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選手が号泣…箱根駅伝監督「謝ってきたら、ぶっとばす」「目を覚ませ」グッときた言葉厳選18

プレジデントオンライン / 2022年1月13日 12時15分

第98回箱根駅伝:3区、先頭に立った太田蒼生(手前)に声をかける青学大の原晋監督=2022年1月2日、神奈川県平塚市[代表撮影](写真=時事通信フォト)

2022年の箱根駅伝で各大学の監督はレース中の選手にどのように声をかけたのか。スポーツライターの酒井政人さんが厳選した心に迫る言葉の中には、「ヒーローになっていくよ、ヒーローに!」「お前の練習で負けるはずがない」「出し尽くせ」「目を覚ませ」といった熱いげきのほか、「謝ってきたら、ぶっとばす」「4年間よく頑張った」という労い型などさまざまな形があった――。

■箱根路を死に物狂いで走る選手の心に刺さった監督の魔法の言葉

青山学院大学の圧勝で幕を閉じた2022年の箱根駅伝。テレビ中継を観ていると、レース中に各大学の監督の「声」が耳に飛び込んでくる。

監督らが乗り込む「伴走車」がつくようになったのは1973年から。指揮官たちのかけ声が沿道に鳴り響くようになった。当時の伴走車は陸上自衛隊が提供するジープのオープンカー。1990年に伴走車は廃止となるが、2003年から「運営管理車」が配置されるようなり、監督の「声かけ」が復活した。

運営管理車は監督、チームスタッフ、ドライバーだけでなく、競技運営委員、走路管理員も同乗。自校の選手たちの背後につけるかたちでレースを追いかけていく。なお声をかけていいのは、5km、10km、15km、残り3km、残り1kmなどと決まっており、時間も「1分間」と定められている。

前々回大会では東洋大・相澤晃(現・旭化成)と東京国際大・伊藤達彦(現・Honda)が花の2区でデッドヒートを演じた。東京国際大・大志田秀次監督は「相澤についていけ!」と声をかけたが、伊藤は相澤の後ろではなく、横に並んでレースを進める。

このとき相澤は「監督の指示を無視するんだ」と思ったと同時に、伊藤が真っ向勝負を仕掛けてきたことがうれしかったという。ライバルの気持ちを知ったことで、伝説の名勝負が誕生した。

指揮官たちの言葉はレースの味わいに変化を与えるような“スパイス”の役割を担っている。2022年大会はどんな「かけ声」があったのか。テレビ放送を詳細にチェックしてみた。1区から順番に紹介しよう。

■【1区】

1区は中央大・吉居大和(2年)が5.5km付近で抜け出すと、区間記録を上回るハイペースで攻め続けた。中大・藤原正和駅伝監督は、2区まであと少しのところで叫んだ。

「残り1kmで区間記録より30秒速い。もうちょっといける。まだ絞れてない。お前の得意なスパートを見せてやれ。いけるぞ!」

吉居は東海大・佐藤悠基(現・SGホールディングス)が保持していた“伝説の区間記録”を15年ぶりに更新。タスキを渡した後は両手を上げて、笑顔を見せた。

■【2区】

花の2区は駒澤大のエース田澤廉(3年)が激走した。中大をかわしてトップを奪うと、その後は後ろを気にすることなく、前だけを見つめて突き進んだ。残り3km。駒大・大八木弘明監督から、こう声をかけられる。

「相澤の記録と同じぐらいの感覚。相澤の記録を狙える。いい感じできてるぞ!」

最後の上り坂は苦しみ、相澤が持つ日本人最高記録には届かなかったが、区間歴代4位の1時間6分13秒で走破。後続に1分以上のリードを奪った。

大八木監督は鶴見中継所を通り過ぎるときには3年生主将にこう感謝した。

「ご苦労さん、ありがとう!」

その声に対して、田澤は苦しいなかでも、手を上げて、頭を下げた。駒大の2区区間賞は大八木監督が選手時代に出して以来36年ぶりの快挙。ふたりの間に“特別な思い”があったことだろう。レース後、田澤は「前回も同じことを言われたんですけど、今回のご苦労さんのほうがうれしい。監督も心から喜んでくれているようだったので、頑張ってよかったです」と語っている。

ランナーの足元で水しぶきが上がっている
写真=iStock.com/sportpoint
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sportpoint

一方、同じ2区で序盤は駒大を追いかけるかたちになった青学大の原晋監督は、エース近藤幸太郎(3年)に苦しい終盤に声をかけている。

「ここから楽しめ、笑顔だぞ!」

■【3区】

原監督は続く、3区太田蒼生(1年)にはこう言って鼓舞した。

「ヒーローになっていくよ、ヒーローに!」

太田は区間歴代3位の快走でトップを奪い、本当にヒーローになった。

第98回箱根駅伝:3区、先頭に立った太田蒼生(手前)に声をかける青学大の原晋監督=2022年1月2日、神奈川県平塚市[代表撮影]
写真=時事通信フォト
第98回箱根駅伝:3区、先頭に立った太田蒼生(手前)に声をかける青学大の原晋監督=2022年1月2日、神奈川県平塚市[代表撮影] - 写真=時事通信フォト

3区では帝京大・遠藤大地(4年)にかけた中野孝行監督の言葉も印象に残っている。

「4年間よく頑張った」

遠藤は1年時から“次期エース”として大きな期待を背負ってきたが、箱根駅伝以外は思うように結果を残すことができなかった。しかし、箱根駅伝は4年連続で3区を快走する。競技は大学で終えるため、レース中にかけられた“感謝の言葉”は身に染みただろう。遠藤は4年間で計“19人抜き”を達成(1年、3年時にそれぞれ8人抜き)。湘南に“赤い旋風”を巻き起こして箱根路を駆け抜けた。

■【4区】

優勝争い、シード権争い以外にもドラマはある。4区は18位から最下位(20位)に順位を落とした駿河台大・今井隆生(4年)に向けて、徳本一善監督は残り1kmでこう声援を送った。

「お前に残された時間は3分。楽しかったことを思い出せ。俺は楽しかったぞ」

さらに5区にタスキを渡す小田原中継所では……。

「2年間、ありがとう。俺に謝ってきたら、ぶっとばすから」

それを聞いた今井は号泣した。

今井は1990年生まれの31歳。中学の教職を休職して、箱根駅伝に挑んだ選手だ。しかも、駿河台大は今回が初出場だった。今井の汗が染み込んだタスキは教員時代の教え子である永井竜二(3年)に渡されると、大手町までしっかりと運ばれた。総合19位ながら、チームは「最後までタスキをつなぐ」という目標を達成した。

数寄屋橋交差点を過ぎていくランナーたち
写真=iStock.com/kanzilyou
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kanzilyou

■【5区】

山上りの5区は「青学大で『山の神』にならないか」(原監督)と勧誘した若林宏樹(1年)がトップを快走。原監督はげきを飛ばしている。

「若の神になれるぞ! 頑張れ!」

少々ナゾな声かけだったが、若林は区間賞の他大の選手と13秒差の区間3位と活躍して、青学大は往路で2分37秒以上のリードを奪った。

■【6区】

復路のスタートとなる6区は青学大・高橋勇輝(4年)のペースがあまり上がらなかった。原監督は山下りの残り3km時点で言った。

「現役最後、得意な3km出し尽くすよ」

さらに残り1kmでは、こう背中を押した。

「最後の箱根駅伝だ。後輩にいいところを見せろ!」

最終的には区間8位とまとめた4年生の踏ん張りが利いて、青学大は復路も“独走”することになる。

■【7区】

7区は駒大・大八木監督の言葉に感心させられた。駒大・白鳥哲汰(2年)は10km過ぎに、順天堂大・西澤侑真(3年)に抜かれるが、大八木監督は極めて冷静だった。

「余裕を持っていけ。そう、そう、そう、そう。少しずつ、自分のリズムでな。後半勝負だぞ」

白鳥は西澤にいったん引き離されるも、19km付近で再逆転。大八木監督は白鳥の走力とペースを考えて、無理な勝負をさせなかった。

■【8区】

8区は10000m29分12秒33の順大・津田将希(4年)に同27分41秒68の駒大・鈴木芽吹(2年)が追いつくと、鈴木が前に出た。このまま引き離すと思われたが、津田は鈴木の背後にピタリと食らいつく。

その直前、順大・長門俊介駅伝監督は津田にこう声を飛ばした。

「(10000mの)タイムじゃないぞ、タイムじゃないからな」

津田は、鈴木のスピードが上がらないと見ると、前に出て引き離した。

津田は前回、箱根の山を登る往路5区を担った選手。8区は16km付近に「遊行寺の坂」と呼ばれる急勾配の上りが待ち構えている。15km地点で長門監督は、こう声をかけた。

「ここからは自信を持っていけるコースだからね。箱根の山に比べれば楽勝だ」

長門監督の期待に応えた津田は見事、区間賞を獲得したが、「遊行寺の坂はめちゃくちゃきつかったです」と振り返った。

ランナーの足元
写真=iStock.com/GAPS
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/GAPS

8~10区の終盤区間はシード権争いが激化した。8区では國學院大がシード圏内ギリギリとなる10位を走っていた。ランナーは、最初で最後の箱根駅伝となり、卒業後は一般企業に就職する石川航平(4年)だ。

「4年間やってきたことを最後の3kmにしっかり出せ。休んだらダメだ。出られない4年生の分も最後はしっかり走ろう」

前田康弘監督の言葉が響かないわけがない。石川は区間7位と激走して、夢の箱根路を走れなかった仲間の分まで燃え尽きた。

一方、この8区で11位を走っていた法政大は、坪田智夫駅伝監督が稲毛崇斗(2年)にハッパをかけた。

「10位に入らないと、また予選会に行くんだぞ。ここで出し切らなきゃいけない。9区には主将・清家が待っている。この差を詰めて渡すんだ」

稲毛は早大に抜かれて12位に順位を落としたが、9区清家陸(4年)が早大を逆転。10位の帝京大と32秒差でタスキをつなげた。

■【10区】

最終10区、法大のアンカー川上有生(3年)は前を懸命に追いかけるが、帝京大との差は縮まらない。新八ツ山橋(13.3km地点)では逆に51秒差に広げられた。15km過ぎには、坪田監督からこんな声が飛んだ。

「動いているからな、自信持っていこう。お前の練習で負けるはずがない。あと8kmしかないんだから、頼むぞ」

川上は、「俺に任せて」とでもいうように右手を軽く上げて合図を送った。

川上は田町(16.5km地点)で帝京大との差を39秒まで短縮。その後、先を行っていた東海大・吉冨裕太(4年)のペースが急落した。吉冨は20.5kmで帝京大に抜かれると、残り1kmで法大にもかわされた。東海大はずるずる順位を落とす。

「目を覚ませ!」

東海大・両角速駅伝監督は吉冨を奮い立たせるべく叫んだが、届かなかった。最終的にシード権最後の1枠は法大が確保して、3年前の王者・東海大は11位に沈んだ。

全10区間217.1kmで争われる箱根駅伝。ランナーたちを後ろから見つめて、指揮官たちは声をかけ続けてきた。その言葉に選手たちはどれだけ勇気づけられたことだろうか。ランナーと監督との“対話”には青春のカケラがたくさん詰まっている。

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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

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(スポーツライター 酒井 政人)

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