「TikTokは内容が薄い」そう思っている人が根本的に誤解していること
プレジデントオンライン / 2022年1月5日 12時15分
※本稿は、齋藤孝『人生を変える「超」会話力』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■せっかくの新しい情報を手に入れるチャンスを逃している
聞き上手は、なにより自分の思い込みや偏見や先入観にとらわれずに、相手の話を聞くことができます。簡単にいえば、どんな相手のどんな話でも、まっさらな心で耳を傾けることができる人です。
でも、多くの人はこれが苦手なようです。相手の話をどうしても自分の「フィルター(思い込み、偏見、先入観)」をとおして理解しようとしてしまうからです。
その結果、相手の話の趣旨を取り違えたり、反感を覚えたり、すぐに反論したりしてしまいます。
世代間のズレもあります。たとえば、いまの若者は、YouTubeやTikTokなどの動画配信サービスで情報を集め、自らも短時間の動画で気軽に情報発信しています。でも、これまで主に活字情報で育った世代には、動画の便利さやよさがなかなかわかりません。
それならば、素直に若者の話を聞けばいいのですが、「短い動画で深い情報が伝わるわけがない」「インパクトだけで内容が薄い」といった思い込みや先入観があると、素直に話を聞くこともできないわけです。
そうしてますます自分の思い込みにこだわるようになり、偏見だらけの固い頭になっていく。そんな人は、せっかくの新しい情報を手に入れるチャンスをみすみす逃し、自分の世界も広がりません。
現象学を提唱したオーストリアの哲学者フッサールは、「われわれの『見る』ことは、しばしば多くの偏見・先入見に汚染されている」と記し、それらを取り除く訓練の必要性を説いています。
聞き上手は、まさに心を「空(から)」にして話を聞ける人。
さもなければ、他者をいつまでも理解できず、自分もまた成長できずに終わってしまうのです。
■3割増しのリアクションを心掛ける
話を聞いているときに、同じ姿勢でただうなずいているだけでは、「この人本当に聞いているのかな?」「わたしの話が退屈なのかな?」と、相手を不安にさせてしまいます。
そこで、人の話を聞くときは、いつもの自分の3割増しくらいの反応を心掛けてみてください。
いつもなら「そうなんだ」というところを、「ええっ、そんなことがあるんだ!」に。「うん」といううなずきも、「そう、そう!」「ある、ある!」くらいに、3割増しで大袈裟に反応してみるのです。
意識して行うので最初はぎこちなく感じるかもしれませんが、すぐに慣れます。それにともなって、相手の反応も活気づいてくるので、会話がどんどん楽しくなってくるはずです。
あたりまえですが、薄い反応しかしない人には、誰だって話したくなりません。反応が薄くなるのは、内容に興味がなかったり、話が面白くなかったりする場合もあると思いますが、まずは自分から相手に合わせて心をひらいていけるのが、「聞き上手」な人です。
すると、相手は「この人は話をよく聞いてくれる」と思って、次もまた話しかけてくれます。あなたはいつのまにか、みんなにとって「話しかけやすい人」になっていくということです。
楽しい時間も貴重な情報も、すべて向こうから勝手にやってきてくれるようになります。そうして、あなたの人生は豊かになっていくでしょう。
![カフェでランチを楽しむ中期の大人のカップル](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/4/670/img_d4ff42de33145acb2745eda323af4e86729668.jpg)
■「ポイントを繰り返す」だけでも会話は続く
よい聞き手になるには、相手の会話を自然なかたちでうながしていく必要があります。でも、慣れないうちは、話を広げるのを難しく感じるときもあると思います。
そんなときは、相手の話のなかで「大事なポイント」を摑み、それを繰り返してみてください。
例えば、相手が格安スマホの月額料金について話していて、「月々の通信量を見るのも大切だけど、むしろ対応端末やのちのちの機種変更を考えることが重要なんだよね」などといったとします。
そんなとき、格安スマホについて多少なりとも知らなければ、話についていくことはできません。でも、たとえ話についていけなくても、「なるほど、対応端末や機種変更を考えるのが大切なんですね!」と繰り返す。
すると相手は、「大事なポイントを聞いてくれたな」と感じて、その点を詳しく説明してくれるはずです。聞いているほうも、より理解が深まるでしょう。
注意したいのは、なんでもオウム返しするのではなく、「大事なポイント」を繰り返すこと。
話をしっかり聞いていれば、多少内容を理解できなくても、「大事なポイント」はわかります。それを繰り返し、相手にさらにわかりやすく説明してもらえばいいでしょう。
■知らない話題には「質問」すればいい
会話のなかで、「○○についてどう思いますか?」と質問されたとき、まったくその知識や情報を知らない場合もあると思います。
しかし、そんなときでも、「わかりません」「知りません」とひとことで答えないようにしましょう。
なぜなら、そう答えるのは正直な態度かもしれませんが、肝心の話自体がそこで終わってしまうからです。相手によっては、「この話はしないほうがいいな」「なんだか盛り上がらないな」と、ネガティブな印象を持たれる場合もあります。
自分が知らない話題のときには、素直に質問で返しましょう。
一定の興味を示しつつ、「まったく知らないのですが、それってなんですか?」と、聞いてしまえばいいのです。
「ネットフリックスは観ていますか?」
「それって知らないのですが、なんですか?」
「サブスクの動画配信サービスで、ドラマや映画が見放題なんですよ」
「すみません、サブスクってなんですか? わたしなにも知らなくて」
「ああ、簡単にいえば、月額課金の定額サービスですよ」
こんなふうに、あくまで相手の興味関心に沿って話をつないでいけば、いつでもいい聞き手になれます。
あなたが「知らないこと」は、自分が気にしているだけで、他人はほとんど関心がありません。
むしろ、知らないことをオープンにして素直に質問すれば、相手は親切に教えてくれるし、会話が盛り上がり、あなたの知識や情報も充実していくはずです。
■相づちを繰り返すだけで聞き上手になれる
話を聞くだけでなく、その話を広げて盛り上げていくのは難しいものです。もともと苦手な人もいますし、何度も成功体験を積む必要もあるでしょう。
でも、特別な才能がなくても、話の流れをよくしてそれに乗っていける方法があります。それが、相づちを2回(場合によって3回)続けて打つことです。
代表的な相づちには、「はい」や「なるほど」がありますが、これを「はい、はい、はい」「なるほど、なるほど!」と反応してみるのです。
■「肯定している感じ」さえ伝わればいい
たったそれだけの反応の工夫で、会話に勢いがつき、無理なく流れに乗っていけます。
![齋藤孝『人生を変える「超」会話力』(プレジデント社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/1/200/img_b149d2e587967871053fe2350404cf61242950.jpg)
相づちそのものに特に意味はありませんが、それでいいのです。意味のある返しをしようとして、話の腰を折るよりもよほどいいでしょう。相手の話を「肯定している感じ」さえ伝われば、相手も気をよくして話してくれます。
慣れてきたら、「ある、ありますね、それ!」「そうですか、そうですか」「わかる、わかる」というように、自由に表現を増やしてみてください。あくまで相づちであり、会話の潤滑油なので深く考えないように!
人は誰でも話を聞いてもらいたいものです。
“ノリのいい“聞き手になれば、誰からも好かれる人になれるでしょう。
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明治大学文学部教授
1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、現職。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。ベストセラー作家、文化人として多くのメディアに登場。著書に『ネット断ち』(青春新書インテリジェンス)、『声に出して読みたい日本語』(草思社)、『語彙力こそが教養である』(KADOKAWA)『新しい学力』(岩波新書)『日本語力と英語力』(中公新書ラクレ)『からだを揺さぶる英語入門』(角川書店)等がある。著書発行部数は1000万部を超える。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」総合指導を務める。
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(明治大学文学部教授 齋藤 孝)
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