal reflux disease in Japan. Aliment Pharmacol Ther. 2004;20(Suppl. 8):5-8. Yamaguchi T, et al. The presence and severity of vertebral fractures is associated with the presence of esophageal hiatal hernia in postmenopausal women. Osteoporos Int. 2002;13(4):331-6.

■猫背は意識を高めて軽い筋トレをすれば必ず治る

「猫背など姿勢の改善は難しい」と言う人は多いのですが、姿勢を矯正する意識を高めることや軽い筋トレを続けることで必ず改善されます。

まずは、パソコンやスマホの操作中、食事中、テレビを観ているときなど、自分の無意識時の姿を誰かに写真を撮ってもらってください。ぎょっとするぐらいに猫背になっているでしょう。その認識だけでも、改善へのモチベーションがアップします。

また、その写真を印刷してデスクやダイニングに貼っておくと、日常的に背筋を伸ばす動機になるでしょう。次に、図表4のように、壁に足から背中、頭をつけて立ってみてください。

逆流性食道炎や胃疲労の改善・予防に猫背を正す
出所=『胃は歳をとらない』

肩の力を抜いてあごを引き、自然に後頭部、けんこう骨、おしり、ふくらはぎ、かかとが壁につくようにしましょう。全身を映す鏡があれば、左右の肩が傾いていないかもチェックします。その姿勢を毎朝確認するだけで意識が高まり、日中もことあるごとに背筋を伸ばすようになるでしょう。それに、背中が伸びた姿勢を覚えることができるメリットもあります。

背筋を伸ばすといっても、背中を緊張させて力を入れ過ぎると首こり、肩こり、腰痛につながりかねません。背筋を伸ばしておなかに少し力を入れ、口から息を軽く吐き、両方の肩を後ろに3〜5回まわすか、上下にストンストンと動かしてください。どうですか、猫背がやや改善して気分もすっきりしませんか。このとき、胃の蠕動運動も活発になっています。

■腹筋を鍛えることは姿勢改善に有効

先ほど、おなかに少し力を入れると述べました。猫背の原因には腹筋のゆるみがあるため、姿勢を改善するには、背中伸ばしに加えて「腹筋を鍛える」ことがとても有用です。

ただし、「腹筋運動をすると胃酸が逆流するのでは」という懸念もあります。寝転んで上体を起こす腹筋運動はおなかに圧力がかかるため、胸やけや吞酸が現れることもあるのです。

そこで腹筋の強化法として、スクワットをゆっくりと行ってください。立って行うスクワットなら、胃酸の逆流の心配はほとんどありません。および、背筋とふとももの筋肉も同時に鍛えることができるメリットもあります。

腹筋を鍛える
出所=『胃は歳をとらない』

5〜10回を1セットに、1日3セットほどを継続すると、1週間もすると自分でも筋肉の引き締まりに気づくでしょう。きつい場合は無理をせずに、壁や椅子の背もたれを手で持ちながら、体を支えて行いましょう。図表5を参照してください。

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三輪 洋人(みわ・ひろと)
兵庫医科大学主任教授
1956年生まれ。大阪府出身。鹿児島大学医学部卒。医学博士。兵庫医科大学副学長、同病院副院長。日本消化器内視鏡学会評議員・指導医・専門医、日本消化管学会代議員・胃腸科指導医・専門医。著書に『胃は歳をとらない』(集英社新書)などがある。

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(兵庫医科大学主任教授 三輪 洋人)

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