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「7割はノーテンダー社員」人事部が"放出候補"リストにあげる打率2割5分のいてもいなくてもいい社員の特徴

プレジデントオンライン / 2021年12月28日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yagi-Studio

「3人の選手が獲得した(FAの)権利を尊重し、ノーテンダーとする」。プロ野球の日本ハムの稲葉篤紀GMは11月にこう発表したが、企業にもノーテンダー社員はいる。ジャーナリストの溝上憲文さんが取材したある人事部長は「いてもいなくてもいい、本音ではいらない人材。野球で言えば打率2割5分の人で、社員の7割が該当する。課長・部長の管理職にも多い」と語る。戦力外宣告される前に転職し“再契約”の道を探るしかないのか――。

■人事部「7割はノーテンダー社員、いてもいなくてもいい人材だ」

新庄剛志新監督を迎え注目されているプロ野球の日本ハム。稲葉篤紀GMが11月16日、チーム内の3選手について、「選手が獲得した(FAの)権利を尊重し、ノーテンダーとすることを選択した」とコメントしたのは記憶に新しい。

この「ノーテンダー」は聞き慣れない言葉だが、決して「戦力外」ではなく、プロ選手としての実力はあるが年俸に見合う働きができていない選手を自由契約状態にすることをいう。

メジャーリーグで使われる手法で、日本では日本ハムが同様の手法をしばしば使っている。例えば、今回ノーテンダーとなった大田泰示選手の今季の打率は2割程度、年俸は1億3000万円だったが、年俸5000万円(推定)でDeNAに移籍した。

実力はあるがコストパフォーマンスに見合わず、本音ではいらない“ノーテンダー社員”は企業にもいる。高校時代に野球経験のあるサービス業の人事部長は「たくさんいる」と語る。ではどんな人か。

「野球で言えば打率2割5分の社員。要するに、いなくても代わりがきく人だ。日ハムが最初にノーテンダーを出したが、自由契約なのでクビにはならないし、いてもらってもいいけど、そろそろ若手にバトンタッチしてももらいたい人などだ。企業でいえば、新規事業ではなく、収益モデルが築かれ儲かっている事業部門にいる人で、トップ営業のビジネスパーソンなど上位3割以外の残り7割は全員ノーテンダーになる可能性が高い」

人事評価でいえば、SABCDの5段階評価のうちB評価以下の人たちだと言う。

「B評価の社員は昇給の対象になりますが、会社の必要性からいったらノーテンダーだ。例えば、B評価の人が転職したいと言ってきたとき、表向きは『そうか残念だな』と言いつつ、彼がいなくなると今の現場が一時的に回らなくなる不安はあるものの、本音では、中・長期的にはポストが空いて若手を抜擢できるなど『辞めてくれてよかった』という存在だ」

さらにノーテンダー候補になりやすいのが課長、部長などの管理職だ。

「会社が中・長期的な人材方針を打ち出そうとすると、その瞬間に45歳を過ぎた人たちをノーテンダーと考えるだろう。優秀な若手も育ってきたのでチャレンジさせたいが、事業も成長していないのでポストも増やせない。そうなると狙われるのは今の課長、部長だ。万年課長はとくに危ない」

■人事部に「ご苦労様でした」と言われたら、ノーテンダー社員

50歳を過ぎると、さらにリスクは高まる。金融機関では50歳になると支店長や部長クラスになれなければノーテンダーとなり、出向させられる。しかも一度出向すると2度と本社に戻れない片道切符だとされる。

実はノーテンダーと明確に位置づけられている社員もいる。企業が希望退職者募集を実施する際に、一般的には「会社に残ってほしい人」を慰留し、「辞めてほしい人」に退職勧奨を行う面談を実施する。

筆者が入手したある企業の「退職勧奨マニュアル」には「本人に対し、会社側の評価を明確に伝える」と書かれ、以下の3類型が表示されている。

① 残留者(A):厳しさを認識させ、今後、社内での活躍を期待する
② 本人選択(B):厳しさを認識させ、本人の選択に委ねる
③ 退職候補者(C):社外での活躍を促す

これはABCランクと呼ばれ、対象者全員と面談する。残ってほしい人(残留者)がA、退職してほしい人がCに当たるが、留まるか、退職するかを本人に選択させるBランクの社員こそ、ノーテンダーといえる。

そしてマニュアルには、Cランクの社員は「社内ではあなたの経験と能力を十分に活用できる職務がなくなっているのが現状です」と伝え、「早期退職プラン」を使って退職を促す説明が書かれている。

段ボールに詰めた私物を抱えて、うつむいて歩く男性
写真=iStock.com/YinYang
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/YinYang

また、Aランクの社員に「あなたの役割の重要性を今以上に認識し、この機に際し改めて、今後どのような職責を果たしていくかを考えていただき、経営改善達成のために最大の努力をしていただきたいと考えています。今まで培ったキャリアを存分に発揮されることを期待しています」と説明し、本人が「がんばります」と答えたら「これからもしっかり頼みます」と結んでいる。

一方、Bランクの社員の説明では「自らの今後について考えていただき、社内で培ったキャリアを社外で活用し、活躍することで活路を見いだしたいという方には、会社としてなしうる最大の総合的な支援を行うことが、会社の責務であると認識して、今回の『早期退職プラン』を発表しました」と書かれている。

つまり、Aランクの社員には退職プランの話は出さずに、会社が期待していることを伝える。Bランクは残ってもいいけど、社外での活躍を希望するのではあれば退職プランもありますよ、と伝える。おもしろいのは本人が「会社でがんばります」と言ったら「ご苦労様でした」と、たった一言で終わっている。会社がそれほど期待していないことが透けて見えるようだ。

■2022年に激増するノーテンダー社員、挽回のチャンスはないのか?

では今後、ノーテンダー社員はどうなっていくのか。2022年はノーテンダー社員を含む希望退職者募集が増えると予測するのは倉庫業の人事部長だ。

「大手企業の社員の平均年齢が45歳を超えており、どこの会社も40~60歳代が総人件費の60%以上を占めている。デジタル化への対応や新規事業をやりたいが、そこに回すお金がない企業も少なくない。あるいは新規事業に必要な外部の優秀な人材を採用するにもお金がかかる。そうなると40代以上の人件費を削るために早期退職募集を実施する企業が増えるのではないか。40代以降の人たちは、ある程度能力(の限界)が見えているうえに体力も落ちていく。それなりに会社に貢献しているが、今後すばらしい能力を発揮して事業収益を上げてくれる可能性は低い。年齢に加えて伸びしろが低い社員を外に出していこうという企業が加速するだろう」

実際にコロナ禍で拡大した企業の早期退職や希望退職の募集が、なかなか収まる気配がない。上場企業の希望退職の募集企業・人数は2020年に93社、1万8635人だったが、21年12月9日現在で80社、1万5296人。2年連続で80社を超え、1万人超えはコロナ前から3年連続となった(東京商工リサーチ調査)。この悪い流れは2022年も続く可能性が高い。

ストレスを抱えたビジネスマンのシルエット
写真=iStock.com/kieferpix
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

では、ノーテンダー社員に挽回のチャンスはないのか。前出のサービス業の人事部長は「難しい」と指摘する。

「会社に残ってしがみついていても、結局どこかの段階で“戦力外通告”される可能性が高いだろう。企業環境が厳しい今の時期にノーテンダーになっている人は、本当ならもっと前に自分の実力をつけておくべきだったが、これだけ変化の大きい時代にはもはや手遅れだと思う。可能性がないとは言えないが、自分自身を劇的に変えていくという覚悟を持たないと、ノーテンダーを抜け出すのは相当難しいだろう」

大多数のノーテンダー社員にとっては身も蓋もない話であるが、現実は厳しい。ノーテンダー状態から「戦力外通告」を受ける前に転職することで「再契約」の道もあるかもしれない。

2022年は改めて自分の行く末をしっかりと考えていく必要がありそうだ。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)

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