「ヴィーガンは決してバカにできない」私たちの"肉食生活"がもたらすリスクをご存じか
プレジデントオンライン / 2022年1月4日 10時15分
※本稿は、原貫太『あなたとSDGsをつなぐ「世界を正しく見る」習慣』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■少量の肉を生産するためには大量の水資源が必要
「実は今、世界で水不足の問題が深刻化している」
そう聞かされても、山や川に恵まれ、雨がたくさん降る日本で暮らしていると、あまり実感が湧かない人が多いかもしれません。日本ではよく「水と安全はタダ」と言われてきましたし、蛇口をひねればいつでもきれいな水を手に入れることができます。
しかし、「畜産業は大量の水を消費することで成り立っている」という視点に立ってみると、水不足の問題が日本にも無関係ではないことが理解できるはずです。
少量の肉を生産するためには、大量の飼料穀物を家畜に食べさせなければなりません。そして、その飼料穀物を生産するためには、大量の水資源が必要になります。
■ハンバーガー1個を作るために1000リットルの水がいる
例えば1kgのトウモロコシを生産するためには、灌漑用水として1800リットルの水が必要です。牛はそういった穀物を大量に消費しながら育ちます。そのため、牛肉1kgを生産するためには、その約2万倍もの水(約2万リットル)が必要になります。また、豚肉1kgを生産するためには約6000リットル、鶏肉1kgを生産するためには約4500リットルの水が必要になると言われています。
身近な食べ物で換算してみると、例えば牛肉100gが使われている牛丼1杯を作るためには2000リットル、牛肉50gが使われているハンバーガー1個を作るためには1000リットルの水が使われています。
肉を食べるということは、同時に大量の水資源を消費したと考えることもできるのです。
![草原にいる牛](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/8/670/img_8825c4697f91197621309d38a94b1617409711.jpg)
■海外の水資源に依存している日本
では、日本のような食料を海外から輸入している国において、もしその輸入食料を自国で生産するとしたら、どの程度の水資源が必要になるのでしょうか。それを推定するために、「バーチャルウォーター(仮想水)」という概念があります。
日本の食料自給率が約40%と低いことは学校の授業でも習ったかと思います。つまり、水を大量に消費して生産される畜産物や農産物の多くを海外からの輸入に頼る日本は、バーチャルウォーターを海外から大量に輸入していると考えることもできます。
日本はアメリカやオーストラリアから大量の肉を、またブラジルやアルゼンチンなどから大量の飼料穀物を輸入していますが、これらの肉や穀物を生産する段階においては、極めて多くの水が消費されています。
海外から畜産物や農産物を輸入するということは、それは形を変えた水(バーチャルウォーター)の輸入と言うこともできるのです。
2005年において海外から日本に輸入されたバーチャルウォーターの総量は約800億立方メートルにもなり、その大半が食料に関係しています。日本は水資源が豊富な国と考えている人もいるかもしれません。しかし、バーチャルウォーターの輸入という観点から考えると、海外の水資源に大きく依存していることがわかります。世界で水不足や水質汚染などの問題が起きれば、それは私たちの生活とも決して無関係ではないのです。
■「地球は水の惑星」という言葉に騙されてはいけない
「世界はこれから水不足の問題に直面する」と言われる所以を、簡単に説明しておきましょう。
私たちの暮らす地球は「水の惑星」と呼ばれるほど、たくさんの水が存在しています。地球の表面の3分の2は水で覆われており、地球上に存在している水の量をすべて合計すると約14億立方キロメートルにもなるのです。
しかし、その大部分は海水のため、そのままの状態では資源として利用することができません。私たちが生活や農業、工業に利用することができる淡水は実に全体の2.5%、約3500万立方キロメートルしかないと言われています。
これだけでも驚きだとは思いますが、残念ながら現実はもっと厳しいです。地球上に存在する水のうち2.5%しかない淡水ですが、1.7%は氷河や南極の氷として存在しており、これもまた人類が資源としてすぐに活用することは難しいです。
地下水や河川、湖沼などの形で存在する淡水の量は地球全体の水のうち約0.8%に過ぎず、さらにこの大部分が地下水として存在しています。そのため、人類が取水しやすい状態の淡水は地球の水全体のわずか0.01%。量に換算すると約10万立方キロメートルしかありません。
つまり、私たち人類は非常に限られた水資源を分け合って生活しているということです。このことを大前提として頭に入れておくことが、世界の水不足を理解する上では欠かせません。
■2030年、世界人口の47%が水不足になる
「水なんて循環するものだから問題ないだろう」と感じる人もいるかもしれません。しかし、水資源の分布には偏りが生じます。一部の地域ではよく雨が降るけれど、他の地域では干ばつが問題になるといったことです。
国連開発計画も「世界全体を見るとすべての人に行き渡らせるのに十分なだけの水量が存在しているが、国によって水の流入量や水資源の分配に大きな差がある」と指摘しています(『人間開発報告書2006』より)。国や地域によって、アクセスできる水資源の量には大きな格差があるのです。
現在78億人を超えた世界人口ですが、2030年には85億人を突破すると予測されています。そのため、UNESCO(国連教育科学文化機関)は「2030年には世界人口の47%が水不足になる」と懸念を発表しています。世界人口のうち、実に2人に1人が水不足に陥るという見立てです。
ある地域では清潔な水にアクセスできる一方、別の地域では清潔な水にアクセスできない。
地域間で得られる水資源の量に格差が生じれば、その格差が水を巡った争いに繫がるかもしれません。20世紀は石油を巡って戦争が起こりましたが、21世紀は水資源を巡った戦争が起きるとすら言われているのです。
■水戦争を起こさないために見直すべき食生活
現代の人類は、ただでさえ少ない水資源を分け合って生きています。先述した通り、肉を生産するためには大量の水を消費する必要があることを考えると、肉食が水不足の問題にも繫がることを理解できるはずです。水資源を巡った争いが起きるとすら危惧されている今、たとえ間接的だとしても、畜産業がその一因となる可能性は否定できません。
世界人口は2030年には85億人、2050年には97億人に増えると予測されています。特にアジアやアフリカの国々では経済成長に伴い中流階級の人口が大きく増加することが予測されており、そのような国々では肉食に対するニーズも高まっていきます。しかし、現時点においても畜産業に多くの水資源が使われており、世界ではすでに水不足が深刻化しているところもあります。
水は人間が生きていくためには絶対に欠かせないものです。今後増えていく世界人口を養うための十分な水を確保するには、やはり肉食中心の食生活や現代の食システムを見直さなければなりません。
■社会問題を解決するための菜食ムーブメント
近年は食のあり方を変えることによって様々な問題を解決しようとする考え方も広がっており、ヴィーガンやベジタリアンなどの菜食主義ムーブメントは、まさにその一つです。
![原貫太『あなたとSDGsをつなぐ「世界を正しく見る」習慣』(KADOKAWA)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/7/200/img_370543b8c4a4428cc6902c001349a583351436.jpg)
私の周りにも菜食主義に転向したり、肉を食べる量を意識的に減らしたりする人も増えてきました。「身近な生活を通じて環境問題や社会問題の解決に貢献したいから」という理由でそうする方も多いようです。
食は私たちの生活の根幹を成しています。一朝一夕で変えることは難しいでしょう。特にヴィーガンの話題は、ネット上だと炎上やバッシングのターゲットになりやすい傾向があり、人によっては自らの生活を否定されているように感じてしまう人もいるかもしれません。しかし、そのようなムーブメントが世界全体で起きている背景には、必ず理由があるのです。
もちろん社会問題の解決ばかりを考えて生活にストレスを感じたり、自らの欲求に蓋をし続けていたりすれば、それもまた持続可能な取り組みということはできません。しかし、現代の食システムが世界で起きている様々な問題と関係していることは、残念ながら疑いようのない事実です。持続可能な社会を築いていくのであれば、好むにせよ好まないにせよ、私たちは自らの食生活を見直さなければならない時に差し掛かっています。
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フリーランス国際協力師
1994年生まれ。早稲田大学在学中よりウガンダの元子ども兵や南スーダン難民の支援に従事し、その後NPO法人を設立。講演や出版などを通して精力的に啓発活動を行う。大学卒業後に適応障害で闘病するも、復帰後はフリーランスとして活動を再開。ウガンダのローカルNGOと協働して女子児童に対する生理用品支援などを行い、現在に至る。2017年『世界を無視しない大人になるために』を出版。2018年3月、小野梓記念賞を受賞。
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(フリーランス国際協力師 原 貫太)
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