「北条義時の生き様はビートたけしに通じる」歴史マニアの松村邦洋がそう断言するワケ
プレジデントオンライン / 2022年1月15日 19時15分
■大河ドラマ通のボクが「歴代ベストワン」と思う作品
NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』がついに始まりましたね。
平安時代の末から鎌倉時代の初め、権力が貴族から武士に移る激動期を、鎌倉幕府の2代目執権・北条義時を主役に据えて描く。
義時を演じる小栗旬さんや北条政子役の小池栄子さん、源頼朝役の大泉洋さんたちが登場する番宣から、例年以上のNHKの力の入れようを感じました。
昨年末の紅白歌合戦も司会が大泉洋さん、審査員席に脚本の三谷幸喜さんと小池栄子さん、そして舞台上では平清盛役の松平健さんが「マツケンサンバII」を歌い踊る。実に豪華な揃い踏みでしたね。
YouTubeの『松村邦洋のためにならないチャンネル』やNHKラジオ『DJ日本史』で、日本史の蘊蓄(うんちく)をあれこれ語らせていただいていますが、大河ドラマは小学生の頃から毎年毎年ずっと観続けてきました。
特に今回の『鎌倉殿』については、これを観なきゃ死ねない! というくらい待ち遠しかったんです。
なぜなら、ボクが1番好きな時代は鎌倉時代。そのきっかけとなったのが43年前、小学校6年生の時に観た『草燃える』(1979年)でした。
北条政子役の岩下志麻さんが主演で、鎌倉幕府の初代将軍・源頼朝役が石坂浩二さん。それに滝田栄さんが演じた架空の人物で、憧れの政子を奪った頼朝をつけ狙う“影の主役”伊東祐之の存在がすごくよかった。
ボクにとっての歴代大河ドラマのベストワン。これまでに総集編のDVDを、もう何百回も観ていますよ。
■清盛→頼朝→義時という大きな流れ
『鎌倉殿』の主役・北条義時は『草燃える』でも準主役でした。演じておられたのは他ならぬ松平健さんです。
幼い頃は伊豆の小さな豪族・北条家のおとなしい次男坊で、姉の政子が大好きなお姉ちゃんっ子。でも、伊豆に流されてきた源氏の御曹司・頼朝と政子が結ばれた事で、運命が大きく動き出します。
頼朝は、義時と父・時政を含めた御家人たちとともに、平家との戦いを通じて歴史上初めての武士の世を切り開いていきます。
シンプルに言い切ってしまうと、武士の世は清盛→頼朝→義時という大きな流れを通じて出来上がっていったとボクは考えています。
平清盛が望んで果たせなかった武士の世の実現に奔走した頼朝。彼は、自らの手で築いてきた幕府の骨組みを継ぐ次世代の若手として、実の弟の天才・義経ではなく、一見して地味な義時を選び、早くからあちこちに同行させて英才教育を施していきます。
■お笑いに例えると、義経はザ・ぼんち
なぜ義時だったのか。
戦のスペシャリストだが政治のセンスがまるでなかった義経。それに対し、筋を通し思慮深い義時の中に、頼朝は自分と同じ政治のスペシャリストとしての資質を見抜いたのでしょう。
お笑いの世界に例えるなら、義経は1980年代の漫才ブームで一瞬輝いたザ・ぼんちのお二人ですね。では義時や頼朝はというと、ブームが落ち着いた後にレギュラー何本持つ、1人になって何をするなど先々を考え、手を打って生き残ったビートたけしさんに当たるのではないかと思います。
■アウトレイジな御家人たちの、生き残りバトル
鎌倉幕府について意外と誤解されがちなのは、平家が滅ぼされ、武家の手で幕府が開かれて、めでたく天下泰平……となったわけではまったくないということ。
実は、頼朝が謎の死を遂げてからが本番なんです。
打倒平家を目指してともに戦ってきたアウトレイジな御家人たちが、今度はお互いの生き残りを賭けたバトルを開始するんです。
義時が本当に歴史の表舞台に立つのは、実はそこに至ってから。
姉の政子を頼朝の未亡人として目一杯利用し、自分の手も汚しながらどんどん人が変わっていきます。
このあたりをじっくり描いた唯一の大河である『草燃える』でも、義時はある者と手を組み、ある者とは敵対しつつ数々の謀略戦を展開します。
梶原景時、比企能員、仁田忠常、和田義盛……と、毎週のように屈強な御家人たちが暗殺され、あるいは失脚して自殺に追い込まれていく。2代将軍頼家、3代将軍実朝もそこに巻き込まれ、犠牲となっていきます。
■義時は生涯をかけて武士の世を作り上げていく
義時が武士の世を確立し、名実ともにナンバーワンとなるための総仕上げが、1221年の承久の乱でした。
それまで朝廷の“下請けSP”だった武士という階級が、その雇い主の朝廷を初めて戦で破って権力を握った。当時の人々にとってはそれこそ驚天動地の出来事だったでしょう。
幕府の総指揮を執った義時はその歴史的勝利の大功労者でした。
歴史の教科書では、義時の息子で御成敗式目を作った泰時の方が、扱いが大きい。ですが、義時の生涯を追っていくと、教科書ではわからない、武士の世が出来上がっていく鎌倉初期のダイナミックさ、ワイルドさをじっくり味わうことが出来るんですね。
■『草燃える』の“呪縛”を解く面白いドラマに!
脚本の三谷幸喜さんは、1年間を通じてこの辺りをどう描いていくんでしょうか。親しくさせて頂いている三谷さんには、実は何の断りもなく(笑)勝手に本を書かせていただきました(『松村邦洋「鎌倉殿の13人」を語る』プレジデント社刊)。
今年の大河の、日本一面白くてわかりやすい解説本ですよ。
もっとも――というかお気づきかもしれませんが――『草燃える』を隅々まで記憶してしまったボクの中では、鎌倉時代はドラマである『草燃える』と歴史的事実とがごっちゃになったままなんです。
しかも放映されたのは40年以上前。その後に出てきた新しい事実や解釈もあります。そういう意味で、ボクは40年以上もの間、『草燃える』の“呪縛”に囚われたままなんです。
2022年は、ボクにとってはそんな“呪縛”を解いて、新しい鎌倉時代を観るための1年間となるわけです。
だからこそ、『鎌倉殿の13人』は、今までで一番楽しみにしている大河ドラマなんです。
早く新しい義時に会いたい。
石坂浩二さん、岩下志麻さん、松平健さんたちの後を継ぐ、新しい俳優さんたちの演技に出会いたい。ボクに『草燃える』を忘れさせてくれるような面白いドラマになることを、今から期待しています!
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タレント
1967(昭和42)年8月11日生まれ。山口県出身。大学生の頃、バイト先のTV局で片岡鶴太郎に認められ芸能界入りし、斬新な生体模写で一躍有名に。バラエティ、ドラマ、ラジオなどで活躍中。プロ野球好きで、大の阪神ファン。芸能界きっての歴史通で知られ、YouTubeで日本史全般を扱う『松村邦洋のタメにならないチャンネル』を開設。特にNHKの歴代「大河ドラマ」とそれにまつわる知識が豊富。最新刊『松村邦洋「鎌倉殿の13人」を語る』(小社刊)のほか、『武将のボヤキ』『愛しの虎』『ボクの神様-心に残るトラ戦士』などの著書がある。
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(タレント 松村 邦洋 構成=西川修一)
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