「どれだけ気をつけてもムダ」中国人スパイがあっさりと国家機密を聞き出すスマートな手口
プレジデントオンライン / 2022年1月5日 10時15分
※本稿は、ジャック・シェ―ファー、マーヴィン・カーリンズ(著)、栗木さつき(訳)『元FBI 捜査官が教える「心を支配する」方法』(だいわ文庫)の一部を再編集したものです。
■巧妙なスパイ活動は「共通点づくり」からはじめる
あなたが科学者であるとしよう。
あなたは国防総省から仕事の依頼を受け、国家機密も取り扱っている。
ある日、なんの前触れもなく、あなたに中国大使館から電話がかかってくる。そして、あなたの研究に関する講演をお願いしたいと、中国に招待される。
講演の内容自体は機密扱いではないうえ、渡航費から滞在費まで費用はすべて中国政府が負担するという。あなたは、中国政府から講演依頼があったと、国防総省の担当者に伝える。
すると、機密情報に触れないのであれば中国で講演してもかまわないと、国防総省から許可が下りる。
そこであなたは中国大使館に電話をかけ、ご招待をお受けしますと伝える。すると今度は、せっかくだから講演の1週間前にお越しになってはいかがですかと誘われる。そうすれば、事前に観光をお楽しみいただけますから、と。
あなたは承諾する。こんな幸運に恵まれるのは一生に一度かもしれない。そう思い、あなたは中国訪問を心待ちにする。
さて中国に到着すると、空港には中国政府の代理人が出迎えにきている。そして「ご滞在中は、ずっと私が通訳兼ガイドを務めさせていただきます」と挨拶をする。
翌日からも毎朝、通訳は起きてくるあなたをホテルのロビーで待っており、一緒に朝食をとる。それから1日中、一緒に観光をして過ごす。通訳はあなたの食事代をすべて支払い、夜の社交活動まで手配してくれる。
愛想のいい人物で、自分の家族やプライベートの話まで聞かせてくれる。そこであなたもお返しに、自分の家族の話をする。
とはいえ、妻と子どもたちの名前、それぞれの誕生日、結婚記念日、家族と一緒に過ごす休暇の話など、たわいない話をしただけだ。
こうして何日か一緒に過ごしているうちに、文化が大きく異なる国で暮らしているにもかかわらず、二人には多くの共通点があることがわかり、あなたは彼に共感と好意を覚える。
■共感と好意を覚えさせ口を滑らせる
とうとう、講演当日を迎えた。会場は満席。聴衆はみな熱心にあなたの話に聞きいっている。あなたが講演を終えると、ひとりの男性が近づいてきて、実に興味深い話をありがとうございました、と声をかけてきた。
先生のご研究は革新的で、すっかり夢中になりました、実は私の仕事にも関係がありまして。そう明かすと、彼はあれこれ質問をしてきた。そうした質問に答えるため、あなたはかなり専門的でデリケートな部分まで説明する。
こうして嬉々として説明しているうちに、つい機密事項の領域すれすれのところにまで踏み込んでしまう。
無事に講演を終えたあなたは、アメリカに帰国すべく、空港に向かう。搭乗を待っていると、通訳からまた誘いがある。
![モダンな空港の廊下](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/f/670/img_0f2ff85179069a9f032487d601b6f967634672.jpg)
講演が大成功をおさめたので、中国政府は来年もあなたを講演に招待させていただきたいと考えております、今回の会場は規模が小さく満席になってしまったので、来年はもっと広いホールで講演をお願いしたいのですが、と。
さらに通訳はこう言い添えた。ああ、それに来年はぜひ奥さまと一緒にお越しになってください、もちろん、すべての費用はこちらで負担いたします、と。
■それと知らずに「機密情報」を話させた手口
私はFBIの防諜活動の一環として、外国から帰国したアメリカの科学者たちから報告を聞くよう命じられたことがある。機密情報を得ようとする外国の諜報員に接近されていないかどうか、確認するためだ。
そして大勢の科学者から話を聞いたところ、前述のような体験をした例が多いことがわかった。
外国側は非の打ちどころのないもてなしでもって歓待してくれたし、機密情報についてはまったく尋ねてこなかったと、科学者たちは口を揃えた。よって裏切り行為はなかった、と。
だが、私にはひとつ引っかかる点があった。科学者たちが一様に「通訳とは共通点がたくさんあった」と述べていたことだ。
両国の文化が大きく異なることを考えれば、妙な話だった。そして、親密な関係を早急に築くには、「共通点」をつくるのがもっとも手っ取り早いのだ(この「共通点」のテクニックについては『元FBI 捜査官が教える「心を支配する」方法』第4章で詳述する)。
そこで私は〈人に好かれる公式〉を利用し、科学者の中国滞在中の様子を分析することにした。間違いなく「近接」は存在した。
一方「頻度」は低かった。科学者は年に一度しか中国を訪問しないからだ。そのため親密な関係を築きたいのであれば、「持続期間」を長くして、「頻度」の低さを補わなければならない。案の定、「持続期間」は長かった。同じ通訳が、毎朝、科学者を迎えにいき、1日中同行したうえ、夜も一緒に過ごしていたのだから。
■「近接」「頻度」「持続期間」「強度」――人に好かれる公式
そして通訳と科学者の会話に出てきた話題から判断するに、「強度」も高かった。科学者は、自分の功績を褒めてもらい、話をじっくり聞いてもらったうえ、おいしい食事までご馳走になり、何不自由なく過ごした。
こうして分析した結果、おぼろげながら全体像が見えてきた。実のところ、科学者たちは中国の諜報員から情報を盗まれていたのである。
科学者には、そして当初は私にも、中国側がスパイ活動を行っていることがわからなかった。中国側は―承知のうえでそうしていたのか、たまたまそうしていたのかわからないが―〈人に好かれる公式〉を活用し、二人の人間が自然に親しくなるよう仕向けていた。
それがあまりにも自然なプロセスであったため、脳は、このとらえどころのないスパイ活動を検知しなかったのである。
この事実が判明してから、私は科学者から話を聞く際、〈人に好かれる公式〉にあてはめ、外国の諜報機関から接触されたかどうか、スパイとしてスカウトされたかどうかを判断するようになった。
そして外国に滞在中に出会った人物と、どれほどの「近接」「頻度」「持続期間」「強度」があったかを説明してもらうようにした。
また科学者が外国に出発する際には、外国側が巧妙なテクニックを駆使して機密情報を盗もうとする場合があることを説明し、事前に注意を喚起することにした。
![レストランで日本人ビジネスマンとの出会い](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/6/670/img_a67ddb161d353de60053d05dbe907fcf752557.jpg)
■「都会生まれの人」が友人をつくりにくい理由
世の中には人を引きつける魅力があり、いつでも人から好かれる「コツ」を心得ているように見える人がいる。その一方で、人生で成功をおさめているにもかかわらず、そうした「磁石のような魅力」には恵まれていない人もいる。
この両者の違いは、無意識のうちに〈敵意シグナル〉を送っているかどうかにある。このまたとない例を、とある女子学生が(当人にとっては不幸なことに)示してくれたことがある。
彼女は、私が教えている大学の学生であり、なかなか友だちができないと悩んでいた。本人の話によれば、よそよそしくて近寄りがたいと勘違いされるらしい。だが、いったん打ちとけた相手とは問題なく深い付き合いを持続できるという。
しばらく話しているうちに、彼女がアトランタのあまり風紀のよくない町で育ったことがわかった。だから、少女の頃から多少のことでは動じなかったという。そこで彼女にこう助言した。人との接し方を変える必要はない。だが、「自分の見せ方」を変えてみてはどうだろう、と。
■無意識に発している「敵意のシグナル」
そこで彼女は手始めに、いわゆる「都会のしかめっ面」をするのをやめた。厳しい環境や大都会で育った人の表情には、この「都会のしかめっ面」がよく見られる。この表情は「私は敵であり、あなたの友人ではない」というシグナルを、言葉を発することなく、周囲の人に明確に伝える役目をはたしている。
「私に近づかないで」「俺にかまうな」という警告を発しているのだ。するとカモをさがしていた者は、この表情を浮かべている人を狙おうとしなくなる。だから「都会のしかめっ面」は、タフな環境で生き抜くための貴重なツールとなる。
しかし、友人をつくりたい場合は〈敵意シグナル〉ではなく〈好意シグナル〉を送らねばならない。シグナル次第で、他の学生ともっとスムーズに親しくなれるのだから。
眉をひそめて厳しい表情を浮かべている人物に近づいていきたいと考える人はいない。
ところが、こうした表情を浮かべている人は、自分が〈敵意シグナル〉を送っていることに気づいていない。
■視線と表情で好意と敵意を見分ける
大都会の路上には、よく施し物を求める人がいる。なかには、しつこく食い下がってくる人もいる。だが、彼らは誰かれかまわず声をかけているわけではない。いかにもお金を施してくれそうな通行人に狙いを定め、あとを追いかけるのだ。
![ジャック・シェーファー、マーヴィン・カーリンズ『元FBI 捜査官が教える「心を支配する」方法』(だいわ文庫)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/6/200/img_26a7a85894bc3039603590f310ec0f05329769.jpg)
彼らがどうやってお人好しを見分けているかといえば、〈好意シグナル〉と〈敵意シグナル〉を見分けているにすぎない。
通行人と目があえば、成功の見込みは高くなる。相手が笑みを浮かべてくれれば、見込みはもっと高くなる。さらに同情しているような表情を浮かべてくれれば、見込みはさらに高くなる。
路上でよくお金を無心される人は、見知らぬ人が思わず声をかけたくなるようなシグナルを無意識のうちに送っているのだ。
一方、無心するほうは、一対一で接触しないかぎり、お金を恵んでもらうのは不可能であることを承知している。
だから彼らは、いかにもお金を恵んでくれそうな人のあとをしつこく追いかけて一対一にもち込もうとする。こんな場面では「都会のしかめっ面」をさっと浮かべればいい。
あなたの態度やしぐさは、周囲の人にシグナルとなって届いている。目的意識をもってサッサと歩くこと自体もシグナルだ。「自分はえじきにはならない」という意思表示をしているのだ。健康で、動きが速く、常に警戒を怠らないヒツジは、ライオンのターゲットになりにくいのだから。
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心理学者、ウェスタンイリノイ大学教授、諜報コンサルタント。FBIではスパイ防止活動とテロ対策の捜査官を15年、“行動分析プログラム”の行動分析官を7年務めた。現在はコンサルティング会社のオーナーとして、アメリカ本国はもとより、世界各地で講演会をおこなっている。
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プリンストン大学で心理学博士号を取得。人間関係に関して国際的にコンサルティング業を展開している。著書多数
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(元FBI特別捜査官 ジャック・シェーファー、心理学博士、コンサルタント マーヴィン・カーリンズ)
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