「買うから上がる、上がるから買う」不動産バブルに踊る韓国経済を待ち受ける大失速リスク
プレジデントオンライン / 2022年1月6日 15時15分
■追加利上げせざるを得ない3つの深刻な背景
2022年、韓国銀行(中央銀行)は追加利上げに追い込まれる可能性が高まっている。その背景の1つ目は、不動産価格の高騰に歯止めがかからないことだ。近年、低金利環境の継続期待などに支えられて、先行きを過度に楽観視する投資家が世界的に増えた。その結果、韓国では、政治・経済の中心であるソウルに人口が集中し、不動産市場に資金が大規模に流れ込み不動産価格の上昇が鮮明になっている。
2つ目は、韓国の家計債務残高が増えていることだ。韓国では、所得減少に直面する家計が増えている一方で、住宅価格や家賃相場が上昇し続けているため、借り入れに頼らざるを得ない家計が増えている。
3つ目は、インフレリスクの高まりに直面していることだ。今後、コロナ感染再拡大による世界のサプライチェーンの寸断などによって、世界的に物価は一段と上昇するだろう。通貨価値の安定と、金融システムの健全性を可能な限り維持するために、2022年の年明け以降、韓国銀行がタカ派姿勢を強め、急ピッチで複数回の追加利上げを実施する可能性が高まっている。それによって韓国経済の成長率は低下するだろう。
■“コントロール・イリュージョン”に陥っている投資家は多い
韓国の国民銀行の不動産価格のデータを確認すると、2008年4月から2021年12月20日まで、韓国全土で不動産の価格は上昇トレンドを維持してきた。
特に、2020年4月以降は、価格上昇の勢いが一段と強まった。その背景には、新型コロナウイルスの感染発生によって2020年春以降に韓国銀行をはじめ世界の中央銀行が積極的に金融を緩和したことが大きく影響している。低金利と過剰流動性(カネ余り)の環境が長期的に続くと過度に先行きを楽観視する投資家が増え、“買うから上がる、上がるから買う”という強気な相場展開が鮮明化した。
不動産価格高騰に危機感を強めた文在寅(ムン・ジェイン)政権は、総量規制など複数の対策を実施した。2021年8月以降は韓国銀行が2回の利上げを実施した。それによってアパートなどの価格上昇率は幾分か穏やかにはなっているが、依然として相場は上昇し続けている。
目線を変えて考えると、韓国のマンションやアパートの価格は長期的に上昇し続けると考える投資家はかなり多い。行動経済学でいうところの“コントロール・イリュージョン”の心理に浸る投資家は多く、相場は過熱している。
■ソウルのアパート価格上昇率は約1年で24%に
それに加えて、より多くの就業機会などを求めて政治と経済の中心地であるソウルに人口が集中した影響も大きい。人口の流入によってソウルの住宅需要は増える。それは不動産価格の上昇を支える。
韓国は2012年に世宗(セジョン)市を発足させ政府機能を一部移転した。その目的の一つは、ソウルへの人口の流入を減らし、不動産価格の上昇を抑えることにあったと考えられる。それでもソウルの一極集中を是正することは難しい。
国民銀行のデータをもとに計算すると2021年年初から12月20日までのアパート価格上昇率は、セジョンの6%に対して、ソウルの中心地区は24%、ソウル全体でも16%だ。それだけソウルでの就業などを目指す人は多い。当面の間はソウルを中心に韓国の不動産価格は上昇基調を維持するだろう。不動産価格の高騰を食い止めるために、韓国銀行は追加の利上げを実施するだろう。
■経済統計が示す以上に雇用・所得環境は厳しい
韓国では所得減少に直面する人が増えている。住宅価格が上昇する中で住む場所を確保するために、借り入れに頼らざるを得ない家計は増えている。
まず、所得の減少を確認する。韓国銀行によると、2021年7~9月期の国民総所得(GNI、その国の居住者が国内外で得た所得の総額)は前期比0.7%減だった(実質ベース、速報値)。その背景の一つには、韓国企業が海外から受け取る配当金の減少がある。それに加えて、文政権の経済政策の影響も大きいはずだ。文政権は、最低賃金引き上げなど労働組合に有利に働く経済政策を実施した。その結果、雇用の受け皿である中小企業の経営体力は低下して若年層を中心に雇用が失われた。
さらに、2021年7月以降は感染再拡大の深刻化によって動線が寸断され、飲食、宿泊、交通などサービス業の収益環境が悪化した。11月からは感染再拡大が収まらない中で移動制限が緩和され、雇用・所得環境への下押し圧力は一段と強まっている。経済統計が示す以上に、韓国の雇用・所得環境は厳しい状況にあると考えられる。
■借り入れに頼る個人や自営業者は今後も増える
その結果として、住む場所を確保するために、さらには日々の生活や中小企業の運転資金のために、借り入れに頼らざるを得ない人が増えた。国際決済銀行(BIS)のデータによると2020年9月末に韓国家計部門の債務残高は国内総生産(GDP)の規模を上回り、2021年6月末時点ではGDP比105.8%に上昇した。
今後、韓国の雇用・所得環境の不安定感は高まり、所得減に直面する家計は増えるだろう。その主な要因として、コロナ禍によるサプライチェーンの混乱、世界的なインフレリスクの高まり、さらには不動産市況の悪化などによる中国経済の減速の鮮明化などがある。
12月24日に韓国銀行が公表した『2022年の金融政策(Monetary Policy for 2022)』によると、家計債務の増加ペースは過去のトレンドを上回っている。今後、借り入れに頼らざるを得ない個人や自営業者は増え、家計の債務問題は深刻化するだろう。家計の債務残高の増加を食い止めるために、韓国銀行は追加利上げを行わざるを得なくなっている。
■不動産価格が未来永劫上昇することはあり得ないが…
韓国では物価上昇のリスクも高まっている。その大きな要因は、世界の供給網=サプライチェーンの寸断だ。足許、デルタ株やオミクロン株による感染再拡大によってサプライチェーンの寸断が深刻化している。その結果、自動車などに使われる半導体などモノの不足の深刻化に加え、船員やコンテナ、タンカーの不足など物流コストも上昇している。当面、世界のサプライチェーンは混乱し、半導体や穀物、エネルギー資源、レアメタルなどの不足が続くだろう。異常気象もサプライチェーンの寸断を深刻化させている。
それによって、韓国の卸売物価は一段と上昇し、消費者物価も上昇する展開が想定される。物価上昇リスクに対抗するために、韓国銀行はこれまで以上にタカ派姿勢を鮮明に示し、複数回の追加利上げを実施するだろう。
また、不動産価格の上昇と家計債務残高の増加は、韓国の金融システムにとって無視できないリスクだ。資産価格が未来永劫上昇し続けることはない。どこかのタイミングで韓国の不動産価格は調整し、その後は家計の不良債権問題が深刻化する恐れがある。
■経済成長率の低下懸念は高まっている
足許、韓国銀行は、当面の景気は半導体などの輸出に支えられて緩やかに回復すると予想している、その一方で、韓国銀行は将来的に家計の不良債権が増加する可能性が高まっていると警戒を強め始めた。つまり、韓国銀行は経済が安定しているうちに可能な限り追加の利上げを実施して、金融システムの脆弱性が追加的に高まる展開を阻止しなければならない。追加の利上げは、金融システムが不安定化した場合の対応余地を確保するためにも必要だ。
このように考えると、韓国の金利は上昇する可能性が高い。その展開が鮮明となれば、元利金の支払いが難しくなり、デフォルトに陥る家計は増え、個人の消費は減少するだろう。その一方で、韓国にとって最大の輸出先である中国経済が失速するリスクも高まっており、外需の下振れ懸念も高まっている。徐々に韓国経済全体で成長率の低下懸念が高まるだろう。
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法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)
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