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初対面でも問題なし…FBI捜査官が使っている「人の心を支配する」シンプルな方法

プレジデントオンライン / 2022年1月3日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/miodrag ignjatovic

初対面の人と仲良くなるにはどうすればいいのか。『元FBI 捜査官が教える「心を支配する」方法』(だいわ文庫)から、スパイや工作員が実践する「人に好かれる公式」を紹介する――。(第1回/全3回)

■「出会う前」こそ時間をかける――「シーガル作戦」の例

彼のコードネームはシーガル。アメリカと敵対する国の高位の外交官だ。彼がアメリカのスパイになってくれれば、貴重な情報源になると思われた。

だが、母国と敵対するわが国に、どうやって寝返らせればいいのだろう?

その答えは「シーガルに好かれてひとりの友人となり、魅力的な提案をする」ことだった。この戦略を成功させるには、シーガルの私生活に関する情報を丁寧に収集したうえで、彼がアメリカの諜報機関を信頼するように仕向ける必要があった。

そこでまずシーガルの身辺調査を行ったところ、彼が何度か昇進を逃していること、アメリカでの生活が気に入っており、できることなら老後はアメリカで暮らしたいと妻に話していたことなどがあきらかになった。

さらには、母国で見込まれる年金受給額が少額であるため、快適な老後生活を送れそうにないと不満をもっていることもわかった。こうした情報を分析した結果、相応の金額を提示すれば母国を裏切らせることは可能だと、FBIの分析官たちは考えた。

しかし、いきなり金額を書いた紙を見せて説得したところで、成功するはずがない。警戒されずに彼に近づき、彼と親しくなり、交渉にもち込む必要があった。そこで、FBI工作員のチャールズに白羽の矢が立った。

時間をかけてシーガルと信頼関係を築き、熟成した上質のワインが最高の風味を帯びるように、機が熟した頃合いを見はからって金額を提示するよう命じられたのである。

■言葉を発さず好意を示し、言葉で信頼に変える

もちろん、ことを急ごうものならシーガルは警戒し、こちらと接触しまいとするだろう。この危険を回避するには、シーガルへの接近をうまく演出し、初対面の相手と親しくなるステップを踏まねばならない。

その第一のステップは「ひと言も言葉をかわさずに好意をもってもらう」ことであり、第二のステップは「その好意を適切な言葉で揺るがぬ信頼へと変える」ことだった。

シーガルと最初に言葉をかわすという、計画全体のカギを握る重要な「出会いの場」を設けるのに、数カ月間の準備を要した。まずは見張りによって彼の日常の行動を把握した。

すると、シーガルが週に一度、大使館の建物から2ブロックほどのところにある食料品店に歩いて買い物に行くことがわかった。そこでチャールズは、大使館から食料品店までの路上に、毎回場所を変えて立つよう命じられた。

ただし、けっしてシーガルに近づいてはならないし、彼をおびやかすような行動をとってはならない。ただ路上に立ち、シーガルに姿を見られるようにしろ、と指示されたのである。

母国で諜報員の訓練を受けていたシーガルは、ほどなくFBI捜査官らしき人物の存在に気づいた。当然の話だ。チャールズはこれ見よがしに路上に立っていたのだから。

とはいえ、相手がなんの行動も起こしてこないうえ、こちらに話しかけてくることもなかったので、シーガルはなんの脅威も感じなかった。そして、食料品店までの道すがら、このアメリカ人を見かけることに慣れていった。

近距離に居合わせる経験を数週間続けた後、シーガルはそのアメリカの諜報員らしき男とついに視線をあわせた。チャールズは軽く会釈し、シーガルを認識していることを態度で示したものの、それ以上の関心は示さなかった。

屋外でバッグとスマートフォンを持ったビジネスマ
写真=iStock.com/skyNext
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/skyNext

■親しみを感じている合図

それからまた数週間、同じことを繰り返した結果、チャールズは言葉を使わずに態度やしぐさだけでシーガルとの交流を深めていった。

アイコンタクトをする、眉尻を上げる、頭を傾ける、わずかに会釈する。これらはどれも脳が「親しみを感じている合図」と解釈することが科学的に論証されているしぐさだ。

2カ月後、チャールズは次の段階を踏んだ。シーガルのあとを追い、彼が通っている食料品店に入っていったのである。とはいえ、シーガルとは距離を置き、近づこうとはしない。

その後も、シーガルが食料品店に入るたびに、チャールズも後から入店した。そして通路でシーガルとすれ違ったり、視線をあわせる時間を長くしたりした。

ほどなくチャールズは、シーガルが買い物のたびに豆の缶詰を買うことに気づいた。こうして新たな情報を集めつつ、その後も数週間、同じことを繰り返した。

そしてついに、いつものようにあとを追って食料品店に入ったあと、チャールズはシーガルに声をかけ、自己紹介をした。シーガルが豆の缶詰に手を伸ばすと、その横の缶に自分も手を伸ばし、きっかけをつくったのである。そしてシーガルのほうを向き、「こんにちは。私はチャールズ、FBI捜査官です」と名乗った。

シーガルは笑みを浮かべ、「そう思っていましたよ」と応じた。こうして穏やかな出会いをはたした二人はその後、親睦を深めていった。そしてとうとうシーガルは、このFBIの友人に力を貸し、定期的に機密情報を提供することに同意したのである。

握手を交わす2人
写真=iStock.com/MStudioImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MStudioImages

■「人に好かれる公式」を構成する4つの要素

この例では、シーガルを口説き落とすまでに数カ月をかけた。シーガルをスパイとしてスカウトするにあたり、慎重に作戦を練りあげ、それを実施したのである。

シーガルを味方につけるためにチャールズが踏んだステップは、あなたが人と―短期であろうと長期であろうと―親密な関係を築くうえでも役に立つものだ。

この「シーガル作戦」の例を見ながら、チャールズが〈人に好かれる公式〉を活用し、信頼を獲得していった段階を説明していこう。

〈人に好かれる公式〉は「近接」「頻度」「持続期間」「強度」という四つの要素で構成されている。

近接+頻度+持続期間+強度=人物の好感度

「近接」とは、相手との距離感である。「シーガル作戦」では、チャールズはただツカツカと相手に近づいていき、自己紹介をしたわけではない。そんな真似をしたら、シーガルは即座にその場から立ち去っていただろう。チャールズはもっと慎重な方法をとり、自分の存在にシーガルが「慣れる」よう時間をかけた。

あらゆる交友関係において、「近接」は欠くことのできない要素だ。そばにいる回数が増えれば、相手はあなたのことを好きになりやすいし、互いに引かれあうようになる。たとえ言葉をかわさなくても、近くにいるだけで互いに共感を覚えるようになるのだ。

ただし「近接」は、安全な場所で節度をもって活用する必要がある。他人があまりにも近づいてくれば落ち着かない気分になり、人は自分の身を守るべく、その相手と距離を置こうとするだろう。そして、その場から立ち去るなどの行動をとる。

だが「シーガル作戦」では、チャールズはターゲットのそばにはいたが、安全な距離を保っていたため、「警戒すべき人物」という印象を与えなかった。だからこそ、「闘うか逃げるか」の二者択一を迫るような身体反応である「闘争・逃走反応」(fight-or-flight response)を引き起こさずにすんだのである。

■近接、頻度、持続期間、強度……

「頻度」とは、相手と接触を重ねる回数であり、「持続期間」とは、相手と一緒に過ごす時間の長さだ。

チャールズはしばらくすると、〈人に好かれる公式〉における第二と第三の要素、すなわち「頻度」と「持続期間」を活用した。彼はシーガルが買い物に出かけるルートに頻繁に立ち、シーガルが彼を見かける回数を増やすようにした(頻度)。数カ月後、今度はシーガルのあとを追って食料品店に入り、そばにいる時間を徐々に長くしていった(持続期間)。

「強度」とは、言葉で、あるいはしぐさや態度などで、相手の望みをかなえる程度を指す。

この「強度」を利用して、チャールズは少しずつシーガルに「このFBI捜査官らしき男は、どうして自分に接触してこないのだろう」と、疑問をもたせた。こうして、自己紹介するだけでシーガルの「好奇心」を満たし、結果として「強度」を高めることができたのだ。

環境に新たな刺激が加わると(この場合は、シーガルの日常生活に見知らぬ人間が入り込んだ)、脳はこの新たな刺激が脅威であるか否かを、判断しようとする。そして、それが脅威だと判断すれば、闘争・逃走反応によってとりのぞくか無力化しようとする。

■脅威を感じさせず、相手に好奇心を抱かせる

反対にそれが脅威ではないと判断すれば、今度は好奇心をもつ。そして、その刺激のことをもっと知りたいと思う。

いったい、この男の正体はなんなのだ?
なぜ、ここにいる?
この男をどうにかしてうまく利用できないものだろうか?

チャールズは、安全な距離を保ったまま行動していたうえ、じっくりと時間をかけていた。だから、シーガルに脅威を感じさせることなく、好奇心をかきたてることができた。その結果シーガルは、チャールズが何者で、何を望んでいるのか、知りたいと思うようになった。

のちにシーガルはチャールズにこう語った。君がFBI捜査官であることは、ひと目見たときからわかっていたよ、と。真偽のほどは定かではないが、いずれにしろシーガルは、チャールズが身ぶりや態度で送っていた〈好意シグナル〉を受けとっていたのである。

この男はFBI捜査官に違いない。そう判断すると、シーガルはいっそう好奇心をつのらせた。自分をスパイとしてスカウトしたいのだろうと見当をつけてはいたものの、どんな任務を依頼したいのか、どのくらいの報酬を提示するつもりなのかはわからなかった。

このときシーガルは、母国の組織の中で昇進できないことを不満に思っていたし、すでに退職も控えていた。このFBI捜査官らしき男が接触してきたら、アメリカ側のスパイに寝返り、まったく違う老後生活を選ぶのも悪くない、そんな考えがシーガルの頭をよぎっていたはずだ。

同僚と遅くまで働く女性
写真=iStock.com/South_agency
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/South_agency

■声をかけるまで時間をかけた理由

アメリカ側のスパイになるという決断は、一夜にしてなされたものではなかった。

スパイとしてスカウトされた人間には、充分に考える時間が必要となる。合理的に人生の戦略を練り直し、まったく別の国家に忠誠心を向けるという気持ちの切り替えをしなければならないからだ。

だからこそ「シーガル作戦」では、母国を裏切ってもかまわないという気持ちを芽生えさせるまでに時間をかけた。そしてシーガルの想像力が、この芽に栄養を与え、成長させ、開花させた。

シーガルはまたこの期間を利用して、アメリカに残ろうと妻の説得にあたっていた。だからこそチャールズに声をかけられたとき、脅威が迫ってきたとは思わず、チャールズを「希望の象徴」と見なした。これからはじまるよりよい生活への希望を、彼に託したのである。

「FBIに協力しよう」と決断してから、彼はチャールズが接近してくるのをひたすら待った。待っている時間は、まるで拷問にかけられているようだったと、シーガルはのちに語っている。

「なんだって、このアメリカの捜査官は、いつまでたっても行動を起こそうとしないんだ?」と考え、好奇心が爆発しそうだったという。そのため、ようやく食料品店でチャールズから声をかけられたときには、「どうして、これほど時間をかけたんです?」と尋ねたほどだった。

■「持続期間」は人格にも影響する

持続期間には、独特の性質がある。一緒に過ごす時間が増えるほど、相手の考えや行動から影響を受けるようになるのだ。長時間、師匠と一緒にいる弟子はそれだけ成長する。

ジャック・シェーファー、マーヴィン・カーリンズ『元FBI 捜査官が教える「心を支配する」方法』(だいわ文庫)
ジャック・シェーファー、マーヴィン・カーリンズ『元FBI 捜査官が教える「心を支配する」方法』(だいわ文庫)

反対に、卑しい考え方をする人と長く一緒に過ごしていれば、否が応でも悪影響を受けることになる。

持続期間の影響力の大きさは、親子関係を見ればよくわかる。子どもと過ごす時間が長ければ長いほど、親は子どもに多大な影響を及ぼす。

親と過ごす時間が足りなければ、子どもは友だちと多くの時間を過ごすようになり、最悪の場合、非行少年のグループと付き合うようになるかもしれない。すると、子どもはそうしたグループから大きな影響を受けはじめる。もっぱら、彼らと行動をともにするようになるからだ。

とくに、恋愛中のカップルの場合は、会う頻度も多く、持続期間も長い。とりわけ交際をはじめたばかりの頃は、できるだけ長く一緒に過ごしたいと思う。こうしたカップルの関係においては、「強度」も非常に高くなる。

■うまくいかない関係も「公式」で修復できる

今の友人との関係がはじまった頃のことを思い起こしてほしい。過去の人間関係について振り返ってもいい。これまでの人間関係は〈人に好かれる公式〉によって構築されてきたことがわかるはずだ。つまり、この公式は、今の人間関係の改善にも有効なのだ。

たとえば、結婚して数年が経過して関係が悪化している夫婦の場合、それを自覚していてもどうすればいいのかわからないことも多い。こうしたケースでは、〈人に好かれる公式〉の要素をひとつずつ検証してみるといい。

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ジャック・シェーファー 元FBI特別捜査官
心理学者、ウェスタンイリノイ大学教授、諜報コンサルタント。FBIではスパイ防止活動とテロ対策の捜査官を15年、“行動分析プログラム”の行動分析官を7年務めた。現在はコンサルティング会社のオーナーとして、アメリカ本国はもとより、世界各地で講演会をおこなっている。

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マーヴィン・カーリンズ 心理学博士、コンサルタント
プリンストン大学で心理学博士号を取得。人間関係に関して国際的にコンサルティング業を展開している。著書多数

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(元FBI特別捜査官 ジャック・シェーファー、心理学博士、コンサルタント マーヴィン・カーリンズ)

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