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「世界中の善意がアフリカの産業を殺している」古着リサイクルに秘められた不都合な真実

プレジデントオンライン / 2022年1月2日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/stephenkirsh

不要になってリサイクルに出された洋服はどこへいくのか。日本からは毎年24万トンの古着が輸出され、その多くは最終的にアフリカにたどりつく。フリーランスで国際協力に携わる原貫太氏は「私が活動するウガンダでは、国外から輸入された古着が山積みで安売りされている。大量に届く古着がアフリカの経済的自立を阻む原因になっている」という――。

※本稿は、原貫太『あなたとSDGsをつなぐ「世界を正しく見る」習慣』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■「リサイクル」で回収された古着はどこにいくのか

タンスの中にずっと眠っていた服。サイズが合わなくなった子ども服。穴が開き、糸がほつれてしまった服。そんな古着を自治体の回収事業に出した経験のある方は多いでしょう。最近は大手アパレルメーカーの中にも、消費者が着なくなった古着を店頭で回収する企業が出てきました。

けれど、リサイクルという名目で回収された私たちの古着は、その後どこに行っているのでしょうか?

実は先進国で集められた大量の古着は、その多くが国外に輸出されているのです。国連の統計によれば、2016年にはアメリカから75万トン、ドイツから50万トン、イギリスから35万トン、そして日本からは24万トンの古着が海外に送られています。

男性用半袖Tシャツ1枚当たりの重さが約200グラム。つまり単純計算でも1年間にTシャツ約12億枚分、一人当たりなら約10着分の古着が日本から海外に輸出されているということです。

■転売や寄付で毎年大量の古着がアフリカへたどり着く

「海外」とはいっても、他の先進国ではすでに古着が余っています。ファストファッションが浸透し、大量生産・大量消費が当たり前だからです。そのため、先進国で回収された古着は途上国、そしてその多くは最終的にアフリカへ辿り着くのです。

このような古着の輸出は先進国では一大産業になっていますが、転売という形だけではありません。「寄付」という名目で、アフリカに送られている場合もあります。

アメリカやヨーロッパ、さらには日本でも、自治体や企業、チャリティ団体が古着を回収し、アフリカの貧しい人たちに寄付をする。そんな活動を耳にしたことがある方もいるのではないでしょうか。

■古着の「最終処分場」となるアフリカの実態

先進国の人たちは不要になった古着を処分できて、アフリカの人たちは安価、もしくはタダで古着を手に入れることができる。互いに助かっているのだから、ウィンウィンじゃないか。そのように感じるかもしれません。

もちろん古着の輸出が現地にメリットをもたらすこともあります。例えば難民キャンプなど物資が圧倒的に足りていない地域であれば、先進国から輸入された古着を手に入れることができれば、一時的には助かる人も多いはずです。

しかし、「アフリカでは服が足りていないのだから、先進国から古着を送ってあげれば現地の人たちが助かる」というのは、必ずしも正解とは呼べないようです。

ケニアやウガンダ、タンザニアなどが構成している東アフリカ共同体では、古着や靴の輸入額は1億5100万ドル以上(2015年、日本円に換算すると約170憶円)、ケニアだけでも毎年約10万トンの古着が輸入されています。

技術面で進んでいる先進国側でさえも、大量に余っている古着を処理しきれていないわけですから、ゴミ処分場などの施設が不十分なアフリカの国々で、大量の古着を処理することは到底できません。

実際に私が活動するウガンダでも、街中の至る所で先進国から輸入されたと思われる古着が山積みになって売られていますし、処理しきれない大量の古着が現地の環境問題に繫がっているという話も耳にします。他にも、西アフリカのガーナでは毎週1500万着の古着が輸入されていますが、近年はファストファッションなど低品質な古着が占める割合が増えており、売れなかったものは最終的に埋立地へ流れ着いています。ガーナに輸入されている衣服の約4割が埋め立て処分されていると考えられているのです。

■失敗に終わったアフリカの輸入禁止の試み

このような状況を受けて、アフリカの国々の中には、自国の繊維産業を保護するためにも、先進国からの古着輸入を禁止しようとする国も出てきました。東アフリカ共同体は2016年、地域内の衣料品産業や繊維産業を保護・成長させるために、国外から輸入される古着の関税を段階的に引き上げ、2019年までに古着の輸入を禁止することで合意していました。

これに対して「自由貿易協定に反する」と猛反発したのが、古着輸出大国のアメリカです。

アメリカにとっては、自国で行き場を失った古着の「最終処分場」を失うわけにはいきません。アメリカの古着業界団体は「アメリカ人が捨てた衣服は海外で販売されなければ、アメリカ国内の埋め立て地に行きつき、環境破壊を引き起こすことになる」と警鐘を鳴らしました。

また、一つの産業と化している古着の輸出ができなくなれば、アメリカ国内で多くの失業者が出る可能性があります。同団体は、衣類の仕分けや梱包など、4万人のアメリカ人の雇用が危険にさらされると訴えました。

■先進国にとって輸出先の存在はありがたい

その結果、アメリカは東アフリカ共同体に対して、関税を免除することでアメリカへの輸出を支援し、アフリカの経済成長に繋げる「アフリカ成長機会法」を停止することを示唆。つまりは超大国アメリカに貿易制裁のプレッシャーをかけられる形で、アフリカの国々による古着の輸入禁止の試みは失敗に終わりました。

アフリカの人たちの「先進国依存から脱却したい」という思いは頓挫し、今なおアフリカは古着の「最終処分場」にさせられたままなのです。

先進国にとって、アフリカが古着の輸出先になってくれるのは、とてもありがたいことです。本来は自国で処理するべきコストを削減できるうえに、古着の輸出自体が一つの産業となり、貿易収支や雇用を増やすことができるのですから。

ましてや「アフリカの貧しい人たちを助けよう」といったチャリティの名目で古着を回収すれば、その企業や団体のイメージアップにも繫がるかもしれません。

しかし、アフリカをはじめとした途上国は、先進国から送られてくる大量の古着によって地元の産業が破壊される問題に悩まされてきました。

■山積みされた1枚6円の古着で迷惑を被る人がいる

転売にせよ、寄付にせよ、先進国から古着が大量に送られてくれば、現地の人たちはそれらを格安、またはタダで手に入れることができます。

例えば私が活動するウガンダ共和国では、とある市場で国外から輸入された古着が山積みになって売られています。これらの古着は、日本円にして1枚6円で販売されているのです。いくら現地の人たちが経済的に貧しい生活をしているからといって、1枚6円というのは、あまりにも安すぎます。

そもそも古着というのは、先進国側で「捨てられるはずだった服」なわけですから、輸出や移送にかかるコストを抜けば、ほとんどタダ同然です。

先進国から大量に流入してくる安価な古着によって、迷惑を被っているのが現地の仕立て職人や繊維産業に従事する人たちです。

アフリカの多くの国々では、ミシンを使って自分で服を生産したり、繊維工場を経営したりすることで生計を立て、自立した生活を送ろうとしている人たちがいます。

しかし、そういった人たちがいくら頑張って商品を作ったとしても、国外からタダ同然で入ってくる古着には到底太刀打ちできません。

ウガンダの市場で1枚6円で売られる古着
写真=筆者提供
ウガンダの市場で1枚6円で売られる古着 - 写真=筆者提供

■途上国への援助がすべて「善」ではない

衣服ではありませんが、途上国に対する食糧援助においても、同じような問題はたびたび起きてきました。

例えばある国で自然災害や紛争が発生すると、国外から大量の食糧援助が入ってきます。もちろん自然災害や紛争が発生した直後の国では、栄養不良や飢餓も深刻な問題となるため、緊急的な食糧援助も必要です。

しかし、需要と供給のバランスを考えればわかるように、無料の食糧援助があまりにも大量、かつ長期的に流入してきてしまえば、その地域における食料価格は下落してしまいます。

例えば中南米の島国ハイチでは、2010年1月に発生した大地震によって壊滅的被害を受けた後、アメリカをはじめとした先進国から大量の米が援助として流入してきました。

ですが、地震が発生してから数年が経っても、なお海外から米が届けられていたのです。その結果として、現地で農業に携わっていた人たちは自分たちの生産する米が売れなくなってしまい、多くの失業者が出ました。海外からの援助が、ハイチの米を自給自足する力を奪ってしまったのです。それと同じようなことが、古着の現場でも起きていると言えます。

■ガーナでは25年間で繊維業の雇用が80%減少

地元で生産される服よりも、輸入された古着は安く手に入る上に、日常生活で着用する分には問題ないクオリティの服も多いです。また、輸入された古着の修繕をしたり、販売したりすることで生計を立てている人もいるため、先進国からの古着が現地に雇用を生んでいる側面は否定できません。

原貫太『あなたとSDGsをつなぐ「世界を正しく見る」習慣』(KADOKAWA)
原貫太『あなたとSDGsをつなぐ「世界を正しく見る」習慣』(KADOKAWA)

その一方で、先進国からタダ同然の古着が大量に輸入されれば、現地の消費者はそちらに流れてしまい、地元の繊維産業が成長することは妨げられてしまいます。実際にアフリカでは、先進国から大量に流入してくる古着のせいで地元の衣類製造工場が閉鎖に追いやられ、繊維産業に携わっていた多くの地元民が職を失ってきました。

例えばガーナでは1975年から2000年にかけて繊維・衣料品関連の雇用が80%減少しており、ザンビアでは1980年代には2万5000人だった労働者が、2002年には1万人を下回っています。

■古着のせいで地元で生産される服は売れにくい

私が国際協力の活動をしてきたウガンダでは、衣料品購入の81%は古着が占めていると言われています。実際に現地で目にしていた衣類のほとんどは国外からの古着でしたし、この数字は体感的にもそれほど大きく逸れているとは思いません。洋裁ビジネスをするウガンダの女性からは「古着のせいで地元で生産される服は売れにくい」といった悩みを耳にすることもありました。

もしも現地の人たちが国外から輸入された古着ではなく、地元で生産された服を購入していれば、何が違っていたでしょうか。おそらく地域の経済が回り、現地の雇用が増え、先進国からの「お下がり」に依存しない自立した経済体制を作ることができていたはずです。

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原 貫太(はら・かんた)
フリーランス国際協力師
1994年生まれ。早稲田大学在学中よりウガンダの元子ども兵や南スーダン難民の支援に従事し、その後NPO法人を設立。講演や出版などを通して精力的に啓発活動を行う。大学卒業後に適応障害で闘病するも、復帰後はフリーランスとして活動を再開。ウガンダのローカルNGOと協働して女子児童に対する生理用品支援などを行い、現在に至る。2017年『世界を無視しない大人になるために』を出版。2018年3月、小野梓記念賞を受賞。

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(フリーランス国際協力師 原 貫太)

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