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「このままではパニック必至」オミクロン株感染爆発すると風邪同然でも大騒ぎになる根本原因

プレジデントオンライン / 2021年12月25日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Udomkarn Chitkul

12月22日、大阪で初めてオミクロン株の市中感染が確認された。現状、「感染力が強いものの、症状は風邪に似ており重症化が少なく、死者も少ない」と報じられている。医師の和田秀樹さんは「感染者はケタ違いで増えるでしょうが、大騒ぎする必要はない。ただ、コロナウイルスの感染症法の分類を現在のままにした場合、ひどい医療逼迫が起き、保健所がパンクし、医療を受けられない人でパニックが起こる恐れがある」と警鐘を鳴らす――。

■医師「オミクロン株は普通の風邪に近づいている。大騒ぎするな」

私はこの12月、アメリカのCDC(疾病予防管理センター)勤務を経て、厚生労働省の医系技官として検疫医専門職も歴任した木村盛世さんとユーチューブチャンネル(ヒデキとモリヨのお悩み相談)を開くことになった。

その収録で、木村さんは、なんで世の中の人がこんなにオミクロン株のことを騒ぐのかと疑問を呈していた。確かに、オミクロン株は世界的な流行の兆候を示している。イギリスでは12月21日までにオミクロン株に感染した人が累計6万人を超え、ロンドンで検出される新型コロナウイルスの約90%がオミクロン株とされ、アメリカのCDCの発表でも全米でコロナ感染の73.2%がオミクロン株とされている。

この感染力は驚異的なもので、これが最初に見つかった南アフリカの大病院のCEOのデータでは、デルタ株の4.2倍とされる。

日本でも次々と感染者が見つかり、12月22日には大阪で渡航歴のない家族3人が感染した。都内や京都でも24日、同じく市中感染が確認された。

これによって第6波を懸念する声も高まっている。実際、欧米のものすごい感染の広まりを見る限り、日本でもかなりの数の感染が生じる可能性は大きい。

いっぽうで、重症化が少なく、死者も少ないという別の側面も報じられている。イギリス保健当局の12月18日の発表では死者は7人、アメリカでも死者が出たがこの原稿を書いている時点で1人だ。以前の死者数と比べると隔世の感がある。

このオミクロン株が初めて見つかった南アフリカは、ワクチン接種率が25%で医療体制も欧米ほどはレベルが高いとは言えないのに、それによる死者は報告されていない。

症状のほうも頭痛や体の痛み、疲労感、発熱といったものだ。これに対して、木村さんは、「要するに普通の風邪に近づいている」と解釈している。それを大騒ぎして、市民生活に規制を加えようとしていることに疑問を呈しているのだ。

ウイルスは変異を繰り返し、それによって自分たちの生き残りを図ろうとする。一般的に弱毒化して感染力を強くすることが生き残りには重要なストラテジーとなる。宿主を殺すと自分も死なないといけないので、弱毒化してなるべく宿主を殺さないようにする。数を増やしたほうが淘汰されにくいので、感染力は高まる。

通常の風邪にしても、インフルエンザにしても、そのような形になるので絶滅しないし、毎年のように勢力を広げる。

■医師「感染した人の医療の受け入れをしっかりすることが置き去りだ」

木村さんが最も問題視するのは、「100%の水際対策」など現実には不可能なことに過度な期待をするより、かかった人の医療の受け入れをしっかりすることが置き去りにされていることだ。

2009年の新型インフルエンザの検疫に携わった木村さんは、そのウイルスが問題になる前に無症状のすり抜けがいくらでも起こるし、入ってきてしまったらどんどん感染が広がるので、100%の水際対策など不可能だと指摘している。

SARS-COV-2オリジナル株、デルタとOMICRON株の比較
写真=iStock.com/CIPhotos
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CIPhotos

この意見に私も賛同する。感染力が強くて、無症状の人が多いとされるオミクロン株ではなおのことだろう。

私の予想が杞憂(きゆう)に終わることを望むが、今回のオミクロン株が「普通の風邪に近いもの」だとすると感染者数は、ケタ違いのものになる可能性がある。

健康保険組合連合会の2012年(平成24年)度版のレポートによると、組合員1243万人中、風邪で医者にかかった人は約45万人だという。日本の人口で考えればおよそ450万人ということになる。医者にかかるような症状が出た人だけでそれだけの数だから、医者にかからなかった人を含めた感染者数はその10倍くらいはいたのではないか。

つまり、今回の感染力が強いオミクロン株に関しては、無症状者を含め4000万人レベルの感染者に達する可能性もある、と予測している。

例年、普通の風邪でもこじらせて亡くなる人は多い。死因の統計の「肺炎」の中には風邪をこじらせた結果、という高齢者などもかなりの数にのぼる(肺炎で年平均10万人の方が亡くなっている)。

人は、コロナ禍以前からそうした感染や死のリスクを抱えている。

■医師「このままでは医療逼迫、保健所パンク、受診困難な人多数」

アメリカで公衆衛生を学んだ木村さんは、「普通の風邪で、経済や社会活動をここまで抑制してもいいのか」という意見を持っている。

精神科医であり、長年、老年医学に携わってきた私も同感だ。普通の風邪で自粛生活が続けば、うつ病が増えるのに伴い自殺者も増え、高齢者の歩行機能や認知機能が落ちて、数年後に要介護状態になる人が激増することは容易に想像できる。

もちろん、オミクロン株のケタ違いの感染者数の予想が当たるかどうかはわからない。

マジックで不織布マスクにオミクロンの文字、注射器と手袋
写真=iStock.com/Helin Loik-Tomson
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Helin Loik-Tomson

ただ、感染者がかなりの数で増えるのは、おそらくは確かだろう。問題は、その際に今のままの医療体制ではかなりひどい医療逼迫(ひっぱく)が起き、保健所がパンクし、医療を受けられない人でパニックが起こる可能性が高いということだ。

この元凶の大きな原因になっているのが、「新型コロナウイルス」の感染症法上の分類が、日本では実質2類相当(下手をすると1類に近い)になっていることだ、と木村さんは指摘する。

2類というと、はるかに致死率の高いSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)のレベルである。この場合、保健所は行政などへの届出だけでなく、入院や検査の管理を行わなければならず、また濃厚接触者の割り出しもしないといけない。

これを通常のインフルエンザと同じ5類まで下げれば保健所の負担も大幅に減り、一般の病院での対応も可能になる。法律上、医師が診察の拒否をすることもできなくなる。そうした効果で、コロナ治療のキャパシティが大幅に増えるのは間違いない。

国の当局は、感染症法上の分類を実質「2」から「5」へ移行することを早急に検討すべきだ。

■日本人は「現実的な対策」をすぐ打たない体質

心理学の立場からみると人間というのは起こってほしくないことについて、それが起こった際の対策を考えるより、起こらない方向のことを考えようとしがちなものだ。

私は、その傾向が日本人にとくに強いと考えている。

たとえば、がんになるのを恐れる人は、毎年のようにがん検診を受ける。本来はがんにならないためではなく、早期発見・治療のためのはずなのに、早期発見がされたときにどこの医者に行こうと決めている人や、それを調べている人はほとんどいない。2人に1人がかかる病気だというのにである。

私の専門とする老年精神医学でも、認知症になるのを恐れて脳トレのようなものをやる人はたくさんいるが、実際に認知症になった際に、どこの老人ホームに入るかを決めている人もまずいないし、それどころか介護保険の使い方も知らない人がほとんどというのが実情である。

ジャンルはまったく異なるが、原発事故にしても起こらないことが前提だったから、起こった時のマニュアルがほとんどなかったという。

オミクロンと文字の書かれた不織布マスクと注射器を持つ手
写真=iStock.com/Helin Loik-Tomson
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Helin Loik-Tomson

オミクロン株に対する水際対策が幻想だとまでは言わないが、実現が非常に難しいことは経験上わかっていることだ。それと比べて、起こった際の受け入れ態勢を早急に進めることはできる。

前述した感染症法の2類を5類にすることもそのひとつだろう。また、野戦病院のようなものを作るより、既存の病院を有効に利用したほうがはるかに現実的だ。実際、既存の病院で酸素吸入器がベッド脇についていないところはほとんどないのだし、看護体制が見直されて、夜間の対応もかなりよくなっている。

■医師「今こそ厚労省は伝家の宝刀を抜いて、医療機関に指令を出せ」

さらに言えば、厚労省には“伝家の宝刀”がある。

たとえば、これまである病院において医者の数や看護師の数が足りない場合、厚労省はベッド数の削減の命令をすることができた。そうした事態を避けるため、病院の経営者は、医師を派遣してくれるよう、大学(医学部の)教授などに頭を下げて頼む。

便宜を図ってくれた医学部教授に対して病院が接待をすると、その席で、教授にセクハラを受けたという病院の女性事務職員の話を直接何度も聞いたことがある。その女性が訴えると医師を派遣してもらえないため、病院からお金をもらって泣き寝入りするのが常だという。

そんなことを見過ごしながら、医師や看護師が集められない病院を“いじめ”ている厚労省がなぜコロナ医療を意図的に受け入れない病院を処分できないのか? あるいは、巨額のコロナ補助金を受けながら、所定の患者を受け入れない不届きな病院を処分できないのか?

厚労省は医療機関に不正が発覚した際には、保険医療機関の取り消しの処分を行ってきた。今回もそれをすればいいのである。

感染爆発を不安がるより、それが起こった際の具体的かつ効果的な対策を打つのが、政治や行政の仕事であるはずだ。

2020年3月、タイ・バンコクの通勤ラッシュで、マスクを着用している人々
写真=iStock.com/Tzido
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tzido

国民はこの2年間、辛抱に辛抱を重ねてきた。自粛に従った。すでに8割の国民がワクチン接種を終えた。それも、副反応(38度以上の発熱など)がほかのワクチンより多く、接種後の死者数もインフルエンザワクチンの100倍に達するワクチンだ。

国はそれほどまでに国民に負担を求めているのだから、オミクロン株感染者が多数発生した際に、医療機関に応分の負担を担わせるのは当然のことではないだろうか。

ひとりの医師として、私は今、国民一人ひとりに「毎月、いくら健康保険料を払っているの?」と問いたい。国民は、「これ以上の我慢や負担をしたくない」と大きな声を上げるべきなのだ。また、精神科医の立場からは、オミクロン株への予期不安でオロオロするより、各自が、仮に感染したという想定をして対処を考えることがメンタルヘルスを整える、ということも付け加えたい。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
国際医療福祉大学大学院教授
アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化した「和田秀樹 こころと体のクリニック」院長。1960年6月7日生まれ。東京大学医学部卒業。『受験は要領』(現在はPHPで文庫化)や『公立・私立中堅校から東大に入る本』(大和書房)ほか著書多数。

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(国際医療福祉大学大学院教授 和田 秀樹)

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