「9割のマネー本、投資本は役に立たない」証券マン歴40年のプロがそう断言する理由
プレジデントオンライン / 2022年1月24日 8時15分
※本稿は、大江英樹『となりの億り人』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
■お金持ちの習慣を真似してもお金持ちにはなれない
Q.お金持ちの習慣や印象的なエピソードがあれば教えてください。
色々なマネー雑誌の“億り人”特集みたいな記事の中には例えば「早起きする」とか「冷蔵庫がきれい」といった特徴があるなど、象徴的に語られているものもありますが、それらは因果関係が逆なのです。早起きすれば金持ちになれるとか冷蔵庫をきれいにしていれば億り人になれるというのは全く違います。彼らは時間の重要性を良く知っているので無駄に時間を使いたくない、だから効率の悪い夜に遅くまで仕事はせずにさっさと寝て、朝早い時間でエネルギーが溢れている時に仕事をすることの大切さを実感している、その結果早起きになるだけです。冷蔵庫をきれいにしているのも、気付かない無駄な支出をしたくないため、何があって何が不足しているかが常に一目でわかるように冷蔵庫をきれいに整理しているということです。
一事が万事、そういうことで、彼らの行動には全て理由があります。考えて、考え抜いた上で、どうするのが一番合理的かという判断をしているのです。したがって大事なことは彼らの表面的な行動を真似ることではなく、自分にとって何が一番合理的なのかをとことん考え、それにもとづいて行動するということだと思います。
■出張時にグリーン車に乗るかどうか
Q.お金持ちが「ケチること」と「ケチらないこと」ってどんなものなのでしょう?
一番大切なことは自分にとっての優先順位を決めることです。例えば仕事の例でお話ししましょう。出張する時にグリーン車に乗るか乗らないかという話です。サラリーマン社長ならまず例外なくグリーン車に乗るでしょう。それは彼の地位の象徴だからです。ところがオーナー社長の場合、必ずしもそうではない人もいます。かつてダイエーグループを率いていた創業者の中内㓛氏は移動にあたって、グリーン車には乗らなかったそうです。社長なのになぜグリーン車に乗らないのですか? と聞くと「で、それに乗ったらなんぼか早う着くんですか?」と返されたと言います。彼にとって一番大事なことは時間で、それを有効に使えるために早く着くのであればお金は出すが、そうでなければそれは無駄金だ、という考え方です。
一方、これは私の知り合いの中堅企業の社長ですが、彼は全ての出張でグリーン車やプレミアムクラスを利用します。ところが面白いことに彼の会社の規定では普通席の運賃しか支給されないらしいので、グリーン車にかかる料金は全て個人で負担しているのだそうです。なぜ自腹を切ってまでグリーン車に乗るのかというと、移動の車中や機中だけが彼にとっては心と体を休められるところなので、いくら自腹で負担してもそれは非常に価値のあることだと言います。
■自分にとって意味のないことには1円たりとも出さない
そしてこれは仕事だけではありません。億り人へのインタビューから気づかされたのは、彼らの多くは①自分にとって意味のないことには1円たりともお金は出さない、②自分にとって大切なことは贅沢と言われようとも躊躇することなく使う、ということに徹しています。何にケチって何にケチらないかはこのように人によって違いますので一概には言えません。他人のそれを真似しても意味はありません。自分自身の価値観をしっかりと持っているかどうかが億り人になれるかどうかの分かれ目のような気がします。
■マネー本や投資本の9割が役に立たない
Q.若手社員ですが、お金や投資に関するおすすめの本を教えてください。
世の中に出ているいわゆる「マネー本」や「投資本」の類いはその9割以上がほとんど役に立たないと考えて良いでしょう。
なぜ役に立たないかと言うと、書いている人の多くは評論家やファイナンシャルプランナーといった人たちで、理屈はわかっていても自分で実践していない人が多いからです。
さらに言えば、金儲けのノウハウを教えている本もほとんど役に立たないでしょう。なぜなら投資で成功するためのやり方は人それぞれなので、たまたまその人にとってうまく行ったとしても他の人にもそれができるかどうかは何とも言えないからです。大事なことは原理原則と基本観を学ぶことです。そんな中で、これは読んでおいた方が良い、と思う本を5冊紹介します。
■おすすめできる本5冊
①『私の財産告白』本多静六・著
これは全ての人にとって読む価値のある資産形成に関する不朽の名著だと思います。まずは何よりもこの本を読むべきでしょう。
②『ビジネスエリートになるための教養としての投資』奥野一成・著
投資の本質について今までになかった気付きを与えてくれる本です。投資をする上でこれだけは知っておくべきことが満載です。
③『投資家が「お金」よりも大切にしていること』藤野英人・著
投資ということに対する考え方が大きく変わる本です。この本質を知った上で資産形成を始めるかどうかで将来大きな差がつくと思います。
④『こんなときどうする? どうなる? Q&A3つのNISA 徹底活用術』竹川美奈子・著
⑤『最強の老後資産づくり iDeCoのトリセツ 2022年施行 法改正完全対応版』大江加代・著
この2冊は前3冊とは異なり、具体的に制度を活用した資産形成を基本から非常にわかりやすく書いた本です。
Q.情報収集に役立つサイトはどんなものがありますか?
ここでいう情報収集が「何か儲かる情報は?」ということを知りたいのであればそんなものはありません。仮にあったとしてもそれは競馬の予想屋と同じでほとんど役に立たないと考えた方が良いでしょう。
投資で一番大事なことは自分の頭で考えることです。したがって網羅的にニュースを把握できるものが良いでしょう。具体的に言えば「日経電子版」「ウォールストリートジャーナル」そして「ブルームバーグニュース」などです。後者の2つは理想を言えば原語で読むことをお勧めしますが、日本語版でも出ているのでそれでもかまいません。日本のマスメディアだけですとどうしても偏ってしまいますので、これらを併せて読むことをお勧めします。もちろん有料版でないとだめです。
Q.もうすぐ1億円に達しそうです。実現した後に気をつけるべきことは?
おめでとうございます。でも1億円を達成してもしなくても、やるべきことは全く変わりません。それまでと変わらない普通の生活を続けるだけです。1億円という数字自体には何の意味もありません。そのつもりになれば1億円から2億円になるのはあっという間でしょうし、逆に1億円をなくしてしまうのもあっという間です。金額を目標にしないということが何よりも大切なことです。
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経済コラムニスト
大手証券会社に定年まで勤務した後、2012年に独立し、オフィス・リベルタスを設立し、代表に。資産運用やライフプランニング、行動経済学などに関する講演・研修・執筆活動などを行っている。近著に『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)など。
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(経済コラムニスト 大江 英樹)
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