「私は家族に迷惑をかけている」不登校でガチガチだった娘の心をほぐした"親のひと言"
プレジデントオンライン / 2022年1月15日 12時15分
※本稿は、石井志昂『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。
■娘の心を動かした親の言葉
不登校の子どもたちが、親やまわりの人から言われてうれしかった言葉としてよくあげるのは「好きにしていいよ」です。ゲームでも動画でも、好きなことに没頭する時間を持たせてくれた、そんなふうに当時を振り返る子がたくさんいます。
もうひとつは「ありがとう」です。
不登校をしていた女の子はある日、ご飯を炊いておいたら、親から「助かったよ。ありがとう」と言われたそうです。そのひと言を聞いて、彼女は「家族の一員なんだと思えた。存在してもいいんだと思った」のだそうです。
親からすれば、まさか子どもがそんなことを考えているとは思わないだろうと思います。でも、子どもは心のなかで「学校へ行っていないことで、家族みんなに迷惑をかけている」「自分はみんなからサポートされる立場なんだ」と考えています。
「自分はここにいたらいけない存在なのかもしれない」「私がいると迷惑なのかな」。そんなふうに思ってしまうわけです。
だから、子どもが何かしてくれたときに、まわりの人が感謝の気持ちをきちんと言葉で伝えることは、とてもいいことだと言われています。
ただし、そのために、子どもに用事を押しつけるのはNGです。無理に用事を作るのではなく、日常生活の中でそういった場面があったときには、ぜひ「ありがとう」と口に出してあげてください。
そして、繰り返しになりますが、こうした言葉よりもさらに大事なのは、子どもの声に耳を傾けることです。当事者からより多く聞くのは、言われてうれしかった言葉よりも、やはり「聞いてもらって気持ちが救われた」という声です。
一方で、親やまわりの人に言われて悲しかった言葉、つらかった言葉は、うれしかった言葉の反対側にある言葉です。一方的にまくしたてたり、罵声を浴びせたり、叱りつけたり、行動を厳しく制限したりするのも、子どもを苦しませてしまいます。
■勉強はいつでもできると開き直る
子どもが学校へ行かなくなると、勉強の遅れが気になる方も多いと思います。
ずっと不登校を取材してきた立場から言いますと、いったん勉強は置いておいてほしいと思います。繰り返しになってしまいますが、まずは、休息をとること。つらいままだと、結局何も進みません。
親が開き直らないと子どもも開き直れません。たとえば、「今は勉強に集中できる状況ではないから勉強はいったん置いておこう」と親が思ってくれたら、子どもはプレッシャーをそれほど感じなくなります。
私自身もそうだったのですが、ずっと学校の勉強をしていなくても、ある日自分で「これは必要だな」「この学校へ行きたい」と思うと勉強を始めます。やろうと思ってからでも十分間に合います。
そして、勉強の遅れを取り戻すためには、「自分が受けてきた傷や苦しさがケアされていること」が前提条件となります。心も体も休息できていれば、勉強の仕方次第で遅れは取り戻せます。
学校側は、「登校しなければ、進級できない」などと言う場合もあります。
そうして圧力をかければ子どもはやるものと思っているところがあるのかもしれません。それで奮起する子もいるかもしれません。だけど、それはずるいやり方だと私は思うのです。
子どもがまだ見たことがない「未来」や「将来」をまるで人質のようにちらつかせて脅すなんて大人のやることではありません。
取材した棋士の羽生善治さんも「いつ始めても、いつやめてもいい。学びとはそういうものではないかと思います」とおっしゃっていました。学びって、自分が学びたいと思っていないとできないと思います。
学校へ行かなくなったとしても、保護者が学習のサポートをするための時間を無理に割かなくてもかまいません。親と先生、両方の役割は担えないからです。学習面は、子どもにやる気が出たときに、塾やAI教材、ドリルなどを活用するほうが早いと思います。
■やる気があれば効果は出る
家で勉強するホームスクールという道を選んだ場合に、活用を検討していただきたいのが、AIアプリです。
AIの教材は無学年式、つまり「小学校1年生はこの単元」というくくりがないものがほとんどです。人によってできることとできないことがあるという考えに基づいていて、個人個人に合わせた課題で学べるのです。AIを使って、できるところからやっていくことが可能です。
よく知られている教材としては「スタディサプリ」と「すらら」の2つがあります。教材に関しては、本人のやる気さえあれば、どのアプリでも学習効果は出ると思います。どのアプリを使うかよりも、本人がやる気になれるかどうかが肝心です。
最近ではYouTubeを教材として活用する人も増えてきました。高等学校卒業程度認定試験(旧大検)を受けるために、YouTubeで勉強したという人を何人も知っています。この試験に合格すれば、高校を卒業していなくても、高校卒業と同程度の資格が認められ、大学・短大・専門学校の受験資格を得られます。
YouTubeに関しても、どのYouTuberがよいというのは、あまりありません。大事なのは子どものやる気です。おそらく子どもにやる気があれば、子ども自身が優れた動画を見つけてくるでしょう。
また、コロナ禍の休校期間にリモート授業の重要性が認知されました。いじめがあって学校に来られない子や教室に入りづらい子も、オンラインで授業を受けられました。
平日にディズニーランドに行きたいから、土曜にリモートで勉強を終わらせる、という選択肢も近い将来できるかもしれません。そんな可能性を今だからこそ検討できると思いますし、選択肢を用意するという意味でも重要だと思います。
■学校との向き合い方を決める
学校は、担任の先生が変わるごとに、対応が変わってしまい、親や子どもが振り回されてしまうことも多いと思います。先生にとっては、40人ほどの生徒のうちのひとりです。
保護者の方のほうが絶対に子どものことを考えていますので、子どもにとっていい方法や環境を整えてあげてほしいと思います。
「わが家ではこうしよう」と、学校との向き合い方を決めるのも大切です。「週2日だけ学校に行く」でもいいんです。塾やAIアプリ、YouTubeもありますし、勉強の遅れはいくらでも取り戻せます。
■子どもの学ぶ力はとても強い
学校をどうするかも、子どもの意思に沿って考えてあげてほしいと思います。
ここで保護者の方に気づいてほしいのは、自分の本当の気持ちです。子どもの意思を尊重しようとする一方で、なんだかんだ言っても、学力の高い学校に通ってほしいと思ってはいないでしょうか。
また不登校になった時点で急に、「受験だけが人生じゃないよ」と言ったとしても、これまでずっと勉強しろと言ってきたのはどういうことなの? と子どもは思います。いきなり意見を変えても、それで子どもの気持ちはすぐに整理がつきません。
子どもの学ぶ力はとても強いです。あとになって振り返ると、子どもの頃に学ぶことや知ることがおもしろかったのは、自分自身の学ぶ力が強かったからです。
だから、「この子は学ぶ力があるからどこに行っても大丈夫。これからたくさん学んでいける」と、自信を持ってください。そうしたら、子ども自身は、自分に合った選択肢を選びとれると思います。
■フリースクールという選択肢もある
学校に通うということ自体が難しいようでしたら、フリースクールも、ひとつの選択肢と考えていいと思います。一緒に考えてくれる人に出会うことは、とても大切です。
文科省の調査によりますと、フリースクールは現在、全国で500カ所ほどあるといわれています。2015年時点で1団体につき平均して13.2人が在籍しています。
13.2人に対し、スタッフの数は2.8人。規模が大きいところもあれば、こぢんまりしたところもあります。
各学校の判断によるのですが、現在フリースクールに通っている子の半数は、出席扱いになっています。通いたいフリースクールに出席扱いの現状を聞くのもいいと思います。
フリースクールの情報については、インターネットで検索するのが一番手軽だと思います。
フリースクール以外の選択肢としては、小学生の場合、児童館や図書館があります。中学生だと公的な場所として教育支援センターがあります。また、小・中学生のなかには、塾を居場所にする子もいます。高校生は、通信制の高校や海外留学を視野に入れるのもいいと思います。
■子どもの意思を大切にする
最近、教育の「個別最適化」という言葉が聞かれるようになりました。その子に合った環境を整えることで、子どもは伸びていく、という考えです。
私が思う個別最適化とは、本人の意思を大切にすることです。もちろん、いつもうまくいくわけではなく難航することもあるでしょう。でも、それが人生ですよね。
自分が選んだ環境に身を置くことで、子どもはおのずと最適なルートを歩んでいくと思います。自分に合った環境は、自分で選ぶということが大事ですし、それしか道はないと思います。
■子どもの社会性は家庭で育つ
不登校の現場では、子どもの社会性を心配される方もいらっしゃいます。家で好き勝手に過ごして、話す相手は親だけ。これでは社会性が育たないんじゃないか。そう悩まれる方が多いんですね。
学校や塾に行って、集団の中に身を置けば社会性が育つと思われがちです。でも、社会性の基盤は親子関係にあると思います。
親子の間で話をしたり、信頼関係を構築したり。人というのは親子関係で培ったものをベースに家庭の外で振る舞うので、「社会性は家庭の中で十分に育つ」というのが、不登校の現場での見解です。
これは、小学校中学年のお子さんのお母さんに聞いた話です。お子さんは、図書館や児童館に行くことが多かったので、お母さんは「うちの子は不登校なので、こちらにおじゃますることがあると思います。何かあればご連絡ください」と事情を説明しに行ったのだそうです。すると、図書館の方から「お子さんから聞いていますよ」と言われたというんですね。
「今の学校教育が合わないのでホームスクールというのをしています」。そう説明していたそうです。
子どもが家の中で親に見せる顔と、外で見せる顔はけっこう違います。彼のケースは、家庭の中で社会性が育っているとてもいい例だと思います。
お母さんは、ひとりの小さな大人として彼を信頼し、日中の行動を彼にまかせています。まかされた子どもには責任感が生まれ、活動的になっていきます。
逆に、「お兄ちゃんはもっとがんばっていたよ」などと、きょうだいや友だちと比べるような視点からものを言われてしまうと、社会に出たときも自分と他者を比べて苦しくなってしまうと思います。
社会性の原点は、親子関係にある。そう言っていいと思います。
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「不登校新聞」編集長
1982年、東京都生まれ。中学2年生から不登校となりフリースクールに通う。19歳から不登校の専門紙「不登校新聞」のスタッフとなり、2006年から編集長。20年からは、代表理事も務める。これまで不登校の子どもや若者、識者ら400人以上に取材。「あさイチ」「逆転人生」(NHK)、「news zero」(日本テレビ)、「報道特集」(TBS)などメディア出演も多数。
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(「不登校新聞」編集長 石井 志昂)
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