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「東京はタワマンとスラム街だけになる」日本人を待ち受ける"厳しすぎる現実"

プレジデントオンライン / 2022年1月13日 20時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Eakkawatna

経済のグローバル化は中流階層を解体した。これから日本はどうなるのか。作家の佐藤優さんは「東京に住むのは、富裕層と、その富裕層の生活を支えるエッセンシャルワーカーになっていく」という。社会学者の橋爪大三郎さんとの対談をお届けしよう——。

※本稿は、橋爪大三郎・佐藤優『世界史の分岐点 激変する新世界秩序の読み方』(SB新書)の一部を再編集したものです。

■中流の解体はグローバル化の副作用

【橋爪】日本でもアメリカでも、ほぼすべての先進国で起こったのは、中流階層の解体です。これは、経済のグローバル化の副作用なのです。

【佐藤】そのとおりですね。

【橋爪】中流階層とはどういうものだったか。製造業中心の大企業が経済を牽引していた。大企業は競争力があって、国内市場を支配できます。本社にはホワイトカラー、現場にはブルーカラーがいる。ブルーカラーは、中小企業のブルーカラーよりも生産性が高い。

【佐藤】確かに。

【橋爪】大企業は利益をえる。本社に集まっているホワイトカラーが利益を分け合う。ブルーカラーは労働組合に集まって、賃上げを要求する。それに応える余力が大企業にはあった。だから、ホワイトカラーもブルーカラーも、子どもを大学に行かせたし、郊外に一戸建て住宅をもてた。中流階層になれた。そのライフスタイルが広まった。アメリカの繁栄は1950年代に、日本は1970年代から90年代に、ピークを迎えました。

■大企業のホワイトカラーもやがて一掃される

【橋爪】企業が生産拠点を海外に移し始めると、勤労者は打撃を受けます。まずブルーカラーが失職する。ホワイトカラーもリストラされる。日本でもこれが起こった。小泉改革は、正社員を守ろうとした。そこで、派遣や非正規を増やし、人件費を圧縮しました。若い人びとはしわ寄せで、親並みの生活が望めない、結婚できない状態になった。アメリカやヨーロッパも同様です。

この流れは、なお進むと思います。大企業のホワイトカラーもやがて一掃されます。

この流れは、IT革命とシンクロしています。

IT革命の本質は何か。つぎのように考えられます。市場では、まず第一段階として、契約をする。第二段階として、契約を実行する。第一段階は情報です。情報なので、コンピュータに乗りやすい。昔は人間が対面で交渉し、本社もあった。そんなものが必要か、という話になるのです。

第二段階では、実物が動きます。大量のモノと人が動きます。これを広域コントロールして最適化するのは、コンピュータが得意です。ばらばらに動かすより、マーケット横断的にプラットホームをつくれば合理的です。そこで会社ごとの物流がやせ細っていく。これがいま起こっていること、Amazonというものだと思います。日本には宅配三社があって、コンビニを基点にしています。Amazonのほうが進んでいます。進化形ですね。そして、国際的です。途上国でも、トラックさえあればAmazonはできる。

■東京一極集中は時代遅れになる

【橋爪】これが日本にどういうインパクトを与えるか。東京一極集中は時代遅れになります。

東京はなぜ存在したか。情報の中心で、物流の中心で、集積効果があったからです。教育も消費にも便利で、働き場所もある。その働き場所(都心)に通勤できるように、郊外に向かって住宅を建てていった。ベッドタウンはいま空き家です。タワマンが一戸建てより好まれた。通勤時間がかからない。見栄えもいい。今さえよければいい、という考え方です。すぐ陳腐化して、資産価値のない物件になるでしょう。

東京に住むメリットはほぼなくなって、これから東京が縮小し、全域に分散する方向に進む。ホワイトカラーはいらないからです。

というふうに、日本はスカスカになっていって、付加価値をどこで生産するのか、という話になる。こういう見立てですが、どうでしょう。

■「富裕層の東京」と「スラム化する東京」が共存する

【佐藤】東京の位置付けについては、私は少し違う見方をしています。

たしかに東京の空洞化は、ある程度進むでしょう。乱立しているタワーマンションも、いくらかはスラム化すると考えられます。ただ、六本木ヒルズをはじめとした特定のタワーマンションや、築年数が多くてもデザイン的・歴史的価値の高い、いわゆるビンテージマンションに住める「中の上」以上の人々、富裕層は東京から動かないでしょう。

その最大の理由は何かというと、皇居が東京にあるからです。これは私の皮膚感覚なのですが、皇居なりバッキンガム宮殿なりクレムリンなりの5キロ圏内に、政治、経済、軍事、国際、あらゆる情報が集中します。いくらインターネットがあっても、人と人の間で直接かつ即時的に交わされる生きた情報の価値というものがある。ということで、東京の空洞化は程度問題になると見ているのです。

皇居
写真=iStock.com/BrendanHunter
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BrendanHunter

【橋爪】そうかもしれません。でも、職もなく生活費も高いと、とても住めませんね。

【佐藤】ですから東京に住むのは、富裕層と、その富裕層の生活を支えるエッセンシャルワーカーになっていく。「富裕層の東京」と「スラム化する東京」が、同じ東京の中で道ひとつ隔てて共存していくのではないかと私は見ているわけです。

■年収2000万~3000万円の層は厚くなっている

【佐藤】また、先ほどAmazonにも触れられましたが、着々と力をつけているGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)に関しては、ある時点で国が公権力の暴力をむき出しにして、解体に乗り出すと思います。あくまでも印象論の段階ですが、これらの企業がいくら人々の生活の合理性や効率性に寄与するものであるとしても、力をつけすぎる前に分割されていくのではないかと。

橋爪大三郎・佐藤優『世界史の分岐点 激変する新世界秩序の読み方』(SB新書)
橋爪大三郎・佐藤優『世界史の分岐点 激変する新世界秩序の読み方』(SB新書)

【橋爪】そういうことを言い出す政治家が、必ず出てきそうです。

【佐藤】実は私も、そう思っている一人です。

さて、もう1つ皮膚感覚の話をすると、先ほど挙げた「中の上」、年収でいうと2000万~3000万円くらいの層は、中産階級の没落と共に分厚くなっている感じがします。

たとえば、このコロナ禍で社用の会食がほぼゼロになり、ホテルのレストランなど高級店も多くが休業している。たまに営業しているレストランに行ったりすると、客の大半はプライベートで来ている様子です。会社の経費ではなく、自費で高級レストランに行く。それができる層ですね。

■富裕層でないと子供に高等教育を与えられない

【佐藤】また、私が教えている同志社大学の学生には、年に1000万円単位の仕送りを受けている学生がいます。慶応大学で教えている先生に聞いても、ブラックカードを持っているなど、明らかに富裕層の学生が増えているという話です。同志社の標準的な学生を見ても、下宿生ならば学費を含め年間350万円程度の仕送りを受けないと専門書を買ったり、語学学校に通ったりすることができません。事実、これくらいの仕送りを受けている学生が少なからずいます。そうなると、私が教えている学生の多くは大学院まで行きますから、教育に1500万円ほどを投入できる家庭でないと難しい。

【橋爪】アメリカの大学にも、富裕層の学生がゴロゴロいて、似ています。

【佐藤】ただし、それほどの額を投入できる富裕層はやはり限られています。そうなると、我々の世代よりも、次の世代のほうが高等教育を受ける人の割合が減る。そういう教育の右肩下がりの時代に確実に入っているという強い皮膚感覚がありますね。

【橋爪】その危機感が日本は足りませんね。その話を、つぎにしましょう。

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橋爪 大三郎(はしづめ・だいさぶろう)
社会学者
1948年神奈川県生まれ。大学院大学至善館教授。東京工業大学名誉教授。77年東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。『4行でわかる 世界の文明』(角川新書)、『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『皇国日本とアメリカ大権』(筑摩選書)、『中国VSアメリカ』(河出新書)など著書多数。共著に『ふしぎなキリスト教』(講談社現代新書、新書大賞2012を受賞)、『日本人のための軍事学』(角川新書)など。

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佐藤 優(さとう・まさる)
作家・元外務省主任分析官
1960年、東京都生まれ。85年同志社大学大学院神学研究科修了。2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大矢壮一ノンフィクション賞受賞。『獄中記』(岩波書店)、『交渉術』(文藝春秋)など著書多数。

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(社会学者 橋爪 大三郎、作家・元外務省主任分析官 佐藤 優)

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