「アナリストも格付け会社も役には立たない」10兆円投資家バフェットがそう断言するワケ
プレジデントオンライン / 2022年1月4日 10時15分
※本稿は、桑原晃弥『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学」』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■ウォール街から離れても金融界で大成功
バフェットがグレアム・ニューマンを離れてオマハに帰り、1人でパートナーシップを立ち上げようと決断した1956年当時、本気で金融に携わろうとするアメリカ人がニューヨーク以外で働くというのはあり得ないことでした。
もちろんニューヨーク以外の地方都市にも証券会社はありましたが、どれも重要な役割を果たしてはおらず、少なくとも金融界で成功し、バフェットが望むような大金持ちになりたいと考える者にとって、ウォール街から離れる選択はそうした夢を捨てることさえも意味していました。
しかし、そんな当時の常識をバフェットは見事に覆しています。1957年にバフェットのパートナーシップに投資された1万ドルは、1969年には26万ドルとなる(『スノーボール(上)』)ほどの素晴らしい成績を上げただけに、『フォーブス』が「オマハはいかにウォール街を打ち負かしたか」という記事を掲載するのも当然のことでした。
なぜバフェットはたった1人で、ウォール街から遠く離れたオマハでこれだけの成功を収められたのでしょうか? そしてなぜウォール街は、バフェットほどの成果を上げられないのでしょうか?
バフェットはこう指摘しました。「これはたぶん私の偏見だろうが、集団の中から飛びぬけた投資実績は生まれてこない」(『ビジネスは人なり 投資は価値なり』)。
■「みんなそうしているから」が目を曇らせる
問題はウォール街の投資判断や横並び意識にありました。たとえば1973年にワシントン・ポストが大きく株価を下げたことがあります。バフェットによると、当時の同社の資産価値は4億ドルありましたが、株価が大幅に下がったことにより時価総額は8000万ドルにまで下がっていました。売りは売りを呼びます。
では、同社株を手放した人々がどんな理由で株を売ったかというと、ほとんどは「マスコミ株が下げているから」とか、「みんなが売っているから」という理由です。理由はそれ以上でも以下でもありません。つまり、「みんなそれほど確固たる理由はないのである」がバフェットの見方でした。
![複数のビジネス紙](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/b/670/img_0b1fdcdd0745f7e8a6cf121a26379cf6456311.jpg)
■前例踏襲でリスクを回避したつもりが
これはウォール街に限ったことではなく、「同業他社が行えば、企業は無意識に追随する」(『バフェットからの手紙』)とバフェットは指摘しています。
企業というのは前例踏襲を好み、同業他社がやっていると「では、うちも」と安心をするところがあります。新製品を開発する際、どこもつくっていないものにはリスクを感じますが、同業他社が出していて良く売れていれば、それよりちょっといいものを出せば売れるだろうとゴーサインが簡単に出る傾向があります。
ある大手メーカーでは、新製品の企画書に同業他社の販売データを付けるのが慣例となっていました。しかし、それでは他社の真似ばかりになると不安を感じた製品開発担当者がどこもつくっていない製品の企画書を上司に提出したところ、上司から返ってきたのは「お前は俺を首にしたいのか」という反応でした。
他社と似た製品であればある程度の数字が予測できますし、失敗のリスクもあまりありませんが、どこもつくっていない製品を出して失敗すると、それは責任問題になるというのが上司の反対理由でした。
■一人でやるからクリエイティブになれる
こうした横並び意識は問題行動や不祥事においても発揮されます。
2006年、アメリカ企業100社以上がストックオプションの権利付与日付を不当に操作したとして大きな問題になりました。日付操作とは、経営陣が故意にストックオプションの付与日を操作して、自分たちが受け取る利益をかさ上げする行為を指します。バフェットの会社バークシャー・ハザウェイは日付操作とは無縁でしたが、バフェットは傘下の企業に向けてこんな呼びかけを行いました。
「他社が問題含みの行動をしているから、わが社が問題含みの行動をしても大丈夫とは思い込まないように(中略)ビジネスの世界で最も危険な言葉は、五つの単語で表現できます。『ほかの誰もがやっている(Everybody else is doing it)』です」(『ウォーレン・バフェット 華麗なる流儀』ジャネット・タバコリ著、牧野洋訳、東洋経済新報社)
「画期的な製品を生み出せる可能性が一番高いのは、1人で仕事をする時だ。委員会じゃダメ」はアップルのもう1人の創業者スティーブ・ウォズニアックの言葉ですが、株式投資においても横並び意識、業界の常識にとらわれたやり方、多数決重視の委員会といった「誰も責任をとらない大人数から生まれた判断は、優れたものにはならない」(『バフェット&ゲイツ 後輩と語る』センゲージラーニング編集・発行、同友館)とバフェットは言い切っています。
バフェットの成功は、たった1人でニューヨークから遠いオマハで開業をして、重要な決断は「鏡を見て行う」(『ウォーレン・バフェット 自分を信じるものが勝つ!』)というやり方がもたらしたものなのです。
■格付け会社の意見も全く気にしない
投資の世界にはたくさんのアドバイザーがいます。ウォール街の住人もいれば、格付け会社もあります。しかし、バフェットはこうしたアドバイスをまったく相手にしようとはしません。
1983年と84年、バフェットはワシントン電力公社の社債を1億3900万ドル購入しましたが、これは格付け会社によるとただの紙切れになるリスクが極めて高い、投資には適さないものでした。しかし、バフェットはまるで意に介しませんでした。
「私たちは、格付けを基に判断しているわけではありません。もし格付け会社のムーディーズやスタンダード&プアーズに投資資金の運用を任せたいのであれば、とっくの昔にそうしています」(『ウォーレン・バフェット 自分を信じるものが勝つ!』)
■情報を熟読し、自分で判断する
バフェットは格付け会社など不要だといっているわけではありません。それどころかバフェットは父親の会社で働いていた頃から『ムーディーズ・マニュアル』(日本の『会社四季報』のようなもの)を1ページも漏らさずに読み込むほどであり、ニューヨーク時代にはムーディーズやスタンダード&プアーズに直接出向くほど熱心に資料を読み込んでいました。
バフェットによると「ああいうところに顔を出すのは私くらいのものだった」(『スノーボール(上)』)といいますが、出かけていっては40年分、50年分のファイルを見て、コピー機のない時代、さまざまな数字を手書きでメモしていました。
バフェットはこうした資料の価値をよく知り、こうした資料から投資すべき企業を探し出す能力に長けていましたが、だからといってこれら格付け機関のいうことをそのまま信じるほどのお人よしではありませんでした。
格付け機関はさまざまの資料を基に判断を下します。だからといって彼らのいう通りに投資をしていればいいというものではありません。格付け上のリスクが高い社債を買うこともあれば、格付けリスクは低くとも目もくれない企業は山とあります。
バフェットにとって格付けは重要な情報ではあっても、その価値を判断するのはあくまでもバフェット自身でした。
■経済予測も金融政策も気に留めない
バフェットは、会計監査人の意見も参考にはしません。
「もし会計監査人の方が自分より買収に詳しいと思うなら、自分は会計を担当して、その会計監査人に会社を経営させるべきでしょう」(『バフェットの株主総会』)といっています。
バフェットは内部情報や経済予測などに気を留めることもありません。こんなことも口にしています。「(アメリカの中央銀行に当たる)連邦準備制度理事会(FRB)のアラン・グリーンスパン議長(著者注 1987~2006年まで同職)が私のところにやってきて、向こう二年間どのような金融政策をとるつもりか教えてくれたとしても、私の行動に何ら影響することはありません」(『ウォーレン・バフェット 自分を信じるものが勝つ!』)
■「君達は優秀かもしれないが、何で私が金持ちになったんだい?」
バフェットがグレアムの会社を去り、オマハに戻った当時、金融の中心地ニューヨークを離れ地方都市で金融関連の仕事をするなど考えられなかったのは前述の通りです。今と違ってインターネットなどない時代、情報から遠く離れることはただそれだけで「成功から遠ざかる」ことを意味していました。
![桑原晃弥『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学」』(KADOKAWA)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/f/200/img_cf822d99395fa4a14d4298653294f446219185.jpg)
1968年、新聞記者から「どうやってニューヨークの事情通と連絡をとるのですか?」と質問されたバフェットはこうコメントしました。「内部情報を信用して運用しても、1年間で破産してしまいますよ」(『ビジネスは人なり 投資は価値なり』)
投資に関する学説や理論を「たわごと」として片づけるバフェットを批判する学者や金融の専門家にはこう反論したこともあります。「君達は優秀かもしれないが、じゃあ何で私が金持ちになったんだい?」(『ビジネスは人なり 投資は価値なり』)
バフェットにこういわれて反論できる人はいません。
■独力で考えなければ成功しない
バフェットは格付け会社に頼らなければ、ブローカーやアナリストに相談することもありません。内部情報に振り回されることもありません。大切なのは誰かの意見を聞いたり、権威ある人のアドバイスを受けることではなく、“自分で考えること”です。
「独力で考えなかったら、投資では成功しない。それに、正しいとか間違っているとかいうことは、他人が賛成するかどうかとは関係ない。事実と根拠が正しければ正しい。結局はそれが肝心なんだ」(『スノーボール(下)』)
重要なのはその企業が長く良い企業であり続けることができるかどうかであり、他者がどのように考えているか、世間でどのようなブームが起きているかはバフェットにとって関係のないことなのです。
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経済・経営ジャーナリスト
1956年、広島県生まれ。慶應義塾大学卒。業界紙記者を経てフリージャーナリストとして独立。トヨタからアップル、グーグルまで、業界を問わず幅広い取材経験を持ち、企業風土や働き方、人材育成から投資まで、鋭い論旨を展開する。主な著書に『ウォーレン・バフェット 巨富を生み出す7つの法則』(朝日新聞出版)、『「ものづくりの現場」の名語録』(PHP文庫)などがある。
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(経済・経営ジャーナリスト 桑原 晃弥)
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