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「市街地で体感する違いは大きい」トヨタとスバルが共同開発した2台のスポーツカー"一般道路"での実力

プレジデントオンライン / 2022年1月17日 9時15分

トヨタ「GR86」(左)とスバル「BRZ」(右) - 筆者撮影

トヨタとスバルが共同開発したスポーツカー「GR86」と「BRZ」が発売された。一般道路での走行性能はどうなのか。交通コメンテーターの西村直人さんは「2台の特性違いは大きい。それぞれの開発陣が目指した個性を感じられる」という――。

■新型2台を一般道路で走らせてみた

トヨタ(GR)とスバルの協業で誕生したスポーツカー「GR86」、「BRZ」が発売された。BRZが2021年7月末、GR86が約3カ月遅れて10月末。初代(2012年)に続く協業第二弾である。

スポーツカーを望んでいた40歳代のコアユーザー層だけでなく20歳代の若い世代からも大きく支持され、販売はいずれも好調という。

たとえスポーツ性能の側面だけが評価されたにしろ、こうして販売につながっているのであれば素晴らしいことだ。

2台にはスポーツカー文化を広める役割もある。このことは初代「86」(こちらはGRがつかない)開発主査であった多田哲哉氏(当時・トヨタ自動車)が熱く語っていた言葉であり、新型にもしっかり受け継がれた。

ただし、2台がスポーツカーとしてどんなに優れていようとも、そこは市販車だ。走行性能だけに特化した、いわゆるピーク特性に優れただけのクルマであれば、次第にマニア以外には受け入れられなくなる。投資に見合う経済効果を得るには長く売れ続けることが大切だ。

発表前に開催された、プロトタイプ車両におけるサーキット試乗会では、2台とも素性の良いスポーツカーであることはわかっており、このことは過去、プレジデントオンラインでも筆者がレポートしている(「衝撃的な価格のスポーツカーを共同開発」トヨタとスバル発売直前の“ケンカ”の中身)。

ならば公道での走行性能はどうなのか、そこを探るべく新型2台を公道(一般道路)で走らせてみた。

今回試乗したトヨタ「GR86」
筆者撮影
今回試乗したトヨタ「GR86」 - 筆者撮影

■従来型では3速ギヤを使った坂で、4速ギヤが難なく使える

新型2台は、従来型からエンジン排気量を2.4lへと400cc上げ、出力値を207PSから235PSへと約14%、トルク値を212N・mから250N・mへと約18%向上させた(比較対象は従来型86の最大値)。

公道では出力値よりも、加速力を左右するトルク値が乗りやすさの指標になるが、新型2台では最大値だけでなく常用する1500~3000回転台のトルクが大きく増えた。

ちなみに最大トルク値の発生回転数で比較すると、従来型が6400~6800回転(MTモデル)と超高回転型であったのに対し、新型2台は3700回転と半分近くまで下げられた。これはかなりの英断だ。トルク値の増幅と低回転化によって運転がしやすくなるだけでなく、同時に高回転域まで回さずとも求める走行性能が得られるので、燃費性能の上でも有利になる。

具体的な効果を示す。6速MTで比較すると従来型では3速ギヤを使っていた緩い登り坂で、新型では4速ギヤが難なく使える。各ギヤ段/最終減速比は新旧同じで、後述する車両重量にしても同じだから、純粋に排気量アップによるトルク向上効果といえる。

6速ATモデルでもトルク向上効果はてきめんだ。速度や車両負荷、アクセル踏み込み量により自動で行われるシフトダウンも市街地走行では少なく、エンジン音が急に高まることなく快適になった。これには車両本体の静粛性向上も効いている。

今回試乗したスバル「BRZ」
筆者撮影
今回試乗したスバル「BRZ」 - 筆者撮影

■ゆっくりでもスポーツカーを意識させるGR86、素のままのBRZ

次にエンジンの反応特性、いわゆるレスポンス性能だが2台においては異なる設計が施された。GR86がアクセル操作に対して意図的に反応を良くしているのに対し、BRZは素のままの反応。

つまり同じ量だけアクセルペダルを踏めば、GR86がBRZよりも反応速度が早い。そして、この反応違いはペダル踏み込み量が全開位置から中間程度になったとき、体感上の違いとして最大になる。

もっとも2台におけるエンジン性能に違いはなく、絶対的な動力性能は同じだが、一般道路、とりわけ丁寧なアクセル操作が増える市街地で体感する乗り味の違いはことのほか大きい。GR86はゆっくり走らせていてもスポーツカーを意識する、そんな仕上がりだ。

とくにATモデルでは違いが顕著。2台をATモデルで検討される場合には乗り比べを是非お勧めしたい。筆者はBRZの素のままの特性を好むが、ここは人ぞれぞれだろう。

乗り心地も大きく変わった。従来型では路面の段差通過時に強めのショックを感じていたが、新型では突き上げられるようなショックが激減し、わかりやすく上質になっている。

GR86(6速MT)の運転席の様子
筆者撮影
GR86(6速MT)の運転席の様子 - 筆者撮影

■交差点の右左折でわかった、それぞれの特性

ただ、ハンドリング性能だけを切り取ってみると、エンジンのレスポンス性能と同じく2台には違いが設けられた。

流れに沿ってゆっくり走らせた際にはBRZのしっとりとした乗り味が良かった。助手席にいて快適に感じるのはBRZで、6速ATモデルとの相性が良いのもBRZだ。ここは前後サスペンションのバネ/ダンパー特性がポイントで、ステアリング操作に対して、初期に前輪がクッと早めに応答しその後、車体がじんわり反応する。

対してGR86は初期の反応速度こそBRZと同じだが、その後、少しだけ前輪が沈み込むような動きを見せる。そして、すぐに車体全体で強く曲がり始めるのだ。いわゆる旋回特性の違いで、GR86では後輪のバネ定数とダンパーの減衰力を高める(≒硬くする)ことで、ハイグリップタイヤの性能を一気に引き出す特性とした。

2台の特性違いはけっこう大きく、交差点を右左折した速度域でもわかるくらいだ。しかし、この違いは過度なものでなく、前述したレスポンス特性とも合致している。乗り比べれば違いを意識するが、それぞれで乗れば開発陣が目指した個性として受け取れる。

■山道の走行では個性が強烈に発揮された

山道ではその個性が強烈に発揮された。市街地よりも車体に負荷のかかる山道での走行では、高められたボディ剛性との相乗効果もあり、GR86はタイヤのグリップ力を示す摩擦円限界を超えないかぎりドライバーの操作通りに車体が素早く反応する。まるで、手足と車体が一体になったかのようだ。

一方のBRZでは、ドライバーの操作に対し極めて短時間の瞬間的なタメがある。走行中の車体には連続する応力が加わり、車体はあらゆる方向に変化(≒しなり)を続けるが、BRZでは減速してステアリングを操舵し、それに車体が反応して……、という一連の動きが順々に規則正しく発生している。例えるなら、オリンピックのリレー選手が素早く確実にバトンを手渡ししていくような安定感がある。

サーキットでは反応が鋭くパキッとしたハンドリング性能のGR86が光ったが、市街地や山道などではBRZが見せた素の良さとしなやかさが好ましく感じられた。

BRZ(6速AT)の運転席の様子
筆者撮影
BRZ(6速AT)の運転席の様子 - 筆者撮影

■「スポーツカー=ガソリン消費量が多い」とは限らない

ところで、2021年はCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)を筆頭に、CO2をはじめとした温室効果ガスの削減、もしくはカーボンニュートラル化を筆頭にした環境対策が叫ばれていた。そうしたなか新たなスポーツカーを売るとはどういったことかとの指摘もある。

ごもっともな話だが、たとえば本稿のGR86/BRZでは試乗という限られた運転環境ながら、市街地からアップダウンの続く山道を80kmほど走行して13.2km/lを記録した。

さらにはマツダのオープンスポーツカー「ロードスター」などは得られる走行性能からすれば驚くほど燃費数値が高い。筆者は2015年から現行ロードスター(ソフトトップ仕様の1.5lガソリンエンジン)を愛車にしているが、生涯燃費数値は発売当時のカタログ値である17.2km/lと同等で、高速道路を淡々と走らせれば24km/l以上の数値を頻繁に記録する。

高速道路の燃費数値で24km/lといえば、たとえばシリーズ式ハイブリッド「e-POWER」を搭載し、2020-2022日本カー・オブ・ザ・イヤー受賞車である日産「ノート」や、軽自動車の実用燃費数値と遜色ない値だ。

■スポーツカーの設計は自動車業界に大きな利益をもたらす

さらに、スポーツカーを設計する過程はこの先の自動車業界に大きな利益をもたらす。なぜか。

クルマの三大基本性能は今も昔も「走る、曲がる、止まる」。スポーツカーは走行性能を高めるわけだから、当然、三大基本性能も高める必要がある。従って、この3要素を突き詰めたスポーツカーの開発プロセスをベースにすれば、性能の良い先進安全技術や自動運転技術を生み出しやすくなる。

具体的には、クルマの基礎設計がしっかりしていると、先進安全技術である衝突被害軽減ブレーキの性能が向上し、自動運転技術を支える車両制御性能も向上する。車体の反応速度が向上するため、最終的にブレーキ性能やハンドリング性能が良くなっていくからだ。しかも、スポーツカーをベースにすれば車両重量を軽く設計することもできる。

そうした側面から、厳しいコスト制約のなか3大基本性能を突き詰めた2台の開発プロセスで得られた知見は、迎えるべく自動車社会にとっても有益だ。279万9000円~(GR86)という性能からすればグッと抑えられた車両価格の実現も協業という側面から得られた経済的効果だ。

トヨタ(左)とスバル(右)、それぞれの開発者たちのコメント
筆者撮影
トヨタ(左)とスバル(右)、それぞれの開発者たちのコメント - 筆者撮影

■電動化しなかったのは、現時点では評価すべき判断

では、電動化に対してスポーツカーはどう対応するのがスマートなのか。

ご存知のようにクルマの電動化には電気自動車(EV)だけでなく、ハイブリッドカー(HV)、燃料電池車(FCV)も含まれる。エンジンスターターを兼ねる小さなアシストモーターを備えたマイルドハイブリッド(MHV)も電動化車両だ。

MHVが搭載するのは小さなモーター(&極小容量の二次バッテリー)だから燃費数値の向上は5~10%程度と少ない。一方、MHV化により車両価格は15~20万円ほど上昇し、車両重量も増える。効果は小さくコストや重量も上がるが、MHVも電動化だから現時点では時流に乗っていることになる。

GR86/BRZは、そのMHVですらない。しかし筆者は、現時点では評価すべき判断だと考える。なぜか。

スポーツカーの基本性能を突き詰めることを命題に、車体の剛性アップを含めた走行性能向上と、それに相反する車両の軽量化の両立を目標として掲げていたからだ。売価である車両価格を上げられるのであれば車体剛性向上と軽量化、さらにはMHV化とすべてをかなえることが可能だったかもしれない。ただ、それは2台が目指した姿ではないのだ。

■GR86は従来型の燃費数値を10%程度上回った

加えて、軽く、性能の良いスポーツカーであれば素材(鉄に始まる車体の構成材)の使用量が減らせ、おまけにエンジンやトランスミッションなどパワートレーンの効率を高めれば燃費数値まで良くなることからLCA観点での温室効果ガス削減が望める。事実、筆者による今回の試乗シーンに限っていえばGR86は従来型86の燃費数値を10%程度上回っている。

つまり電動化で目指すカーボンニュートラル化に対して、軽くて性能の良いスポーツカーも一定の効果は望めるのだ。

では、2台では軽量化のために何を行ったのか。まずは新型となって重くなった部分を考える。

前述したように排気量を400cc大きくした2.4lエンジンは従来型から9kg増えた。さらに、衝突時の衝撃吸収性能などを向上させるため30kg増、走行性能のうちハンドリング性能向上のため14kg増、そのほか装備関連などで22kg増。求める性能から計算すると、新型は締めて75kgの増加となることがわかった。

さて、ここからがエンジニアの腕の見せ所だ。まず、クルマの仕様や性能を見直して27kg減。設計合理化で20kg減。材料置換で11kg減。質量低減で10kg減。高張力鋼板の採用拡大で6kg減。こうした新しい解析技術や設計手法を導入し74kg軽量化を果たした。前輪のスタビライザー(走行中のボディの傾きを抑える部品)では中空化で500g軽くするなど、まさにg単位での軽量化が図られた。

性能を大幅に向上させつつスポーツカー向けの軽量化技術によって車両増加はほとんどなし。ここで得られた知見はとてつもなく大きい。開発時間とコストに大きな制約があるなか知恵を絞り、軽くしながら剛性を強化して、さらに走行性能も高めた。

■EV車両重量の軽量化にトヨタが出した「解」

将来的にEVは車両重量の軽量化が課題になる。重量の30%以上を二次バッテリーが占めるなか、どのような手段があるのか見ものだが、トヨタはすでに一つの解を提示している。

2021年12月14日、トヨタ主催の「バッテリーEV戦略に関する説明会」のなかで、「技術革新により電費数値(内燃機関の燃費数値に相当)を向上させることで搭載バッテリー容量が減らせる」という主旨の発言があった。仮に30%電費を伸ばせれば、満充電1回あたりの走行可能距離をそのままに、相応分の二次バッテリー搭載量を減らせるから軽量化に直結する。

そうしたなかGR86とBRZでは、異なる企業風土であるトヨタ/スバルの協業によって、ひとつの答えを導き出すプロセスを2代にわたって踏んだ。ここでは内燃機関車でスポーツカーとしての軽量化を達成した。

さらにトヨタは「bZ4X」、スバルは「ソルテラ」としてEVでも協業も成し遂げた。協業EV第一弾は2022年央に発売される。ここではGR86/BRZで培った協業メリットのほか、スバルの得意分野である4輪駆動/AWD技術を新たな魅力として掲げ、両社で取り組んできた。

電動化に踊らされてしまった感のある2021年だったが、その裏で着実にカーボンニュートラル化へのさまざまなアプローチが具現化した。水素を内燃機関で燃やす取り組みもそのひとつ。アイデアはまだまだ生まれる。現実的なたくさんの解を2022年には期待したい。

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西村 直人(にしむら・なおと)
交通コメンテーター
1972年1月東京生まれ。専門分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつために「WRカー」や「F1」、二輪界のF1と言われる「MotoGPマシン」でのサーキット走行をこなしつつ、四&二輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行い、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。著書には『2020年、人工知能は車を運転するのか』(インプレス刊)などがある。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)理事、2020-2021日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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(交通コメンテーター 西村 直人)

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