「数百円なのに、おいしくて清潔」そんな食事が気楽にとれる先進国は日本だけという事実
プレジデントオンライン / 2022年1月20日 19時15分
※本稿は、原田曜平『寡欲都市TOKYO 若者の地方移住と新しい地方創生』(角川新書)の一部を再編集したものです。
■東京の一等地の地価はニューヨークの半分以下
「100万ドル(約1億1000万円)でどれくらいの面積の土地を買うことができるか?」イギリスの不動産コンサルタント会社ナイトフランクは、それを世界の各都市における一等地で比較しました。図表1がその結果です(2018年時点)。
富豪が密集して住んでいるモナコや、世界的にも有名な人口密集・物件不足地域である香港は別格として、東京の一等地の地価はNYやロンドンの半分以下、シンガポールやLAの3分の2以下。パリやシドニーはおろか、上海より安いのです。ベルリンは東京より少し安い程度でした。
「それでも、現に東京都心の家賃は高すぎて住めない!」という方もいらっしゃるでしょう。たしかに都心の新築マンションの家賃は高い。しかし、都心であっても探せば安い中古物件等がたくさん存在するのが東京の魅力です。築年数や狭さを気にしなければ、一般企業の新入社員の若者が六本木や青山の1Kや1Rに住むことも、決して不可能ではありません。
■月34万円でも「ものすごく安い」サンフランシスコ
一方、LAやNYの家賃は東京都心とは比較にならないほど高額です。私が見知ったケースとしては、ブルックリンのかなり端っこ、貧民街の地域にある古い都営団地のようなマンションですら、日本円にして家賃30万円でした。いくらなんでも……と驚いたものです。
日本でも若者に人気のアメリカのドラマ『ゴシップガール』では、マンハッタン地区に住むお金持ちの子供と、ブルックリンに住む庶民の子供できっぱり生活レベルが隔てられている姿が描かれています。
しかし、東京の場合、ある程度同じような傾向はあるかもしれませんが、NY程きっぱりエリアによって人々が分けられていることは少ないですし、「港区女子」(東京都港区を中心とした、ある程度裕福な男性がいるエリアに夜な夜な集う女性たちのこと)という言葉に象徴されているように、実際に本人が港区に住んでいなくても(金銭的に自分では住めなくても)、港区に出没し、港区的なライフスタイルを送ることもできるのです。
以前目にした記事では、サンフランシスコに住む40代前半のエンジニア男性(妻と2人の子供あり)の年収が16万ドル(約1800万円)であるにもかかわらず、「かろうじて食いつないでいる」と語られています。住居費の高騰と物価高のためです。
同記事によると、彼の家の家賃は月3000ドル(約34万円)もしますが、サンフランシスコのベイエリアの家賃は平均4200ドル(約48万円)だそうです。彼曰く「(場所の相場からして)ものすごく安い」のだそう。40代前半の彼ならともかく、これでは賃金の低い若者が住めるはずはありません。
このように東京は、世界の大都市に比べれば住居費がかなり安いのです。
■東京ディズニーランドもダイソーも東京が世界最安値
日本経済新聞の「安いニッポン」(2019年12月10日、11日、12日朝刊、後に日経プレミアシリーズより書籍化)という特集記事によると、世界的に見て様々なモノやサービスなどにおいて日本の価格の安さが鮮明になってきているようです。
世界6都市で展開するディズニーランドの大人1日券(当日券、1パークのみ、2019年10月31日時点)の円換算価格は、東京7500円でカリフォルニア1万3934円、パリ1万1365円(ただし変動制)のほぼ半額で上海8824円よりも安く、日本が最安値だそうです。
また、海外26カ国・地域でダイソーを展開する大創産業は、日本では「100円ショップ」ですが、同じ商品が米国約162円、ブラジル215円、タイ214円。中国で生産した商品もダイソーには多いですが、その中国でも153円。
ホテルの予約も、2019年12月13 日から一泊大人2人でロンドンの五つ星・キングベッド・50㎡の部屋は約17万円なのに対し、東京だと同じ条件が約7万円超で済むそうです。
こうした事実も、日本及び東京が、世界的に見て大変物価の安いエリアになってきていることを裏付けています。
■ミシュランの星獲得点数は東京がダントツ1位
以上は衣食住の「住」の話でしたが、真に東京が突出してすごいのは「食」です。
世界の都市ミシュランの星獲得数ランキング(2019年度版)を見ると、東京はダントツの1位で、2位のパリの2倍以上の星獲得店があることが分かります。
もちろん、これも一つのランキングに過ぎませんが、これを見ると世界で最もグルメな都市は東京であると欧米人が判断していることが分かります。しかも、欧米先進国には1人一食5万円くらいする高級レストランがたくさんありますが、東京にもそうしたレストランはあるものの、銀座の高級寿司店に行っても1人一食2、3万円程度で、欧米先進国に比べると「最高級」であっても「リーズナブル」なところが重要なポイントです。ちなみに、「食べログ」で1人当たり8万円以上かかるレストランを「東京」で検索すると18件出てきますが(2021年5月時点)、NYにはもっとたくさんあります。
■数百円でしっかり食事ができる環境は世界で珍しい
また、「最高級」のレストランに限らず、東京の食のレベルは世界で最も平均値が高いことも間違いないとこれまで世界各国に足を運んできた私は思いますし、海外出張の多いビジネスパーソンの多くは賛同してくれると思います。
数百円で食事ができる牛丼屋、ハンバーガーショップをはじめとしたファストフード店は、都内のどの駅前にも大抵あります。日高屋、幸楽苑、リンガーハット、サイゼリヤといったチェーン店やファミレスもたくさんあり、おおむね1000円以内でしっかりした食事をとることが可能です。鳥貴族など居酒屋も2000〜4000円程度である程度美味しい食事が食べられますし、コロナ前には新宿ゴールデン街に欧米人があれだけ集まっていたのも、安さと美味しさと雰囲気を併せ持っているお店が多いからでしょう。
ちなみに、東京でラーメンを食べると、おおむね800〜1000円程度です。「昔に比べるとずいぶん高くなった」と言う人も多いのですが、NYではラーメン1杯が1500〜2000円くらいするにもかかわらず、現地の人からは「コスパが悪い」という感想はあまり出ません。事実、NY、LA、パリの人にラーメンの話をしたら、「東京ではそんな金額で食べられるのか!」と驚かれます。欧米先進国の大都市に限って言えば、たった数百円でこのレベルの食事がとれる状況は、かなりレアなのです。
■ポイントは「安くてもそこそこ質がいい」
ここで大事なのは、東京の食事は「安くてもそこそこ質がいい」ということです。
日本に住む我々はこれが当たり前だと思っていますが、世界の大都市では、そういうわけにいきません。北京やNYでも安い店はあります。しかしものすごくマズかったり、(特にアジアの屋台などは)味は美味しくともよくわからない危険な材料が入っていると言われていたり、不衛生だったり、店員の態度がひどかったりと、安いなりに低品質を覚悟しなければなりません。
しかし日本の場合、安いうえに店内は清潔です。店員はちゃんと教育されていて、味もそこそこ、高い水準をクリアしています。
日本人はたった数百円の食事の店に対してさえ、ちゃんとしたサービスを要求するので、店は律儀に応えていますが、これは諸外国ではちょっとありえない考え方です。ちゃんとしたサービスを受けたかったら高級店やホテルに行くべきであって、激安店でサービスの質を求めるのはお門違いも甚だしい。海外では「安かろう、悪かろう」を当たり前のこととして受け入れる人が大多数なのです。
■世界各国の料理を安く気軽に楽しめる
食の選択肢の多さ、懐の深さも東京のすごいところです。和食ひとつ取っても、うどん、蕎麦からトンカツ、寿司、天ぷら、煮物、鍋料理、魚料理まで幅広く、選択肢に事欠きません。イタリアンやフレンチ、中華料理や韓国料理、各種エスニック料理といった世界各国の料理も、東京で食べられないものは少ないでしょう。
食だけが趣味の私は、これまで「食べログ」で3.7以上の得点をとっている東京圏のお店のほとんどに行きましたが、行きたいお店のリストは消化しきれません。世界各国のレベルの高い料理を安く楽しみ続けられるエリアは、世界において東京以外にはないでしょう。しかも、都内なら電車移動1時間以内くらいの範囲で、ほとんど食すことができます。
■最高級は負けても「平均点」は圧勝
たとえ有名店でなくてもレベルが高く、先日、ナポリ出身のイタリア人男性に「パスタはイタリアで食べるより日本で食べるほうが美味しいですよね」と言ったら、「はい」と苦笑いしながらうなずいていました。
もちろん、イタリアの高級店に行けばパスタは絶品です。が、ぶらっと入った安い店で比較するなら日本のほうが圧倒的に美味しい。これはイタリアに行ったことがある日本人なら誰もが納得する話だと思います。日本で展開するイタリアンレストランのチェーン「カプリチョーザ」の「大定番! トマトとニンニクのスパゲティ」は、“あの価格帯にしては”かなりレベルが高いのです(ただし、イタリアのパスタとは別物とイタリア人に言われることもありますが)。
■一人客でもバリエーションが豊富
さらに言うと、ひとりで食事をしやすいのも東京の特徴です。立ち食い蕎麦、カウンターのラーメン屋、回転寿司屋、立ち飲みなど、東京にはひとりで食事をすることを前提にした店がたくさんあります。最近では女性がひとりで入りやすい店も増えました。海外にもひとりで食事をできる店はありますが、バリエーションの多さは東京が一番でしょう。「ひとり焼き肉屋」や「ひとカラ(1人カラオケ)」などが象徴的です。
今、世界の先進国・先進エリアでは「晩婚化」「非婚化」が共通の社会問題となっており、つまり、世界中の若者たちの間で「おひとりさま」が増えています。こうした今の若者特有のニーズを世界で最も満たすことができるのも東京なのです。
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マーケティングアナリスト
1977年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを経て、現在はマーケティングアナリスト。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。主な著作に『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書)、『パリピ経済 パーティーピープルが経済を動かす』(新潮新書)、『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)、『寡欲都市TOKYO』(角川新書)などがある。
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(マーケティングアナリスト 原田 曜平)
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