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「国の低所得者イジメだ」法改正で老親の介護コスト急増に激怒する人に教える"負担回避のウルトラC"

プレジデントオンライン / 2021年12月29日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yusuke Ide

3年ごとに改正される介護保険法により介護保険制度は変わる。毎回、利用者の負担額が増えているが、2020年の改正では「負担増がついに低所得者にも及び始めた」と批判の声が出ている。ライターの相沢光一さんがキャリア15年以上のケアマネジャーに「介護とお金」を巡る背景を聞いた――。

■「国は低所得者層イジメをするのか」介護負担増に憤慨する声

国の「介護保険制度」は、高齢者などの要介護者が受けるサービスの費用を給付し介護生活を支えるのが目的です。この制度の規定を定めた介護保険法は3年ごとに改正されます。

近年はそのたびに利用者の負担増につながる改定が行われています。介護保険制度が始まった2000年以降、自己負担額は1割でしたが、2014年の改正(施行は1年後)では年金収入などが単身の場合、年間280万円以上の要介護者は2割負担に、2017年の改正では340万円以上の人が3割負担になりまし。

高齢化が進み要介護者も増え、医療や介護といった社会保障費が膨らみ続け財源が逼迫(ひっぱく)している状況では「収入によって応分の負担をしてもらおう」という規定もやむをえないことと受け入れられてきました。

ところが、2020年の改正では、負担増がついに低所得者にも及び始めました。

「補足給付」という制度があります。2000年の介護保険創設時、特別養護老人ホームなどの高齢者施設の食費と居住費は保険給付の対象ですた。しかし2005年、在宅で介護を受ける高齢者との公平性を保つという理由から自己負担になったため、施設に入所している低所得者の救済策として食費と居住費を助成する「補足給付」が設けられました。対象となるのは、収入が少ない住民税非課税世帯。

単身の場合、預貯金が1000万円以下の人で。ところが、それが今回(2020年)の改正では、この預貯金額の要件が一気に650万~500万円以下に引き下げられました。また、この要件を満たしていても年金などの収入が120万円以上ある人は、1日の食費が650円から1360円に引き上げられました。2倍以上の増額で、ひと月にすると約2万円もの負担増になります。

補足給付を受けていた人は全国で約100万人いて、このうち約27万人が今回の制度見直しによって負担が増えたといわれます。「家計が苦しいから補助を受けていたのに……」「国は低所得者層イジメをするのか」と頭を抱え憤慨する施設入所者、家族も少なくないようです。

■「ひと月6万円以上も多く払わなければならなくなった」

この改定を、介護現場をよく知るケアマネジャーはどう見ているのでしょうか。

「実際に負担が増えたのは2021年の8月からです。1年前に制度見直しが決まっていたんですが、利用者さんはそういう情報に疎いですから、いきなり補助を打ち切られたような気がするわけです。食費に加え居住費も自己負担になったケースでは、ひと月6万円余りも多く払わなければならなくなった方もいます。突然、これほどの負担増になれば確かにつらい。『ひどくないですか?』という声が私の耳にも届いています」

とは、ケアマネ歴15年の男性Hさん。続けて、このように語ります。

「ただし、第三者的に見れば見解は異なると思います。たとえば預貯金が800万円ある施設入所者がいたとします。これまでの規定では、この方も補足給付の対象で居住費と食費が安く抑えられていた。年金などの収入にもよりますが、その恩恵によって預貯金をそれほど減らすことなくキープできたはずです。でも、世間的には800万円も持っている人が高齢者施設の介護で大きな恩恵を受けるのはいかがなものかと受け止められるでしょう。厚労省の考え方もそれに近いと思います」

入所者本人にとって、それは老後のためと思ってコツコツ貯めてきた大事なお金でしょう。病気になって思わぬ医療費がかかるかもしれませんし、死期が近づいていることも頭にある。葬儀代などで家族に迷惑をかけたくない、少しは遺産を残したいという思いもあるはずです。ただ、それにしたって「800万円」は妥当か? と思う人も多いかもしれません。

書類の上をさまよう高齢者の手
写真=iStock.com/Dobrila Vignjevic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Dobrila Vignjevic

預貯金額の要件で今回の改正を見ると、1000万円以下だったのが、年金などの収入額によって650万円以下、550万円以下、500万円以下の3段階になりました。国の判断としては、1000万円近いお金を持っている人に補助する必要はない、500万~650万円あれば、そうした費用はなんとかまかなえるはずで、その額を下回る状況になった場合は補助しますよ、という改正だったというわけです。

「この問題には家族の意向も絡んできます。親などが高齢者施設に入所している場合、居住費・食費の支払いを含め資金管理は家族がしていることがほとんどです。入所者本人と同様、亡くなった時の出費が頭に浮かぶわけです。加えて家などの資産がある場合は相続税の心配もある。ただ、日頃、そういうお金のことはあまり考えたくないもの。世間的な相場はなんとなくわかっていても具体的にいくらかかるかシミュレーションなどしない。その時に備えて、親の預貯金は手をつけたくないと思うわけです。また、心のうちには、できるだけ残して、もらえる遺産額は減らしたくないという意識もあるはずです」

■負担増を回避できるかもしれないとっておき“防衛策”

そんなところに負担増が襲ってきた。文句の一つもいいたくなるというわけです。

「そうはいっても社会保障費が逼迫していることは事実。介護保険制度を維持するためにも改正には従わざるを得ないというのがわれわれ介護業界にいる者の共通した見解です。補足給付の要件に該当していない多くの人が全額自己負担を受け入れているわけですしね。これまでその恩恵を受けてきた人が異議を唱えても通りにくいのかもしれません」

また、要件に見合うよう預貯金を過少申告したくなるかもしれませんが、そうした不正が見つかると大きなペナルティ(加算金が課せられる)を受けるので絶対にしないほうがいい、とHさんは話します。

しかし、要件を満たすためにできる“防衛策”はあるそうです。

「親の死後などにかかる費用を“先払い”して、預貯金額を、要件を満たす500万~650万円以下にするんです。かける費用としては、たとえば司法書士。親御さんが亡くなった後、相続などの手続きに多くの書類が必要になり、司法書士を頼む必要が生じます。この司法書士には事前予約というか、契約して料金の前払いができるのです。その際、相続税がいくらぐらいかかるのか、調べてもらい、もしかかるようだったら同様に税理士の事前予約と報酬の前払いもしておきます」

ケアマネジャーに手を引かれて下車するシニア
写真=iStock.com/SetsukoN
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SetsukoN

「また、葬儀代はどこの葬祭業者も行っているように事前の支払いができます。葬儀の規模や内容によって、払った金額以上にかかることがよくありますが、この金額の範囲で済ませてくれ、と言っておけば大丈夫です。お坊さんへのお布施や戒名代などもかかりますが、これも相談次第では支払いを済ませておける場合があるそうです」
「こうした方面の支払いはいずれも10万円単位と高額になるので、すぐに預貯金は要件を満たす額までになるはずです。親御さんが健在なうちに、こんな手続きをしていたら不謹慎だという思いもあるでしょうが、補助を受けられなくなって、居住費や食費で預貯金がどんどん目減りしていって、亡くなった後の出費を心配するよりはいいのではないでしょうか」

ともあれ介護の負担増が低所得者層に及び始め、こんな防衛策を考えざるを得なくなるほど、社会保障費が逼迫する事態になっていることは覚えておいたほうがよさそうです。

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相沢 光一(あいざわ・こういち)
フリーライター
1956年生まれ。月刊誌を主に取材・執筆を行ってきた。得意とするジャンルはスポーツ全般、人物インタビュー、ビジネス。著書にアメリカンフットボールのマネジメントをテーマとした『勝利者』などがある。

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(フリーライター 相沢 光一)

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