「ボロボロの火力発電しか頼れない」寒くても暑くても日本の電力が不足する“ある弱点”
プレジデントオンライン / 2021年12月31日 12時15分
■「10年に1度の厳しい寒さ」で大ピンチ
電気は供給されて当たり前——。日本に住んでいる限り誰も疑いようのない常識だ。しかし、世界に目を向ければ、最近では中国、インドなどが電力危機に陥り、先進国の欧州でもLNG供給不足に端を発して電力危機が発生した。
こうした一連の電力危機は2021年の世界のトレンドと言っても過言ではない。
日本でも2020年冬にLNG不足などから電力不足に陥るリスクが生じ、電力卸市場では価格が高騰した結果、複数の新電力が経営危機に陥る事態になった。
一過性のものと思われたが、ここに来て、日本の電力不足や価格高騰のリスクは、構造的な問題であるとの深刻な懸念が浮上してきた。
特にこの冬は「10年に1度の厳しい寒さ」と見込まれ、電力会社は老朽化した火力発電所を稼働するなどして寒波による電力需要増大に備える。
「カーボンニュートラル」に向けて再生可能エネルギーの普及がクローズアップされるなか、日本の電力事情はそれ以前の問題を抱えていると言える。
■LNGは日本の生命線
日本の電力構成の肝は液化天然ガス(以下、LNG)だ。『エネルギー白書2021』によると、2019年度の電源構成はLNGが37.1%を占めた。日本はつい先日まで世界一のLNG輸入国であった。
国際社会からやり玉に挙がるのが石炭火力だが、LNGはそれに比べてCO2排出量が少ない。そのためLNGは日本のエネルギー政策上、低炭素社会に移行する一つの手段と考えられてきた。
この傾向は日本だけではない。例えば、洋上風力の比率を高めているイギリスは、石炭火力への依存度を急速に低下させる一方、LNG火力の比率を上げている。欧州の大陸諸国ではロシアなどからパイプラインを通じてLNG供給を受ける体制を整え、LNGは現在の欧州のエネルギー政策の中で重要な位置づけを占めている。
加えて中国も、「2060年カーボンニュートラル」を掲げる中で、石炭火力からLNGへの移行を行っている。元々のエネルギー需要の多さも相まって、2021年の中国のLNG輸入量は日本を抜いて世界最大のLNG輸入国になる見通しとなった。
このように世界的にLNGの重要度は高まり、欧州ではロシアがLNG供給を絞るなどした結果、電力危機が発生した。LNG価格は一気に高騰し、他の化石燃料の価格にも影響を及ぼすことになり、中国では石炭の価格上昇と供給不足を背景に電力危機が生じた。また世界的な原油高にもつながる格好となった。
話を日本に戻す。先述した通り、日本は電力の4割弱をLNG火力で賄っている。このLNGの部分に何かしら不具合が生じた場合に、日本は電力危機に陥るといってもいい。
それはもちろん、政府も各電力会社も重々承知している。2020年冬の経験も踏まえて、LNG調達を強化しており、最新(12月5日時点)の在庫は冬季に向け積み上げ傾向にある。
この数字は過去4年間と比較して最高水準を維持している。一見、問題ないように見える。しかし、ここで思わぬ問題が明るみに出た。
■4電力で生じた電力事情の悪化
事の発端は、11月18日に開催された政府の委員会「電力・ガス基本政策小委員会」での報告だ。そこで北陸電力、中国電力、四国電力、九州電力の4電力において燃料制約という措置が複数回にわたって講じられたことが明らかとなった。
燃料制約とは、燃料の在庫切れなどが起きる恐れが高まる場合、その燃料を使用する火力発電の出力を落とすことを指す極めてイレギュラーな対応だ。この燃料制約が11月は頻発した。
原因は、北陸電力、中国電力、四国電力、九州電力それぞれにおいて異なるが、各社共通しているのは、想定を超える電力の消費があった点だ。九州電力と中国電力は、10月前半の想定外の高気温を上げた。原因は想定外の冷房使用の増加と見られる。
加えて、九州電力と中国電力は、複数の石炭火力発電所が故障による運転停止の状態で、結果としてLNGなどの消費量が増加した。いずれにしても各社とも、燃料の在庫切れに陥る恐れがあったため、LNG火力や石油火力の出力を大幅に落とす対応をとった。
■過去にも燃料制約を実施していた事実が明らかに
昨冬に電力危機が叫ばれたこともあり、政府や委員会に参加する専門家も、そうした危機が生じないよう細心の注意を払って議論を進めてきた。それだけに今回の燃料制約は衝撃と言うほかない。
無論、これが一過性で、今回たまたま4電力で生じたのであれば、そこまで大きな問題ではない。しかし燃料制約が頻繁に行われていたのであれば、これは構造的な問題と言える。
残念なことに、委員会では、過去にも電力会社が数件燃料制約をかけたことが公表された。専門家が念頭に置いていた前提が崩れるほど、構造的な問題を日本の電力セクターが抱えていることが明らかとなったのだ。
これまでは運よく大きな問題につながらなかっただけで、日本の電力供給がこの4電力を中心に電力危機を招くリスクが内在していることに他ならない。今後、特にLNGを巡る国際動向が不安定になることも想定されるため、深刻度はより高まるだろう。
燃料制約の先には電力危機が待っている。内生的であれ外生的であれ、大きなショックが加われば最悪の事態が起きるシナリオがそこにある。
■日本の電力セクターが抱える問題点
燃料制約の問題は、日本の電力セクターが抱える問題点を如実に示している。
一つ目は火力発電の老朽化だ。今回の燃料制約も石炭火力の故障が要因として挙げられた。日本国内には古い火力発電施設が依然として多く稼働しているのだ。特に40年以上も稼働を続けるものは老朽火力と呼ばれる。
経産省の資料によると、1979年以前に建設された石炭火力の数は22基ある。これに加えて2020年代にはさらに22基が老朽火力に加わる。基数ベースで1割以上、2020年代には約3割が老朽石炭火力になる。こうした老朽石炭火力は旧式の非効率な火力発電所ということもあり、段階的廃止対象ともなっている。
これは老朽化した石炭火力の例だが、知られていないのは、閉じる予定のこうした老朽火力が、いまもなお日本を支えているということだ。
2011年の東日本大震災後に電力セクターを支えたのは老朽火力の稼働だった。直近でも今冬の電力不足に対応すべく、発電会社大手のJERAは老朽化で長期停止中だった姉崎LNG火力発電所5号機(千葉県市原市)を補修の上、2021年1月に再稼働させる。
しかし古いだけあって故障リスクも相対的に高い。今回の九州・中国両電力の燃料制約では、同時期に老朽火力で故障が起きたことも要因となった点を考えれば、同様の事態は今後も起こり得るリスクであると言えるだろう。
■長期保存ができないLNGの難点
二つ目の問題点は、LNGそれ自体の特性にある。
不足が判明してから実際に調達できるまでのリードタイムが長いことだ。これは昨冬にまさに問題となった論点であるが、LNGは基本的に産地との長期契約が主であり、スポット調達でも届くのに2カ月程度かかる。そのためLNGの需要増が発生したとしても、LNGのサプライチェーンは需給の急変に対応しきれないのだ。
LNGは貯蔵に向かないという欠点がある。日本は島国であるためLNGを冷却・液化して船舶で調達するほかない。LNGはタンクで貯蔵する。しかしLNGは徐々に気化してしまう欠点があり、石炭や石炭と比べて長期保存に向かない。
さらに地域的な特性が加わる。今回、燃料制約で対応せざるを得なかった4電力のうち、北陸電力、四国電力はLNGタンクを1基しか持っていない。LNGそのものに貯蔵の難点があるとはいえ、貯蔵のキャパシティーが低い電力会社が存在をするのだ。
特に四国電力は、漁業・潮との関係で、追加調達が月に2回程度しか受け入れ日を設定できないなど制約が多い。柔軟な運用が難しいとの説明が今回の燃料制約への対応の際になされている。
■この冬は大丈夫なのか
このように見ると、寒さが一段と増してきた今冬の電力は大丈夫なのだろうか。筆者はあまり楽観視できる状況にないと考えている。
電力供給の余力を示す値に「需要に対する供給余力」(予備率)という数値がある。この数値は8~10%が適正とされ、安定供給の最低目安は3%とされている。つまり、3%台になった時点で黄色信号がともり、3%を下回るといよいよ電力危機が見えてくる。
この冬の電力需給の見通しは実に厳しい。全国7つのエリアでピーク時の需要に対する数値は3%台しかなく、過去10年間でもっとも厳しくなる見込みとなっているのだ。
燃料制約をかけた4電力だけではない。今冬に「10年に1度の厳しい寒さ」が到来した場合、東京電力管内は2022年2月の供給余力で最も厳しい水準に陥る。安定供給の最低目安である3%ギリギリの3.1%となる見込みだ。
今冬は例年に比べ寒くなるとの予想だ。気象庁は11月10日、ラニーニャ現象が発生しているとみられると発表した。ラニーニャ現象とは、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より低くなり、その状態が1年程度続く現象のことだ。その場合、日本では冬の寒さが厳しくなることが指摘をされている。
12月に限ってみれば、東京電力管内では12月6日、電力使用率が96%まで上昇。急激な寒さで暖房の使用が増えたことに加え、設備トラブルによる千葉火力発電所(千葉市)の一時停止が重なったことなどが原因として挙げられている。本格的な冬が到来する前に需給が逼迫(ひっぱく)した点は極めて憂慮すべきことだ。
このほかは安定供給を続けているが、すでに年末から寒波が襲来しており、エネルギー需要は高止まりすることが想定される。危険なのはこれからだろう。
■脱炭素と電力の安定供給の両立はできるのか
世界ではエネルギー需要は伸び続けている。世界的な脱炭素のトレンドも加わり、化石燃料セクターへの投資には陰りが見えつつある。今年見られたような化石燃料セクター由来の供給不足や価格の高騰も今後は頻発してもおかしくない。
LNGに電力の4割弱、石炭に3割を頼る外部依存型の日本は、そうした外生的ショックに対して耐性があるとは言えない。
特にLNGは貯蔵ができず、リードタイムの長さから柔軟な追加調達がしにくい欠点がある。気候変動の進展によって電力需要の変動幅も予測がつきにくくなってきていることも、そこに輪をかける。
さらに今回、電力会社が燃料制約に直面している構造的な問題も明らかとなった。岸田文雄政権は電力の安定供給を前面に出しているが、昨冬から続く一連の電力問題は、そもそも外部依存する電源が安定しているのか、という根本的な問いを投げかけている。
COP26で世界的な脱炭素の方向性は不可逆なものとして確定をした。2050年カーボンニュートラルを掲げ、足元でも2030年温室効果ガス46%削減に向けて急ピッチで脱炭素化を進めていかなければならない状況に日本はある。
こうした石炭火力は減らさざるを得ない状況である一方、供給の観点からは故障リスクの高い老朽火力に頼らざるを得ないのが現状である。
この論点のほか、一定の発電量を維持する安定電源として、原子力をどう位置づけるのかも重要だ。エネルギーの外部依存の問題とともに、棚上げされてきた問題が、燃料制約の事案と密接に絡んでいることは言うまでもない。
■エネルギー自給力に日本の命運がかかっている
いずれにしても、今回明らかとなったのは、従前通りの対処ができないということだ。世界規模で見れば、脱炭素で再エネへの移行が進む中でも、化石燃料であるLNGの不足、原油高騰、連動するかたちで石炭価格の上昇が起こることが浮き彫りになった。
しかも、気候変動の進展によって猛暑や寒波などの異常気象も増えており、電力需要のパターンも過去から逸脱する傾向にある。日本がコントロールできない外生的ショックが増えているのだ。
燃料制約が常態化し、毎年のように電力不足の危機が叫ばれるようでは、日本の経済にとってもじり貧となろう。島国で、エネルギー資源の乏しい日本が、どうやって自給力を高め外部依存性を減らしていくことができるか――。そこに日本の経済・社会の命運がかかっているといってもいい。
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元外務省職員、EnergyShift発行人兼統括編集長
1984年生まれ。2007年、東京大学経済学部経営学科を卒業後、外務省入省。開発協力、原子力、大臣官房業務などを経て、2017年から気候変動を担当。G20大阪サミットの成功に貢献。パリ協定に基づく成長戦略をはじめとする各種国家戦略の調整も担当。2020年より現職。脱炭素・気候変動に関する講演や企業の脱炭素化支援を数多く手掛ける。自身が編集長を務める脱炭素メディア「EnergyShift」、YouTubeチャンネル「エナシフTV」で情報を発信している。
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(元外務省職員、EnergyShift発行人兼統括編集長 前田 雄大)
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