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"5年連続好感度1位の人たらし"安住紳一郎が大晦日に古舘伊知郎へ送ったLINEの中身

プレジデントオンライン / 2021年12月29日 9時15分

TBSのバラエティー番組「ぴったんこカンカン」出演者の久本雅美さん(左)とTBSアナウンサーの安住紳一郎さん。 - 写真=時事通信フォト

TBSアナウンサーの安住紳一郎さんは、好感度ランキングで5年連続1位になり、2009年には殿堂入りした。人気の秘訣は何か。フリーアナウンサーの古舘伊知郎さんは「安住君は人の心をつかむのが上手い。以前、12月30日に『日本レコード大賞』のMCを終えた安住君にLINEを送ったら既読スルーされた。驚いたのは翌日の大晦日に返ってきたLINEの中身だ」という――。

※本稿は、古舘伊知郎『MC論 昭和レジェンドから令和新世代まで「仕切り屋」の本懐』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。

■まろやかな雰囲気でMCをする「田舎もん」

安住紳一郎君は、自己プロデュースの神様ですよね。

毒舌を吐く時もあります。でも、自分の風体、表情、面差し含め、かつ、

「北海道帯広から出てたきた田舎もん」

をバックに背負って、まろやかな雰囲気でMCをするから許されるんです。

これがもしも東京の麹町にあるお屋敷で生まれ育って慶應幼稚舎から慶應大学までエスカレーターでご卒業になってTBSに入社したら、こんなに評価され、出世していない。

自己プロデュースって教育できない部分です。

発声、立ち居振る舞い、鼻濁音や母音の無声化、「こんばんはー」ではなく「こんばんは」。

こうしたアナウンサー教育はいくらでもできます。

しかし、“いなし”だったり、毒をちょっと出す“加減”とか、センスの部分は誰も教えられません。

古舘伊知郎『MC論 昭和レジェンドから令和新世代まで「仕切り屋」の本懐』(ワニブックス)
古舘伊知郎『MC論 昭和レジェンドから令和新世代まで「仕切り屋」の本懐』(ワニブックス)

2005年からはじまり16年目に突入したTBSラジオ『安住紳一郎の日曜天国』。安住君はMCをやっていますが、頭が下がるのは、リスナーから来たハガキやメールに目を通すのはもちろんのこと、選曲も自分でしているんです。

例えば、昔のグループサウンズのザ・タイガースの曲をかける時、超有名な『シーサイド・バウンド』じゃなくて、マイナーと大ヒットの間ぐらいの、「そういえば、こんな歌もあったよね」っていう曲をかける。

日曜日の午前中にちょうどいいぽわんとさせる曲を選ぶ。MCとは、マスター・オブ・セレモニー、全体を指揮する人を指しますが、安住君は、

「プロデューサー・アンド・MC」

これがMCの真骨頂なのかもしれないですね。

■CO2を出す製品と脱CO2の相関関係

2年前、『安住紳一郎の日曜天国』に、安住君が遅れた夏休みを取るためピンチヒッターとして出たことがあります。

「誰かにやってもらうんだったら、古舘伊知郎を引っ張ってきたって言いたい」

なんて嬉しいことを言ってくれて、僕も見栄っ張りだから「あ、いいよいいよ」って引き受けました。

すると前日、TBSラジオに呼ばれて、

「最大40分間、最低でも30分間は自由にしゃべる時間があるので、どんなお話をするか骨子だけでいいので教えていただけますか」

と言われたんです。

僕は地球温暖化の問題が前から気になっていたので、日曜のラジオにふさわしいかどうかはわからないけど……と前置きした上で話をしました。

地球温暖化防止は、カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現にかじを切ると言われ、うたい文句はSDGs構想だったりします。日本は、温室効果ガスの排出を2030年ないしは2050年までにゼロにするって言うけど、現実は火力発電所の新増設計画が後を絶ちません。

CO2は、電気自動車や再生可能エネルギーに欠かせないリチウムイオンをつくる時に出るから、儲かっている脱酸素企業が、脱炭素に向けてつくる時に煙を出してしまう製品の方、重厚長大産業の方にCO2埋設技術の投資をする方が本当のカーボンニュートラルが成立するんですよね。

それを僕が思いついたのは、夜中に台所に立った時。睡眠導入剤を半錠追加しないと寝られないと思った時、すぐそばにある平屋タイプのゴキブリ誘引剤の中にちょろちょろってゴキブリが入ったのが見えたんです。

「あ、入りやがった」と思った時に、「あっ」と思った。あらゆる流行、モードも栄枯盛衰、諸行無常で廃れていく。ゴキブリ誘引剤だって必ず上昇トレンド下降トレンドがあるはずなのに、ずーっと流行っている。

ここでパッとひらめいたのは、

「あ、ゴキブリ誘引剤をつくっている会社が、ゴキブリを養殖してるのかも」ということ。そうか、Win‒Winだったんだ。だから永遠のループなんだ。

ずーっと儲かるんだと思った。CO2もこれと同じ原理だなと。同じホールディングスにいれば、脱CO2に向けて、CO2を出す製品を大手を振ってつくれる。こんな感じでキッチンから温暖化を考えた話を1時間ぐらいしゃべったんです。

■ジジイを泳がせるだけ泳がして「これでお願いします」

打ち合わせをしたプロデューサーたちは黙って全部聞いてくれて、「ありがとうございます。大変興味深いお話ですが、古舘さんが冒頭で懸念されたように、ちょっと日曜日のリスナーには重いのかなと思ってですね」

そしてプロデューサーが内ポケットからちっちゃいメモ用紙を「ご参考までになんですけど」って出してきたんです。それは安住君が置いていったメモで、

オープニングの35分から40分、

・長州力耳元ささやき事件
・Love is Over事件
・越乃寒梅買い占め事件

この3つでお願いします。

って、書いてあったんですよ。

だったらはじめから言ってくれ! ジジイを泳がせるだけ泳がして。1時間も温暖化について熱弁して、バカ丸出しじゃないですか。

挙句に、「これでお願いできますか」って。さすがに大笑いしましたよ。

■バラエティの“いなし”センスとラジオのトーン

翌朝は、この一連の話をしました。

前日に1時間も温暖化の話をしたけど、オーディションで落とされ、独裁者安住の命令通りに笑える話をします。とやりました。冒頭は、

「おはようございますって言っていいんですかね、この時間帯は微妙ですよね。こんにちはじゃないしね」

と、ポツンとゆっくりとしたテンポで、安住流を完コピはできないまでも、安住っぽくやんなきゃと。

ラジオ番組収録中のゲストとホスト
写真=iStock.com/Pichsakul Promrungsee
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pichsakul Promrungsee

ラジオ終わりに、安住君から「ありがとうございました」ってLINEが来て、大阪で他のアナウンサーとかじりついて聞いていましたと。

「さすが、兄さんは素晴らしい。冒頭からトーンが違う。兄さんのことだから、ピンチヒッターなんて関係ない。聞いている人が違和感を感じるくらいペラペラしゃべっちゃうかなと思ったら、トーンが落ち着いていて、やる気ないのかな? と思うぐらいしっとりと入った。すごいですね」

みたいに言われたんです。遅まきながらわかりました。安住君は、トーンを大切にしていたんですね。

アーティストから、

「メロディーじゃないんだよ、古舘さん。そのあたりはビートなのよ」

と言われて僕はよくわからないことがあるんですが、要はそれと同じですね。

安住君はトーンなんですよ。

テレビの時は、どういなすか、どう意地悪を言うか、どう気遣うか、どうヨイショするか、どうさばくか考えて完全にMCに徹しています。トーンじゃない。

ところがラジオのMCとなると、トーンがすべて。

日曜の午前中、平日と違って寝ぼけまなこの状態でラジオのスイッチをオンにしたら、しっとりとしたトーンの安住君の声が流れる。「起きろ、起きろ」じゃダメなんですよ。「脳なんか、起きなくてもいいですよ」ってトーン。「コーヒー入れる?」ってトーン。

だから日曜天国は長く続いている。

聞いている方は脳内天国になれるんです。

■飛沫飛ばし野郎の逆にある“のむ”声

安住君は、あらゆる女性層から好かれているイメージがありますよね。

あんな甥っ子がいてほしい。こういう息子がいてほしい。姉さん女房になるけど結婚したい。幼妻になるけど結婚したい、などなど。

そう思わせる理由の一つに、比較的“のみ声”だっていうのがあると思います。

“のみ声”ってわかりますか? 森本レオさんのナレーションが、典型的な“のみ声”です。

「こんなお店があったら驚いてしまいますよね。入った瞬間ににおい立つビーフシチューの香り。そしてまたコーヒーを注ぐ音」

要するに、発声して、息を前に出してるのに飛沫の一滴も出さない感じで話すんです。

NHKの局アナで『ニュースウォッチ9』をやっていた井上あさひさんものみ声です。僕のような飛沫飛ばし野郎の逆に“のむ”声があります。あんまり、発声を前に前に押し出さない。

「今日の衆議院本会議において、次のような話題になりました」

と話しながら、どんどん引いていく。聞いている方は気持ちよくなって吸い込まれていく。ちゃんと伝わるような滑舌をもってして“のみ声”にしていくと、聴く鎮静剤のようになります。

■「さて」という入り方は、もはやヒーリングの域

安住君も“のみ声”なんです。『ぴったんこカン・カン』でも、僕だったら、

「山手線の池袋の駅から一駅、歩いても10分ほど、ここ北区滝野川、古舘伊知郎さんが29年間生まれ育った場所なんです。ここにたわしをつくっている古き会社がありまして、そこに私は立ってるんですけども」

って声を前に出してしまうけど、安住君は、

「東京の中心から車で12分ほど、〈間〉郊外とはいいませんが、〈間〉東京は北区滝野川におじゃまをしております。〈間〉さて」

とのみ声で話す。

「さて」というほど長い尺しゃべってないけど、安住君は、「さて」を入れることでチェンジ・オブ・ペースを醸し出します。「さて、ご本人がお見えになっています。古舘さん、どうぞ」

って、のみ声を使いながら、強く前に出さずにやるんです。

観ている人が、自発的に観たくなる気持ちにさせる。比較的低いトーンで優しいトーンで、わざとゆっくりと、

「東京の中心から車で12分、城北地域、北区滝野川におじゃましています。さて」

ってやるわけです。

絶対にかき乱さない。

僕はプロレス実況出身だから、かき乱してなんぼのタイプだけど、安住君の「さて」はヒーリングの域ですよ。

■たけしさんの毒舌を“のみ声”で包み、話を転じる

『新・情報7DAYS ニュースキャスター』の時も、“のみ声マジック”がしっかり現れていますよね。大御所のビートたけしさんをうまく転がしていく。

たけしさんが毒を吐いたり、下ネタを言って、わざとニュースにそぐわないことを言った時の安住君のMCっぷりに注目してください。

「そんなこと言っちゃダメですよ」とか、「ちょっと受け切れません、次いきますよ」ってやっちゃうMCは多いけど、安住君は、たけしさん的な世界をフォローするという体です。

たけしさんの話を聞くだけ聞いておいて、

「番組の冒頭から素晴らしい暴走っぷり、ありがとうございます。さて」

って、やるわけです。

たけしさん的世界を否定するのではなく、のみ声で優しく包み込んで、まろやかに封じ込んで、話を転じるんです。

その方が否定するよりもはるかに衝撃が少ない。

こんなテクニック、誰もやっていません。安住君が発明した、そしてマネできないテクニックですよ。

■好感度ランキング5年連続1位の「人たらし」

安住君は、僕のことを「兄さん」と呼んで慕ってくれます。

僕に憧れてアナウンサーになったと言うんだけど、本当かな。安住君が明治大学に在籍していた頃に、僕が政経学部の大学祭だったかに呼ばれて、大教室で講演会をやったことがあるんですが、その時も来ていて、その時のパンフレットをまだ持っているそうです。

僕がはじめてフリーになってやったラジオのパンフレットとか、TBSラジオで撮った何かとか全部取ってあって、時折、「大掃除していたら、出てきました」とLINEでコレクション画像を送ってくれます。人の心を掴むのが上手いけど、ちょっと変だよ。

安住君と言えば、『ぴったんこカン・カン』や『輝く!日本レコード大賞』とか各番組のMCを思い浮かべる人もいると思いますが、それだけじゃない。

アナウンサーの好感度ランキングで5年連続1位になって2009年には殿堂入り。「現役なのに殿堂入り」っておかしな話だけど、でも、あれだけ売れちゃうと、組織内で妬みもあるでしょう。だから、社外に相談する人間はいてほしい。その1人が僕なのか。

僕は、安住君を「オジキ」と呼んでいます。精神年齢も、自己プロデュース力も彼の方が上だから。

「オジキ筋から言われたら断れないよ」

という言い方をしています。「兄さん」と呼ばれて「オジキ」と返す、時空のゆがんだ付き合いです。

■LINEを既読スルーにして翌日に返信する理由

以前、12月30日に、『輝く!日本レコード大賞』のMCを終えた安住君に、

「オジキ、今宵、大変なお仕事をこなされて、お疲れさまでした。どうかご自愛いただいて、よいお年をお迎えください」

というLINEを送ったんです。そうしたら、既読スルーしやがるんですよ。

iPhoneに表示されたSNSのアイコン
写真=iStock.com/Pichsakul Promrungsee
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pichsakul Promrungsee

既読スルーって無礼じゃないですか。だけど、そうじゃないんです。既読スルーを相手に見せつけて、わざと1日置くんです。

「私、熟考して、推敲して、長文を入れるから、急にありがとうございますは、失礼だからやらない」とばかりに間をおくんです。やはり次の日、返事がきました。

「伊知郎兄さん、LINE本当にありがとうございます。

テレビを観てくださり感謝致します。司会者としてはもう一皮むけないといけないと反省しているところです。兄貴と仕事の話を、おいしいウイスキーの水割りを飲みながら話したくてしょうがありません。

兄貴は体を大事にしてもらわないと困ります。今年もたくさんごちそうになり、ご指導いただきありがとうございました。来年はぜひ……」

僕ならこんなこっぱずかしいLINEは出せないけど、安住君はできるんです。

それでも、僕だってオジキから教わったことを実行してみようとしたことはありました。

年末年始に親しい人、35人ぐらいから新年の挨拶メールをいただきました。尊敬してやまない吉田拓郎さん、くりぃむしちゅーの上田晋也君や南海キャンディーズの山ちゃんとか。

大晦日、元日、2日。普通はすぐに返信しようと思うじゃないですか。でもここは安住スタイルで短くても心を込めた賀状を送ろうと思って熟考するうちに、松の内が明けていました。完全に無礼な人間になってしまいました、僕は。

人間関係が台無しです。これだけはハッキリわかりました。中途半端に安住スタイルなんてやっちゃダメです。このざまですから。危険すぎる。

これからは彼の実力を持ってして、TBSの朝帯をガンガン盛り上げてくれると信じています。

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古舘 伊知郎(ふるたち・いちろう)
フリーアナウンサー
立教大学を卒業後、1977年、テレビ朝日にアナウンサーとして入社。3年連続で「NHK紅白歌合戦」の司会を務めるなど、NHK+民放全局でレギュラー番組の看板を担った。テレビ朝日「報道ステーション」で12年間キャスターを務め、現在、再び自由なしゃべり手となる。2019年4月、立教大学経済学部客員教授に就任。

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(フリーアナウンサー 古舘 伊知郎)

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