1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

「歩いて救急に来る患者の約0.5%が急変」異変見抜いて命救う"日本一の総合診療医"のスゴ腕

プレジデントオンライン / 2022年1月4日 11時15分

林寛之さん。365日あらゆる患者を引き受ける総合診療のフロンティアだ。(撮影=榊 水麗)

日本の総合診療医のフロンティアと評される医師が、北陸にいる。福井大学医学部附属病院 総合診療・総合内科センター長の林寛之さん(救急科・総合診療部教授)。どんな症状の患者も受け入れるが、「徒歩で救急に来る患者さんの中にも1000人に2~7人の割合で翌日に命を落としてしまうような超重症の方もいる。そうした人を見逃さないのが私たちの使命」と熱く語る。『プレジデントFamily』編集部が医師としての哲学を聞いた――。

■福井県に総合診療医のフロンティアがいる

曹洞宗の大本山、永平寺で有名な福井県吉田郡永平寺町。田んぼが広がるのどかな場所に、福井大学医学部のキャンパスと附属病院が棟を連ねる。

その一角に2020年10月、総合診療医・総合内科医の教育拠点として「総合診療・総合内科センター」が開設した。愛称のGGG(トリプル・ジー)は、目指すべき医師像「Global General Good Doctor」の頭文字をとって名付けられた。

「スペシャリスト(専門医)ではなくジェネラリスト(総合医)を育成し、そうした医師を福井県だけでなく全国的に増やしていきたい」と、センター長を務める救急科・総合診療部教授の林寛之さんは語る。

NHKの人気番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」にも取り上げられた、日本を代表する総合診療医の一人だ。

総合診療医とは内科・外科にかかわらずあらゆる症状を診られる医師のことだ。国内に約32万人いる医師の多くは、内科や整形外科などの専門医である。

■「のどちんこの違和感は心筋梗塞が原因」小さな異変見抜き命救う

私たちは風邪をひいたら内科を受診するし、指を骨折したら整形外科に足を運ぶ。けれど患者自身が痛みなどの原因を探れず、受診科に迷うこともあるだろう。ましてや救急車で運ばれるようなケースではなおさらだ。

「うちは救急科と総合診療科がくっついている、全国的にもめずらしい病院なんです。腰が痛いという高齢者から、山で遭難した人の診察まで、患者さんはすべて受け入れます。まれに徒歩で救急に来る患者さんもいますが、そういう人の中にも1000人に2~7人という割合で翌日に命を落としてしまうような超重症の患者さんがいるのです。そうした人を見逃さないのが私たちの使命です」

(写真左)総合診療・総合内科センター(GGG)の運営を担当している救急部の石本貴美さんと。/(写真右)救急科の診察室。初期診療に使うエコー、CT室、グラム染色室などの設備がそろっている。
撮影=榊 水麗
(写真左)総合診療・総合内科センター(GGG)の運営を担当している救急部の石本貴美さんと。/(写真右)救急科の診察室。初期診療に使うエコー、CT室、グラム染色室などの設備がそろっている。 - 撮影=榊 水麗

東京などの大都市でよく見られる救急患者のたらい回しは、当直の医師が専門外であることも原因の一つだという。患者の症状が明らかに当直医師の専門外だった場合、たとえ受け入れても的確な診断を下せないからだ。

「あらゆる可能性を考え、目の前の患者を広く浅く診られる医師が求められるのです。たとえば嘔吐(おうと)という症状を一つとっても、消化器系の病気かもしれないし、心筋梗塞かもしれない。妊娠を自覚していない人のつわり、あるいは脳や耳の病気だということもあります」

『プレジデントFamilyムック 医学部進学大百科 2022完全保存版』
『プレジデントFamilyムック 医学部進学大百科 2022完全保存版』

いわゆる“のどちんこ”に違和感を覚えて病院にやってきた高齢の男性を診察した際、林さんはその原因が心筋梗塞であることを突き止め、事なきを得たこともあった。

とは言え、すべての医師が総合診療医である必要はない。高度な診断や治療を行う専門医の存在は不可欠だと念を押す。

「けれど大学病院の専門医を必要とするケースは、おそらく1000人に1人くらい。また、少子高齢化が進み、多くの患者が高血圧や糖尿病など複数の病気をかかえています。そうした中で、自分の専門しか診られない医師ばかりになってしまうと、いざという時に対応しきれなくなってしまいます。特に高齢者は一人の人間として命を預けられる総合医に継続的に診てもらうほうが断然いい。だからGGGでは福井大の医学生に限らず、全国から総合診療医を志す学生や総合的な診療について学びたい若手医師も受け入れ、現在はセミナーの開催や医療施設での研修を行っているんです」

■新米医師の時代、救急搬送されてきた患者が亡くなり「負け戦」続き

林さんが医師を目指したきっかけは、どんな病気も治療する漫画の主人公ブラック・ジャックへの憧れだった。自治医科大を卒業後、外科医として働き始めるも、救急搬送されてきた患者が亡くなってしまう「負け戦」が続いた。

「大学で学んだ知識をつぎ込んでも、患者を救えない。なぜだろう」と悩んでいるとき恩師に背中を押され、海外へ。カナダのトロント総合病院救急部で2年間、北米型ER(救急外来)を学んだ。当初は英語がわからず苦しんだが、相手の言葉に耳を傾け、会話をまねるように繰り返すことで、やがて自信を持てるようになった。

林寛之さんの経歴

北米型ERの医師は、いわば「総合的に初期診療を担う専門医」だ。24時間365日あらゆる患者を引き受け、広くカバーした技術で診断・治療を行い、必要があれば他科の専門医へ引き継ぐ。当時の日本には、そうしたスタイルを採用している医療機関はほとんどなく、帰国後は日本で北米型ERを根付かせるべく道をつくってきた。

(左)同大病院では初診の患者は総合診療部が担当。診察室にはさまざまな疾患の診断に必要な道具がそろっている。患者の症状の原因を探っていくさまは「名探偵コナンのようです」と林さんは言う/(右)診療室の廊下。常にスタッフの目に入る位置に林さんが作った注意喚起が
撮影=榊 水麗
(左)同大病院では初診の患者は総合診療部が担当。診察室にはさまざまな疾患の診断に必要な道具がそろっている。患者の症状の原因を探っていくさまは「名探偵コナンのようです」と林さんは言う/(右)診療室の廊下。常にスタッフの目に入る位置に林さんが作った注意喚起が - 撮影=榊 水麗

「今も、総合的に診療できる医師は全然足りていません。総合診療医の認定医は日本の医師の1%にも満たないでしょう。欧米諸国のように、医師の3〜4割が総合診療医、残りがさまざまな分野の専門医というバランスが理想ではないかと考えています」

総合診療は日本において歴史の浅いジャンルだからこそ、フロンティア精神を持った人に向いていると林さんは言う。そして、あらゆる患者の症状に向かい合うため、粘り強く診る力が必要だと説く。

「痛いと訴える患者には、ずっと痛いのか、いつから痛いのか、何をしていたら痛くなったのか、患者の様子を見ながらしつこく聞き取ること。その人の生活を、再現フィルムで思い描けるようになるまで突き詰めることで、痛みの原因がわかるのです。そのためには勉強が欠かせません。広く知識を身に付けることは簡単じゃない。人との会話を楽しみ、一生勉強を続けることができ、それを楽しいと考える人が総合診療医に向いているでしょうね」

救急科のスタッフとヘリポートで。林さんの人柄で、笑いの絶えない撮影だった。
撮影=榊 水麗
救急科のスタッフとヘリポートで。林さんの人柄で、笑いの絶えない撮影だった。 - 撮影=榊 水麗

(プレジデントFamily編集部 文=尾関友詩)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください